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第二編 貴方のためだけに
※2人は、付き合っていない設定。ユーリがまだコンラッドへの恋心に気づかないうちにジュリアに嫉妬するお話です。
俺は、いつものように汁を噴出すギュンターの授業から抜け出してきた。そして、何か楽しいものを物色しようと宝物庫に忍び込んだ。
薄暗くて、目が慣れるのに時間がかかる。
「い・・・・てっ」
コツン、と足首に何か茶碗のような物がぶつかる。
「なんだ、このラーメンのどんぶりは?・・・・・う~ん、なんか見覚えがあるような・・・・・あ!!!」
それが、見た者の過去を映し出す『魔境』ということを思い出したときにはもう遅かった。
魔境は、まばゆい光を放つと、俺の意識は遠のいた。そして、俺を過去の世界へといざなった。
「う・・・・ん」
まばゆい光に目を細める。そこは、フォンウィンコット家の庭園だった。
その庭の中には、一組の美男、美女がいた。そう、コンラッドとジュリアさんだ。春の柔らかな陽光をきらきらと浴びて楽しそうに微笑みあう二人。どうみても、お似合いのカップルにしかみえない。
なんだろう・・・・・、微笑ましい情景のはずなのにちっとも心が弾まない。
二人が、何か庭の花の話をしているのが聞こえてきた。
「今まさに、『大地立つコンラート』の花が旬を迎えていますね。あたり一面に輝いているのがわかります」
「ええ、そうですね」
にこりと微笑むコンラッド。盲目のジュリアの肩を抱いて一緒に花壇にしゃがみ込む。
「ほら、甘い花の香りがするでしょう? 」
コンラッドが、慈しんだ瞳で、ジュリアを見つめて言う。いつも、俺を見つめる時の瞳と同じ。
「ええ、近くに寄るとなんてかぐわしい香りなんでしょう」
ジュリアがコンラッドのほうを見つめる。
「どうか、今のこの平和な世界が続くように一緒にお祈りをしましょう」
両手を胸のところで組み合わせ祈りのポーズをする。
「はい、ジュリア。貴方の望む平和な世界を必ずお守りいたします」
コンラッドが、ジュリアに優しく微笑み、誓う。
とても、幸せそうな二人。二人だけの尊い世界。何者をも、入り込むことを許さない世界。ひどく孤独感に襲われる。
・・・・・何だろう、胸がしめつけられるように苦しいな。俺、二人のことがとても好きなはずなのに、二人が一緒にいるのを見ているだけでこんなに辛いなんて、どうして?
ぽろり・・・と涙が溢れ出す。
過去の世界の者には、俺の姿がみえないはずだった。
それをいいことに、俺は涙を止めようとせずに流し続けていた。いや、とめ方を忘れてしまったのかもしれない・・・・・。
ふいに、あたりに春一番の強い風が吹き荒れる。立ち尽くす俺。砂埃で景色がかすんでいく・・・・。
そのとき、ジュリアさんの柔らかい笑顔が俺に優しく微笑みかけているように見えた・・・・。
まるで、ー泣かないで。何も貴方の心配するようなことはないのよ、と諭されているようだった。
気がつくと、俺は宝物庫の中で目を覚ました。俺の瞳からは、まだ涙が溢れていた。
ギギ・・・と、重たいドアの開く音がした。
俺がいないことに、気がついて城内を探し回っていたコンラッドが、宝物庫の中に入ってきた。
暗闇の中、慣れない足取りでこちらに駆けつけてくる。
「ユーリですか?・・・・・ユーリ?泣いているのですか? 」
いつもの優しくて暖かいコンラッドの声、今は俺に向けられる声。先程は、ジュリアさんだけに向けられていたその甘い声。
子供じみているとは、思うけれど俺は堪らずにコンラッドを手で押し遣ると、宝物庫を抜け出した。
溢れる涙を拳で拭い去る。
畜生・・・俺は、一体何でこんなに動揺しているんだ!
