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――雪の王――
魔女アニシナ
ユーリを探すうちに、季節は何度も繰り返しくりかえし、移り変わった。
コンラッドの身体は、青年と呼ぶにふさわしくなっていた。
けれど、ユーリを探す旅は終わりが見えなかった。
そんなとき、思いがけない幸運が舞い込んだ。
ユーリがいなくなって、何度目の冬がやってきたのだろう。人里離れた深い山奥までたどり着いた。
そこで一軒家を見つけた。建物は、市街のログハウスと相違なかった。けれど、屋根には見慣れないおかしな鉄塔がたち、煙突の煙からはおかしな薬草の匂いが立ち込めていた。
あげく、軒先にはカエルやヘビの干からびたミイラが吊るしてあった。
こんな山奥でなかったら、絶対に立ち入りたくない部類の概観だ。けれど、日も傾きかけた冬の山奥では、家があるだけでもありがたい。
コンラッドは、深呼吸をすると扉をノックした。
そこの家主は、驚くことにというべきか、やはりというべきか、魔女だった。
彼女は、アニシナと名乗った。魔女といっても、人間の歳でいうと20代半ばほどの外見だった。魔女なので、実際の年齢は聞くに忍びないが。
ラズベリー色の紅い髪は高い位置で一つに束ねられていた。瞳は、知的なスカイブルーだった。
風変わりな魔女で、彼女は魔術を使って、日用品をさまざまに改良することを生きがいにしていた。
彼女は、コンラッドを家に招き入れると、声高らかに数々の発明品とやらの話しをした。
室内は、とてもカラフルだった。得体の知れない色とりどりの液体のおかげで。
それらの液体は、ワインボトル大のガラス瓶に入れられていた。それは、床に乱雑に置かれており、その存在を見せ付けてくれた。
他にも、原色のけばけばしい昆虫やら鳥が、無数いた。虫は、透明のケースに、鳥は鉄のケージに入れられていた。何に使われるのかは、想像したくない。
唯一の救いは、家具は、いたって実用的な物ということだ。
鼻が曲がるような薬草の匂いは、一向に収まる気配がないけれど。
「私は、このように魔術を日用品に使えないか日夜、研究しているのですよ。ほら、次はこの鏡をご覧なさい」
箱に小さな人や景色が映る不思議な発明品や、紅茶を運んでくる風変わりな人形などを紹介した後に、彼女は俺の前に鏡を差し出した。
銀で出来た掌の大きさの手鏡は、柄の部分にきれいな草花の彫刻が施されている。けれど、特に眼を引くところはなかった。
けれど、次の瞬間―― !!
「ユーリ!!」
思わず叫んでしまった。その鏡の中に映ったのは、コンラッドが想い続けたユーリだったから。
大きな瞳を、ぎゅっと細めて微笑む、愛らしいユーリがそこにいた。数年前の幼い姿のままだった。
「それは、あなたの想い人を映す鏡です。けれど、妙ですね」
そういうと、アニシナは鏡を覗き込んだ。鏡を覗き込むコンラッドの表情に翳りがみえた。
鏡の中のユーリの顔が、なんの表情も読み取れない氷のように冷たい顔になってしまったのだ。
「あなたの想い人は、元は笑顔の素敵な方だったようですね。けれど、どうして、これほどまでに顔つきが変わってしまったのでしょう。差し支えなければ、お話下さい」
彼女の空色の瞳は、好奇心に輝いた。その碧い瞳に促されるままに、あの日のことを話した。ユーリが猫を助けようとして、屋根から落ちそうになったあの日のことを。
あの日にみた不思議なにじ色の雪のことを。
ふいに、アニシナが口を開いた。
「私は以前、物の本質を正反対に映し出す鏡をつくりました。けれど、その鏡は、今から数年前に何者かに持ち出されてしまったのです。噂によると、その鏡は、いたずら好きの悪魔が持ち出す途中で、地上に落としてしまったとか」
アニシナの燃え上がるような真紅の髪は、その輝きをなくしたかにみえた。彼女の空色の瞳は、雲で覆われたようだった。
悪い予感が、胸をよぎる。
「もしかすると、あなたの想い人にその欠片が刺さってしまったのかもしれません。いえ、間違いないでしょう。あの鏡の欠片が刺さった者は、その心を氷のように硬く閉ざしてしまうのですから」
「そんな―― !!」
愕然とするコンラッドの肩に手を置くと、アニシナは、チェストタンスの中から小さなガラス瓶を取り出した。中にはピンク色の液体が入っていた。
「これは、私にも責任があります。この薬を貴方の想い人に飲ませて下さい。必ず、あなたの大切な人は、本来の性質に戻るでしょう」
色々想うところはあるけれど、彼女の発明品そのものに非はない。それどころか、彼女はこのことで責任を感じて、その対処法まで講じてくれた。
そう、何よりも、ついにユーリを救う糸口を見つけた―― !!
胸に熱い物が脈打った。
けれど、用心するに越したことはない。
コンラッドは、嬉しい気持ちを抑え、彼女に念を押した。
「本当に、本当にこれを飲めば、彼は元に戻るのですね?」
「えぇ、もちろんですとも。私がつくったのですから。問答無用です」
そう言い切る彼女の言葉が、頼もしかった。
ガラスの小瓶を大切に握り締めたまま、彼女に礼を言う。
「疑ってすまない。ありがとう」
「礼には及びませんよ」
彼女のスカイブルーの瞳は、ひと際明るく輝いた。それは、快晴の空の色だった。
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あとがき★
コンユのにやにやシーンがなかなかなくてすみません。さいごにド~ンとくる予定です(汗
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