2009.4.22設置
『今日からマ王』メインです。
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第五話 ロイヤルブルームーン
※マリッジブルーなお話です。
俺は、コンラッドからプロポーズされて、婚約者になった。あまつさえ、お互いの家に結婚報告までしに行った。両家とも、俺たちのことを認めてくれた。
とても、幸せなはずなのに・・・・。俺は、六月の梅雨空みたいにいつまでも晴れない気持ちを抱えていた。
その原因は、主に二つあった。
一つは、ヴォルフラムのことだ。
彼は、俺が考えている以上に俺のことを好きだったんだって気づいた。
俺が、コンラッドと婚約を結ぶ以前は、四六時中子犬のように俺に吼えてきた。けれど、今の彼は見ているに忍びないほど、覇気がない。
俺の顔を見るだけで、威勢よく突っかかってきたあの彼が、今では俺の顔を見るだけで儚げに俯いてしまう。
それほどまでに、俺のことを好きだったってことなのか・・・・・。
俺のせいで、あの誇り高いヴォルフラムを深く傷つけたことが悲しかった。
どうして、恋愛って皆が幸せになれないんだろう。
好きなもの同士は、すごく幸せだと思う。でも、必ずその影で泣いている者がいる。その存在は無視していいのか?
ヴォルフラムをあんなに悲しませて・・・・・その上、目の前で結婚式まで執り行うなんて。
そんな、非情なことしてもいいのか?
俺たちだけ幸せになるなんて・・・・いいのか?
そのことを考えるたびに、俺はいつまでもどんよりとした雲の只中から抜け出せなくなった。
そして、俺を悩ませているもう一つの原因は、婚約者ーそう、コンラッドのことだ。
最近、何かを俺に隠している。やたらに浮き足だって、一人で城下街に出かける。
あんなにそわそわしてるコンラッドを見るのは、初めてなんだ。
いつもは、柔らかい笑顔でついその本性までも見抜かせてくれないところがあるのに。その彼が、隙だらけで落ち着かない様子をしていたら、婚約者としては黙っていられない。
おまけに、俺が彼の城外散策に付いて行くことを頑なに断るんだ。
どうして、そんなにつれない態度なんだよ。ただでさえ、俺、ヴォルフラムのことでいっぱい悩んでるっていうのに!!
もしかして、俺のほかに好きな奴に会っているのか、とか俺のことを好きじゃなくなったのか、とかありきたりな台詞が頭を掠めてもしょうがない事態だろ?!
おまけに今晩コンラッドは血盟城にいなかった。こんなに思いつめた日に限って。
夜だけは必ず俺の護衛をしたい、と言って城内の警備に当たることになっていたのに。
はっ、まさか!?
魔王としての俺に、不吉な考えが頭をよぎる。
もしかして・・・・・何か国に危険が迫っているのか?
コンラッドが、血盟城を抜け出してまで行くのだから、何かとてつもない事態が起きているのか?
にわかに、不安が押し寄せた俺はじっとしてなどいられなかった。
ベッドから抜け出すと、勢いよく制服に着替えて部屋を飛び出す。ひっそりとした城内に俺の靴の音が響き渡る。
けれど、俺の不安はすぐに払拭されることになる。
中庭に出ると、ヨザックが陽気な声で俺に話しかけてきた。
「どうしたんですか?坊ちゃん。満月が眩しすぎて眠れませんか?」
その声の明るさに国の非常時でないことはすぐに分かった。
けれど、同時に魔王としてではなく、婚約者としての不安が大きく膨らむ。
そんな、どういうこと?出かけたのが国の用事じゃないなら私用ってことだよな。じゃあ一体なんでコンラッドは城の外に行ったんだ?俺の護衛をしたいって、夜は城にいるって言った彼が、それを破ってまで行く用事って一体なんだよ?!
日々思い悩んでいた俺は、酷く動揺してしまう。
もしかしたら、彼の用事は取るに足らないことなのかもしれない。おまけに彼の行動に逐一文句をつける権利なんてないのに。
自分勝手で嫌な考えが俺を支配していく。
俺は、たどたどしく言葉を呟く。もう、頭の中がコンラッドのことしか考えられない。
「コン・・・・ラッド・・・・・」
ヨザックが心配そうに俺の顔を覗き込む。
「あれ~、坊ちゃん。すごく悲しそうな顔してますよ。隊長が気になりますかぁ?」
か弱い声で、ヨザックに尋ねる。
「コンラッド・・・・・どうして、こんな夜に出かけるんだ?ヨザックは何か知ってるか?」
満月の光を受けてにっこりと笑うヨザック。けれど、すぐに顔をしかめてしまう。
「えぇ、もちろん。隊長は・・・・・・・・っと、すんません、分かりかねます」
言いかけた言葉を慌てて呑み込むヨザック。
どうして、どうしてヨザックまで一緒になって何かを隠すの?
俺は力なく地面にしゃがみこむ。
ヨザックに顔を見られないように俯いて。
だって、俺、今きっとすごく酷い顔してる。
俺、なんか駄目かも。すっげー自信なくなってきた。本当にコンラッドと結婚できるのかな?
もしかして、もしかして・・・・・・コンラッドに婚約を破棄されたらどうしよう?!
