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雪の王
―― 雪の王国(1) ――
「嘘・・・・・・だろ?!」
二人は、森の中で立ち尽くした。なぜなら、その先は、断崖絶壁だったから。
けれど、ヨザックはコンラッドを振り返って、いたずらに笑うと、前に向かって走り出した。地面のない先へむかって―― !!
その行動に、愕然とした。けれど、さらに驚くことになった。
―― どうして、どうして、普通に走っていられる?!
ヨザックは、何もないただの空中を、まるで下に地面があるかのように、気ままに走っているのだ。
呆気にとられていると、ヨザックが再び振り返って、歯を見せて笑った。
「嘘なんかじゃないですよ。この世には、ひとたび踏み出せば分かる世界ってものがあるんですよ。さぁ、こちらへどうぞ、旦那。きっと、探してる人もみつかりますよ」
さすがに、脚がすくんだ。けれど、ユーリのためなら・・・・・・。
意を決して、何もないはずのそこへ足を出した。
うっかり、谷底を見てしまい眩暈がした。
けれど、思い切って足に重心を移動させた。
そのとき―― !
「そんな・・・・・・、まさか!!」
何も無かったはずのコンラッドの足元には、どこまでもつづく雪原が広がっていた。
目の前には、ダイアモンドのようにキラキラと輝く細かい氷が降っていた。
陽光の加減で、鋭く輝いたり、ゆったりときらめいたり、金に見えたり、銀に見えたり・・・・・・とても幻想的だった。
宝石のような雨の向こうには、壮麗な王宮がそびえていた。
円錐形をもう少し柔らかくしたような、まるで飴細工のような形の屋根は黄金に輝いて、壁面の純白とのコントラストが華麗だ。
建物の一部の優雅で緩やかな曲線が、基盤となる柱の素朴な直線と調和している、可憐でありながら豪奢な城だ。
そして、後ろを振り返ったとき、もう森は跡形もなく消えていた。
「ヨザック?」
そして、彼もまた幻のように消えていた。
*****
純白の王宮に足を踏み入れた。
奇妙な城だった。
これほどまでに、立派な城のくせに、門番のひとりもいない。
―― これは、罠なのか?
表情を硬くして、懐の短剣を握り締める。
門番どころか、召使らしいものの姿さえひとりも見当たらない。
自分のブーツが、木製の床を踏みつけるたびに、硬質な音が響き渡る。
えらく空虚な響きだ。
城は、外観以上に、豪奢な造りだった。
そして、どうやら城の中の聖堂に入ったらしい。
まばゆいばかりの金箔がちりばめられた壁面に、数々の宗教画が飾られている。
大きな円柱が左右に等間隔にそびえていて、柱にまで宗教画が描かれている。
柱と柱の間には、聖像が一体ずつ置かれている。
そして、参列者のための木製の長椅子が、正面の祭壇から通路を挟んで左右に10脚ずつ並んでいた。
コンラッドは、その中央の通路を慎重に歩いていた。
床からドームの屋根までは、なにも遮るものはなく、広々とした空間になっている。
天井からは、きらびやかなシャンデリアが吊り下げされている。 建物の中央付近で立ち止まり、祭壇の上を仰ぐと、色彩豊かなステンドグラスから緩やかな陽光が差し込む。
その陽射しに、わずかに眼を眇めたときだった。
かすかに、人影か見えた。前方左手の円柱のうしろに。
「そこにいるのは、誰だ!?」
コンラッドは、長椅子の間を縫うように駆けた。
そのとき、ふいに柱から人影が現れた。
薄い布切れを一枚身体に巻きつけただけの格好は、ひどく扇情的だった。
白い布切れからすらりと伸びた華奢な四肢は、艶かしく、息を呑んだ。
漆黒の黒髪、濡れたように黒い大粒の瞳には、黒くて長い睫毛が縁取られている。
雪のように白い肌の美少年だった。彼は、素足で儚げに佇んでいる。
そして、そのきれいな人は、ユーリだった。
ずっと、さがしていたあのユーリだった。
怜悧な眼差しに捉えられたまま、コンラッドは言葉を失った。
ユーリの麗しい成長に、見惚れてしまった。
そう、彼は俺がずっとさがしていたユーリ。大切な、可愛いユーリ。
けれど、ちがう。ちがうんだ――。
激しい違和感を感じた。
胸をチリチリと灼きつくすような痛みは、しだいに身体を痺れさせるように、侵食していった。
