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2009.4.22設置 『今日からマ王』メインです。 
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2009/09/13 (Sun)                  塾講師と甘い夏?!最終話 本当に好き?

最終話 本当に好き?

 
 ジュリアさんと俺が、ソファを立ち上がったとき、すごい剣幕の長髪美形がやってきた。見た目からして外国人らしい。
  誰もが振り返ってしまうような腰まである華麗な銀髪は振り乱れ、薄紫色の淡い瞳は困惑の色を浮かべていた。黒の燕尾服の裾が、長い脚の動きにあわせて大きく翻る。

 彼は、ジュリアさんの元へくると大きく息を吐いた。彼は意外にも流暢な日本語を紡いだ。

「お嬢様、全くどうして貴方はすぐに居なくなってしまわれるのですか。これだから、私は塾などに通うことを反対したのです。家庭教師をつければ、よいことを。こんな夜分に、突然車から飛び出されたのでは私、心労が絶えません。さぁ、早くお車にお戻り下さい」

 ジュリアさんは、取り乱す麗人を嗜めたあと、彼を俺に紹介した。
「渋谷君、挨拶もしない非礼な執事をお詫びするわ。こちら、私の執事のギュンターよ」
「し、執事?!」

 ひつじじゃないことは確かだけど。あまりにも、自分の世界とはかけ離れたその単語に、素っ頓狂な声で叫んでしまった。ジュリアさん、さすがお嬢様だ。

 ギュンターという長髪の美形外国人さんは、身なりを整えると深々とお辞儀をした。
「申し訳ございません、お嬢様のお連れ様」
「いえいえ、そんな。顔を上げてください。元はといえば彼女が俺を、助けてくれたんですよ。俺は渋谷有利って言います、彼女の友人です。よろしくです」
 にっこりと、彼に微笑みかけた。

 そこまでは、彼はクールで美形な人だと思っていたのに。

「こ、これは大変お目麗しい・・・・・・ぐはっ」
 彼は、顔をあげて俺の顔を見た途端に、鼻にハンカチを当てた。

「もう、およしなさいよ、ギュンター。ごめんなさいね、渋谷君。彼は、好みの人を見ると、鼻血を出す癖があるのよ。でも、鼻血を出すなんて久しくなかったのに。よほど、彼に気に入られちゃったみたいね、渋谷君」
 
 彼女は、にっこりと微笑んだ。いや、いくら美形でも男に鼻血を催されるのは勘弁です。女の子に鼻血を催されるのも微妙だけど。

「それにしても、いいタイミングで来てくれたわね、ギュンター。私達をコンラッド先生の道場へ連れて行って頂戴?」

「い、今からですか?!」

 再び狼狽する彼に、俺からもお願いした。
 早く、先生に会って謝りたい―― !

「ギュンターさん、どうかお願いします」

 いかにも白色人種らしい真っ白で綺麗な手を掴みながら、俺もお願いした。彼は長身なので、必然的に上目遣いで見上げることになる。
 見た目はクールビューティな筈の彼は、鼻息を荒げた。

「坊ちゃんのお願いとあらばこの執事ギュンター、喜んで協力いたします!」
「いや、だから俺はあなたの坊ちゃんじゃないんですけど・・・・・・。でも、ありがとう!!」
 ジュリアさんが楽しそうにくすくすと笑っていた。



 そう、ここまではとても和やかな展開だったのに。

「そんな、どういうことですか?!私、ここの道場生のスザナジュリアという者よ。おまけに、コンラッド先生の塾での生徒よ。怪しい者ではないわ」

「そういわれましても、あいにく今夜はどなたも通すなと言われておりますので」

「俺も、コンラッド先生に英語を教わっている渋谷有利と言います。どうしても、先生にお話したいことがあるんです! どうか、彼に会わせてくださいっ!」

 先生の家は、国指定等文化財に登録されそうなほどの立派な日本家屋だった。  
 けれどそのまわりは高さ150センチほどの塀でぐるりと囲まれていた。低い石垣上に築かれた塀は威圧的だった。

 古式ゆかしい立派な門には、防犯用の現代的なインターフォンが備え付けられていた。俺たちの姿はきっとあちらのモニターに映っていることだろう。
 それにもかかわらず、俺たちは足止めを食っていた。

 先程から、しつこいセールスみたいに何度も先生に会わせてほしい、とインターフォン越しに繰り返していた。けれど、使用人らしき低い男の声が、頑なに俺たちを拒絶した。


 先生の家は、閑静な高級住宅街に居を構えている。
 これ以上、騒ぎ立てては先生に迷惑をかけるかもしれない。


 そもそも、今日どうしても謝らないといけないわけではない。それなのに、自分の勝手な思いだけで、こんな夜分に会いたいというのは、失礼極まりないのではないか。 

 不意に、自分の無鉄砲な行動に後悔の念が沸き起こった。

 そうだよ、こんな夜分に失礼だった。明日、塾で先生と、きっちり話そう。

 俺は、インターフォン越しに非礼を詫びると、しぶしぶ門から離れた。
 ジュリアさんの好意で、ギュンター氏の運転で渋谷家まで送ってもらった。



 家に帰ってから、先生の携帯に電話を掛けてみた。時間を置いては何度もかけてしまった。
 けれど、聴こえるのはいつも同じ無機質な女性の声。

 ―― この電話は、電源が入っていないか、電波の届かないところにいるため掛かりません・・・・・・。

 もうこのガイダンスは聞き飽きた。

 
 どうして、こんなに繋がらないんだ?!どうして、どうしてだよ?!
 こんなに、先生に気持ちを伝えたくて堪らないときに。
 門前払いはされるし、携帯は繋がらないし。

 焦れる気持ちは、いつしか不安に変わっていった。
 パジャマ姿の俺は、ベッドの上に突っ伏した。

 何かとんでもない事態が先生の身に起こっているのか?
 いや、そんな不吉なこと考えるのはよそう。明日は普通に、塾で先生に会えるんだから。とにかく、今は寝よう。

 けれど漠然とした不安は、いつまでも胸に渦巻いて消せなかった。
 
 寝返りを打つと、不意にベッドのスプリングが軋んだ。

 そういえば、このベッドの上で先生に初めて・・・・・・抱かれたんだ。
 俺の馬鹿、何で今そんなこと思い出してるんだよ。
 いや、こんなときだから思い出しちゃうのか?

 胸が熱くて、でも歯痒くて―― 切ない雫が頬を濡らした。
 俺の馬鹿やろ・・・・・・。

 ようやく眠りにつけたのは、小鳥の囀りが聴こえる朝方だった。




******



 今日の塾の講義は、午前中からだ。
 お袋に行って来ます、と告げて玄関を開けた。寝不足の身体に朝の陽射しは、堪える。 
 まして、終わりかけとはいえ夏の朝陽は。

 けれど、コンラッド先生に遭えると思うと気持ちが弾む。澄んだ水色の空から降り注ぐ陽射しは、きらきらと輝いて、俺に元気をくれた。


 きっと、今日はいいことがある!

 叫びたい気持ちを抑え、代わりに小走りで駅に向かった。

 早くコンラッド先生に会いたい!!






