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第六話 婚前旅行はスリル満点 後編
日が暮れてしまう前に、俺達は火を起こすのに必要そうな薪や食料となる果物などを採取していた。
コンラッドが器用に木の棒の先を鋭利な石で削って、銛を作ってしまったのには驚いた。さらに、その銛で泉に生息する魚を仕留めたのには、仰天した。
さすが、コンラッド。なんでもできるんだな。
面白そうだったので、俺も銛で魚を狙ってみたけれど、なかなか難しくてせいぜい一匹仕留めた程度だった。
こんな境遇にも関わらず俺達はそこそこ楽しく時を過ごしていた。
原生林の隙間から、琥珀色の空が覗き始めると、コンラッドは平たい木と細長い木の棒で火を起こし始めた。平たい木に小さな穴をあけ、さらに細長い棒の先を尖らせると、棒を穴の中に入れて、きりきりと回し始める。
しばらく回すと、木の板にあけた穴が黒っぽくなってきて、うっすらと赤みを帯びてきた。そこへ、コンラッドは苔や、木の削りかすを撒き、手で囲って息を吹きかける。
すると、揺らめく炎が上がった。
「すっげ~、縄文時代の火起こしみたいだった。錐揉み法だっけ?なんでコンラッドってそんなことまでできるの?」
薄闇の中、彼は炎にほのかに照らされながらにっこりと笑う。
「もしかして、ジャングルで遭難するかもしれない場合に備えて、サバイバル関係の知識を軽く詰めておきました。ユーリを守るためでしたら、当然です」
俺は、何度も目をぱちくりとさせてしまった。コンラッドって、本当にすごいよな。俺って、そんなに愛されてるんだ。
「ありがとう・・・コンラッド」
俺は、はにかみながら、感謝の言葉を伝える。
けれど、コンラッドはばつが悪そうに微笑む。
「もとはといえば、俺が飛行機酔いになってしまったから、自分の撒いた種なのですが・・・」
まだ、そんなことにこだわってたのか、まったく、コンラッドの奴。でも、そんなコンラッドも、悔しいけど好きだよ。
「ううん、そんなことないよ・・・・俺、コンラッドのこと大好きだよ」
思わず、コンラッドの胸に抱きついてしまう。大きな身体、温かい身体が俺を安堵させる。いつだって、そうなんだ。コンラッドは大きくて暖かくて俺を優しく包み込んでくれる。
「俺も、貴方を愛しています」
暖かいコンラッドの声が頭上から響く。
とても、幸せな気持ちだった。
辺りは、すっかりと紫紺の闇に覆われていた。俺は、コンラッドに抱きついたまま、原生林の中、力強く燃え盛る炎を眺めていた。
樹木の間から垣間見える、漆黒の空には小さな砂粒のような星が盛大に散らばっていた。
二人に訪れた静かな時間。
ずっと、こうしていたいよ、コンラッド。
「ユーリ・・・・・キスしていいですか」
ふいに熱っぽいコンラッドの視線とぶつかる。
「うん・・・」
思いがけず甘い声で答えてしまう。
彼の長い指が俺の顎先を緩やかに掴み上を向かせる。ひんやりとした彼の薄い唇が俺の唇に触れ合わされる。
背後で薪の燃える音が、耳に心地よく響く。
けれど、穏やかな時間は、長くは続かなかった。
突如、コンラッドが緊張した様子で、身体を起こすと、音を立てずに炎を素早く消し去る。俺を胸の中に抱き込むと、耳元で緊迫した声で囁く。
「ユーリ、何者かが近くにいるようです。じっとしていて下さい」
途端に、緊張が走る。
コンラッドの胸の中で、息を殺して様子を伺う。
刹那、闇夜の中で金属の鋭い音が響き渡る。
「コンラッド!!」
コンラッドが、襲われたのかと思い、俺は思わず、声を上げてしまった。
何てことだろう。
俺が叫んだ途端に、森の中は、昼間のように明るく照らされていた。
いつの間にか、松明を持った部族達に俺達はすっかり包囲されていた。30人くらいだろうか。驚くことに、全員女性だった。
