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2009.4.22設置 『今日からマ王』メインです。 
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2010/02/19 (Fri)                  上様×コンラッド (献上小説)

(上様×コンラッド→ユーリ)


 一度変わってしまったものが、元のかたちに戻るのは―― 難しいな。


硝子の欠片


 
 静寂に包まれた血盟城内を、いつものように警備していた。

 そのときだった。真夜中の王の間から、硝子の砕け散る不快な音が響いた。

「ユーリ?!」

 俺は、咄嗟にユーリの寝室へと駆け出した。石畳を軍靴で踏みつける音が荒々しく回廊に響く。

 自分でもどうかしていると思うが、ユーリのことが可愛くて仕方がない。彼の誕生を見届けて、名前までつけたからだろうか。

 きっと、息子ができた父親みたいな気持ちを疑似体験しているのだろう。そうだとしたら、俺は随分と過保護な父親になってしまう。

 ノックもなしに、重厚な王室の扉を開くと、橙色のランプの火が照らすその光景に、息をのんだ。

 毛足の長い豪華な絨毯の上には、無数の硝子の破片が散っていた。そして、ユーリがうつ伏せに倒れていた。枕元のチェストタンスに水差しが置いてあることからして、この破片はグラスだろう。

 まさか、王をよく思わない者が、飲み物に毒物を混ぜたのか。ユーリに限って、国民から命を狙われることはないだろう。けれど、他国の民の仕業なら、無いとも言い切れない。殊更に、双黒を毛嫌いする人間の仕業なら。

 自分にも、半分人間の血が流れていると思うと、情けない気持ちとやりきれなさに胸が痛んだ。

「ユーリ!!」

 絨毯に脚をついて、彼を胸に抱いた。そして、腕の中で彼の身体を反転させた。

「ユーリ・・・・・・?」

 その容姿に、愕然とした。

 それは、ユーリが魔王に覚醒したときの姿そのものだったからだ。

 一体、ユーリは何を飲んでしまったのだ。

 オレンジの緩やかな光に照らされる、長く伸びた漆黒の髪は艶めかしく、鼻梁はすっきりと筋が通っていた。
 閉じられた瞳の淵には、いつもよりも長く綺麗な睫毛が縁取られており、繊細な陰影をつけている。そして、骨格そのものも、もはや少年というべきものではなく、青年のしなやかな身体になっていた。

 すっかり、美青年へと成長した彼がそこにいた。

「ン・・・・コンラートか?」
 
 ユーリは、うっすらと目をあけると小さく囁いた。
 その声質も、すっかり落ち着いた低音だった。そして、俺の名前の呼び方も、変わっていた。そして、彼の纏う雰囲気そのものが、違っていた。

 彼は、紛れもなく―― 魔王、だった。

「何を、召し上がったのですか? あなたは・・・・・・ユーリではありませんね?」

「いかにも、その通り」

 魔王は、喉の奥で低く乾いた笑いをみせた。俺の支えを解くと、彼はゆっくりと身体を起こした。そして、立った姿勢で俺に手を差し出した。

「少し、お前に用がある。付き合ってもらえないか? コンラート」

「魔王陛下?」

 訝しく思いながらも、彼の手を掴んだ。すると、そのまま引き寄せられて、強引に胸の中に抱き寄せられた。

「コンラート。私が相手では、不満か?」
「?!」

 その言葉の意味を量りかねていると、唐突にソファの上に押し倒された。

「このような形でお前に遭えたことを嬉しく思う。据え膳を食わぬは男の恥というではないか。前から、お前の美しさに惚れていた。久しぶりの契りに、魔族の原始的な荒々しい血が騒ぐ。少し、痛くしたらすまない」

「な、何を考えているのですか?! 魔王陛下?!」

 俺は、取り乱した。まさか、ユーリの一部を占めている魔王陛下が、俺にそのような邪な思いを抱いていたなんて―― !
 けれど、悪夢は終わりそうに無かった。

 長い脚が伸びてきて、ソファに仰向けになったままの俺の股間を抑え付けた。硬い革靴が、ぐいぐいと乱暴にそこを踏みつけた。

「ぐ・・っ、はぁ・・・っ」

「まだ、分からないのか? それだけの容姿をしているのなら、男と寝たことなど初めてではないだろう? それとも、魔王陛下に楯突くというのか? ええ?」

 いっそう酷く、靴でそこばかり抑え付けられる。あまりの痛みと、屈辱に、涙が滲む。ぐっと唇を噛み締めても、情けない声が嗚咽となって漏れていく。

 それでも、身体がユーリなだけに、彼を憎むことができない。彼が時折みせる表情に、ふとユーリを重ねてしまう。

「いじらしいな、コンラート。俺の身体がユーリのものだから、こんな痛みに健気に耐えているのだろ? だが、そろそろ、痛みだけじゃなくなっているようだがな? 靴を履いていてもわかるぞ。お前のここが、硬くなってきているのがな」