 空調のよく効いた、いつもの塾の教室。隣にはジュリアさんもいる。

 でも、どうして?
 教壇にいるのは、塾長。七三分けの中肉中背のおじさん。

「コンラッド先生は、結婚式のため国に戻られた。急遽、式が決まったようなので、次の先生が決まるまで私がクラスを担当する」
 
 途端にクラスにざわめきが起こる。
 けれど、俺の頭の中は真っ白でクラスメートが何を言っているのか、聞こえてこない。

 気がついたら、教科書を鞄にしまっていた。咄嗟に椅子から立ち上がった。
 そのとき、隣のジュリアさんが、俺にポーチを手渡した。

「よかったら、これを使って。ユーリ」
「―― ありがとう!」

 中身を確認する余裕は無かった。けれど、彼女が初めて俺のことを名前で呼んでくれた。
 その眼差しは、俺を応援する暖かいものだった。
 思わず、心が打たれた。彼女に、にっこりと微笑み返すと、一目散に教室を飛び出した。 

 気ばかりが急いて、脚がもつれそうになりながら、駅のロータリーを目指す。黒光りするタクシーに怖気づきながらも、乗り込んだ。

「眞成田空港までお願いします」

 荒い息で、行き先を告げると運転手は、こちらを見ることもなく不機嫌そうに車を出発させた。どうやら、ひどい運転手に当たってしまったみたいだ。

 もうこの際、そんなことはどうでもいいんだ。空港にさえ行ければ、いいんだ。

 タクシーの運転手は、世間話の一つもしてくれない。それどころか、当たり前のように高速道路に乗った。さすがに、俺は慌てた。

「あ、あの、すみませんっ!! どうして高速に乗るんですか?!」

「下道で行くと四時間近くかかるからだ」

 横柄すぎる態度で、運転手は、そう告げた。一応、俺、客なんですけど。そりゃ、高校生だけどさ。それにしてもっ。

「よ、四時間っ?!高速なら、どのくらいなんですか?」

「二時間ほどだ」

 客と運転手という力関係は、完全に崩壊したらしい。すっかり、彼に降参してしまった。

「高速でお願いします・・・・・・」
 俺は、力なくそう呟いた。

 彼の横柄な態度と自分の無計画な行動に、心が萎えた。
 やりきれない気分になった。

 窓から見える景色は、ものすごいスピードで後ろへ流れていく。
 俺の気持ちも、後ろ向きになっていく。
 
 畜生。どうして、俺はいつも、後先考えずに行動してしまうんだ。
 こんな、高速に乗っても2時間もかかる空港に、思いつきで行こうとするなんて。
 おまけに、先生が空港にいる可能性なんて、限りなく低いって分かってるのに。

 昨日の夜から、先生と携帯が繋がらないんだ。昨夜のうちに、飛びたったのかもしれない。おまけに、先生が今日出国するにしても、今から追いかけて間に合うかも分からない。

 そしてなにより、一番考えたくないことが思い浮かんだ。
 
 俺に嫌気がさして、他の人と結婚を決めた先生に、今更俺にもう一度振り向いて貰うことなんてできるんだろうか?いくら、空港まで行って引き止めたところで・・・・・・。

 暗く不安な気持ちは、留まることを知らずに溢れてくる。
 すっかり、自分を信じる前向きな気持ちが、消えていきそうだった。


 車は、眞成田空港の第一ターミナルに横付けされた。

「二万五千円」

 無愛想な運転手の声が、俺に追い討ちをかけた。

 「に、二万五千円?!」

 頭からさっと血の気が引いていくのが分かった。相変わらず、ひどい態度の運転手に怒る気持ちなど沸いて来ない。ただ、困惑するばかり。
 どうしよう、俺、そんなにお金持ってない!

「まさか、持ってないなんて言わないだろうな?」

 運転手が、眼をギラリと光らせて俺に凄む。まるで、俺の心の声を読んだかのようないやらしいタイミングだ。

 俺は、顔面蒼白になりながらも、ふと、ジュリアさんが俺に渡したポーチのことを思い出した。急いで、彼女のポーチを開くとそこには福沢諭吉が3人もいた。

「ジュリアさんーーー!!!借りたお金は返すからーー!!」

 彼女の名前と律儀な宣言を、力の限り絶叫した。さすがの運転手も、これには驚いたのか、眼をぱちくりさせていた。何が何やら分からない様子だ。おまけに、俺のあまりの大声に、こめかみを押さえていた。ちょっと、してやったりだ。
 
 その後、運転手にお金を払うと、一目散に自動ドアを通り抜けた。もう少しで、透明のガラスにぶつかるくらいの勢いだった。
 ジュリアさんのおかげで、すっかり萎んでいた俺の気持ちは急上昇した。

 きっと、先生はこの空港内にいる!
 今なら、俺、コンラッド先生ともう一度やり直せる気がする。

 自分の直感を信じて、チェックインカウンターのある四階へ向かった。エスカレーターにただ立っているのが焦れったくて、駆け上った。

 夏休みの最後に旅行に行こうとする家族連れや、恋人達、団体客でロビーは溢れかえっていた。

 この中から、コンラッド先生を見つけるのは至難の業だ。

 けれど、搭乗案内ボードを見上げるハリウッドスターがそこにいた。

 って、コンラッド先生じゃん!!

 先生のいるところだけ、空気が凛としてしている。相変わらずの長身に、彫の深い端整な横顔、凛々しい佇まいに見惚れてしまう。いつもより堅いデザインの黒スーツが、ひときわ秀麗だ。

 いけない、見惚れてる場合じゃないだろっ。

 俺は、慌てて先生を目指して駆け出した。
 人混みをすりかわしながら、先生の姿を見失わないように必死に眼で捉える。

 早く先生と話したいのに、人が多すぎて中々近づけない。

 けれど、そんなとき、俺は頭を鈍器で思いっきり殴られたような衝撃が起こった。  
 実際に、殴られたわけじゃないけど、そのぐらいの精神的ダメージを受けた。

 コンラッド先生の横に、それこそハリウッド女優張りのセクシー美女が現れた。柔らかそうなプラチナブロンドの巻き毛は、優雅に腰まで下りている。胸を強調させた黒のワンピースが、妖艶に彼女を彩っている。

 妖艶な美女は、両手でコンラッド先生の頬を捉えると、口端にキスをした。とても、幸せそうで、とても自然で。

 二人の間の深い愛を感じた。

 ああ、もう彼女と彼の間に立ち入る余地が無い。
 俺は、彼女には敵わない。
 
 とても親密そうに語り合う二人を見ていられずに、俺は踵を返した。 

  折角、ジュリアさんが応援してくれたのに。
 俺が、もっと早く先生の本当の気持ちに気づいていればよかったんだ!!
 俺のばかやろう。
 

 不意に、腹の虫が鳴った。情けない音が、よけいに空しい。
 こんなときにも、腹って減るんだな。そういえば、今日は昼ごはんを食べて無かったもんな。



 やりきれない気分で、一番手近の持ち帰り専門のファーストフード店に並んだ。お姉さんの笑顔が眩しい。

 ごめんなさい、暗い客で。何せ、俺、ただいま失恋中。それどころか、元恋人が、今から外国で結婚しちゃうんだ。

「ハッピーセットでお願いします」

 そうだよ、せめて食べる物くらい、幸せなネーミングを選びたい。
 僅かに、お姉さんの眉が顰められた気がした。何だよ、俺にはハッピーなものは似合わないのかよ。


 ますます気分が沈んだ。

 待つこと五分。ハンバーガーセットとは別に、小さな熊のぬいぐるみを渡された。  
 熊なのに、触覚と羽が生えていて、黄色と黒のボーダーのパンツを穿いている。くまと蜂が合体したみたいなぬいぐるみだ。

「ど、どうしてぬいぐるみが?」

「くすっ、ハッピーセットについてくる『くまはち人形』ですよ」

 バイトのお姉さんは、やっぱり知らなかったのね、という顔で笑った。どうやら、ハッピーセットとかいうやつは、子供用のセットで、ぬいぐるみがついてくるらしい。

「なんだ、そっか」

 俺は、少し笑った。よかった。俺、別にハッピーなものが似合わない訳じゃなくて。



 少しだけ、気分がほっとした。けれど、そんなことで立ち直れるほどの浅い傷じゃない。
 俺は、塞ぎこんだまま、ロビーの椅子に腰掛けた。

 ふと外の景色を見た。大地には、大きな旅客機が、待機している。その上には、どこまでも続く蒼い空。白い雲と雲の合間には、遥かかなたに旅立った飛行機の航跡が潔く描かれる。

 目頭が熱くなった。

 ―― きっと、もう先生は俺の元には二度と来ない。
 ―― 違う世界の人になったんだ。
 
 ―― ユーリ!

