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閉じ込められた心 2
※ふつうにコンユです。
「・・・・・・っ!!」
暗い気持ちで目覚めた俺は、隣のユーリを気遣いながら、そっと上半身を起こした。夜間着は、ぐっしょりと冷や汗で湿っていた。
額に掌を当てると、そのまま前髪を上げた。
参ったな。最近繰り返し見る、この悪夢。当時の俺は、あんなことくらいにいちいち動じていなかった筈なのに。今更になって、こんなにうなされてしまうなんて。
平気なつもりでも、当時の俺は苦しんでいたんだろうか。
それさえ、気づかないほど、当時の俺は荒んでいたのか。
呆れたような、ほっとするような笑いが零れた。
きっと、今が幸せすぎるから、過去の出来事が悪夢として鮮烈に蘇ってしまうんだろう。
裏を返せば、それだけ今の俺は満たされてる。愛しい人のおかげで。
ふいに、心が重くなる。鈍い痛みが胸に広がる。
まだ夜明けには程遠い、黒一色の闇の中。窒息しそうなほどの深い夜に呑み込まれてしまう、そんな気がした。
ユーリを抱けない――・・・・・・。抱けるわけがない。俺の欲望を彼にぶつけるなんて、出来ない。
あいつらと一緒になりたくない。息荒く、俺を犯した獣同然の・・・・・・奴らのように、成り下がりたくない。
ユーリを大切に思うこの気持ちが、行為によって汚れていく気がして、怖い。
自分が受けた性行為は、痛みしか感じなかったから。それは、狂ったような肉欲に沈んだ暗いものだった。そう、そこから得られたものは何もない。からっぽの、支配欲を満たすだけの行為だった。
だからこそ、ユーリには手を出したくない。そのほの暗い欲望に、何もかも呑まれていく恐怖、正常に物事を感じられなくなっていく、心が知らずに乾いていく・・・・・・そんな思いをユーリに味わわせたくない。
大切に、大切に、護ってあげたい。少しだって、悲しませたくない。
ユーリは、俺の大切な恋人だから。
けれど、ユーリは最近、熱に浮かされたようにじっと俺を見つめる。
唇を離したあと、いつまでも、何かをいいたげな瞳で俺を見つめてくる。
彼が、何を望んでいるのかは分かる。
そのたびに、心が不安定に揺さぶられる。
少しでも彼を悲しませたくない気持ち、彼を護ってあげたい気持ちが、彼を全て奪い去ってしまいたい強烈な欲望に押される。
眩暈がするほどの、激しい葛藤に苛まれる。
そして、そのつど俺は、彼らと一緒なのではないかと、胸に突き刺さるような痛みを感じた。
「・・・・・・コンラッド?」
ひどく心細そうな、その声に我に返った。
「ユーリ? すみません。起こしてしまいましたか?」
「あぁ。だって、あんたすげーうなされてた」
ひどく心配しているユーリの声は、闇の中、頼りなく震えていた。
「大丈夫です。ただ悪い夢を見ただけですから。あなたは、心配しないで? 安心して、寝てください」
カーテンの隙間から漏れる薄明かりを頼りに、そっと彼の髪に指を差し込んで梳かす。シャンプーの優しい香りが、そっと漂う。
けれど、彼は俺の手を掴むと、上半身を勢いよく起こした。
「いや、ただの悪夢なんかじゃない! だって、あんたここのところ毎晩うなされてるんだよ?!」
「毎晩・・・・・・?」
少し非難めいたユーリの声が、俺の心に突き刺さった。
もしかして、ユーリに毎晩俺の悲鳴を訊かせてしまったのか?
ただの悲鳴ならまだしも・・・・・・、夢の内容通りの声を上げていたのだとしたら―― ?
