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2009.4.22設置 『今日からマ王』メインです。 
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2009/10/07 (Wed)                  雪の王 ~雪の王国(1)~

  雪の王

  ――  雪の王国(1) ――


「嘘・・・・・・だろ?!」

 
 二人は、森の中で立ち尽くした。なぜなら、その先は、断崖絶壁だったから。

 けれど、ヨザックはコンラッドを振り返って、いたずらに笑うと、前に向かって走り出した。地面のない先へむかって―― !!

 その行動に、愕然とした。けれど、さらに驚くことになった。
 


 ―― どうして、どうして、普通に走っていられる?!

 ヨザックは、何もないただの空中を、まるで下に地面があるかのように、気ままに走っているのだ。

 呆気にとられていると、ヨザックが再び振り返って、歯を見せて笑った。

「嘘なんかじゃないですよ。この世には、ひとたび踏み出せば分かる世界ってものがあるんですよ。さぁ、こちらへどうぞ、旦那。きっと、探してる人もみつかりますよ」


 さすがに、脚がすくんだ。けれど、ユーリのためなら・・・・・・。

 意を決して、何もないはずのそこへ足を出した。
 うっかり、谷底を見てしまい眩暈がした。
 けれど、思い切って足に重心を移動させた。

 
 そのとき―― !

「そんな・・・・・・、まさか!!」

 何も無かったはずのコンラッドの足元には、どこまでもつづく雪原が広がっていた。

 目の前には、ダイアモンドのようにキラキラと輝く細かい氷が降っていた。
 陽光の加減で、鋭く輝いたり、ゆったりときらめいたり、金に見えたり、銀に見えたり・・・・・・とても幻想的だった。

 宝石のような雨の向こうには、壮麗な王宮がそびえていた。
 円錐形をもう少し柔らかくしたような、まるで飴細工のような形の屋根は黄金に輝いて、壁面の純白とのコントラストが華麗だ。

  建物の一部の優雅で緩やかな曲線が、基盤となる柱の素朴な直線と調和している、可憐でありながら豪奢な城だ。
 

 そして、後ろを振り返ったとき、もう森は跡形もなく消えていた。
 

「ヨザック?」

 そして、彼もまた幻のように消えていた。



*****
 

 純白の王宮に足を踏み入れた。
 奇妙な城だった。
 これほどまでに、立派な城のくせに、門番のひとりもいない。
 

 ―― これは、罠なのか?
 

 表情を硬くして、懐の短剣を握り締める。
 

 門番どころか、召使らしいものの姿さえひとりも見当たらない。
 

 自分のブーツが、木製の床を踏みつけるたびに、硬質な音が響き渡る。
 えらく空虚な響きだ。

 
 城は、外観以上に、豪奢な造りだった。
 

 そして、どうやら城の中の聖堂に入ったらしい。

 

 まばゆいばかりの金箔がちりばめられた壁面に、数々の宗教画が飾られている。
 大きな円柱が左右に等間隔にそびえていて、柱にまで宗教画が描かれている。   

 柱と柱の間には、聖像が一体ずつ置かれている。

 そして、参列者のための木製の長椅子が、正面の祭壇から通路を挟んで左右に10脚ずつ並んでいた。

 コンラッドは、その中央の通路を慎重に歩いていた。

 床からドームの屋根までは、なにも遮るものはなく、広々とした空間になっている。

 天井からは、きらびやかなシャンデリアが吊り下げされている。 建物の中央付近で立ち止まり、祭壇の上を仰ぐと、色彩豊かなステンドグラスから緩やかな陽光が差し込む。
 

 その陽射しに、わずかに眼を眇めたときだった。
 かすかに、人影か見えた。前方左手の円柱のうしろに。

「そこにいるのは、誰だ!?」
 

 コンラッドは、長椅子の間を縫うように駆けた。
 

 そのとき、ふいに柱から人影が現れた。
 

 薄い布切れを一枚身体に巻きつけただけの格好は、ひどく扇情的だった。

 白い布切れからすらりと伸びた華奢な四肢は、艶かしく、息を呑んだ。
 漆黒の黒髪、濡れたように黒い大粒の瞳には、黒くて長い睫毛が縁取られている。

 雪のように白い肌の美少年だった。彼は、素足で儚げに佇んでいる。
 

 そして、そのきれいな人は、ユーリだった。
 ずっと、さがしていたあのユーリだった。
 

 怜悧な眼差しに捉えられたまま、コンラッドは言葉を失った。
 ユーリの麗しい成長に、見惚れてしまった。
 

 そう、彼は俺がずっとさがしていたユーリ。大切な、可愛いユーリ。
 けれど、ちがう。ちがうんだ――。

  
 激しい違和感を感じた。

 胸をチリチリと灼きつくすような痛みは、しだいに身体を痺れさせるように、侵食していった。
 

 コンラッドは、その瞬間に悟っていた。美しく成長したユーリの姿をみた瞬間に。
 

 自分が、ユーリに抱いていた感情は、弟を想うようなそんな優しい気持ちじゃない。
 彼が、愛しくてたまらない、揺さぶられるようなつよい気持ち―― 彼に、恋をしていた。
 