 突然、大好きな声が聴こえた気がした。

 俺は、地面を蹴り上げるように、立ち上がった。乾く眼も厭わずに、眼を見開いたまま周囲を見回した。

 けれど、彼の姿は見つけられなかった。

「はは・・・・・・、とうとう幻聴まで聞こえたよ」
 
   自虐的に呟いた。
 どうあがいても、世の中には、どうにもならないことだってある。
 彼には、彼の人生がある。
 俺は、ほんの少しでも彼の人生に、何かを残せただろうか。
 ―― そうだったら、いいな。

 今は、俺の目の前にあることを一つずつ片付けていこう。

 ハンバーガーの包みを取り出して、噛り付く。空っぽのお腹が、暖かくてもちもちしたパンと、肉汁溢れるハンバーグで満たされる。

 美味い・・・・・・。
 こんなに、悲しくても、お腹はすくんだ。
 悲しくたって、当たり前に、渋谷有利の生活は続くんだ。
 コンラッド先生の生活だって、遠い空のしたで、当たり前に続いてるんだ。

 全てを平らげて、力強く立ち上がった時。

 館内放送で、俺は呼び出された。
 インフォメーションセンターに立ち寄った俺は、思いもよらないメッセージを受け取った。

 綺麗にお化粧をしたお姉さんが、俺に渡したのは一枚のメモ用紙。
 
   8/30 17:00  BA4625
   上記日時、便名にて帰国します。
  コンラッド・ウェラー

 信じられないことに、先生からの伝言だった。
 紙に書いてあるのは事務的な事実。
 けれど、決定的な事実。
 ―― 先生は、3日後には日本に帰ってくる。

 嘘、うそ?!
 どうしよう、嬉しい!!

 さっきコンラッド先生の声が聞こえたのは、気のせいじゃなかったんだ。
 俺の姿を見つけたから伝言をくれたんだ!

 けれど、ふと我に返った。
 いくら先生が帰ってきても、さっきの金髪美女と結婚した後なんだよな。
 それでも、俺に帰省日時を教えるってどういうことなんだろう。

 いや、考えるまでもないか。きっと、先生の最後の思いやりだよな。
 俺が、空港まで押しかけたのを知って、きちんと俺に謝ろうと思ったんだよな。 

 そうか、そうだよな。
 先生には、先生の人生があるんだ。
 俺には、今出来ることを、一歩ずつ進んでいくしかないんだ。


 悲しみは、時が彼方へ運んでくれるはず。いつか遠い空のしたの想い出になるはずだから。今は、それを、待つしかないけれど。



******


 きっと、泣かない。泣いたら、いけない。
 先生の結婚を、笑顔で祝福してあげるんだ・・・・・・。

 夏休みもとうとう、今日を入れてあと二日。
 
   八月三十日。十七時丁度。
 ブリティッシュエアウェイズ4625便。

 コンラッド先生のメモを頼りに、眞成田空港の第二ターミナル、到着ロビーにて待つ。どうして、イギリスの航空会社なのか少し疑問だったけれど。だって、先生ってアメリカ人だったよな。

 自動ドアが開くたびに、大きなスーツケースと免税店の袋を山のように抱えた乗客達がやってくる。彼らは、自分の家族や友人、恋人を見つけては、はしゃいで駆けつけていく。どうやら、飛行機は時間通りに着陸したらしい。

 先生に会えると思うと素直に嬉しい。
 きっと、今日が先生と会える最後の日になる筈だけど。それでも、先生に会えるのは嬉しい。

 自動ドアが開くたびに、ドキドキしながらコンラッド先生の姿を探してしまう。

 けれど、彼はなかなか来ない。
 俺の回りにいた、乗客の家族達はいつのまにかいなくなっていた。
 さすがに、胸にきりきりと不安が押し寄せる。

 先生の身に、何かあったんだろうか。
 初めは、ただひたすらに先生の安否が気になった。
 けれど今のご時勢、そうそう危険に晒されることなんてない。
 俺の中で、ひとつの答えが自然と導き出された。


 結婚したばかりだもんな。きっと、奥さんが大切だから、側を離れたくなかったんだよ。


 でも、遭えなくてよかったのかもしれない。今、先生に遭ったらやっぱり笑顔で結婚を祝福できなそうだから。



 必死に自分に言い聞かせて、気持ちを切り替えた時だった。


「ユーリ!」
 自動ドアの方には、誰も居ないのに、大好きな声が聞こえた。
 俺、また幻聴を聞いたのか?

 不意に、後ろから暖かい身体の中に抱きしめられた。いつもの先生のフレグランスの香りがした。いや、いつもより数段甘くて、胸が痺れた。

 先生は、中々俺を腕の中から解こうとしない。聞きたいことはたくさんあるけれど、俺は何も言えずにずっと抱きしめられていた。

 先生に抱きしめられた温もりが嬉しくて、幸せで、身体が痺れてしまったように動けなかった。

 先生は、一度腕の力を緩めると、俺の身体を先生のほうに向けた。

 先生は、黒のタキシードを着ていた。まるで、結婚式からそのまま来たかのようで、胸が痛んだ。

 けれど向き合った先生の顔は、今にも泣きそうでその癖、飛びぬけて甘い笑顔だった。ダークブラウンの瞳には、銀の星が賑やかに輝いていて、見惚れてしまう。

「よかった!! 貴方がここに来てくれなかったら、もう諦めるつもりでした。第一ターミナルの到着ロビーに貴方の姿がないとき、もう駄目かと思いました。それでも、もしかしたら、貴方は第二ターミナルで待っているかもしれないと思って、諦めないで来てよかった!」

 今度は、正面からきつく抱きしめられた。
 一回り大きな身体に抱きしめられると、胸の鼓動が高鳴る。タキシードの上からでも分かる厚い胸板に、顔を埋める。
 それにしてもっ。

「も、もしかして、俺って待つ場所が違ってた?!」
 顔を見上げて、恐る恐る聞いてみる。

「えぇ、でも紛らわしいですからね。この空港は、航空会社によって利用するターミナルが違うんです。俺が、きちんとメモに書いておかなかったからいけないんです」

「うわっ、ごめんなさい。長旅で疲れてるのに、こんなに煩わせて」
 
 先生は、うろたえる俺の両肩を緩く掴むと、甘く覗き込んできた。綺麗な瞳を縁取る睫毛は長くて、唇は優しく笑みの形を作っていて、思わず見惚れてしまう。

「気にしないで。俺がきちんと伝えないのがいけないんだから。だって、まさか貴方が空港まで追いかけてきてくれるなんて思わなくて。でも、貴方の姿を見つけた時には、もう俺は、セキュリティーチェックを受けていて、貴方のいるロビーには戻れなかったんです。貴方に遠くから呼びかけましたが、流石に聞こえなかったようなので、メモを残したんです」

