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ショートストーリー 第十二編 血盟城のシンデレラ
※ある舞踏会の一夜の出来事です。コンユです。
今宵は、舞踏会。
紫紺の空に、星の砂粒を散りばめて、血盟城は煌びやかに輝く。
晩餐会の間では、色とりどりの衣装に身を纏った貴族達が、弦の音に軽やかに身を翻す。
俺はシンデレラみたいな可憐なドレスを着ていたりする。
青を基調としたドレス。エレガントな肘までの手袋。ふんわりとしたシルエットを出すために、パニエとかいう張りのある素材で作られたアンダースカートまで穿いたりした。おまけにグリエちゃんに、お化粧までして貰った。
なぜそんな女装をしているかというと、今回の舞踏会の主賓である元カヴァルケード王太子のヒスクライフさんの希望だったりする。そう、あの『ぴっかり君』、だ。
なぜ彼が俺の女装姿なんぞ見たいかというと、以前俺が女装していた時に、その姿に見惚れたらしい・・。それで、彼が娘のベアトリスにその話をしたところ、是非一度俺の女装姿を見てみたい・・・という話になってしまったわけであります・・・とほほ。
なんか、俺って女装ばっかりしてるよな、いいのか、魔王がこんなんで・・・!しかも、今日は眞魔国とカヴァルケードの友好を深めるための晩餐会っていう、思いっきし公式の場で、女装!
くらくらしていたら、目の前にシンデレラの中に出てくる王子様が現れた。
・・・・って、コンラッドじゃん!
ミリタリー調の白ジャケットに、金の詰襟、金の肩章、金の飾り帯に金の釦。ワインレッド色のスラックスには、金のジャガードのストライプが入っている。
流れるようなダークブラウンの繊細な髪。虹彩に銀の星を散りばめた優雅な瞳。整った鼻梁に、端整な唇。
いつもの重厚な軍服が与える精悍な印象に取って代わり、いっそう煌びやかな秀麗さを滲ませる。
どこからどうみても、王子だよ、コンラッド。はぁ~、こんな人っているんだなぁ。って、俺の名付親だし。
あまりにも、俺がコンラッドを見つめているので、彼が怪訝な顔をしてくる。
「どうしましたか?ユーリ?この格好はやはり派手過ぎましたか?」
いや、だから、全然衣装負けしてないですから!ばっちり着こなせてますから!
「ううん!ばっちり、似合ってるよ!なんか、コンラッドのほうが衣装に勝っちゃってる感じ・・・?!」
すっと、切れ長の瞳を細めて、俺の手の甲にキスを落とすコンラッド。
「光栄です、お姫様。今日の貴方の格好に見劣りしないためには、このくらい華美な衣装のほうがいいと思いまして」
お、お姫様って・・・!俺、男ですから~!
う、でも、コンラッドって何でこんなキザな台詞がさらっと言えちゃうんだろう。それも、全く嫌味じゃない!同じ男として完敗だ・・・。
俺が、一人芝居をしていると、コンラッドがくすくすと微笑む。
「ユーリ・・・。貴方を、見ているととても、面白いです。ころころと百面相の様に表情が変わって、とても・・・愛らしいです」
「あ、愛らしいって・・・なんだよ・・・それに、さっきはお姫様とか言っちゃってさ・・・・。俺は、男ですからっ」
俺は、ぶすっと、呟く。
コンラッドは、俺の膨らませた頬にひとさし指を当てて、甘い声で囁く。
背後の弦とフルートの奏でる音と合間って、その美声に聞き惚れてしまう。
「いえ、貴方は本当に愛らしくて・・・可愛らしいです」
どことなく、彼の瞳が揺らいだ。少し、苦しそうな、そんな感じがした。
どうしてかな?コンラッドが苦しそうに見えた。コンラッドが話している内容は、辛い内容じゃないのにな・・・?