 もうずっと前から。どのくらい、彼に焦がれていたのか。
 

「ユーリ・・・・・・」
 

 名前を呼ぶのが、精一杯だった。感情が昂ぶり過ぎて、言いたい言葉が浮かんでこない。

 ただ、愛しい人の名前を呼ぶことが、今できる唯一のことだった。コンラッドの熱い気持ちは、その名前に込められたはずだった。
 

「誰? それ?」

 けれど、目の前のユーリは、怪訝な顔をした。コンラッドは、思わず彼の肩を掴み、顔を覗き込んだ。
 

「ユーリ!? ユーリ、は大切なあなたの名前です」

「な・・・まえ? 俺には名前なんてない。雪の王サラ様のしもべだから」

 ユーリは、無感情な瞳で、抑揚のない声で、淡々と言ってのけた。
 その表情は、喜びも悲しみも憎しみもまるで感じられない。
 きれいな人形のようなユーリが、切なくて、たまらなかった。
 
「いいえ! 間違いなくあなたは、ユーリです! 俺と一緒に施設で育った、俺の大切なユーリです。よく、こうして抱きしめたでしょう?」

 思わず、ユーリを腕の中に抱きしめた。

 久しぶりに抱きしめたユーリは、しなやかに成長していながらも華奢な身体が頼りなくて、ずっと抱きしめていたかった。

 そのうえ、薄い布一枚に身を纏ったユーリは、雪のように冷たくて、儚くて、大切に大切に胸に閉じ込めていたかった。

 消えてしまわないように。
 

 けれど、まもなくユーリに腕を解かれてしまった。

「何のことか、まるで分からない。あんた、誰だよ」

 冷たい眼差しで、ユーリはコンラッドを突き放した。

 そのとき、背後から、ブーツの音がした。

 雪の王、サラだった。

 襞襟の衣装は、シルク地に繊細な金の糸で刺繍が施されていた。ゆるやかなドレープの袖やゆったりした膝丈のズボンが、可憐さを引き立てていた。

 華美な衣装を着こなすサラは、とても愉快そうに高笑いした。その度に、流れるようなプラチナブロンドが揺れた。

「はははっ、無駄だよ。もう彼は、私と長く居過ぎたせいで、昔のことを何一つ思い出せないんだよ」

「そんな、まさか?!」
 
 コンラッドは、ユーリの肩を再び掴んで、その瞳を覗き込んだ。

「ユーリ、あなたは本当にむかしのことを覚えていないのですか?」

「あんた、さっきから何を言っているの?俺は、最初からこの城でサラ様にお仕えしているんだ」

「ユーリ!!」

 思わず、手をユーリの肩にきつくくい込ませてしまった。

「痛っ―― ! あんた、しつこいよ」

 ユーリは、大きな瞳でコンラッドを睨み返すと、肩の手を払った。

 サラは、口元に手を当てて、くすくすと失笑した。

「だから、言ったでしょう。彼は、私のしもべなんですから。ね、そうでしょう?」

「はい、サラ様」

 鈴の音のような声で、彼は答えた。相変わらず、ユーリは無表情だ。けれど、そこに二人の間の妙な主従関係が垣間見えた。
 

 激情の波が、静かにゆっくりと押し寄せる。
 コンラッドは、二人を見つめたまま、立ち尽くした。
 

 サラは、優雅な笑みをたたえたまま、ユーリに甘い声で囁きかける。そのきれいな金色の瞳に、うっすらと碧色が混じる。
 

「君、そこの客人に、もっとよく教えてあげたら。ほら、こちらへ来て、跪いて私にキスをして?」
 

 サラは、甘ったるい声でユーリにそう告げると、長椅子に腰をおろした。

 プラチナブロンドが、ふわりと宙を舞う。

 ユーリは、その声に素直に従い、彼の元へ歩み寄る。

 今更ながら、ユーリは靴さえ履かされていない。裸足で床の上を歩く彼が、痛々しい。

 コンラッドの心が静かに、けれど確実に乱されていく。
 
 ユーリが、サラの足元に跪く。白い布地から、艶めかしい大腿部が覗く。

「ふふっ。君は、今日も可愛いね」

 サラは、悪戯な笑い声を立てる。その真っ白で華奢な手が、緩やかにユーリの内腿を撫で上げた。

「あっ・・・・・・、サラ・・・様っ」

 ユーリは、頬を朱にそめて身体を捩らせる。

 