困惑する俺に、コンラッドが険しい顔で説明をしてくれた。
「どうやら、彼女達は完全に俺達を包囲した後、金属音を合図に松明に火をつけたみたいです」
薄手の白の布地を身を纏った、古代ギリシャ時代のような姿の女性部族達。各々が弓を斜めに掛けている。顔立ちは、原住民のインディオに似ていて、黄色人種らしかった。
その中で、ひと際目を引く美女が俺達に近づいてきた。すらりと伸びた長身に、浅黒い肌。濡れる様に真っ黒な長い髪。彼女の衣装だけが黒色で、一族の中で高い位に就いていることが伺えた。
彼女は意志の強そうな、大きな切れ長の漆黒の瞳で俺達を見据える。
『お前達は、何者だ・・・・。お前達のこの容姿・・・、白い肌と褐色の肌の二人・・・。もしかしたら・・・・・。来るべき時が来たのかもしれない』
彼女が、何かを俺達に話しかけてくる。
闇夜によく響く凛とした声。けれど俺には、何を言っているのかさっぱりわからなかった。コンラッドも、俺を背後に庇いながらじっと彼女の様子を見守っている。
『彼らを、集落に案内せよ!丁重にもてなすように』
彼女が、声高らかに何かを叫ぶと、白装束の女性達が一斉に俺達の元へ駆けつける。
俺は、ぎゅっとコンラッドの服の裾を握る。
コンラッドは、振り返って俺に優しく微笑みかける。
「大丈夫、心配しないでユーリ。ここは、彼女らに従ったほうが無難なようです。貴方のことは、全力でお守りしますから」
「・・・うん、コンラッド」
彼にそういわれると、なぜだかとても勇気が沸いてきた。彼が何も武器を携帯していない事実など吹き飛んでしまうくらいに。
だって、コンラッドのことを誰よりも信じてるから。
俺達は、手荒な扱いを受けることなく、広い集落に案内された。
ジャングルの中、突如切り開かれた平原。そこに、高床式の家が何軒も軒を連ねて建っている。所々にかがり火が炊かれ、明かり代わりになっている。
やはり、ここにも女性しかいないようで、俺達が今一緒にいる彼女らは、女性だけの部族だとわかった。
集落の奥には、石を積み上げられたピラミッドが不気味にそびえ立っていた。おまけに、何か不気味な石造がその頂上に置かれていた。
なんだろう、これ。世界史の授業とかで見たことある気がするんだけど・・・。う~ん、思い出せない。もっと、勉強しとけばよかったかも・・・・。
俺の心配とは裏腹に、俺達は意外にも手厚く歓迎された。
コンラッドと俺は、集落の中でも一番大きな家に案内された。南国らしく、風通しのよい高床式の家だった。
梯子を上って、家に入る。電気が通っている様子はなく、見張り役の女性が持つ松明が薄く室内を照らし出す。
そこには、手作りらしい木のテーブルや椅子などが置かれていた。
特にこれといった装飾品のない、簡素な室内だった。
そんなことに思いを巡らせていると、俺達の前にものすごい豪華なご馳走が並び立てられた。
黒い豆と塊状の肉がごろごろ入ったカレーライスのようなもの、薄皮のクレープみたいな生地に煮込んだ豆やひき肉が挟んであるもの、魚介類を塊のままココナッツミルクで煮込んだシチューのようなものが出された。
他にも、色鮮やかな南国の果物がお皿いっぱいに出された。
俺は、にっこりとコンラッドに微笑みかけた。
けれど、彼は硬い表情をしていた。
「ユーリ、俺が料理を全部一口ずつ食べて確認しますので、まだ食べないで下さいね」
有無を言わせぬコンラッドの迫力に、こくんと頷いてしまう。
色々と突っ込みどころが満載だったんだけれど・・。
コンラッドが先に食べて、コンラッドの身に何かあったらどうするんだよ・・・・。
いつだって、コンラッドはくすっぐたくなるくらいに俺のことを大事にしてくれるんだから。少しは、自分のことも大切にしろよな。