「コンラッド・・・?」
その一瞬の彼の表情がひどく気になった俺は、怪訝な顔で彼に問いかけた。
けれど、彼の返事を聞く前に、本日の主賓とその愛娘がやってきた。さらに、俺の愛娘も一緒にやってきた。
「どうも、これはこれは魔王陛下。お目麗しいことでございます」
帽子を取って、ぴっかりと眩しい挨拶をするヒスクライフさん。その腰元で、もじもじと恥ずかしそうに俺を見上げる可愛らしいおさげ髪の少女。ヒスクライフさんの娘、ベアトリスだ。
そんな、恥ずかしがるベアトリスを優しく促すグレタ。わが娘ながら、なんていい子なんだ。
「ほら、ベアトリス。私のパパのユーリだよ。見て!!私のパパってば、お姫様みたいに綺麗でしょ?」
固まった。そうだ。俺は、今娘の前でとても誇れる父親の姿をしていない・・・!!俺は、その事実に愕然として頭を垂れた。
けれど、今は落ち込んでいる場合じゃない!眞魔国とカヴァルケードの親交のためにも、俺が一肌脱ぐんだ~!
優雅にスカートを掴んで、かしずいて見せた。にっこりと微笑みながら。
「ようこそ、眞魔国へ。ヒスクライフさんも、ベアトリスもゆっくり楽しんでいってくださいね!」
途端に、ベアトリスが可憐に微笑んだ。
「ありがとう、グレタのパパのお姫さま。私も、いつか・・・グレタのパパみたいにきれいなお姫さまに・・・なりたいなっ」
グレタと微笑みあう、ベアトリス。二人は、妖精のように愛らしいけれど・・・・けれど・・・、なんか色々変だぁ~。パパみたいなお姫様って完全に比喩のしかた間違ってますから・・・。
本日の主賓と愛らしい娘達が去った後、俺はコンラッドがいつの間にか姿を消していることに気がついた。
あれ、コンラッド。どこに行っちゃったんだろう。
彼を探しに、広間を抜け出したい衝動に駆られたけれど、流石に主催国の王が退座するわけにもいかず、はがゆい気持ちでいた。
それから、ヴォルフラムに『尻軽め!』と言われたり、ギュンターに汁を吹きかけられたり、グウェンダルになぜか女と間違われて口説かれそうになりながらも、晩餐会の夜は過ぎていった。
ヒスクライフさんとベアトリス、他にも眞魔国が招待した貴賓達は、各々の血盟城内の客間に案内された。
華美な衣装を身に纏った貴族達も次々と、楽しそうにおしゃべりをしながら去っていく。俺に、一礼をしながら。
皆、いつの間にか見つけたパートナーと腕を絡ませて、幸せそうに見詰め合っている。
微笑ましいのだけれど、独り身の俺としては、少し切ない気持ちになった。
なぜだろう。そのとき、コンラッドの顔が思い浮かんだ。いつも、俺のことを大事にしてくれる、俺を甘えさせてくれるコンラッドのことを。
無性に、コンラッドの大きな手で頭を撫でてもらいたい気分になった。コンラッドならきっと俺のお願いを聞いてくれる筈。
きっと、俺は仲のいい恋人達を見ていたら、寂しくなってしまったんだと思う。
一度思いつくと、いてもたってもいられなくなった。もう晩餐会も終わったし、もう俺がいなくても大丈夫だよな・・・・。
一目散に、赤い絨毯を敷き詰められた広間を駆け抜ける。コンラッドの元へ一直線に。石畳の通路を抜けて、アーチ状の柱の連なった回廊へ出る。
常闇の中、アーチの柱越しに、可憐な星屑が無数に姿を見せていた。
その中に、人影があった。凛とした佇まい。俺の探していた彼だった。彼は、中庭の噴水の前に腰掛けていた。照明で幻想的に照らされた噴水の前に。
俺は、彼の元へ必死に駆けつけた。
「コンラッド・・・!!会いたかった!」
思わず夢中でコンラッドに抱きついてしまう。だって、なんか寂しかったんだ。暖かいあんたに、触れたかったんだ。
「ユーリ?!」
酷く驚いたように、声が裏返るコンラッド。薄闇の中、呆然と俺を見下ろすコンラッド。少し、緊張した面持ちだ。
「あんた、舞踏会の間中ずっとこんなところにいたのか?ヒスクライフさん達と話している間に、あんた、いなくなっちゃうんだもん。ずっと、気になってしょうがなかったよ。どこに、行っちゃったんだろうってさ・・・」
彼がいなくなったことへの小さな不満をぶつける。不満をぶつけたのにも関わらず、なぜだか彼の雰囲気が和らいだ。心なしか、彼から小さな安堵のため息が聞こえた。
「・・・すみません、ユーリ。少し、夜風に当たって気分を落ち着かせようとして・・・」
え?気分を落ち着かせる・・・?そんなに、気分が高揚するようなことなんてあったか?