「ぼ、ぼっちゃ~~ん!!」
俺のただ事でない落ち込みぶりに慌てふためくヨザック。
その時、静やかな中庭に馬の蹄の音が響き渡る。
暗闇でもわかる、ノーカンティに騎乗した凛々しい姿。コンラッドだ。
だめだ、今彼の顔をまともに見られない。
見てしまったら、今の俺の嫌な思いが溢れ出てしまう。
いつまでも、地面に座り込んで、顔をあげようとしない俺に、馬から降りたコンラッドが近づいてくる。
「ユーリ?どうしましたか?眠れなかったのですか?」
心配そうな彼の声が頭上に響く。
俯いたままそっけなく答える俺。
「あぁ、そうだよ」
俺の態度が気になったのか酷く心配そうにおれを気遣うコンラッド。
「ユーリ?今日の貴方は一段と憂いを秘めていますね」
やや、ためらいがちに言葉を続けるコンラッド。
「ここ最近の貴方はとても元気が無いようでしたので、とても心配していました」
彼の言葉に、思わず顔を上げてしまう。
そんな・・・・一体誰のせいだと思ってるんだよ・・・・!!それに、ヴォルフラムのことだって・・・・あるし・・・・・。
再び、俯く俺。
彼は、そんな俺を見てはいられないというように、自身も地面に膝をつけ、俺を胸の中に抱きしめる。
「ユーリ、今から少し出かけませんか?貴方の気晴らしになると思いますので」
彼からの提案に、俺は驚く。
まじまじと、コンラッドの顔を覗いてしまう。
心なしか、硬い表情のコンラッド。
あんなに、ここ最近俺と城外に出かけることを断ったくせに、どうして、どうして今頃?!
とてつもなく、暗い考えが脳裏をよぎる。
もしかして、コンラッドは俺に愛想がつきたとか?ほかに好きな人ができたとか?
それで、俺に婚約を解消したいとか言い出すんじゃ?!わざわざ外に連れ出すのは、ヨザックの手前、俺に気遣ってるのかも?!
俺が、そんなことを考えている間にも、俺はコンラッドに抱え上げられて、いつのまにかノーカンティに乗っていた。
いつもは、コンラッドの後ろに乗るのに、今日はコンラッドの前に座っている。
そんな、些細な変化にさえ、余計な勘繰りをしてしまう。もしかしたら、コンラッドは、背後から俺に抱きつかれるのがうっとおしいのかもしれない。
自分で、思いついたあまりにも悲しい考えに胸が軋む。
こんなに、近くにいるのに、どうして、どうして今日はあんたが遠くに感じられるんだ。
「ごめんなさい、ユーリ。こんな夜遅くに貴方を外に連れ出して。もうすぐ着きますのでしばらくお待ちください」
俺が、大人しいのを憂慮して、コンラッドが声を掛けてくれる。けれど、どこか悲しげな声に聞こえる。
俺たちは、血盟城から、かなり離れたところまできていた。暗い森を横切って、急勾配の坂を登っていく。暗いため、昼間の景色とは全く異なり、今自分がどこにいるのか皆目検討がつかない。
着いた先は、防衛用に山頂に設けられた展望台だった。血盟城と王都が見渡せる、俺のお気に入りの場所だった。
昼間とは違い、壮観な景色を見渡すことはできなかった。けれど、零れ落ちそうな満月が手の届きそうな位置に煌々と煌いていて、ひどく幻想的だった。
俺は、ふと昔のことを思い出した。
そういえば、昔勝利に月が欲しいって駄々をこねて泣いたことがあったっけ。
思わず、そんな郷愁に酔いしれる。
けれど、すぐに現実に引き戻される。
コンラッドは、俺をこんなところまで連れ出して、何をしたいんだろう。きっと、唯事じゃない。わざわざ夜中にこんな遠くに連れ出したんだから。
本当に、本当に・・・・・俺は振られてしまうんじゃないか?!
「ユーリ!」
思いつめたような、コンラッドの声が闇に響く。
ひどく、切羽詰った彼の声。やはり、俺の暗い予感が的中したのか?!
俺は、反射的に瞳をきつく閉じて、両耳をふさいでしまう。
彼から、放たれる俺を突き放す言葉と、冷たい瞳なんて絶対に見たくないから。
次の瞬間俺は、コンラッドの胸の中に軋むほど強く抱き締められる。
心なしか、コンラッドが震えている。俺をきつく抱きしめることで、なんとか自身が崩れることなく立っている様子だ。
「コンラッド・・・・・?」
彼の様子から一瞬でも眼が放せない。
こんなに、苦しんでいるコンラッド初めて見る。この間の夜、シマロンでの俺への裏切りを思い出してるときのコンラッド以上だ。
自分の思いつきに、背筋が凍った。
そうなんだ、やっぱり。俺を裏切ることになるから、こんなに、こんなにも、苦しんでいるんだ!!
今、ここで婚約を解消する気なんだ!!
心が崩れ落ちそうだった。
あまりの悲しみに、涙さえでてこなかった。
「ユーリ、俺のことを見てください!!」
唐突に熱く、切ないコンラッドの声が闇夜をつんざく。
放心状態になっている俺は、彼の言葉の意味を量りかねていた。
きつく両肩を掴んで、俺を覗き込むコンラッド。悲しみとも、怒りとも取れない、緊迫した表情で俺を見つめる。
「最近の貴方は、とても元気がありませんでした。貴方が、遠くを見つめるとき、とても不安でした」
今にも泣きそうな顔で俺を見つめるコンラッド。消え入りそうな声で囁く。
「貴方が・・・・・貴方の気持ちが俺から離れてしまったのではないか・・・・・と、不安になりました」
彼の告白に、愕然とする。
そんな、俺のことを嫌いになったんじゃなかったんだ。それどころか・・・・・俺と同じことを考えていたなんて・・・・・!!
驚きのあまり、立ち尽くす俺。
「ユーリ、貴方のことを愛しています。だから・・・・・・だからどうか俺から離れていかないで下さい!」
再びきつく腕の中に抱きしめられる。先程よりも彼の身体が激しく震えている。
泣いている・・・・のか?