白装束の女性達が見守る中、おもむろに全部の料理の毒味をするコンラッド。
ようやく、表情を緩めるコンラッド。
「大丈夫です、とても美味しいですよ、ユーリ」
「ありがとう、コンラッド」
彼の言葉と同時に、料理に手をつける。南国の料理らしい、香辛料のよく効いた刺激的な味だった。けれど、とても美味しかった。
「ユーリ・・・・もしかしたら、今俺達はアマゾンにいるかもしれません」
料理を食べながら、コンラッドが唐突に発言する。
俺は、思わず皿の上にスプーンを落とす。
「アマゾンって、本とか売ってるとこじゃなくて、あのピラニアとかで有名な、あの・・・あのアマゾンか?!なんで、なんでそんなことが分かるの?!」
真剣な表情のコンラッド。
「えぇ、そのアマゾンです。今食べているこの料理は、アマゾンの郷土料理ですから・・・・、おそらくここはアマゾンではないかと思ったのです」
一段と声が高くなる俺。
「まさか、コンラッド、こんなことまで調べてきたの?!」
爽やかな笑顔で微笑む彼。
「えぇ、でもこれはユーリに変わった料理を食べてもらいたいと思って覚えてきただけなんですが・・・・。エクアドルの空港のレストランにでも、ないかなと思って。でも、まさかこんな本場で召し上がっていただけるとは思いませんでしたけど」
苦笑する彼。
「けれど、思わぬところで、この知識が役にたってよかったです」
俺は、ただ脱帽するばかり。本当に、コンラッドって完璧なんだな。こんな俺のために、ありがとう、コンラッド。
彼に、感謝の意を込めて満面の笑みで微笑む。
「ありがとう、コンラッド」
「どういたしまして、ユーリ」
彼に優しく頭を撫でられる。
ふいに、視線を感じてそちらを見ると、見張り役の白装束の女性達が顔を赤らめて俺達のことを見つめていた。
し、しまった。すっかり、二人の世界に入っていたけど、めっちゃ、人に見られてたんだ・・・。あぁ、恥ずかしい。
俺は、照れを隠すように必死になって目の前のご馳走を平らげていった。
けれど、コンラッドと一緒にいられたのは、この夕食が最後だった。
夕飯を食べ終えた頃、先程の黒髪の女戦士がやってきて、コンラッドだけを連れて行った。コンラッドは、ただ俺に安心してください、大丈夫ですからとしきりに繰り返すだけで、大した抵抗もせず女戦士と出て行ってしまった。
それきり、コンラッドには会わせてもらえずにいた。もう、2日も経っていた。いくら、白装束の女性達にコンラッドに会いたいと伝えたところで、言語が違うのでまったく理解してもらえなかった。
俺は、彼女達に贅沢な羽毛の着物を着せられたり、宝石で飾り立てられた。その格好で家の軒下に仏のように座らされた。おまけに花束を捧げられ、俺のことを拝みに来る住人までいた。
いつのまにか、俺は彼女達の神のように拝み奉られていた。毎日、毎日、ご馳走を朝から晩まで与え続けられた。
けれど、少しも嬉しくなかった。コンラッドがいない・・・・それだけでどんなに施しを受けようと、心は重く苦しかった。
どうして?コンラッドがたまにわからなくなる。
俺のことを信じられないくらい大事にするくせに、肝心のところでおかしな行動をとる。どうして、もっと俺と離されることに抵抗してくれなかったんだよ。そりゃあ、彼女は美人だしさ、スタイルもいいし、一緒にいたら気分もいいのかもしれないけど・・・。でも、こんな不安な場所で俺を一人残しても案外平気なんだな・・・・。
だめだ、いけない。また、彼を疑ってしまった。
この前、反省したばかりなのに。
まさか・・・・!?
とてつもなく嫌な考えが脳裏をよぎる。
俺が、こんなに手厚くもてなしを受けているということは、コンラッドは酷い扱いを受けているんじゃないか?牢獄に閉じ込められて、一切食事も与えられていないとか・・・?!