怪訝に尋ねる。
「コンラッド?」
しまった、というように口に手を当てるコンラッド。
今夜のコンラッドは、様子がおかしい。いつもは、完璧で取り付く島もないのに。こんな隙だらけのコンラッド見たことがない。
何か、悩みでもあるんだろうか。
人知れず言えない悩みとか・・・?
「コンラッド・・・・何か、悩んでいるのか?俺、あんたの悩みだったら何だって相談に乗るよ・・・何でも言ってくれよな?!俺たち、名付け親と名付子の、眞魔国の親子コンビだろっ?!」
何だろう、言った途端に、コンラッドから覇気が無くなった。俺、なんか彼に言っちゃいけないこと言ったか?
彼は、全ての色彩を消し去るような声で、淡々と答える。
「いいえ・・・本当に何でもありませんから、大丈夫ですよ、気にしないで下さい」
そんな、こんな調子で言われて、気にするなって言うほうが無理ってもんだろ?
もう一度、彼に尋ねようとしたときだった。
彼が、いつもの優しい微笑みで俺に囁いた。そっと、俺の両腕を掴みながら。
「心配かけて、御免ね。ユーリ。本当に、何でもありません」
彼はすっかり、いつもの調子に戻った。
俺の、気にしすぎだったのかもしれないな。
「ねぇ、コンラッド。いつもみたいに頭撫でてくれないかな?」
彼がすっかりいつもどおりになって安心した俺は、彼に甘える。だって、コンラッドって暖かくて、安心できるんだもんな。さっき、幸せそうな恋人達を見てたら、なんか無性に寂しくなっちゃったんだよ。
「御免なさい、ユーリ。出来ません」
意外な答えが返ってきた。いつも、俺のお願いを何でも聞いてくれるコンラッドが、あっさりと断ってきた。
胸がざわめいた。ひどく悲しかった。噴水の湧き上がる水の音がむなしく響き渡った。
そっと、コンラッドを見上げる。
すっかり、彼は無表情になっていて、何の感情も読み取らせてくれなかった。
俺の苦手なコンラッドの表情。彼がたまに見せる、何者をも受け付けない、というような要塞のように隙のない・・・・その表情。
そりゃあ、いつもなんでもお願いを聞いてくれるっていう時点でかなりありえないことなんだと思うけど・・・。俺、そこまで高度な要求をしてないと思うんだけどな。
もしかして、俺・・・すっごい嫌われたのかな・・・。いつも、コンラッドに甘えすぎて・・・うっとおしかったのかな・・・。頭を撫でるのも嫌なほど・・・触りたくもないほど嫌われたのかな・・・・。
涙が溢れそうになるのを必死に堪えた。ますます、コンラッドに嫌われてしまったら、辛すぎるから。
ふと、うな垂れた先に、自分の腕時計が見えた。右手の甲を自分の方に捻り、時間を見た。
もうすぐで、真夜中の12時だった。
そうだ、コンラッドが俺のことをもっと嫌いになってしまう前に、いっそこのまま地球に帰ってしまおう。このままだと、コンラッドの前でみっともなく取り乱してしまいそうだから。
俺は、にわかに立ち上がり、夢中で噴水に飛び込もうとする。スカートの裾が優雅に翻る。
「っ・・!」
右腕に、鋭い痛みが走る。コンラッドが俺の腕を咄嗟に掴んでいた。
「ユーリ・・・!!行かないで・・・・」
コンラッドが俺を胸に抱き寄せる。
ひどく切羽詰った、掠れた声が闇夜を裂く。
そのまま、しばらく彼の腕の中に抱きしめられる。
すっかり、嫌われたと思っていたのに、どうして俺のことを抱きしめてくれるんだ・・・?どうして、地球に帰ることを引き止めるんだ・・・?