コンラッドが、泣くところなんて始めてみた。それも、俺のことを想って泣いているなんて・・・!!
俺って、なんて馬鹿なんだろう!!彼は、いつでも真正面から俺を見てくれていたのに、俺は、彼の些細な言動で、悪い解釈ばかりして、まっすぐに彼を見ていなかった。
それに、ヴォルフラムのことにばかり気をとられていて、それがコンラッドを苦しめていることにさえ気づいてやれなかった。
彼を信じてあげられなかった!!
涙が止まらない。
自分のふがいなさと、彼の苦しみを想うと、胸が痛くてたまらない。
きつく、強くコンラッドに抱きつく。
「ごめん!!コンラッド・・・・・俺、俺本当に馬鹿だった。あんたがこんなに俺のことを大切に、いつもまっすぐに愛してくれるのに、俺は、あんたの些細な行動にばかり気にしてた。あんたを信じてあげなくてごめん!!」
一呼吸を置いて、話を続ける。
「それに、俺、ヴォルフラムが元気がないのが心配でそればかりに気をとられてた。でも、コンラッドがそんな俺を見て、俺の気持ちがあんたから離れていっているように見てるなんて、考えもしなかったんだよ!!本当に、本当になんて馬鹿だったんだろう!!」
号泣して、今にも崩れ落ちそうな身体を、コンラッドに縋り付くことで何とか保つ。
「ユーリ・・・!!」
少し驚いたようなコンラッドの声が柔らかく月夜に響く。
「あんたが、好きだよ。大好きだよ。俺からもお願いするよ・・・・・・どうか、俺から離れないで」
「もちろんです、ユーリ」
優しく抱きしめなおされて、甘いキスをされる。
コンラッドの甘いくちづけが俺の心のわだかまりを全部綺麗に溶かしていった。
満月の降り注ぐ壮大な展望台で、俺たちはしばらく抱き合っていた。
「ユーリ、貴方に差し上げたいものがあります」
懐から、大切そうに何かを取り出すコンラッド。
跪いて、俺の左手をそっと握る。薬指にひんやりとした指輪が嵌められていく。
「貴方へのエンゲージリングです」
思いがけない言葉に驚く俺。えぇっ、そんなものまで俺のために用意してくれてたんだ。
マリッジリングをこの前二人で用意したから、エンゲージリングまではないと思ってた。だって、俺は男だし。
嬉しいというよりも、驚いてしまう。
その彼の完璧な優しさに。
二連に重なる高貴なフォルムに、そこかしこに散りばめられたダイアモンド。立爪にはめ込まれた神秘的な石。
満月が宝石に反射する。すると、青白い閃光が満月の形で浮き上がる。
まるで、月を手に入れたみたいな錯覚に陥る。
「すごいな、この石。まるで、月そのものみたいだよ!!」
俺が、感嘆の声をもらすと嬉しそうに微笑むコンラッド。
「えぇ、ですからこの石を選んだのです。貴方が幼いころに、月が欲しいといって兄上を困らせたようでしたので。愛する人の欲しがるものを与えられることが男冥利に尽きるってものですから」
幸せそうに微笑むコンラッド。
もうすっかりいつものキザで余裕たっぷりなコンラッドに戻っていた。
「でも、すみません。この石は、ロイヤルブルームーンといってムーンストーンの中でもなかなか手に入らないのです。なるべく、月を綺麗に反射させるシラー効果の高いロイヤルブルームーンをどうしても手に入れたかったので、このところ一人で採掘に出かけていました。それが、貴方に余計な心配をさせてしまったみたいですみません。何せ、この石が採れるところは絶滅危惧種が暮らす神秘の山なんです。あのドラゴンのポチがいるところです。とても危険な罠がしかけてありますので、貴方を危険に巻き込むわけにはいかなかったのです。御免なさい」
言葉を区切ると、優しく俺を見つめるコンラッド。
「それに、貴方に内緒でこの指輪を作りたかったんです。その方が、貴方の喜びがひとしおかと思いまして」
そこまで、聞いて俺は愕然とした。
再び自分の浅はかさを思い知らされた。俺が、コンラッドを不安にさせている間にも、彼は俺のために、婚約指輪まで用意してくれていた。それも、ただ注文するだけじゃなくて、わざわざ石を採掘に行くなんて・・・・!!
それなのに、俺は彼の心が離れてしまったんじゃないかと疑っていたなんて、もう本当に信じられない!!