ど、どうしよう、そんなことになっていたら・・・!!
俺は、左手の薬指の指輪を見た。コンラッドが俺にくれた婚約指輪。その石、ロイヤルブルームーンを。軒先から今夜の月に照らしだしてみた。
今夜の月は、満月まであと少し・・・待宵月だった。石が青白い月の形の閃光を放つ。
それを見ていたら、少し心が落ち着いてきた。
今焦っても、しょうがない。何か、コンラッドに近づく機会を作るんだ。
その時、俺の見張り役の白装束の少女が俺の指輪の光に気づいて近づいてきた。
その少女が、ひどく憂いを含んだ瞳で俺を見つめてくる。
この子は、確か、俺とコンラッドが仲良く夕食を食べていたのを見て、顔を赤らめていた子だ。
もしかして・・・この子、俺がコンラッドに会いたいって気づいてくれた?
俺は、僅かなチャンスに掛けることにした。
必死になって、身振り手振りでコンラッドに会いたいという想いを彼女に伝えてみた。
切なそうに、こくんこくんと首を縦に振る彼女。人差し指を自身の唇に当てて、静かに、のジェスチャーをすると、俺の手をそっと握る。彼女に導かれるままに、そっと集落の中を抜けていく。
どうか、どうか無事でいてくれよな、コンラッド!!
祈る思いで彼女に付いて行く。
彼女が、急に木陰に立ち止まる。指で、一定の方向を指す。俺は、その指先を辿る。
彼は、月明かりの中、凛々しく佇んでいた。
よかった、とりあえず、俺が思っていたような酷い事態には陥っていないみたいだ。
けれど、胸を抉られるような痛みが襲う。
彼の傍らには、あの黒髪の美女がいた。そして、俺は見てはいけない物を見てしまった。
美女が、コンラッドにかしずくと、彼の手の甲に口付けを落としていた。
恐ろしいくらい、二人がお似合いだった。絶世の美男と美女だった。自分の存在が、霞んで消えてしまいそうな程に。自分が婚約者であることを疑ってしまうほどに。
それになによりも、コンラッドの着ている服に衝撃を受けた。彼は、彼女の着ている服と同じ、黒装束に身を包んでいた。
この既視感、デジャヴ・・・・・。
大シマロンのときのあの悲しい想い出が鮮烈に甦る。
彼が、敵国の衣装に身を包んでいたときの身が張り裂けそうなほどの悲しさが。
俺が、いくら彼に戻ってきて・・・と叫んでも受け入れてくれなかった彼の凍りついた顔が・・・。
つい昨日のことのようにまざまざと、甦る。
これ以上、見ていられなかった。
俺は、力なく俯くと、少女にジェスチャーで、帰りたいと伝える。少女の瞳がごめんなさい、余計に悲しませてしまって・・・・と訴えていた。
どういうことなんだよ、コンラッド・・・・。
あんな綺麗な女の人といて、心変わりしてしまったのか・・・?
それで、衣装まで着替えて・・・。
俺は、あんたと離れていてすごく寂しくて不安だったのに、その間にあんたは、俺のことなんてすっかり忘れて、美女に骨抜きにされてたのか・・・?!