コンラッドが、そっと俺の右腕を掴んで、その腕時計を見つめる。
「もうすぐ、12時ですね。ユーリはシンデレラみたいだ・・・」
「コンラッド?」
彼の真意が分からずに、彼を見上げたときだった。
切れ長の瞳を切なく揺らすコンラッド。
「12時になる前に、俺を置いて居なくなってしまう気でしょう?シンデレラのように」
甘く情熱的な瞳が俺を映し出す。先程の何も読み取れない瞳とはまるで違うその熱い瞳。著しい彼の表情の変化に、鼓動が早くなる。
「ユーリ・・・・、シンデレラはお城から帰るとき、ガラスの靴を残していきます。・・・・貴方は、俺に何を残していってくれますか?」
「え・・えっと。その・・・」
彼の甘い声に思考が鈍る。なんと答えて良いのか、戸惑っている時だった。
「俺に貴方のキス・・・を残していって・・・・」
彼の言葉の意味を深く考える間もなく、両腕を掴まれて彼の顔がゆっくりと差し迫る。
逃げようと思えば、逃げられる筈なのに・・・身体がいうことを利かない。魔法に掛かったように、じっと彼からのキスを待つ。身を焦がすような甘い気持ちが俺を支配する。
胸がいっぱいで、瞳を瞑る。
刹那、夜気に触れて冷たい彼の唇が柔らかく俺の唇に重なり合う。
高鳴る鼓動。
胸に満ち足りた充足感。
こんな気持ち、生まれて初めて。
何だろう、俺の中の足りなかった物が、コンラッドのキスで埋め尽くされていくようなこの幸せな気持ち。
躊躇いがちに、唇が離される。彼の揺れる瞳に俺が映る。
「ユーリ・・・・。貴方からの忘れ物・・・キスを受け取りました。このキスをしるべに貴方を再び見つけ出します。それまで、どうか俺のことをお待ち下さい、俺のシンデレラ」
そっと、彼に抱きかかえられて、噴水の中に優しく足を浸した時だった。凄まじい、渦が沸き起こり、その中心に吸い込まれていく。
時計の針が、12時を指していた。
まだ、コンラッドとずっと一緒に居たかった。けれど、巻き起こる水流に強制的に地球に送り返されてしまった。
俺は、シンデレラのドレスのまま、狭い渋谷家の浴槽にいた。急に現実に戻された。夢から醒めたような気分だった。
けれど、彼から感じたあの切なくて甘い気持ちは一向に冷めなかった。もっと彼と一緒に居て、彼に感じた、甘い満ち足りた気持ちの正体を突き止めたかった。
ふいに、唇に手を当てた。初めて触れた彼の唇。
コンラッドは、俺に言ってくれた。このキスを頼りに、俺を再び探し出すと。
俺のこの甘くて幸せな気持ちを探し出して・・・・コンラッド。
第十二編 =完
あとがき★★
シンデレラチックなコンユでしたvvvシンデレラっぽくしようとしたら、甘さが最大になった気が・・・。
ちょっと、コンラッドがキザ過ぎたかな・・・・・・・(汗
コンラッドは、ユーリが好きでたまらなくて、とうとう気持ちを抑えられずに、シンデレラになぞらえてキスしちゃったんですよ。
ユーリは、天然なので本当はもうずっとコンラッドのことが好きなのに、なかなか気づかないんですよ・・・・。
コンユ好きだ~(笑
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