呆然と彼を見つめていると、またしても彼から驚きの事実を告げられる。
「今晩、貴方の護衛を一時的にお休みさせて戴いたのは、今しがた指輪が出来上がったとの報告を受けたからです。今すぐにでも貴方に指輪をお見せしたかったのです」
コンラッドは、いったいどこまで俺のことを大切にしてくれるんだろう。
もう、自分の駄目さが余計に際立つよ。本当に、なんて言ってコンラッドに謝ればいいんだろう。
「コンラッド、俺今晩あんたが護衛してくれないことに、ものすごく腹を立てちゃってたんだ。俺を守ることよりも俺の側にいることよりも大事な用があるのかよ・・・・ってすごい自分勝手で嫌なこと考えてた。俺が、あんたを拘束する権利なんてないのにさ」
コンラッドは、慈しんだ眼差しで俺を優しく見守っている。
俺がちゃんとしゃべれるように、全部思いを曝け出せるように、そっと見つめてくれる。
「それなのに、コンラッドは俺のために動いててくれたんだよ・・・・。俺、もう自分の自分勝手さがほとほと嫌になるよ!!」
愛しげに瞳を細めるコンラッド。そっと、胸の中に抱きしめられる。
「ユーリ、それは裏を返せばそれだけ俺のことを愛してくれている証拠ですよ。それに、貴方になら俺の自由を拘束されても一向に構いませんから」
いつものコンラッドの甘い声でそっと耳元で囁かれる。
卑怯だよ・・・・コンラッド。あんたのその声に俺は弱いんだから。もっと、自分のことを反省しなくちゃいけないのに、そんな声で囁かれたら、もうまるで思考が停止しちゃうんだからな。
「コンラッド・・・・」
ほらね、やっぱり俺はもう何も言い返せなくなっている。
彼は、そっと俺の左手を掴むとその指に嵌められた薬指のリングを月光に照らし出す。
鮮やかな青色の閃光を放ち、満月を宿すロイヤルブルームーン。
「この石は、満月のときに一番その力を発揮します。自分の進むべき道を迷っている人には、その迷いを取り去り、そっと正しい選択へと導いてくれるんですよ」
満月の光を受けて神秘的な表情で語るコンラッド。
「ですから、貴方が悩んでいることもきっとこの石が道しるべになってくれるはずです」
蒼く光る美しい石を眺めて、穏やかなコンラッドの声を聞いていると、本当にその通りになる予感がした。
翌朝。さっそく、石の効果だろうか。俺は、ヴォルフラムのことで思い悩むより先に彼と直接話し合おうと思った。
まだ寝ているであろう彼の部屋に向かおうとしたその時。ヴォルフラムから、俺の部屋に来た。
コンラッドと婚約して以来、彼が俺の寝室に来るのは初めてだった。
心なしか、以前のヴォルフラムの誇り高さが取り戻されている気がした。
「きょ、今日はお前に話があって来た。その・・・・・なんだ、僕が元気がないせいでお前に随分と心配させていたことに気づいた。悪かった・・・・」
「もう、あんなにしょぼくれるのはやめてやる。僕は、そんなへなちょこな男じゃないんだからな!!ただし!!」
ひと際大きな声を張り上げるヴォルフラム。
この様子を見るのは、本当に何日ぶりだろう。いかに彼が落ち込んでいたのかがわかる。少し心が温かくなる。
「これからは、ギュンターを見習って盛大に僕の気持ちをお前にぶつけていく。つまり、これからは正々堂々と嫉妬心を声に出して表わしてやるのだ!!」
「はは・・・ヴォルフラム」
思わず苦笑してしまった。けれど、彼の気づかいに目頭が熱くなる。
ありがとう、辛いのに元気に振舞うようにしてくれて。つっけんどんな態度をわざととっているけれど、空威張りなんだろ?本当は俺のためなんだろ?
「ごめんな・・・・ありがとう、ヴォルフラム」
思わず、声が掠れてしまう。
「へなちょこめ!湿っぽくなるな、ユーリ。僕まで、泣きたくなるじゃないか。ほら、これをやる!!式の日にこれを身に着けろ!!」
そういって、手渡されたのは、青色のペチコートだった。
これは女の人がドレスの下に身につける下着だよな?俺、男なんだけど?!
「ヴォルフラム?なんで、なんで俺に女物の下着をくれるの?!」
得意げに講釈を垂れるヴォルフラム。
目をキラキラと輝かせている。
本当に、すっかり元気になったみたいでよかった。
「地球では、式の日に何か青いものを身につけていると幸せになれるそうだからな。それもなるべく目立たないところにつけるのがいいらしい。これなら、ドレスのしたにこっそり身につけられるだろ?!」
「ヴォルフラム、だからそうじゃなくて、なんで女性用の下着なの?って話!!」
怪訝な顔で俺をまじまじと見つめるヴォルフラム。
「ユーリなら、ドレスを着る可能性が高いだろ?!それとも、コンラートにドレスを着せる気なのか、ユーリ?!」
二人の時が止まった。
暫し、二人で顔を見合わせた後、二人して腹を抱えて笑い転げる。
「ひー、無理だと思うよ!だって女装ってキャラじゃないしさ。そんな公式の場でよりにもよって、結婚式でコンラッドがドレス?!ヨザックみたいに割り切った空気も出せなそうだし、生真面目に着込んじゃって余計浮いちゃうっていうか。顔は超絶二枚目男前なのに、ドレス!!あ~~もうだめ、想像したら腹筋が割れそう」
「へなちょこユーリ!!僕を笑い殺す気か!!ぷっ、あはははははは」
俺たちは、何度も腹を抱えて、笑い転げていた。
ごめん、コンラッド。コンラッドのことでこんなに大笑いして。
でも、ヴォルフラムがやっと、元気になってくれたんだ。
あんたがくれたロイヤルブルームーンのおかげだよ、コンラッド。
俺、もう迷わないから。何があっても、あんたを信じてついていくから。
第五話 =完
あとがき★★
一話なのにすごく長くなってしまいました。
マリッジブルーなユーリを書こうとしたら、コンラッドも実はマリッジブルーだったっていうお話になっちゃいました。コンラッドを泣かせたのはどうだったんでしょう?嫌だった人すみません(汗
泣き所を書こうとしたけど、拙い文ではなかなか難しいです・・・・(汗
ちなみにロイヤルブルームーンは、普通に地球に(笑 あります。ムーンストーンの一種だそうです。
ヴォルフラムファンの方には、申し訳ない感じです。すみません。
コンラッドの女装好きーな人にも申し訳ないです。
話の流れ上、こんな感じになっちゃいましたが、実は意外とコンラッドの女装も好きかも★
最後までお付き合いくださってありがとうでした。m(。。)mぺこり。
※マリッジブルーなお話です。
俺は、コンラッドからプロポーズされて、婚約者になった。あまつさえ、お互いの家に結婚報告までしに行った。両家とも、俺たちのことを認めてくれた。
とても、幸せなはずなのに・・・・。俺は、六月の梅雨空みたいにいつまでも晴れない気持ちを抱えていた。
その原因は、主に二つあった。
一つは、ヴォルフラムのことだ。
彼は、俺が考えている以上に俺のことを好きだったんだって気づいた。
俺が、コンラッドと婚約を結ぶ以前は、四六時中子犬のように俺に吼えてきた。けれど、今の彼は見ているに忍びないほど、覇気がない。
俺の顔を見るだけで、威勢よく突っかかってきたあの彼が、今では俺の顔を見るだけで儚げに俯いてしまう。
それほどまでに、俺のことを好きだったってことなのか・・・・・。
俺のせいで、あの誇り高いヴォルフラムを深く傷つけたことが悲しかった。
どうして、恋愛って皆が幸せになれないんだろう。
好きなもの同士は、すごく幸せだと思う。でも、必ずその影で泣いている者がいる。その存在は無視していいのか?