だけど・・・・疑ったら駄目だ。この前、疑っちゃ駄目だって、反省したばかりなんだから。例えどんなに絶望的な状況でも、コンラッドのことを信じないといけないんだから・・・・。そう、どんなに絶望的な状況でも・・・。
指輪も魔石も、コンラッドから貰ったものを全部、力強く握り締める。枕を涙で濡らしながら眠りに就いた。
コンラッド、あんたが恋しいよ・・・・。お願い、俺を抱きしめてくれよ・・・。
朝、目が覚めると村中に、派手な装飾が施してあった。赤や黄色、白の紙で作られた花飾りが村中の家の屋根に飾り立てられていた。どうやら、何かのお祭りを行うらしい。
俺も、今日は一段と華美な着物を着せられて、煌く宝石を身に纏わされた。
けれど、俺の心は沈むばかりだった。コンラッドのことを信じようと思えば思うほどに、昨日の辛い現実と向き合うことになってしまう。それでも、また彼を信じようと強く思う。
俺の心は、迷路に迷い込んでしまった。
そんな俺のことなどおかまいなしに、朝から晩までひっきりなしに村中の人々がお供え物やら、花などを軒先に座る俺に捧げにやってきた。尋常ではない量だった。俺の家は、花やらお供え物で埋め尽くされた。
もう、勘弁してくれよ。俺は、いったいどうすればいいんだよ。俺は、なんで、こんなに拝まれてるんだよ。もう・・・・勘弁してくれよ。こんなの嫌だよ。
コンラッド・・・・ただ、あんたに抱きしめられたいよ・・・・。大きくて、暖かいあんたに・・・・。
辺りはすっかりと闇に覆われていた。満月が不気味に揺らめいていた。
さんざん、ご馳走を食べさせられた後、俺は白装束に着替えさせられた。着替えを持ってきてくれたのは、昨夜俺をコンラッドのところへ案内してくれた少女だった。
ひどく悲しそうな顔をしていた。
昨日のことがあったからかな?俺のことをまだ心配してくれてるんだ、優しい子なんだな。
けれど、にわかに少女が俺を見て号泣する。
尋常ではない泣き方に、俺は胸騒ぎを覚える。
まさか、コンラッドに何かあったのか?!
胸が激しく鼓動する。
少女は、必死に泣くのを堪え、涙を拭う。そして、意を決したように俺に手を差し出す。俺は、震える彼女の手を握りながら、彼女に導かれて行く。
頼む、コンラッド。無事でいてくれよ!!
俺は、強く心の中で祈った。
彼女が案内した先は、初めてこの集落に来たときに見たあの石畳のピラミッドだった。ピラミッドの周りには、たくさんの住民が松明を片手に集まっていた。
俺が、来ると女部族達から感嘆の吐息が漏れた。
何だっていうんだ、一体何が起ころうとしてるんだ・・・?!
なんか、これって、映画みたい・・そう、そうだ。なんか古代遺跡がよく出てくるちょっと怖い映画・・?!そう、例えば観衆が見守る中、神に選ばれた生贄がこの石のピラミッドの頂上で、心臓を抉られる・・・・みたいな・・・・・!!!
自分の思いつきに、全身から冷や汗が滲んだ。
先程の少女がなぜ俺に対してあんなに泣いていたのかが今、分かった。
お、俺が生贄にされるんだ!
あまりの恐怖に、膝ががくがくと震う。
そして、ピラミッドの頂上には、俺の心配していたコンラッドが悠然と立ち構えていた。手には、大きな斧を携えて。
ま、まさか。そんな!!俺、コンラッドに殺されてしまうっていうのか?!
嘘だ、いくらなんでもそんなことあるはずがない!!
けれど、昨夜のコンラッドと黒装束の美女のあの様子・・・・・。とても仲睦まじかった二人・・・・。そんなことないと言い切れるんだろうか・・・・。
嫌だ、そんなことない!コンラッドがそんなことするはずない!
不安を払拭するように、強くコンラッドを信じる。
俺、コンラッドを信じるから・・・。
黒装束の美女が、やって来て、俺に手を差し出してエスコートする。
彼女の血が通っていないかのような冷たい手にぞくりとしながら、ピラミッドを一段ずつ登っていく。なぜか、彼女に逆らえずに階段を登っていく。頂上には、不気味な石造が横たわっていた。頂上で、黒髪の美女は、コンラッドにかしずいて、俺を彼に差し出す。そのまま、彼女は踵を返しピラミッドを降りていく。
コンラッドは一度も、俺のほうを見てくれない。
絶望的な気分だった。本当に、もう駄目なのか?!
でも、俺は・・・・最後までコンラッドを信じるから。もうどうなったって構わない!