「先生・・・・・・」

 やっぱり、あのとき聞こえたのは、幻聴じゃなかったんだ。でも、何のために?やっぱり、そこまでして俺に謝っておきたかったの?
 喉までそんな言葉が出掛かったけれど、堪えた。

「空港まで俺を追いかけてきてくれた貴方をみて、心が揺さぶられました。そして、これを、最後の賭けにしたんです。俺の帰国日時だけ知らせて待っていてくれたら、もうユーリを離さない、って決めていました」

 え、今なんて言ったんだ?
 俺のことを、離さない?でも・・・・・・。

「でも、先生。結婚してきたんだろ?あの金髪美人さんと。もう、先生ってば俺をからかってるんだろ?結婚おめでとう」

 無理やりに笑顔を作ってみせた。本当は、心が泣いていた。だから、きっと、顔が引きつって不自然な笑顔に違いない。

 先生は、俺の軋む心を包み込むように、優しく抱きしめてくれた。

「ユーリ!そうですよね。貴方を心配させて御免なさい。初めに言うべきでした。俺は、結婚なんてしていません。俺は、空港で貴方を見つけたときから、心は決まっていました。だから、国へ戻って、上手く話をつけてきたんです。結婚は、俺の兄がすることになりました」

 一息つくと、彼は優しく俺の顔を覗きこんだ。さらりと、先生のセピア色の前髪が垂れる。

「でも、心配しないで下さい。兄のほうが、よほど彼女にお似合いでしたから。実を言うと、彼らは惹かれあっていたんですよ。ただ、素直になれないだけのようでした。実際、二人は式の間中、とても幸せそうでしたから。おまけに、俺が出国前一緒にいた女性は、私の母です」

「う、うそ?!先生は、結婚しなかったんだ。おまけに、あんな若くて綺麗な人がお母さんだったの?!」

 驚きを隠せない俺に、先生は真剣な表情で向き合う。深いブラウンの瞳は、どこまでも誠実だった。

「ユーリ、今度は貴方に何を言われたって、貴方を離しません」

 先生は、色素の薄い瞳を切なげに揺らせていた。凛々しい眉は、顰められる。

「ユーリ、あの日は御免なさい。あなたが俺とのことを恋人ごっこだと言ったとき、俺は大人気なく怒ってしまいました」

 俺が、顔を強張らせると、先生は甘く微笑んでくれた。

「でも、誤解しないで。貴方に腹を立てたのではありません。自分に腹を立てたんです。今まで、貴方からラブレターを貰ったとばかり思っていました。でも、それはジュリアからの物だとわかってしまった。貴方も、俺のことを好きだと信じていた。だから、貴方のことを、愛した。それこそ、貴方の身体まで」

 ダークブラウンの瞳は、まっすぐに俺を捉えた。けれど、声は頼りなげに少し震えていた。俺の肩を掴む先生の手が、微かに震えている。

「でも、貴方は好きではない俺から抱かれるのが辛かったんですね。だから、俺とのことを恋人ごっこだなんていい聞かせて、つらい気持ちを紛らわせていたのでしょう?俺は、自分がふがいなくて。大好きなユーリをこれ以上傷つけてはいけないと思って、貴方から離れる覚悟を決めたんです。そのとき、丁度結婚の話が持ち上がったので、受けることに決めました。けれど、結局貴方のことを忘れられませんでした」


 刹那、先生のブラウンの瞳に、強い意思が宿った。光が反射して、微かに碧色を含んでいた。

「そんなとき、貴方が空港まで追いかけてくれたのを見てしまったから。もう、覚悟を決めました。自分勝手だって思うけど、例え貴方が俺のことを好きでなくても、俺の側にいてほしいって思ったんです」

 もう黙ってなんていられなかった。俺は、機関銃のように溢れる想いを捲くし立てた。伊達に、トルコ行進曲なんてあだ名があるわけじゃない。

 一度身体を離すと先生の両腕をぎゅっと掴んで、先生を見上げた。

「先生、俺、先生のこと大好きだよ! 本当に大好き。恋人ごっこだなんて言ったのは、俺の誤解だったんだ。だって、俺から告白したわけじゃないのに、先生が『俺も好きだよ』なんて言うから。ジュリアさんが先生に手紙を出してて、それを先生が俺からのラブレターだなんて勘違いしていると知らなかったんだ。だから、赤点を取った俺が勉強する気になるように、先生が恋人ごっこをしてくれるんだって、思ったんだ。初めは、その恋人ごっこに付き合ってるだけのつもりだったんだ。でも、気がついたら、もうずっと先生に惚れてた・・・・・・コンラッド先生、好きだよ。」

 一呼吸おいて、大事なことを伝えた。

「間違っても、先生に抱かれるのが辛くて『恋人ごっこ』の振りをしたなんてことはないから!だって、俺、先生に触られるの好きだよ?」

「―― ユーリ、貴方は本当に困った人だ」

 先生は、目を丸くして俺を呆然と見つめた。

「―― 可愛すぎて困ります」

 その瞳が、柔らかく甘く細められると、彼は唐突に俺を横抱きにした。
 って、これ、お姫様抱っこじゃん~~!
 空港中の人がこっちを見てるよ~!

 いや、よく考えたら、今の今までもこんな空港のロビーのど真ん中で、散々恥ずかしいことを喚いていたわけだけど~!!ギャラリー増えすぎ~。

「ユーリ、迎えの車が下に来ていますから急ぎましょう」

「こ、コンラッド先生~!ちょ、ちょっと恥ずかしいから降ろして?」

 そっと、先生を見上げると、ちょっと意地悪な顔をした。

「駄目です。もう貴方を離しません」

 ぞくっとするような甘い声で、耳元で囁かれた。

「ンやっ」

 甘い吐息が耳を掠めて、思わず身体を捩ってしまう。

「ユーリを、俺の好きにしてもいい?」

 熱のこもった掠れる声で囁かれた。思わず顔を上げると、先生の甘い微笑の中に、野生的な情熱を垣間見た。

 もう、それだけで身体が熱く火照っていった。

「うん・・・・・・」

 素直にそう返事していた。

 先生の腕に抱かれて、その甘くて凛とした香りに包まれて、眩暈がした。







 表 =完了
 裏の入り口、右下、英語
 無駄に、長いですが≪汗 大人の方だけお願いします。

★あとがき★
 拍手下さるかた、ありがとうございます。
 励まされて、なんとかここまでは書き上げられました。
 なんか、こんがらかって訳がわからなくなってませんか?それが、心配です(汗

 


塾講師と甘い夏?! 最終話の裏 十八才以上推奨です。




「ええっ?! 何これ?!」
 
 ダックスフンドじゃないよな?もちろん。だって、車だし。
 突如、俺の前に飛び込んできたのは、全長八メートルはある純白のリムジンだった。
 空港のエントランスを出るとすぐに、ただ事ではない車が、俺たちを待ち受けていた。紫紺の空の下、純白のボディが眩しいリムジン。