 魔王は、靴先で俺の股間を撫で上げた。

「―― !!」

 恥ずかしさと屈辱で、頬がかっと熱くなった。喉の奥で、低く笑うと魔王は脚をどけた。
 彼は、獲物を狙う猛禽類のようにゆっくりと、俺の上に跨ると膝で硬くなったそこを突き回した。漆黒の伸びた髪を邪魔そうにかき上げて、形のいい唇を片端だけ吊り上げた。

「ほら、ここ。こんなに反応しているぞ。靴で踏まれても、感じてしまうのか? 綺麗な顔をして、淫乱なんだな」

「何、を・・・っぁ、言って・・・ンンっ!!」

「無理をするな。もっと啼けばいい。本当は、たまらないんだろう?」

「はぁっ、ン!・・・んんんっ!!」

 意地の悪い笑顔でそっと囁かれる。それも、膝で股間をぐりぐりと弄ばれながら。

 こんな惨めなことをされているのに、その顔を見るたびに、言いなりになってしまう。まるで、成長したユーリに犯されているような、倒錯した想いに襲われる。いや、それこそどうかしているが。

 それに、ユーリの身体だと思うと、油断してしまう。傷つけたくないと思ってしまうから。

 唐突に、魔王の手が股間へと伸びてきて、軍服の上からそこを掴んだ。そのまま、布地の摩擦も加わった状態で、上下に乱暴に擦りたてられた。
 頭の中が、真っ白になって、その甘い刺激のことしか考えられなくなっていく。いつのまにか、頬には涙が伝っていた。

「んっ!・・・っンンーーっ! や、めろ、っ!」

「やめろ、とは魔族の頭首に向かって、随分な口の訊き方ではないか? そこまでいうなら、望む通りにしてやろう。だが、苦しいのはお前ではないか?」

 ふいに、摩擦を繰り返していた掌がどけられる。与え続けられた刺激が、突然消える。その頼りなさに、短い悲鳴がもれた。

 そして、そっと長い指先が俺の目尻の涙を拭う。涙の筋を伝って頬をくすぐるように指が唇へと下りてくる。そして甘く唇をなぞられる。ユーリの面影の残る、けれど凛々しい青年の瞳が甘く細められる。背筋から、ぞくりと痺れが走った。

「こんなに、涙を流して? よほど気持ちがよかったのだろう? この唇から、甘い声を立てていたのだろ? 素直に、求めたらどうだ? コンラート」

 そのまま、指で顎を捕らえられた。成長したユーリの顔が、こちらに近づく。長い睫毛から繊細な翳を落して、綺麗に瞳が伏せられる。惚けたように見つめていると、ゆっくりと、湿った互いの唇が重ねあわされた。触れ合わされただけの唇は、すぐに切なく引き離された。

 頭が、熱に浮かされてぼんやりとしていた。今の彼は、間違いなく魔王陛下だというのに。
 俺は、どうかしたのではないかというくらい、満たされた。

「ユーリ・・・・・・」

 求める相手の名前が、正直に音となって唇から出ていた。
 彼は、少し翳のある笑顔を見せた。

「すまない、コンラート。私は、ユーリではない。けれど、ユーリの身体であることに間違いはないからな。そう思うと、燃えないか?」

 彼の長い指が、そっと唇を割って差し込まれる。

「はっ・・・・ンン・・・ぅ」

「ほら、コンラート? 言ってごらん? どうしてほしい? もう、ここ、限界だろう?」

 長い指が、俺の口内で舌を挟み込み、じれったく弄ぶ。漆黒の瞳が、うっとりと絡みつくように俺を見つめる。
 優しくも甘いその眼差しに捉えられたまま、俺は熱に浮かされたように口を動かした。だらしなく、口端から唾液が伝い落ちていくのも厭わずに。