突如、コンラッドの腕が俺の身体に巻きついて俺を素早く石造の上に横たえさせる。
コンラッドは、斧を空高く持ち上げる。刃が月光に反射して鋭く光る。
「嘘!!コンラッド!!あんたは絶対俺を裏切らない!!俺は信じてるから!!愛してるから、コンラッド!!」
もう黙ってなどいられなかった。心の底から、叫びきった。
かすかに、コンラッドの顔つきが変わった気がした。けれど、それがいい変化なのか悪い変化なのか全く区別が付かなかった。
次の瞬間、コンラッドの口から全く訳のわからない言葉が紡ぎだされた。
『我は神の化身である。今宵は、お前達の前で、穢れない魂を屠り、我がその輝きを受け継ぐ者とする。さらば、この地に永遠の太陽が約束されん』
まるで、聞いたことのない不思議な言葉。けれど、どことなくここの部族の人たちが話している言葉に発声が似ている。
何て言ってるんだろう、コンラッド?いつの間にそんな言葉を覚えたんだ?!
コンラッドの凛とした威厳のある声が村中に響き渡る。闇夜を震わす。
直後に、黒装束の彼女が力強く叫ぶ。
彼の言葉を、黒装束の女が民衆に翻訳しているようだ。
しん・・・と静まり返る観衆たち。期待の篭った熱い眼差しが俺達に降り注がれる。
それにしても・・・なんで、こんな言葉が話せるんだ・・・?
まさか、もしかしてコンラッドは何かの呪いに掛かっているのか?操られているのか?
そんな!コンラッドが操られてるんだったら、もう俺は・・・どうしようもないじゃないか・・・。
いや、諦めちゃ駄目なんだ!コンラッドと一緒に結婚したいんだ!
刹那、コンラッドが烈火のごとく斧を振り下ろす。
鈍い音が響く。
俺は咄嗟に目を瞑る。
あまりのことに、何が起きたか分からない。
次の瞬間には、暖かいコンラッドに横抱きされていた。足元には、石造の頭が割れて転がっていた。
コンラッド!!やっぱり、やっぱり俺を助けてくれたんだ。今までの彼の行動は、きっと俺を助けるための秘策だったんだ・・・!!
俺は、感動で胸が痺れた。嬉しくて、たまらなかった。
けれど、感慨に耽っている、一刻の猶予もなかった。
観衆が各々に断末魔の叫び声を上げる。
闇夜が、ヒステリックな女性の声で切り裂かれる。
黒髪の女がひと際険しい声で叫ぶと、ピラミッドの下から女戦士達が、一斉に弓を引いて俺達に狙いを定めた。
「コ、コンラッド!!大変!!俺達串刺しにされちゃうよ!!」
「ユーリ、行きたい場所を願って!!」
彼は、叫ぶと、二人が余裕で入れるくらいの水甕に俺を抱えて飛び込んだ。
こ、こんなところに水甕があったんだ・・・・!!全く気づかなかった!!