 平々凡々な高校生の俺は、呆気に取られた。不意に、運転手が降りてきて、俺たちに一礼をすると、扉を開けた。
 コンラッド先生は、ありがとう、なんて慣れた様子で彼に言葉を掛ける。俺を腕に抱いたまま、自然に車に乗り込んだ。

 すげ~、コンラッド先生。流石に合気道をやってるだけある。俺を抱えたまま車に乗り込めるなんて!
 いやいや、感心するポイントが違うか。

 さらに驚いたのは、車内のラグジュアリーな内装だ。
 ゆったりとした黒皮のシートは、渋谷家のソファよりも長い。座席の向かいには瀟洒なミニバーが内装されている。磨き抜かれたワイングラスや、ステンレスのワインクーラーに入ったワインボトル、綺麗なガラス瓶に入ったウィスキーが置かれている。天井には、小さなライトが、星のごとく埋め込まれている。さながら、プラネタリウムだ。

「す、すっげ~よ!! コンラッド先生?! 何で、何でリムジンなの?!しかも、先生は慣れた感じだった。先生って、合気道のほかにも何か本業があるの?」
 
 思わず感嘆の声をあげてしまう。ついでに、心に浮かんだ疑問までもぶつけてしまう。
 先生は、俺をシートに座らせて、隣に腰を下ろした。横から、俺の顔を覗きこむと、少し悪戯な顔をした。美形な顔が間近に迫って、ドギマギしてしまう。

「知りたい?」

 急に甘くて腰にくる声で囁かれた。
 長い指先は、からかうように俺の髪を弄ぶ。闇を映す瞳も、甘く細められる。鼓動が高鳴らないわけがない。
 俺は、ただ首を縦に振った。

「それじゃあ、教えてあげる。でも、今夜は貴方を返せなくなりそうです。俺から貴方のご家族に、連絡してもよろしいですか?」

 そういうと、先生は俺の家の電話番号を聞き出して、電話した。電話に出たのは、お袋のようだ。すっかりコンラッド先生の悩殺ボイスにやられたらしい。
 すんなりと、俺の外泊が認められた。

 まぁ、そもそも俺は男だし。親もそうそう心配するもんじゃないよな。勝利は、うっとうしいくらいに心配しそうだけど。 
 
「ユーリ」
「何? っンん――!」

 名前を呼ばれて、先生を振り向いた瞬間に、唇を奪われた。
 こんな運転手付きの車内で、まさかキ、キスされるなんて―― !

 恥ずかしくて、必死に逃げようとするも、腰に回された腕と、後頭部を支える手が邪魔をする。

 す、ごい力。動けない。

「・・・ん・・・・っふ・・・・ン」
 
 唇から湿った水音と、甘い吐息が溢れ出る。卑猥な音が、車内に響き渡る度に、羞恥で震える。

 運転手さんに、キスしてるのがばれちゃうよ―― !!

 恥ずかしくて、恥ずかしくて堪らないのに、先生の甘い唇は、容赦ない。甘く唇で、俺の唇を覆っては、舌先でそっと表面をなぞられる。優しく唇の表面を撫でていた舌は、何の前ぶりもなく唐突に唇を割って侵入してくる。
 熱くて柔らかいその感触に、意識が飛びそうになる。

 優しくて丁寧なくせに、時折、貪るように激しく接吻けされて、たまらない。
 大人の先生には―― 敵わない。

 そのとき、車体が揺れた。交差点でカーブを切ったのだろう。その動きに合わせて、先生は俺の身体をシートの上に押し倒した。

 さすがに、焦った俺は、声を潜めて先生に抗議する。

「せ、せんせいっ。こんなところで・・・・・・。運転手さんにばれるだろ?!」

 俺の上に跨ったまま、彼はにっこりと爽やかに微笑んだ。
   上から俺を覗き込む顔はとても綺麗で。タキシードが一層その秀麗さを引き立てている。けれど、その瞳の奥に熱い物が窺えて、たじろいでしまう。

「ユーリ、心配しないで。運転席と後部座席の間はプライベートガラスで仕切られていますから。おまけに、全部の窓も特殊加工がしてありますから、完全な密室です」
「そ、そうかもしれないけどっ」
「でも、貴方があまり声を出すと流石に運転手にも聞こえてしまうでしょうね」
 端整な薄い唇の片端を上げて微笑まれた。すごく意地悪な顔だった。
 その癖、腰が抜けてしまいそうな甘い囁き声だった。
「―― !」
 もう何も言い返せない。

「ちょ、ちょっと、うそ?!」
 俺の虚をつくように、彼は俺のベルトを素早く外してしまった。彼は俺の上に覆い被さる。
「ユーリ、好きだよ」
 長い睫毛に縁取られた瞳が、至近距離で細められた。

 その甘い顔に見惚れていたら、彼は思いがけない反撃に出てきた。
 彼の冷たくて長い指が、器用にジーンズの前をくつろげて、下着の中に侵入してきた。
「ンやっ! ぁああっ!」
 ひやりと冷たいその感触に、全身が粟立つ。思わず瞳を瞑ってしまう。

「キスだけで、もうこんなに硬くしてるんですか?いけない子だ」
 喉の奥で低く笑われた。揶揄するような乾いた笑いの後に、意地悪な台詞。けれど、その声は痺れるように優しくて甘くて、どうにかなってしまいそう。

「そんなこと・・・・いうな・・・ぅああっ!」
 先生は俺からすこし身体をずらした。そのまま、先生の大きな掌が敏感なところをきつく擦り上げた。抵抗などできない。思わず嬌声をあげてしまう。身体を仰け反らせて感じてしまう。下着の中で先生の指に弄られて、先端からはしたなく雫を零してしまう。

「そんなに、気持ちいいですか?でも、そんなに声を出したら運転手に聞こえるかもしれませんよ?」
「そ、そんな・・・・・・」
 情けない顔で、先生を見つめると、空いた手で髪を撫でられて優しく微笑まれた。

 不意に、先生は俺から離れてシートの向かいにある何かを掴んだ。
「ユーリ、はい口を開けて?」
 優しい声に促されるままに、口を開いた。
「――っ?! んむんン(つめたい)!!」
 突然、口腔内に凍て付くように冷たくて大きな塊が放りこまれた。 
「ほら、これで声を出しても大丈夫ですよ」
 すごく穏やかで甘い声で言われた。
 でも、していることはすごく意地悪だ。瞳にうっすらと涙が滲む。

 にわかに、瞳の淵に優しいキスが降ってくる。
「苛めてゴメンね」
 蕩けそうな笑顔で微笑まれる。

「んンン――!」
 けれど、次の瞬間。下着ごとジーンズを足首まで下ろされる。
 抵抗するも、その声は冷たい塊に邪魔をされる。
 外気に晒されて、熱をもったそこが一瞬震えるも、すぐに先生の大きな手に包まれた。
「でも、本当は早くこうして欲しいんでしょう?」
 コンラッド先生は、俺の横に腰を下ろして意地悪に俺を見下ろしていた。
「んんン(ちがう)! ―― っぁンンンーー!!」
 必死の言い訳も、言葉にならない。先生の長い指が、先端をぐりぐりと弄りながらも、残りの指と掌で優しくそこを包んで、激しく上下に擦りたてる。

 先生の大きくて、節くれだった大人の手が、いつまでもそこを甘く攻め立てる。
 甘い刺激に耐えられず、先端から露が零れてしまう。

「ぁンんーー!! ンンー!」
 そのうえ、口には冷たくて大きな氷がねじ込まれていて、みっともない嗚咽が漏れる。口端からは、唾液と共に、融けた氷が水となって垂れている。