 こんなに、無様に堕ちて行くのは、やはり彼がユーリの面影を見せるから。

「あ・・・っ、触って・・・、擦って・・・っ」

「いけないな、コンラート。臣下たるもの、陛下への敬いの心を忘れてはだめだろう? 『擦って下さい』だろう? 仕方のない臣下を持ったものだ」

「んっ?!・・・っ、ンむっ、んんっ・・・・!」

 強引に唇を塞がれた。口内に差し込まれた彼の舌に、自身の舌を絡めとられるのはあっという間だった。そのまま、貪るような激しい口付けを交わしながら、彼は再び俺の中心に触れてきた。
 けれど、決して直接触れてはくれない。軍服のズボンの上から、強引に擦りたてられるだけだった。 

 口付けの激しさに酸欠を引き起こし、眩暈を覚え始めた。
 ふいに、卑猥な糸を引いて、互いの唇が引き離される。漆黒の前髪から覗く、その闇を映した瞳を細めると、彼は口角を引き上げた。

「どうした? 少し残念そうな顔をしているぞ。ここに直接、触れて欲しかったのか? 残念だったな。先ほど、きちんと懇願していればいいものを。私への敬いの心を忘れた不敬罪だ。このまま、衣服の中で、それも軍服の中で射精するといい。粗相をしたようで、お前の好きものぶりがいっそう引き立つだろう」

「なっ?!・・っ、ううっ、あ、あ・・・・ンううっ」

 抗議をしたいのに、それでも彼の顔を見てしまうと、違う気持ちが湧き上がってしまう。俺は、そんな風にユーリを思っていたのか? 俺は、ユーリに恋愛感情を抱いていたのだろうか。だから、こんなことをされても嫌な気持ちがまるでしない。

 ふとそんなことが脳裏にちらつくも、その押し寄せる甘い快楽の波には逆らえない。
 いっそう激しくなる彼の手の動きに合わせて、淫らに腰が動いてしまう。

「そんなに腰を振って。いやらしい臣下を持ったものだな」

 いつもの涼やかな少年の声ではなく、落ち着いた上品な低音で揶揄される。けれど、もはやそれを屈辱と思うだけの余裕さえ無い。むしろ、辱められるその言葉さえ、腰の奥の鈍くだるい射精感を高めてしまう。軍服の下で、自身のものがぴくんと脈打つのを感じた。その射精感を抑えようと、咄嗟に自身の唇を噛んだ。

「ほら、そんなに唇を噛み締めるな。唇から、血が滲んでいるぞ」

 彼は、その手を休めることなく身を屈めると、俺の唇から滲む血を舌でゆっくりと舐めとっていく。

「あ・・・・ンんっ、う、ぅぅ・・・、ンああっ!!」

 きつく擦られるだけの刺激の中に、ふいに感じる優しくて甘い刺激に、身体は堪らずに吐精していた。よりによって、血盟城の警備の最中に。軍服の下は、ねっとりとした自身の体液で濡れてしまった。

 ぐったりとする俺を抱き起こすと、彼はそっと囁いた。

「名残惜しいが、ここまでだ。・・・・・・私にも、プライドがあるからな。お前が見ているのは、私ではないのだから」 

 そこまで告げると、彼は意識を手放した。
 いつもの魔王を発動した後のように。髪も手も脚も、全てが元通りの可愛い名付子へと戻っていく。
 そう、彼はきっと目を覚ましたら全てを忘れて、いつものユーリに戻るだろう。

 では、俺は、どうだろう。

 彼に感じた、ユーリに感じた特別な想いは恋ではないのか。

 そんなこと、すっかり忘れてしまいたい。何もかもが、なかったように。


 床に散った、硝子の欠片を眺めて、俺は苦笑した。


 一度変わってしまったものが、元のかたちに戻るのは―― 難しいな。

 

 
 翌朝、彼を起こしに行くと、彼はやはりユーリに戻っていた。

「おはよう、コンラッド。昨日さ、珍しくアニシナさんがお冷を持ってきてくれたんだよ。でも、飲んだ後のことを全く覚えていなくてさ。やっぱり、アニシナさんから出されたものには、警戒したほうがよかったのかな?」

 ユーリは苦笑していた。その顔は無邪気で、少年の爽やかなものだった。

「そうですね、ユーリ」

 ユーリの爽やかな顔をみて、やはり彼が愛しいと思った。
 ただ、今までの子どもを見守るような穏やかな気持ちではなく、それは恋心からくるものだと気づいた。

  


 
 
 

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