一瞬、呆気に取られたコンラッドは、その場に立ち尽くす。しかし、すぐに思い出したように全速力でユーリを追いかける。
「待ってください!!ユーリ!! 」
軍人である、コンラッドの脚力にかなうはずが無い。ものの見事に、追いつかれて腕を掴まれる。そのまま、ぐい、と腕を引っ張られて俺はいつのまにかコンラッドの腕の中にすっぽりと包まれていた。
「ユーリ、何があったか教えてください」
真剣なコンラッドの声が頭上から聞こえる。
まさか、いえるわけないだろ。コンラッドのせいだなんて。
コンラッドがジュリアさんと仲良くしているのを見ただけで、悲しくて泣けてきたなんて、やっぱり、言えるわけが無い。コンラッドに、そんな心の狭い奴だと思われたら辛いし。
「ユーリ?あなたのことが心配でこのままでは、仕事に戻れそうにありません。ですから、どうか、何があったか教えてくれませんか? それとも、私に相談するのはどうしても嫌なのでしょうか? 」
ひどく悲しげな声が聞こえてくる。
「そ、そんな、コンラッドが心配するようなことじゃ、全然無いんだ。俺も何でこんなに悲しいのか、自分でもよく分からないんだ」
ゆっくりと、コンラッドに説明する。
「たださ、宝物庫で魔境を見つけて過去を見ちゃったんだ。そうしたらさ、コンラッドとジュリアさんがすっかり二人だけの世界でさ・・・・・なんていうか俺の入る余地がないっていうか。すっごい孤独でさ、寂しくて・・・・。いつもの優しいコンラッドの瞳とか声とかが俺じゃなくて別の人に向いてるのを見ただけで、もう・・・・なんか本当に胸がつまってきて・・・・」
コンラッドに、説明しながらまた思い出してしまった。不覚にもまた泣いてしまった。
「ユーリ・・・・」
コンラッドが強く俺を抱き寄せる。
「それは、貴方からの愛の告白と受け取っても・・・いいでしょうか? 」
少しためらいがちに、コンラッドが俺に尋ねる。
えっ?!
思いもしない展開にびっくりする。しかし、今までもつれ合っていた俺の思考がすっきりと一つにまとまった気がした。
そうだ・・・・。俺、コンラッドのことがこんなに好きだったんだ。それはもう名付け親への好意とか臣下への信頼という範疇を超えている。こんなに好きだということがわかると、もう伝えたくて仕方がなくなる。
「うん!コンラッドのおかげで今はっきりと気づいたんだ」
俺は、彼に爽快な笑顔を向けて言う。
「俺、コンラッドのこと大好きになっちゃってたみたい。大好きだよ、コンラッド」
少し、照れるけど大きな声でコンラッドに伝える。ちゃんと、俺の声が届くように、と。
「ユーリ・・・・。でも、貴方はまだ俺とジュリアのことを勘違いしたままに違いない。誤解を解かせて下さい」
そういうと、コンラッドは俺を庭の木に背をもたせかけてキスをする。そっとやさしく唇と唇を触れ合わせるだけの爽やかな甘いキス。
「ん・・・・・・・、コンラッド」
うっとりと、目を開けるとコンラッドが甘く微笑みかける。
「このキスは、貴方のためだけのキスです。これから、貴方だけを生涯愛するための誓いのキスです」
溶けてしまいそうなくらい、甘い笑顔で、甘い声で俺への愛を誓うコンラッド。
「うん!!俺もずっとコンラッドと一緒だからなっ!!」
俺は、嬉しくて、弾けそうなほどの笑顔で答える。
そのとき、優しい春風がふわりと舞い、『大地立つコンラート』の花びらが風に乗って俺の肩の上に載る。
『ほらね、貴方の心配するようなことはなにもないでしょう』と優しく笑うジュリアさんの声が聞こえたきがした。
第2編 =完
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