「あぁ、ユーリ。上も、下もベトベトだ」
 信じられないくらい卑猥な報告を、すごく穏やかな声で言われた。
「ゃンンーー!!」
 もう、恥ずかしくて堪らない。それなのに、身体を突き抜ける快感が収まらない。

 ――あ、駄目っ!もう、イきそう。

 今にもイきそうなその時、唐突に車が停まった。

「さぁ、ユーリ。着きましたよ」
 先生は何事もないかのように、そう言った。

 けれど、俺はパニックに陥った。もう身体が火照りすぎて、限界。それなのに、一気に現実に引き戻された。身体も、思考もついていけない。

 そんな俺に、甘いキスが降り注ぐ。灼け付くように熱い舌が口腔内に侵入し、綺麗に氷を絡めとる。
「ン・・・ふっ・・はぁ」
 口内から大きな塊が出されて、俺は安堵の息を吐く。

 けれど、安堵も束の間。先生は、自身の口内から氷を取り出すと、信じられないことをした。
 俺の両脚を開かせて、膝を折らせると、熱い窪みの中にそれに入れた。
「ああっ! うそっ! ああっ・・・う・・つめた・・・・・いっ!」
 異物感と、凍て付くような冷たさに、身体の芯から震えてしまう。
「ほら、運転手がもうじきドアを開けますよ」
「―― !!」
 すっかり頭が混乱した俺に、先生は下着とジーンズを穿かせてくれた。丁寧にベルトまで、はめてくれた。唾液と水分で汚れた口は、ハンカチで優しく拭ってくれた。

「お待たせいたしました」
 その時、扉が開かれて運転手が仰々しく出迎えた。

 間一髪だった。
 けれど、相変わらず極限まで熱をもったそこが、はしたなく疼いてたまらない。
 そのうえ、身体の奥に埋めこまれた氷が、じんわりといやらしく融けていく感触に戦慄する。

 先生に介抱されながら車を降りると、そこは、巷で有名な外資系ホテルだった。エントランスのポーターが、恭しく礼をすると、リムジンのトランクから手際よく荷物を降ろしてくれた。

 俺は、先生に介抱されながらたどたどしく歩を進める。とても一人では、歩けない。
   
 こんなに豪華な大理石のロビーも、あまり視界に入らない。

 ジーンズがそこに擦れるだけで、気持ちがよくてイってしまいそうになる。
 こんなところで、はしたなく果てることだけは避けたい。その想いがいっそう卑猥に身体を疼かせる。そのうえ、融けた氷が下着をだらしなく濡らしている感触に眩暈がする。

 ホテルのカウンターから、一番年配の男性がこちらに歩み寄る。
「副社長、お帰りなさいませ。長旅お疲れ様です。どうぞ、ごゆっくりお休み下さい」
「ありがとう」
 彼は、カードキーを先生に渡すと俺と先生に向かって一礼をして踵を返した。
 
 副社長って何?
 色々聞きたいことはあるけれど、身体が熱くて思考がおぼつかない。

 荒く息を吐く俺に、先生は耳元に唇を寄せた。きっと、周りには体調の悪い俺を気遣っているようにしかみえない筈だ。
「ユーリ、すごくいやらしい顔ですよ?」
 甘い声で意地悪なことを言われる。甘い吐息が耳にかかって、ますます身体が熱くなる。 
「そんなこと、いうな、よ・・・・・・」
  抵抗してみるも、その声はとても小さい。
 早く楽になりたくて、苦しくて、堪らない。 

 いつの間にか、俺たちは大理石でできたエレベーターホールにいた。瀟洒なシャンデリアが、アイボリーの大理石を優しく照らす。
「大丈夫、もう少しだけ待って。ね?ユーリ」
 そう言うと、彼はエレベーターのボタンを押す。タイミングよくロビーに待機していたらしいそれに、守備よく乗り込んだ。

 エレベーターの内部は、木目調のクラシックなものだった。
 先生は、51階を押すと俺を腕の中にきつく抱きしめた。タキシード越しに、先生の甘い香りがした。
「本当に、あなたが好きで堪らない」
 相変わらずの甘い声は、エレベーターの中で綺麗に響く。
「・・・おれ・・・・も」
 先生の甘い告白に、俺も返事をしたいのに。
 身体が熱くて、呂律が回らない。
「――あっ・・・・・っふンン!」

 唐突にエレベーターの内壁に身体を押し付けられた。両手首を先生の手で抑え付けられて、上半身だけカエルみたいな体勢になった。そのまま、唇を塞がれた。
 
 目の前が霞んでいく。
 先生のキスは、すごく性急で、どこで息をしていいのか分からない。
 口内で縺れ合う熱い舌は、もうどちらがどちらのものか分からない。

 熱を持ち続けた下半身が、限界、だった。先端から零れる雫、氷が融ける雫が、ぐずぐずに下着を汚していく。そのまま、俺の意識もぐちゃぐちゃになっていく。

 目の前に白く閃光が走った。

「ンンんんっふ・・・んんンンーー、アアっ!!」

 耐え切れずに、下着の中に吐精した。唇を離して、思わず喘いだ。何ともいえない恍惚感に満たされて、気がふれそうだった。

 甘い余韻に浸る俺の耳元で、先生は意地悪に囁いた。
「こんなエレベーターの中で、イってしまったんですか?ユーリはエロいですね」
「っん・・・・・・」
 甘い吐息に、身を捩ってしまう。

 そのとき、エレベーターの電子音が鳴る。
 先生は、切れ長の瞳を甘く細めて、微笑む。
「お待たせしました。お部屋にご案内します」
 ホテルマンのごとく丁寧な物言いは、ひどく紳士的だけど。これから何をされるかは容易に想像がつく。まだ熱の醒めない身体には、その想像は刺激的過ぎた。眩暈がした。
 
 長身をタキシードに包む先生は、俺に手を差し出した。俺は、先生にエスコートされながら51階のフロアへ出た。
 先生に支えられながら、角部屋の前へと進む。
 先生が、扉のカード差込口に、カードを差し込む。すると、ランプが赤から緑に変化する。
 開かれた扉の先には、広いリビングルームがあった。
 アイボリー色を基調とした落ち着いた室内には、アンティーク調のチェストタンス、ルームランプ、ソファ、テーブルが優雅にしつらえてある。 

「す・・・ごい、コンラッド先生・・・・・もしかして・・・・すっげー、いい部屋?」
「スウィートルームです」
「え、ええっ?!そ、そういえば、・・・・・さっき、先生って『副社長』とか・・・・・言われてなかった?」
 少しだけ、氷の感触とか、身体の熱に順応してきた俺は、彼に質問した。相変わらず、呂律が回らないけど。

「ユーリ、堅い話は後で――」
 先生は、唐突に俺をミッド・ブルーのチェスターフィールドソファーに横たえさせた。
「あっ、ちょっと、やめろよっ」
 先生はあっという間に、俺のシャツを脱がせ、ズボンのベルトをするすると抜いていった。
 俺は、慌てて抵抗した。
 だって、下着が氷水と、さ、さっきのでドロドロになってるのが見られたくないんだ。
「あ、い、いやだぁぁ」
 けれど、先生は無情にもジーンズを剥ぎ取ると、わざと下着を太もものところまで摺り降ろす。恥ずかしくて、硬く眼をつぶる。