ヴォルフラムをあんなに悲しませて・・・・・その上、目の前で結婚式まで執り行うなんて。
そんな、非情なことしてもいいのか?
俺たちだけ幸せになるなんて・・・・いいのか?
そのことを考えるたびに、俺はいつまでもどんよりとした雲の只中から抜け出せなくなった。
そして、俺を悩ませているもう一つの原因は、婚約者ーそう、コンラッドのことだ。
最近、何かを俺に隠している。やたらに浮き足だって、一人で城下街に出かける。
あんなにそわそわしてるコンラッドを見るのは、初めてなんだ。
いつもは、柔らかい笑顔でついその本性までも見抜かせてくれないところがあるのに。その彼が、隙だらけで落ち着かない様子をしていたら、婚約者としては黙っていられない。
おまけに、俺が彼の城外散策に付いて行くことを頑なに断るんだ。
どうして、そんなにつれない態度なんだよ。ただでさえ、俺、ヴォルフラムのことでいっぱい悩んでるっていうのに!!
もしかして、俺のほかに好きな奴に会っているのか、とか俺のことを好きじゃなくなったのか、とかありきたりな台詞が頭を掠めてもしょうがない事態だろ?!
おまけに今晩コンラッドは血盟城にいなかった。こんなに思いつめた日に限って。
夜だけは必ず俺の護衛をしたい、と言って城内の警備に当たることになっていたのに。
はっ、まさか!?
魔王としての俺に、不吉な考えが頭をよぎる。
もしかして・・・・・何か国に危険が迫っているのか?
コンラッドが、血盟城を抜け出してまで行くのだから、何かとてつもない事態が起きているのか?
にわかに、不安が押し寄せた俺はじっとしてなどいられなかった。
ベッドから抜け出すと、勢いよく制服に着替えて部屋を飛び出す。ひっそりとした城内に俺の靴の音が響き渡る。
けれど、俺の不安はすぐに払拭されることになる。
中庭に出ると、ヨザックが陽気な声で俺に話しかけてきた。
「どうしたんですか?坊ちゃん。満月が眩しすぎて眠れませんか?」
その声の明るさに国の非常時でないことはすぐに分かった。
けれど、同時に魔王としてではなく、婚約者としての不安が大きく膨らむ。
そんな、どういうこと?出かけたのが国の用事じゃないなら私用ってことだよな。じゃあ一体なんでコンラッドは城の外に行ったんだ?俺の護衛をしたいって、夜は城にいるって言った彼が、それを破ってまで行く用事って一体なんだよ?!
日々思い悩んでいた俺は、酷く動揺してしまう。
もしかしたら、彼の用事は取るに足らないことなのかもしれない。おまけに彼の行動に逐一文句をつける権利なんてないのに。
自分勝手で嫌な考えが俺を支配していく。
俺は、たどたどしく言葉を呟く。もう、頭の中がコンラッドのことしか考えられない。
「コン・・・・ラッド・・・・・」
ヨザックが心配そうに俺の顔を覗き込む。
「あれ~、坊ちゃん。すごく悲しそうな顔してますよ。隊長が気になりますかぁ?」
か弱い声で、ヨザックに尋ねる。
「コンラッド・・・・・どうして、こんな夜に出かけるんだ?ヨザックは何か知ってるか?」
満月の光を受けてにっこりと笑うヨザック。けれど、すぐに顔をしかめてしまう。
「えぇ、もちろん。隊長は・・・・・・・・っと、すんません、分かりかねます」
言いかけた言葉を慌てて呑み込むヨザック。
どうして、どうしてヨザックまで一緒になって何かを隠すの?
俺は力なく地面にしゃがみこむ。
ヨザックに顔を見られないように俯いて。
だって、俺、今きっとすごく酷い顔してる。
俺、なんか駄目かも。すっげー自信なくなってきた。本当にコンラッドと結婚できるのかな?
もしかして、もしかして・・・・・・コンラッドに婚約を破棄されたらどうしよう?!