コンラッドは、その瞬間に悟っていた。美しく成長したユーリの姿をみた瞬間に。
自分が、ユーリに抱いていた感情は、弟を想うようなそんな優しい気持ちじゃない。
彼が、愛しくてたまらない、揺さぶられるようなつよい気持ち―― 彼に、恋をしていた。
もうずっと前から。どのくらい、彼に焦がれていたのか。
「ユーリ・・・・・・」
名前を呼ぶのが、精一杯だった。感情が昂ぶり過ぎて、言いたい言葉が浮かんでこない。
ただ、愛しい人の名前を呼ぶことが、今できる唯一のことだった。コンラッドの熱い気持ちは、その名前に込められたはずだった。
「誰? それ?」
けれど、目の前のユーリは、怪訝な顔をした。コンラッドは、思わず彼の肩を掴み、顔を覗き込んだ。
「ユーリ!? ユーリ、は大切なあなたの名前です」
「な・・・まえ? 俺には名前なんてない。雪の王サラ様のしもべだから」
ユーリは、無感情な瞳で、抑揚のない声で、淡々と言ってのけた。
その表情は、喜びも悲しみも憎しみもまるで感じられない。
きれいな人形のようなユーリが、切なくて、たまらなかった。
「いいえ! 間違いなくあなたは、ユーリです! 俺と一緒に施設で育った、俺の大切なユーリです。よく、こうして抱きしめたでしょう?」
思わず、ユーリを腕の中に抱きしめた。
久しぶりに抱きしめたユーリは、しなやかに成長していながらも華奢な身体が頼りなくて、ずっと抱きしめていたかった。
そのうえ、薄い布一枚に身を纏ったユーリは、雪のように冷たくて、儚くて、大切に大切に胸に閉じ込めていたかった。
消えてしまわないように。
けれど、まもなくユーリに腕を解かれてしまった。
「何のことか、まるで分からない。あんた、誰だよ」
冷たい眼差しで、ユーリはコンラッドを突き放した。
そのとき、背後から、ブーツの音がした。
雪の王、サラだった。
襞襟の衣装は、シルク地に繊細な金の糸で刺繍が施されていた。ゆるやかなドレープの袖やゆったりした膝丈のズボンが、可憐さを引き立てていた。
華美な衣装を着こなすサラは、とても愉快そうに高笑いした。その度に、流れるようなプラチナブロンドが揺れた。
「はははっ、無駄だよ。もう彼は、私と長く居過ぎたせいで、昔のことを何一つ思い出せないんだよ」
「そんな、まさか?!」
コンラッドは、ユーリの肩を再び掴んで、その瞳を覗き込んだ。
「ユーリ、あなたは本当にむかしのことを覚えていないのですか?」
「あんた、さっきから何を言っているの?俺は、最初からこの城でサラ様にお仕えしているんだ」
「ユーリ!!」
思わず、手をユーリの肩にきつくくい込ませてしまった。
「痛っ―― ! あんた、しつこいよ」
ユーリは、大きな瞳でコンラッドを睨み返すと、肩の手を払った。
サラは、口元に手を当てて、くすくすと失笑した。
「だから、言ったでしょう。彼は、私のしもべなんですから。ね、そうでしょう?」
「はい、サラ様」
鈴の音のような声で、彼は答えた。相変わらず、ユーリは無表情だ。けれど、そこに二人の間の妙な主従関係が垣間見えた。
激情の波が、静かにゆっくりと押し寄せる。
コンラッドは、二人を見つめたまま、立ち尽くした。
サラは、優雅な笑みをたたえたまま、ユーリに甘い声で囁きかける。そのきれいな金色の瞳に、うっすらと碧色が混じる。
「君、そこの客人に、もっとよく教えてあげたら。ほら、こちらへ来て、跪いて私にキスをして?」
サラは、甘ったるい声でユーリにそう告げると、長椅子に腰をおろした。
プラチナブロンドが、ふわりと宙を舞う。
ユーリは、その声に素直に従い、彼の元へ歩み寄る。
今更ながら、ユーリは靴さえ履かされていない。裸足で床の上を歩く彼が、痛々しい。
コンラッドの心が静かに、けれど確実に乱されていく。
ユーリが、サラの足元に跪く。白い布地から、艶めかしい大腿部が覗く。
「ふふっ。君は、今日も可愛いね」
サラは、悪戯な笑い声を立てる。その真っ白で華奢な手が、緩やかにユーリの内腿を撫で上げた。
「あっ・・・・・・、サラ・・・様っ」
ユーリは、頬を朱にそめて身体を捩らせる。
激情の波に、暗く深く捕らわれる。
コンラッドは、きつく拳を握り締めた。掌に爪が鋭く食い込んでいく。
