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――雪の王――
山賊ヨザック
「命が惜しけりゃ、手荷物も、何もかも、着ぐるみ剥いで行きな」
揶揄するような、ハスキーボイスに耳元で囁かれた。うなじに、ひやりと冷たい感触がした。そのときには、すでに首の後ろにナイフの先端が突きつけられていた。
油断していた。
アニシナの家に一晩世話になった所為か、頭のネジが少し緩んでいたのかもしれない。普通のソファだと思って、腰を下ろすと無数の触手が伸びてきて、身体中を撫で回されたり、子羊の肉だと思い、口にしたものがヘビとカエルの肉だったり。
何より、部屋には常に鼻が曲がるような刺激臭が漂っており、ゆっくりと落ち着く暇など皆無だった。それでも、彼女には感謝しているのだが。
「へぇ、あんた、随分と美人さんじゃないか?こりゃ、いい」
ナイフの先端を、つっと顎の先まで移動させると、ハスキーボイスの持ち主が正面に現れた。
明るいオレンジ色の髪の毛に、いたずら好きそうな水色の瞳をした彼は、マントを羽織っていても、その身体が鍛えられていることがよくわかる。
けれど、コンラッドの姿を見るや、彼の口元は、だらしなく緩んだ。そこに付け入らない他ない。こんな形勢を逆転させるには。
「何がいいんだ?」
コンラッドは、わざとらしく甘い声で返した。意味深に、瞳を甘く細めてやった。
虚を付かれたように、彼の水色の瞳が丸くなった。その顔を見る限り、案外彼も憎めない奴なのかもしれない。
けれど、今はそこまで考えてやる余裕はない。
「へぇ、あんた。話がわかるじゃん。あんた次第で、何も盗らずに逃がしてやってもいいぜ」
彼は、水色の目を悪戯に輝かせ、白い歯を見せて笑う。
彼は、コンラッドを針葉樹に押し付けて、逞しい両腕で挟み込む。
「何が、おれ次第なんですか? おれが、どうしたらいいんですか?」
コンラッドは、わざと甘い声で、ゆっくりと話した。上目遣いに、彼を見上げ、意地悪に口角を上げて笑った。
彼の頬が朱に染まるのを見届けると、右膝で彼の急所を一思いに蹴り上げた。
「うぐっ―― !!」
油断しきっていたらしい彼は、そのまま雪原に崩れた。コンラッドは、素早く彼の手からナイフを取り上げた。
「あいにく、俺には大切な人がいますから。あなたとどうこうする気はありません」
「そ・・・んな! ひっで~。 ひどい、ひどいわ、グリエの純情を踏みにじって」
彼の突然の女々しい口調がおかしくて、コンラッドは思わず失笑した。
未だに地面に崩れたままの彼も、なぜか一緒になって笑った。
おかしなものだ。さきほどまでは、敵同士だったのに。今や二人は、すっかり打ち解けた雰囲気になっていた。
「いや~、旦那には一杯食わされました。みごとですよ。俺は、グリエ・ヨザック。この界隈の山賊で~す。今回は、完全に私の負けだわ。よかったら、旦那の力になりますよ。その格好からして、旅も長いんでしょうねぇ。探し人ですか?」
山賊だけあって、彼は観察眼が鋭いらしい。
このお調子者の彼を信用することにした。
コンラッドは、名前を名乗ったあとに本題に入った。
「あぁ、俺の大切な人を探している。彼は、雪の王に数年前にさらわれて行った。この辺りに、そのような噂は聞かないか?」
彼は、大きく口を広げて快活に笑った。
「旦那、そりゃ、どんぴしゃのタイミングですよ。その噂を聞きつけたばかりなんです。よかったら、ご案内しますよ~、その方がお側にいられるしぃ。ね、だ、ん、な!」
「ありがとう・・・・・・ただ、旦那というのはよしてくれないか」
少し眉根を寄せて、彼に苦言を呈する。
すると、彼は腹を捩じらせて、心底、愉快そうに、笑った。
「はいはい、だ~んな!」
水色の瞳が、楽しそうに細められた。
どうやら、彼は、根っからのお調子者らしい。
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いよいよ、佳境なはず(汗
あとがき★
ほんのりヨザコン風味なシーンを書いていて面白かったです。
受けのコンラッドも萌えます><
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