激しい水しぶきがあがる。
弓矢で串刺しになる前に、俺達は果てしなく広がる水の中を漂っていた。
水から頭を出すと、そこは俺が夢にまで見たガラパゴス諸島のホテルのプライベートビーチだった。
毎夜パンフレットを眺めていた俺は、すっかりここの景色を覚えていたから、すぐにここがどこか分かった。パンフレットに載っていた写真のなかに、海とライトアップされたホテルの夜景があったのが助かった。
「コンラッド!!よかった!!やっと安心できるとこに来たよ!!」
俺は、浅瀬でコンラッドに抱きつく。
コンラッドは、急に俺を海の上で押し倒す。
軽い水しぶきがあがる。
俺は、尻餅をついて、手で砂利を掴んでしまった。波が俺の身体に優しく寄せては返していく。
「ちょ・・・ちょっと?コンラッド?!」
「すみません、ユーリ。後で、全部貴方に今まで起きたことを説明しますから」
そういうと、彼は俺に覆いかぶさる。顎を掴みあげて、性急なキスをする。
裏へ続く。ヒント 右下 英語
衝動を抑えきれないかのように、激しいキスをするコンラッド。
俺の顎を掴む彼の手に力がこもる。もう一方の手で、きつく腰を抱き寄せられる。熱い舌が、俺の唇を押し入ってくる。甘く舌を絡め取られ、容赦なく口腔内を蹂躙される。
息が出来ないよ・・・・。激しい・・・・なコンラッド。
「ん・・はぁ・・・っ。コン・・・ラッド・・・」
キスの合間に愛の告白をされる。柔らかな波の音と共に。
「愛しています、ユーリ」
水浸しの俺の薄布をするすると解いていくコンラッド。ちゃぷんと弱い水しぶきを上げながら。自身の黒装束も脱ぎ捨てるコンラッド。二枚の布だけが、所在なげに浅瀬に浮かぶ。
「やっ・・・・だめ・・・こん・・なところで・・・」
俺の身体が生まれたままの姿で月明かりに晒される。コンラッドの均整の取れた肢体も、ギリシャ彫刻のように闇夜に浮かび上がる。
「すごく・・・綺麗です、ユーリ。ずっと貴方を抱きたかった・・・・」
熱く、耳元で囁かれ、そのまま耳朶を甘噛みされる。背中を優しく撫で上げられる。
「っ・・・ん・・」
思わず、ぞくりと身体が粟立つ。手を砂利に着きなおし、体勢を整える。海水がぴちゃんと耳ざわりのよい音を立てる。
コンラッドの大きくて形のいい手が俺の首筋から鎖骨を撫でていく。胸の芯を指で掴み上げられる。そのまま、そこを薄い唇で吸い上げられる。
「ちょ・・・・っと・・・コンラッド・・・・どうしちゃったん・・・だよ・・ああっ!」
いつもよりも、性急で野生的なコンラッドに翻弄される。
「好きです・・・愛しています・・・ユーリ・・・!!」
どうしちゃったんだよ・・・コンラッド・・・いつもよりずっと、激しいよ・・・。
途端に、身体が反転する。俺は、四つん這いの状態で、すっかりコンラッドに上から覆い被される。
遮断なく、彼の長い指が俺の口内に侵入する。卑猥に俺の舌が彼の指に絡まっていく。
容赦なく空いたほうの手で、俺の敏感に隆起したものを擦り上げられる。
甘く、激しいコンラッドの動きに、眩暈がする。身体が甘く痺れる。
もう、なにも考えられないよ・・・コンラッド・・・・。あんたをもっと深く感じていたいよ・・・・。
「ユーリ、力を抜いて・・・」
にわかに、彼の指が俺の口内から引き抜かれ、繊細な部分に侵入する。
ひと際甘い疼きが湧き上がる。
「んっ・・・ふああっ・・・・いい・・・よ、コンラッド・・・っ」
ここが、外だとか海の上だとか、もうそんなことを一切考えられなくなる。ただ、彼から与えられる甘い刺激に身を任せる。
「ユーリ・・・入れますね」
彼の熱い息遣いが、夜の海に響く。
突如、指か引き抜かれる。指とは比べ物にならないコンラッドの熱い楔が俺の内部を蹂躙する。
「ふぅ・・・あああっ!!」
コンラッドに腰を両手できつく掴まれて、背後から荒々しく突き上げられる。彼よりも一回り小さい俺の身体は、その度に、頼りなく震えてしまう。海水が弧を描いて弾け飛ぶ。月光を浴びて、真珠のように煌く水しぶき。
俺達は、満月の中、原始的な姿で愛し合った。二人の蜜月のときを過ごした。
何度目かの絶頂を終えて、二人で穏やかな時間を迎える。
コンラッドに優しく抱きしめられながら、今までの出来事の事実を告げられた。
彼は、集落に着いた時に、あの石造とピラミッドを見たときから、生贄にされる危険を察知したという。
それでも、武器を持たず人数ではまるで敵わない俺達がここから逃げ出すにはどうしたらいいか、策を巡らせてくれていた。
彼は、やむを得ず敵側に付く振りをすることにした。そのために、彼はある秘策を使っていた。
なんと、NASAブランドなる言語学習機械で、旅行前にスペイン語や、アマゾン流域のアメリカ・インディアン言語をマスターしていたのだ!!