 激情の波に、暗く深く捕らわれる。
 コンラッドは、きつく拳を握り締めた。掌に爪が鋭く食い込んでいく。

 サラは、長いブロンドの髪を耳に掛けると、ユーリに向かって甘く微笑んだ。

「ほら、くすぐったがってないで。ちゃんと、キスして?」

 サラが、華奢な腕をユーリの首筋に巻きつける。そのまま、サラは上半身を屈めていく。
 サラの唇がユーリの唇に、近づいていく―― 。
 

 ―― 耐えられない。
 

 瞼の奥に、閃光が走り、それが脊髄を駆け抜けた。
 反射的に、コンラッドは飛び出した。
 

「ユーリ!!」
 
 もう、ユーリしか見えなかった。駆けた勢いのままに、ユーリをサラから引き離し、強引に胸の中に引き寄せた。

 ユーリを抱えたまま、勢い余って聖堂の中央の通路に転がった。
 

 全身が、総毛立つほどに、激しい感情が迸る。

 

 サラへの憤り、ユーリへの独占欲、庇護欲、思慕の念が入れ混じり、溢れ、心が乱されていく。

「ちょっと、あんたっ!! な・・・に、するんだよっ、離せよっ――」

 俺の腕から逃れようとするユーリを、咄嗟に地面に組み敷いた。

 ユーリの細い両手首を、片手で抑え付ける。
 そのせいで、ユーリの両腕は万歳をするような格好になり、肌の露出が増えた。  
 さらにユーリの上に乗ったまま、脚を絡め、動きを封じ込める。

 懐から、片手でガラスの小瓶を出すとそれを口に含んだ。

 その瞬間、わずかに舌が痺れるような、ふしぎな甘い香りがした気がする。

 けれど、余裕のないコンラッドは、その液体をユーリの口内に口移ししていく。

「ヤッ・・・ンんっ!!」
 
 ユーリの漆黒の瞳が大きく見開かれた。
 けれど、すぐにその瞳は閉じられて、長い睫毛がふるえていた。

 止まらなかった。

 目的は、アニシナのくれた薬を、ユーリに飲ませることだった。大切なユーリを、取り戻すことだった。

 けれど、ユーリの唇はとても滑らかだった。そのうえ、液体を嚥下するたびに、唇から漏れる息苦しそうな可愛らしい声に、理性が吹き飛んだ。

 いや、そんなものとっくになくしていた気がするが。

 液体を移したあとも、ふっくらとした唇をそっと啄ばみ、その感触を確かめる。

 唇を覆ったまま、その表面を舌先でなぞる。そのたびに、身体を痙攣させるユーリが愛らしくてたまらない。

 そのまま、舌で唇をこじ開けた。口腔内で、互いの舌を絡め合わせた。なかば、強引に。

 息継ぐタイミングに苦労しているユーリが、切羽詰った表情で、わずかな唇の隙間から必死に酸素を取り込んでいる。

 その際に漏れる彼の声にならない音に、身体の芯がぞくりとした。

「ン・・っふぅ・・・はっ・・・んんっ」 

 ユーリの吐息に、我を忘れてしまった。ユーリの唇を奪い続けた。
 けれど、その最中に、ふいにユーリと眼があった。
 

 ―― 懐かしい・・・・、ユーリ!!
 

 僅かに開いた瞳のなかに、ひどく心を揺さぶられるものを見つけた。虹彩に、懐かしくてやさしいものがはっきりと滲んでいた。
 そう、間違いなく彼は元のユーリに戻っている。
 

 確信したコンラッドは、一度ためらいがちに唇を離した。

 予想どおりだ。

 目の前に、確かにあのユーリがいた。
 雪の日に、猫のアンニカを助けるといってきかない、正義感あふれるやさしい、表情豊かで、愛らしいユーリが。

 けれど、彼は眼をまん丸に見開いて、頬をピンクに染め上げていた。

「こ、ここ、コンラッドお兄ちゃん? どうして、大人になってるの?ってか、僕も大きくなってるし?! いやっ、そ、そんなことより、どうして、どうして、キ、キスなんてしたんだ?!そ、それに、ここはどこなんだ?!」
 

 どうやら彼は、あの雪の日のまま、記憶が止まっているらしい。
 一度におきた出来事に、思考がついていかないのも当然だ。
 

 ユーリに、出来る限りにやさしく微笑んで、そっと頭を撫でてあげた。
 彼に、今までの経緯を分かりやすく説明しようとしたときだった。



happy-yuuri.gif←画像クリックで前へ♪(前の話って、どんなだっけというときに最適です。そんんなんいわなくてもわかるわ~ですね、すみません)

happy-yuuri.gif←画像クリックで次へ♪


★あとがき
 え・・・と、サラとコンラッドが暴走してしまいました;えと、当サイトは、基本登場キャラ(主に男)がユーリに惚れてます。でも、正式CPはコンユみたいな。
 ヨザック、ごめん; ヨザコン風味も好きなんだけどね。
 

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