「ぼ、ぼっちゃ~~ん!!」
俺のただ事でない落ち込みぶりに慌てふためくヨザック。
その時、静やかな中庭に馬の蹄の音が響き渡る。
暗闇でもわかる、ノーカンティに騎乗した凛々しい姿。コンラッドだ。
だめだ、今彼の顔をまともに見られない。
見てしまったら、今の俺の嫌な思いが溢れ出てしまう。
いつまでも、地面に座り込んで、顔をあげようとしない俺に、馬から降りたコンラッドが近づいてくる。
「ユーリ?どうしましたか?眠れなかったのですか?」
心配そうな彼の声が頭上に響く。
俯いたままそっけなく答える俺。
「あぁ、そうだよ」
俺の態度が気になったのか酷く心配そうにおれを気遣うコンラッド。
「ユーリ?今日の貴方は一段と憂いを秘めていますね」
やや、ためらいがちに言葉を続けるコンラッド。
「ここ最近の貴方はとても元気が無いようでしたので、とても心配していました」
彼の言葉に、思わず顔を上げてしまう。
そんな・・・・一体誰のせいだと思ってるんだよ・・・・!!それに、ヴォルフラムのことだって・・・・あるし・・・・・。
再び、俯く俺。
彼は、そんな俺を見てはいられないというように、自身も地面に膝をつけ、俺を胸の中に抱きしめる。
「ユーリ、今から少し出かけませんか?貴方の気晴らしになると思いますので」
彼からの提案に、俺は驚く。
まじまじと、コンラッドの顔を覗いてしまう。
心なしか、硬い表情のコンラッド。
あんなに、ここ最近俺と城外に出かけることを断ったくせに、どうして、どうして今頃?!
とてつもなく、暗い考えが脳裏をよぎる。
もしかして、コンラッドは俺に愛想がつきたとか?ほかに好きな人ができたとか?
それで、俺に婚約を解消したいとか言い出すんじゃ?!わざわざ外に連れ出すのは、ヨザックの手前、俺に気遣ってるのかも?!
俺が、そんなことを考えている間にも、俺はコンラッドに抱え上げられて、いつのまにかノーカンティに乗っていた。
いつもは、コンラッドの後ろに乗るのに、今日はコンラッドの前に座っている。
そんな、些細な変化にさえ、余計な勘繰りをしてしまう。もしかしたら、コンラッドは、背後から俺に抱きつかれるのがうっとおしいのかもしれない。
自分で、思いついたあまりにも悲しい考えに胸が軋む。
こんなに、近くにいるのに、どうして、どうして今日はあんたが遠くに感じられるんだ。
「ごめんなさい、ユーリ。こんな夜遅くに貴方を外に連れ出して。もうすぐ着きますのでしばらくお待ちください」
俺が、大人しいのを憂慮して、コンラッドが声を掛けてくれる。けれど、どこか悲しげな声に聞こえる。
俺たちは、血盟城から、かなり離れたところまできていた。暗い森を横切って、急勾配の坂を登っていく。暗いため、昼間の景色とは全く異なり、今自分がどこにいるのか皆目検討がつかない。
着いた先は、防衛用に山頂に設けられた展望台だった。血盟城と王都が見渡せる、俺のお気に入りの場所だった。
昼間とは違い、壮観な景色を見渡すことはできなかった。けれど、零れ落ちそうな満月が手の届きそうな位置に煌々と煌いていて、ひどく幻想的だった。
俺は、ふと昔のことを思い出した。
そういえば、昔勝利に月が欲しいって駄々をこねて泣いたことがあったっけ。
思わず、そんな郷愁に酔いしれる。
けれど、すぐに現実に引き戻される。
コンラッドは、俺をこんなところまで連れ出して、何をしたいんだろう。きっと、唯事じゃない。わざわざ夜中にこんな遠くに連れ出したんだから。
本当に、本当に・・・・・俺は振られてしまうんじゃないか?!
「ユーリ!」
思いつめたような、コンラッドの声が闇に響く。
ひどく、切羽詰った彼の声。やはり、俺の暗い予感が的中したのか?!
俺は、反射的に瞳をきつく閉じて、両耳をふさいでしまう。
彼から、放たれる俺を突き放す言葉と、冷たい瞳なんて絶対に見たくないから。
次の瞬間俺は、コンラッドの胸の中に軋むほど強く抱き締められる。
心なしか、コンラッドが震えている。俺をきつく抱きしめることで、なんとか自身が崩れることなく立っている様子だ。
「コンラッド・・・・・?」
彼の様子から一瞬でも眼が放せない。
こんなに、苦しんでいるコンラッド初めて見る。この間の夜、シマロンでの俺への裏切りを思い出してるときのコンラッド以上だ。
自分の思いつきに、背筋が凍った。
そうなんだ、やっぱり。俺を裏切ることになるから、こんなに、こんなにも、苦しんでいるんだ!!
今、ここで婚約を解消する気なんだ!!
心が崩れ落ちそうだった。
あまりの悲しみに、涙さえでてこなかった。
「ユーリ、俺のことを見てください!!」
唐突に熱く、切ないコンラッドの声が闇夜をつんざく。
放心状態になっている俺は、彼の言葉の意味を量りかねていた。
きつく両肩を掴んで、俺を覗き込むコンラッド。悲しみとも、怒りとも取れない、緊迫した表情で俺を見つめる。
「最近の貴方は、とても元気がありませんでした。貴方が、遠くを見つめるとき、とても不安でした」
今にも泣きそうな顔で俺を見つめるコンラッド。消え入りそうな声で囁く。
「貴方が・・・・・貴方の気持ちが俺から離れてしまったのではないか・・・・・と、不安になりました」
彼の告白に、愕然とする。
そんな、俺のことを嫌いになったんじゃなかったんだ。それどころか・・・・・俺と同じことを考えていたなんて・・・・・!!
驚きのあまり、立ち尽くす俺。
「ユーリ、貴方のことを愛しています。だから・・・・・・だからどうか俺から離れていかないで下さい!」
再びきつく腕の中に抱きしめられる。先程よりも彼の身体が激しく震えている。
泣いている・・・・のか?