その言語の中でも、とりわけ古くアステカ帝国の時代の古代ナワトル語で黒髪の女戦士に話しかけたとき、手ごたえを感じたという。
その言葉を口にしただけで、コンラッドは神として認められたという。
おいおいおい、コンラッドは神様扱いだったのかい。
どおりで、あの綺麗な女の人が昨夜、コンラッドに跪いていたわけだ・・・・。
思い出すとちょっと、胸が痛いけど。
どうやら、ここの部族たちは、古代アステカ帝国の流れを汲んだ子孫だったらしい。そのため、アステカで行われていた人身御供、つまり生贄の儀式をいまだに行っていたらしい。
彼女達は、古代アステカ人と同じように、太陽が無事に昇るために、生贄をあのピラミッドの上で、捧げ続けていたらしい!!くわばら、くわばら!うう、怖い。自分も狙われていたかと思うと、背筋が凍る!
さらに、コンラッドが彼女から何気なく情報を掘り出していくと、この部族達には、古くから伝わる伝説があることが分かったらしい。
その伝説とは、以下のようなものだった。
【 白い肌の神が、褐色の恋人を連れてやってくるだろう。その神が褐色の恋人を屠るとき、永遠の太陽が約束される 】
うう、これって、まんま俺達のことだと解釈されそうじゃん!ほ、ほふるって、いうのはつまり殺すっていう意味だろ・・・・?そ、それでコンラッドが斧を持って俺を待ち構えていたってわけだったんだ・・・。
コンラッドは、この伝説を逆手にとって、俺を救う策を練ってくれたわけだった。
俺とコンラッドだけが、二人になれるのは、儀式の際のピラミッドの上だけだと彼は、考えた。
そこからスタツアできるように、彼は大きな水甕を用意しておいたってわけだ。
すっげ~よ、コンラッド!!武器も持たずに、あれだけの女戦士達を前にして俺を救い出してくれるなんて!!コンラッドがいなかったら、俺今頃、生贄だったかも?!怖い、怖すぎるよ~!!
けれど、コンラッドの悲痛な声が俺に届く。
「すみません、ユーリ。貴方を救うためにはあちら側を欺く必要があったんです」
苦しそうに言葉を続けるコンラッド。
「いくら貴方を助けるためとはいえ、再度貴方を裏切る羽目になることが・・・辛すぎました」
「コンラッド・・・」
きつく彼の身体を抱きしめる。
「貴方のことをこんなに愛しているのに、どうしていつも貴方を苦しめることになってしまうんだ・・・・。俺は、それが悔しくて、いたたまれなくて・・・・どんなに貴方を愛しているか、どうやってこの愛を伝えようか・・・とそればかり考え過ぎてしまって・・・・先程は、貴方に少し無茶をしてしまって・・・すみません」
そんな・・コンラッドもこんなに傷ついていたんだ。ごめんね、コンラッド。俺、前よりはあんたのこと信じられるようになったと思うけど、それでも、少しあんたのことを疑ったり嫉妬したりしてたよ。
いつになったら、満月のように完璧な欠けることのない落ち着いた気持ちになれるんだろう。
きっと、結婚していつも一緒にいたら、もっとコンラッドのことがわかるようになるんだよね。もっと、コンラッドのことを穏やかに愛せるんだよね。
「早く、結婚したいな・・・・コンラッド」
「ユーリ・・・・」
甘いコンラッドの口付けを受けながら、輝かしい満月をぼんやりと見つめていた。
第六話 後編=完了
あとがき★★★
だらだらと長くなってしまいました。
うまくまとまっていないかも。
二人の愛の試練っていうテーマで書きました・・・・。いや、全然そんな大層なものじゃないです、はい・・・。
とりあえず、いっぱい二人でいちゃいちゃしてもらいました★★
我を忘れて情熱的にユーリを襲うコンラッドを書いてみたかったので書きました(汗
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