サラは、長いブロンドの髪を耳に掛けると、ユーリに向かって甘く微笑んだ。
「ほら、くすぐったがってないで。ちゃんと、キスして?」
サラが、華奢な腕をユーリの首筋に巻きつける。そのまま、サラは上半身を屈めていく。
サラの唇がユーリの唇に、近づいていく―― 。
―― 耐えられない。
瞼の奥に、閃光が走り、それが脊髄を駆け抜けた。
反射的に、コンラッドは飛び出した。
「ユーリ!!」
もう、ユーリしか見えなかった。駆けた勢いのままに、ユーリをサラから引き離し、強引に胸の中に引き寄せた。
ユーリを抱えたまま、勢い余って聖堂の中央の通路に転がった。
全身が、総毛立つほどに、激しい感情が迸る。
サラへの憤り、ユーリへの独占欲、庇護欲、思慕の念が入れ混じり、溢れ、心が乱されていく。
「ちょっと、あんたっ!! な・・・に、するんだよっ、離せよっ――」
俺の腕から逃れようとするユーリを、咄嗟に地面に組み敷いた。
ユーリの細い両手首を、片手で抑え付ける。
そのせいで、ユーリの両腕は万歳をするような格好になり、肌の露出が増えた。
さらにユーリの上に乗ったまま、脚を絡め、動きを封じ込める。
懐から、片手でガラスの小瓶を出すとそれを口に含んだ。
その瞬間、わずかに舌が痺れるような、ふしぎな甘い香りがした気がする。
けれど、余裕のないコンラッドは、その液体をユーリの口内に口移ししていく。
「ヤッ・・・ンんっ!!」
ユーリの漆黒の瞳が大きく見開かれた。
けれど、すぐにその瞳は閉じられて、長い睫毛がふるえていた。
止まらなかった。
目的は、アニシナのくれた薬を、ユーリに飲ませることだった。大切なユーリを、取り戻すことだった。
けれど、ユーリの唇はとても滑らかだった。そのうえ、液体を嚥下するたびに、唇から漏れる息苦しそうな可愛らしい声に、理性が吹き飛んだ。
いや、そんなものとっくになくしていた気がするが。
液体を移したあとも、ふっくらとした唇をそっと啄ばみ、その感触を確かめる。
唇を覆ったまま、その表面を舌先でなぞる。そのたびに、身体を痙攣させるユーリが愛らしくてたまらない。
そのまま、舌で唇をこじ開けた。口腔内で、互いの舌を絡め合わせた。なかば、強引に。
息継ぐタイミングに苦労しているユーリが、切羽詰った表情で、わずかな唇の隙間から必死に酸素を取り込んでいる。
その際に漏れる彼の声にならない音に、身体の芯がぞくりとした。
「ン・・っふぅ・・・はっ・・・んんっ」
ユーリの吐息に、我を忘れてしまった。ユーリの唇を奪い続けた。
けれど、その最中に、ふいにユーリと眼があった。
―― 懐かしい・・・・、ユーリ!!
僅かに開いた瞳のなかに、ひどく心を揺さぶられるものを見つけた。虹彩に、懐かしくてやさしいものがはっきりと滲んでいた。
そう、間違いなく彼は元のユーリに戻っている。
確信したコンラッドは、一度ためらいがちに唇を離した。
予想どおりだ。
目の前に、確かにあのユーリがいた。
雪の日に、猫のアンニカを助けるといってきかない、正義感あふれるやさしい、表情豊かで、愛らしいユーリが。
けれど、彼は眼をまん丸に見開いて、頬をピンクに染め上げていた。
「こ、ここ、コンラッドお兄ちゃん? どうして、大人になってるの?ってか、僕も大きくなってるし?! いやっ、そ、そんなことより、どうして、どうして、キ、キスなんてしたんだ?!そ、それに、ここはどこなんだ?!」
どうやら彼は、あの雪の日のまま、記憶が止まっているらしい。
一度におきた出来事に、思考がついていかないのも当然だ。
ユーリに、出来る限りにやさしく微笑んで、そっと頭を撫でてあげた。
彼に、今までの経緯を分かりやすく説明しようとしたときだった。
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★あとがき
え・・・と、サラとコンラッドが暴走してしまいました;えと、当サイトは、基本登場キャラ(主に男)がユーリに惚れてます。でも、正式CPはコンユみたいな。
ヨザック、ごめん; ヨザコン風味も好きなんだけどね。
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