 見なくても分かる。自身のそれから粘つく糸を引いて下着に繋がっているのが。  
 奥に埋められた氷が未だに融け続け、粗相をしたように俺のそこから雫を滴らせているのが。
「ユーリ、こんなに粗相をして・・・・・・いけない子だ」
 甘い声で、卑猥な指摘をされて、もう耐えられない。
「ほら、下着がユーリのでべとべとだ。それに、まだここから氷が溶けてる。よくこんなに冷たい氷をいつまでも入れていられたね。もしかして、ユーリは、こういうのが好きだった?」
 先生の意地悪な指が、いやらしくその窪みに埋まっていく。
「アアっ!そ、んな、やめっ!!あつ・・・いっ」

 今まで、氷を埋め込まれていたそこは、すごく冷たくなっていた。その分、先生の指が灼けつくように熱くて、おかしくなりそう。
 先生は執拗に内部を弄り、氷を取り出そうとする。そこを触れられるのに、痛みをまるで感じない。その代わりに、信じられないくらいの快感が襲った。俺は、どうかしてしまったんだろうか?
「ヒィ・・・ンああっ、もう、や、赦して、コンラッド先生っ!」
 さきほど、熱を放出したばかりのそこまで、再び淫らに熱をもたげていた。
「っああっ!」
 不意に、氷をそこから取り出された。
 思わず、悲鳴をあげてしまう。

 ぼんやりしながら先生を見遣ると、先生も服を脱ぎ始めた。タキシードのタイに手を掛ける先生。長い睫毛に縁取られた魅惑的な瞳を甘く細められた。何だか見てはいけないものを見てしまった気がして、眼を反らせた。
 これから、彼とエッチすると思うと、恥ずかしくて見ていられなかった。衣服が床に落ちる音が次々に聞こえる。

「?!」
 突然、眼の前が真っ暗になった。
 何か布のような柔らかいものが俺の目を塞いでいて、その先端が後頭部あたりで縛られているらしい。
「こ、コンラッド先生?!」
 少し怖くなって、先生の名前を呼んだ。
「大丈夫だよ、ユーリ」
 先生の甘い声と共に、身体が宙に浮いた。肩甲骨の辺りと膝の後ろに、直接、先生の腕の温もりを感じる。
 俺を抱えたまま先生が歩いてるのを感じる。ふいに先生は立ち止まると、俺をそっと降ろした。すごく柔らかくて、ふわふわした場所だった。多分、ベッドの上だ。

「ユーリ、可愛いよ」
 泣きたくなるような、優しくて甘い声を耳元で囁かれた。視界をふさがれているだけに、先生の美声はいっそう際立つ。身体が痺れてしまったように、何もいえなくなった。
「っふあ・・・・や・・・ああっ」
 先生は、唐突に俺の耳朶を甘く口に含んできた。そのうち、耳の中に、熱くて柔らかいものが差し込まれて、掻き回される。

 いやだ、先生が、俺の耳に舌を入れてる――!!

 唾液の卑猥な水音と、先生の甘い息遣いが直接、鼓膜を蹂躙する。
 目隠しをされた分だけ、聴覚が研ぎ澄まされて、もうおかしくなってしまいそう。

「あ・・・・・や、やだぁぁ!」
 先生の唇がすっと首筋を撫でていく。突然の刺激にぴくんと、身体が撥ねる。その唇は胸の尖りのところまでくると、そこを甘く噛んた。じんじんと身体の奥が疼く気配に、声があがってしまう。
 そっと撫でるように唇を当てたかと思えば、吸い上げられたり、舌で転がされたり。視覚をふさがれているだけに、次にどうされるのか、全く予想がつかない。それに、ものすごく感じてしまう。 

 先生が、再び耳元で甘く囁いた。
「ユーリ、好きだよ」
 甘い声の余韻に浸る間もなく、両脚を掴まれて大きく広げられた。
「あ、ちょっと、だめっ――っアア・・・ああ・・・っ!!」

 さきほどまで、氷が入れられていて、水分でベトベトのそこに、灼けつくように熱い塊が埋め込まれていく。
 熱くて、大きくて、身体が硬直してしまう。
「ごめんね、ユーリ。俺も、あなたが欲しい――」
「―!コンラ、ド、せんせ・・・・っ!」
 熱くて苦しそうな先生の声に、胸が熱くなった。

 俺ばかり、気持ちよくしてくれて、俺は先生に何もしてない。
 ごめん、先生。俺、先生のこと、考えていなくて。

 痛くても、先生を受け入れたい。だって、俺だって、コンラッド先生が好きなんだ。

 ゆっくりと、先生が体内に侵入してくる。大きくて、熱くて、苦しい。
「――っふぁ、んんっ」
 コンラッド先生は、時折、甘いキスをして、身体から緊張を取り去ってくれる。
「ンンんっ・・ふぁ・・んんーっ!!」
 そのうえ、すっかり硬く屹立してしまった俺自身を掴み、擦りあげる。そちらの刺激が、痛みをやわらげてくれる。
 そのうちに、痛かったはずの刺激が、身体の芯まで響く快感に変わった。
 身体の奥に突き上げる、その甘い快感に、涙が滲む。
 女の子のような嬌声が、とめどなく溢れ出る。目隠しを、じわりと涙が濡らしていく。

 ふいに、俺から先生のものが抜かれる。先生が俺の上から離れていく。
 今まで刺激を与えられていた身体は、甘だるく疼いたままだ。
「先生・・・・・・?」
 離れていってほしくなくて、先生を求めてしまう。目隠しをしていて、今先生がどうしているのか、さっぱり見えないのも、ひどく不安だ。

「ユーリ、こちらへ来て」
 先生に両手を引かれてベッドを降りて、しばらく歩かされた。
「ユーリ、続きをしたい?」
 先生は、立ち止まると背後から俺に抱きついて囁いた。
 身体の奥が熱くてたまらなくて、俺は頷いた。
「うん・・・・、したい。先生の好きに、して?」

「ユーリ・・・・・。前に両手をついて、腰を落として、脚を広げて?」
 甘いため息のあとには、とんでもない要求が待っていた。相変わらずに、すごく上品な声で、卑猥な要求をしてくる。
 もう、身体はずっと火照ったままだし、先生は意地悪だし、その癖に甘くて・・・・・・もう、俺、おかしくなりそう。
「はい・・・・」
 言われたとおりに、従順に先生の要求に従う。
「あ・・・つめたい」
  正面の壁に手を着くと、そこはヒンヤリとしていた。そのまま、腰を落とすと、そろそろと脚を開いていく。
「先生、恥ずかしい・・・・・・、は、はやく・・・・・」
 そんな姿勢のままでいることが、恥ずかしくて、思わず先生に助けを求める。
「おねだりですか、淫乱ですね。ユーリ」
「ちが・・・――っふっ、アアッ・・・・んあああっ!」
 上品な声で責められて、否定しようとした刹那、熱い身体の奥深くに、先生の楔が一息に突き入れられた。
 白い閃光が、全身を貫いた。目隠しをされて、両手を壁について、動物のような姿勢で後ろから犯される。そんな卑猥なことをしているのが、信じられなくて。それでも、身体の芯から疼く欲望は、溢れ出る。
 熱い塊が、確かな質量で、内部を広げ、狂いそうなほどに疼く快感を突き上げる。
「アアッ・・・アアっ!・・・・も、もう、だめ、あ、コン、ラッド先生・・・・赦して・・・んアアッ!」
「ッ・・・ユーリ、ほら、前をよく見て・・・ッ」
 彼は、俺の目隠しをそっと解いていく。先生は、抽送を緩やかなものにする。
「ああっ、・・・う、うそ・・・・・んアアっ・・・・」
 目の前に広がる景色に愕然とした。
 壁だと思って手を付いていたのは、一面の窓だった。その向こうには、銀の星を散りばめたみたいな夜景が広がっていた。
 繋がったまま、後ろから抱きしめられて、顎を掴まれてキスされた。
「・・・っふ・・・ん・・っ」
「・・・っ、ユーリ。あいしてる」
「せんせっ・・・・っあ、ンああっ!!」
 