コンラッドが、泣くところなんて始めてみた。それも、俺のことを想って泣いているなんて・・・!!
俺って、なんて馬鹿なんだろう!!彼は、いつでも真正面から俺を見てくれていたのに、俺は、彼の些細な言動で、悪い解釈ばかりして、まっすぐに彼を見ていなかった。
それに、ヴォルフラムのことにばかり気をとられていて、それがコンラッドを苦しめていることにさえ気づいてやれなかった。
彼を信じてあげられなかった!!
涙が止まらない。
自分のふがいなさと、彼の苦しみを想うと、胸が痛くてたまらない。
きつく、強くコンラッドに抱きつく。
「ごめん!!コンラッド・・・・・俺、俺本当に馬鹿だった。あんたがこんなに俺のことを大切に、いつもまっすぐに愛してくれるのに、俺は、あんたの些細な行動にばかり気にしてた。あんたを信じてあげなくてごめん!!」
一呼吸を置いて、話を続ける。
「それに、俺、ヴォルフラムが元気がないのが心配でそればかりに気をとられてた。でも、コンラッドがそんな俺を見て、俺の気持ちがあんたから離れていっているように見てるなんて、考えもしなかったんだよ!!本当に、本当になんて馬鹿だったんだろう!!」
号泣して、今にも崩れ落ちそうな身体を、コンラッドに縋り付くことで何とか保つ。
「ユーリ・・・!!」
少し驚いたようなコンラッドの声が柔らかく月夜に響く。
「あんたが、好きだよ。大好きだよ。俺からもお願いするよ・・・・・・どうか、俺から離れないで」
「もちろんです、ユーリ」
優しく抱きしめなおされて、甘いキスをされる。
コンラッドの甘いくちづけが俺の心のわだかまりを全部綺麗に溶かしていった。
満月の降り注ぐ壮大な展望台で、俺たちはしばらく抱き合っていた。
「ユーリ、貴方に差し上げたいものがあります」
懐から、大切そうに何かを取り出すコンラッド。
跪いて、俺の左手をそっと握る。薬指にひんやりとした指輪が嵌められていく。
「貴方へのエンゲージリングです」
思いがけない言葉に驚く俺。えぇっ、そんなものまで俺のために用意してくれてたんだ。
マリッジリングをこの前二人で用意したから、エンゲージリングまではないと思ってた。だって、俺は男だし。
嬉しいというよりも、驚いてしまう。
その彼の完璧な優しさに。
二連に重なる高貴なフォルムに、そこかしこに散りばめられたダイアモンド。立爪にはめ込まれた神秘的な石。
満月が宝石に反射する。すると、青白い閃光が満月の形で浮き上がる。
まるで、月を手に入れたみたいな錯覚に陥る。
「すごいな、この石。まるで、月そのものみたいだよ!!」
俺が、感嘆の声をもらすと嬉しそうに微笑むコンラッド。
「えぇ、ですからこの石を選んだのです。貴方が幼いころに、月が欲しいといって兄上を困らせたようでしたので。愛する人の欲しがるものを与えられることが男冥利に尽きるってものですから」
幸せそうに微笑むコンラッド。
もうすっかりいつものキザで余裕たっぷりなコンラッドに戻っていた。
「でも、すみません。この石は、ロイヤルブルームーンといってムーンストーンの中でもなかなか手に入らないのです。なるべく、月を綺麗に反射させるシラー効果の高いロイヤルブルームーンをどうしても手に入れたかったので、このところ一人で採掘に出かけていました。それが、貴方に余計な心配をさせてしまったみたいですみません。何せ、この石が採れるところは絶滅危惧種が暮らす神秘の山なんです。あのドラゴンのポチがいるところです。とても危険な罠がしかけてありますので、貴方を危険に巻き込むわけにはいかなかったのです。御免なさい」
言葉を区切ると、優しく俺を見つめるコンラッド。
「それに、貴方に内緒でこの指輪を作りたかったんです。その方が、貴方の喜びがひとしおかと思いまして」
そこまで、聞いて俺は愕然とした。
再び自分の浅はかさを思い知らされた。俺が、コンラッドを不安にさせている間にも、彼は俺のために、婚約指輪まで用意してくれていた。それも、ただ注文するだけじゃなくて、わざわざ石を採掘に行くなんて・・・・!!
それなのに、俺は彼の心が離れてしまったんじゃないかと疑っていたなんて、もう本当に信じられない!!