 腰を掴む手に、ぐっと力が込められる。
 再び、激しい抽送が再開される。さきほどよりも、激しく深く、貫かれる。そのうえ、雫を滴らすほどに屹立したそこも、掌に包まれて、甘い摩擦を繰り返される。
 ガラスに、先生に貫かれる自分の姿が映る。ひどく乱れた顔で、口端から唾液が伝っていた。
 恥ずかしくて、でも、気持ちがよくて――。
 張り詰めていた糸がぷつりと切れた。

「せんせ・・・・っ、あぁ、もう、気持ちいいっ・・・・あぁ・・・よすぎて・・・・だめ・・・」
 身体から力が抜けていく。
 窓に手を付いていることができなくて、ずるずると身体が沈んでいく。
 けれど、それがいっそうの快感をもたらすことになるなんて――。

 先生と繋がったまま、座り込んでしまった。
 そのために、深く鋭く先生のを呑み込んでしまうことになった。
 容赦なく先生は、下から何度も何度も突き上げてくる。
「ユーリ・・・っ、そんなに、締め付けて・・・・・いけない子だ・・・・っ」
 背後から抱きしめられながら、耳元にそっと囁かれた。この期に及んでも、上品で甘い声だった。それも、こんな意地悪なことを言われたのに・・・・・・。

 もう、コンラッド先生が好きでたまらない。
 気持ちよすぎて、こんなに深く先生を感じられて・・・・もう、俺、限界。

「だめっ・・・イヤ・・・ッア・・・・イっちゃう・・・・あああっっ!」

 先生の上に座り込んだまま、後ろから優しく抱きしめられて、意識を手放した。



*****


 スクランブルエッグとベーコンの香ばしいかおり。
 焼きたてのパンケーキの甘いかおり。

  瞼のうらに、白銀の光を感じて目を開けた。
「・・・っ」
「おはよう、ユーリ」
 いきなり顔の上に、美形さんが・・・・・・って、コンラッド先生。
 サラサラのセピア色の髪を掻きあげながら、俺の顔を覗きこんできた。上質なシルクのバスローブを纏った先生は、色素の薄い瞳を甘く細めて微笑んでくれた。
「昨夜は、あなたに無理をさせてゴメンね」
「―― !」
 そうだ、全部思い出した。先生を空港に迎えに行ってから、先生と両思いになれて嬉しくて。でも、なんかずっとえ、えっちなことしてた気がする・・・・・・。

 まざまざと、昨夜の出来事が思い出されて、顔が真っ赤になる。
 そんな俺の頭を撫でながら、先生は優しく笑う。
「ユーリ、昨日は夕飯を食べていないでしょう。ルームサービスの朝食をたくさん頼んでおきました。存分に召し上がってください」
 テーブルの上を見ると、スクランブルエッグに、かりかりのベーコン、焼きたてのトーストにパンケーキが並んでいた。
 何よりも驚いたのは、ベッドの正面の景色だった。壁の代わりに、一面大きなガラス張りで、爽快な青空と街が見渡せた。

 な、なんて、アーバンリゾート。さ、さすが、51階角部屋、スイートルームだ。
 そ、そういえば、先生は、何で副社長なんて言われてたんだ?!

「朝食、ありがとう、先生。でも、なんで?先生って副社長なんていわれてたの

「私の母がこのホテルの会長だからです」
「ええっ、でも、実家は合気道をやってるんじゃ?」
「ええ、父はアメリカ人の親日家で、合気道の道場まで開いたんです。母は、イギリス人で、このホテルの創始者の子孫にあたります。彼女は、現在は、当ホテルの会長をしています。ただ、それだけです」
 
 いや、ただそれだけです、なんてもんじゃないと思うけど?!
 さすが、スケールのでかい人は違う。

「そんなことより、ユーリ。早く、朝食を食べましょう」
「わっ、ちょ、ちょっと、先生っ」
 先生は、徐に俺を抱きかかえると、食卓まで運んでくれた。

「も、もうー。過保護すぎだよ、先生は。このくらい、自分で出来るよ」
 少し、むくれて先生を見ると、爽やかに微笑まれた。
「ごめんなさい、あなたが可愛いらしくて、つい」
「だ、だから、そういう照れる台詞いうなよな・・・・・・」
 
 照れくさくて、思わず、そっぽをむいてしまう。

 そこには雲ひとつ無い秋晴れみたいな空が広がっていた。ここは、先生が、俺のために用意してくれた部屋。
 ふと、胸に熱い物がこみ上げる。

 先生とこうしてまた会話できて、おまけに想いが通じ合って、こんなに近くにいれる。その現実が、嬉しくてたまらない。

 ―― もう、すれ違ったりなんて、したくない。

 俺の傍らで立つ先生の腰元に抱きついた。
「でも、そんなコンラッド先生も大好きだよ。俺は、先生が大好き。だから、もう、突然離れたりしないで」

「ユーリ・・・・・」
 先生の甘いため息が、部屋に響く。

「ユーリ、これからは俺のこと、名前で呼んで。先生なんて、敬称をつけなくていいんですよ」

 椅子に座る俺を、彼は背後から優しく抱きしめてくれた。優しい石鹸の香りが漂う。
 相変わらずの甘い声で、そっと囁かれた。先生のバスローブと俺のバスローブが擦れる。心なしか、衣擦れの音まで甘い。

 胸がいっぱいになった。

「コンラッド・・・・・・」

 初めて名前だけで、呼んだ。すごく新鮮で、照れくさくて、嬉しかった。

「はい、ユーリ。俺も、あなたを愛しています」
「こ、コンラッド・・・・あ、あいし、てる」

 初めての単語の羅列に、照れくさくて、顔から火が出そうだった。だ、だだだって、俺って、あいしてるとか言うキャラじゃないし~~。うわ~~。
 先生は、こんな俺に、優しく微笑んで、キスしてくれた。 
「ありがとう、ユーリ・・・・・・」
「んっ・・・・ふっ」

 二人は、バスローブ姿で、朝食のいい香りの中で、キスをして。―― なんか、新婚さんみたい。

 俺は、ますます、体温が上がる。そっと唇を離すと、コンラッドも意味深に微笑んだ。

 きっと、コンラッドもそう思ったに違いない。

 恥ずかしくて、照れくさくて、でも嬉しくて。
 もう一度、コンラッドに好きって言った。




 ★あとがき★

 エロしかな~い≪汗 もう、どんどんエロが長くなっていく≪汗
 あま~い(汗

 何とか、無事にこのシリーズも終わりました。拍手、ありがとうございました。すごく、励まされました!

 エロが半分以上のお話でしたが≪汗 二人がいちゃいちゃ、ラブラブしてるところが書けたので楽しかったです^^

 また、違う話で、二人が存分にいちゃいちゃしてるところを書いていきたいです^^
 

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