呆然と彼を見つめていると、またしても彼から驚きの事実を告げられる。
「今晩、貴方の護衛を一時的にお休みさせて戴いたのは、今しがた指輪が出来上がったとの報告を受けたからです。今すぐにでも貴方に指輪をお見せしたかったのです」
コンラッドは、いったいどこまで俺のことを大切にしてくれるんだろう。
もう、自分の駄目さが余計に際立つよ。本当に、なんて言ってコンラッドに謝ればいいんだろう。
「コンラッド、俺今晩あんたが護衛してくれないことに、ものすごく腹を立てちゃってたんだ。俺を守ることよりも俺の側にいることよりも大事な用があるのかよ・・・・ってすごい自分勝手で嫌なこと考えてた。俺が、あんたを拘束する権利なんてないのにさ」
コンラッドは、慈しんだ眼差しで俺を優しく見守っている。
俺がちゃんとしゃべれるように、全部思いを曝け出せるように、そっと見つめてくれる。
「それなのに、コンラッドは俺のために動いててくれたんだよ・・・・。俺、もう自分の自分勝手さがほとほと嫌になるよ!!」
愛しげに瞳を細めるコンラッド。そっと、胸の中に抱きしめられる。
「ユーリ、それは裏を返せばそれだけ俺のことを愛してくれている証拠ですよ。それに、貴方になら俺の自由を拘束されても一向に構いませんから」
いつものコンラッドの甘い声でそっと耳元で囁かれる。
卑怯だよ・・・・コンラッド。あんたのその声に俺は弱いんだから。もっと、自分のことを反省しなくちゃいけないのに、そんな声で囁かれたら、もうまるで思考が停止しちゃうんだからな。
「コンラッド・・・・」
ほらね、やっぱり俺はもう何も言い返せなくなっている。
彼は、そっと俺の左手を掴むとその指に嵌められた薬指のリングを月光に照らし出す。
鮮やかな青色の閃光を放ち、満月を宿すロイヤルブルームーン。
「この石は、満月のときに一番その力を発揮します。自分の進むべき道を迷っている人には、その迷いを取り去り、そっと正しい選択へと導いてくれるんですよ」
満月の光を受けて神秘的な表情で語るコンラッド。
「ですから、貴方が悩んでいることもきっとこの石が道しるべになってくれるはずです」
蒼く光る美しい石を眺めて、穏やかなコンラッドの声を聞いていると、本当にその通りになる予感がした。
翌朝。さっそく、石の効果だろうか。俺は、ヴォルフラムのことで思い悩むより先に彼と直接話し合おうと思った。
まだ寝ているであろう彼の部屋に向かおうとしたその時。ヴォルフラムから、俺の部屋に来た。
コンラッドと婚約して以来、彼が俺の寝室に来るのは初めてだった。
心なしか、以前のヴォルフラムの誇り高さが取り戻されている気がした。
「きょ、今日はお前に話があって来た。その・・・・・なんだ、僕が元気がないせいでお前に随分と心配させていたことに気づいた。悪かった・・・・」
「もう、あんなにしょぼくれるのはやめてやる。僕は、そんなへなちょこな男じゃないんだからな!!ただし!!」
ひと際大きな声を張り上げるヴォルフラム。
この様子を見るのは、本当に何日ぶりだろう。いかに彼が落ち込んでいたのかがわかる。少し心が温かくなる。
「これからは、ギュンターを見習って盛大に僕の気持ちをお前にぶつけていく。つまり、これからは正々堂々と嫉妬心を声に出して表わしてやるのだ!!」
「はは・・・ヴォルフラム」
思わず苦笑してしまった。けれど、彼の気づかいに目頭が熱くなる。
ありがとう、辛いのに元気に振舞うようにしてくれて。つっけんどんな態度をわざととっているけれど、空威張りなんだろ?本当は俺のためなんだろ?
「ごめんな・・・・ありがとう、ヴォルフラム」
思わず、声が掠れてしまう。
「へなちょこめ!湿っぽくなるな、ユーリ。僕まで、泣きたくなるじゃないか。ほら、これをやる!!式の日にこれを身に着けろ!!」
そういって、手渡されたのは、青色のペチコートだった。
これは女の人がドレスの下に身につける下着だよな?俺、男なんだけど?!
「ヴォルフラム?なんで、なんで俺に女物の下着をくれるの?!」
得意げに講釈を垂れるヴォルフラム。
目をキラキラと輝かせている。
本当に、すっかり元気になったみたいでよかった。
「地球では、式の日に何か青いものを身につけていると幸せになれるそうだからな。それもなるべく目立たないところにつけるのがいいらしい。これなら、ドレスのしたにこっそり身につけられるだろ?!」
「ヴォルフラム、だからそうじゃなくて、なんで女性用の下着なの?って話!!」
怪訝な顔で俺をまじまじと見つめるヴォルフラム。
「ユーリなら、ドレスを着る可能性が高いだろ?!それとも、コンラートにドレスを着せる気なのか、ユーリ?!」
二人の時が止まった。
暫し、二人で顔を見合わせた後、二人して腹を抱えて笑い転げる。
「ひー、無理だと思うよ!だって女装ってキャラじゃないしさ。そんな公式の場でよりにもよって、結婚式でコンラッドがドレス?!ヨザックみたいに割り切った空気も出せなそうだし、生真面目に着込んじゃって余計浮いちゃうっていうか。顔は超絶二枚目男前なのに、ドレス!!あ~~もうだめ、想像したら腹筋が割れそう」
「へなちょこユーリ!!僕を笑い殺す気か!!ぷっ、あはははははは」
俺たちは、何度も腹を抱えて、笑い転げていた。
ごめん、コンラッド。コンラッドのことでこんなに大笑いして。
でも、ヴォルフラムがやっと、元気になってくれたんだ。
あんたがくれたロイヤルブルームーンのおかげだよ、コンラッド。
俺、もう迷わないから。何があっても、あんたを信じてついていくから。
第五話 =完
あとがき★★
一話なのにすごく長くなってしまいました。
マリッジブルーなユーリを書こうとしたら、コンラッドも実はマリッジブルーだったっていうお話になっちゃいました。コンラッドを泣かせたのはどうだったんでしょう?嫌だった人すみません(汗
泣き所を書こうとしたけど、拙い文ではなかなか難しいです・・・・(汗
ちなみにロイヤルブルームーンは、普通に地球に(笑 あります。ムーンストーンの一種だそうです。
ヴォルフラムファンの方には、申し訳ない感じです。すみません。
コンラッドの女装好きーな人にも申し訳ないです。
話の流れ上、こんな感じになっちゃいましたが、実は意外とコンラッドの女装も好きかも★
最後までお付き合いくださってありがとうでした。m(。。)mぺこり。
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