悪い予感は、大抵的中するものらしい。
「なんか、コンラッドのうなされ方が普通じゃなくて・・・・・・。苦しそうだけど、妙に色っぽい声っていうか。だから、俺、なんとなくわかっちゃったんだ。コンラッドがどんな夢見てうなされてるのか」
背筋に冷たいものが、ひやりと伝った。今この部屋が、暗くてよかったと心底思った。とても表情を取り繕うだけの余裕がなかったから。
「コンラッド!!」
唐突にユーリが俺の胸に抱きついた。背中に回された腕は、切ないほどにきつく力が込められる。
心なしか、華奢な身体が小刻みに震えている。
けれどまっすぐな大きな瞳が俺を見上げた。
「コンラッドは、カッコいいし、綺麗だから。だから・・・・・・無理やり、男の人にそ、その襲われたりしたことがあるのか? それが、よっぽど辛い過去になって夢にまでみてうなされてるのか?!」
そこまで、一息に捲し上げると、ふと我に返ったようにユーリは声をひそめた。
「あ、ごめん。そんなこと、いいたくないよな」
けれど、再び意思の籠もった力強い眼差しで俺を見上げる。
「・・・・・でも、でもさっ、俺はコンラッドの恋人だろ? あんたが悩んでるのに、何もできないなんてたまらないんだ。どんな事実だって受け止める覚悟はあるよ。だから、お願い。もう、俺に隠すなよ。何だって一人で抱え込んで、すました顔してんなよ。俺は、コンラッドが過去にどんなことがあったって変わらずあんたが好きだよ!」
あまりにも、ストレートすぎるその直球勝負に、いつものことながら、俺の心は感銘を受ける。
けれど、その直球勝負を素直に受けるには、俺には疚しいことが多すぎる。
あなたは、俺をはなから被害者だと思っているのでしょう?俺は、あくまでも『無理やりに』襲われたと信じているのでしょう?
まるで、俺を疑わない真っ直ぐで濁りのない瞳に、心の奥底がかき乱された。
じくじくと心に暗いものが沸いてくる。俺は、あなたが思っているような出来た人じゃないんです。
「それが、無理やりされた行為でなくても・・・・・・ですか?」
ぞっとするほどに、自分でも驚くほど冷たい声がでた。
そんな声が出たのは、過去の自分へのやるせない憤りのせいだ。
そして、過去の何をするにも無感動で、まるで血が通っていなかったかのような自分を知ったら、さすがにユーリは俺に愛想をつかすかもしれない・・・という恐怖のために。
「コンラッド?」
「俺は、彼らを拒むことさえできたのに、それすらしなかった。だから、求められる相手には構わず相手に身を委ねました。あなたが思っていたような、俺はただの被害者じゃないんです。合意の上でのことなんです。軽薄な男に軽蔑したでしょう?」
初め、俺の言うことがまるで理解できていないかのように、ユーリは不思議そうな顔をした。まるで、想像していなかったことを言われて、心がついていけなかったのだろう。
そして、次第に俺の台詞を咀嚼し始めたのか、みるみるユーリの表情は曇っていった。俺のことを信じて疑わなかった、快晴のような潔さは、たちどころに曇天になり、とうとうユーリは泣き崩れた。
もちろん、後悔した。彼に全てを晒してしまったことを。けれど、隠してまで付き合うのは、卑怯だと思ったから。ユーリが相手だからこそ、綺麗に立ち振る舞えなかった。無様に、正直に、醜悪な過去を晒した。受け入れてもらえるなんて、そんな都合のいいことを期待していたわけじゃない。
ただ、ユーリに誠実でありたかった。
激しくむせび泣くユーリに手を伸ばした。けれど、触れることをためらった。
俺のことを軽蔑したであろう彼が、俺に抱きしめられたいわけがない。
広い王の間には、主人の悲痛な泣き声がいつまでも続いていた。
けれど、あまりに辛そうに泣き崩れるユーリを放っておくことなど出来なかった。
全身で悲しみを表す、大きく震えるその身体を、ついに強く深く抱きしめた。
その暖かさに、胸が痺れた。けれど、胸が痛い。この愛しい人をもう恋人として抱きしめてあげるのが、最後だと思うと。
最後に、こんなにあなたを泣かせてごめんなさい。でも、泣き止むまでは、恋人でいさせてください。
「コンラッド・・・・っ、あんた、そんな・・・に苦しかったんだ」
「ユー・・・・・・リ?」
「どうして、どうして俺はそのときに、あんたのそばにいてやれなかったんだ・・・・・っ」
耳を疑った。嗚咽をもらしながら途切れ途切れに紡がれるその言葉に。
俺を、責めていない?
それどころか、俺を思いやってくれてる?
胸の中で、震える彼は、それでも一生懸命に俺を見上げていた。相変わらず、濁りのない透明な瞳で。
彼は、俺を責めて泣いていたのではなかった。過去の俺の痛みを感じて、その痛みに同調してしまって、涙がとまらなかったのだ。
過去の俺のために、泣いてくれていた。
「あんたは、心が空っぽだったんだよ。自分の身も心もズタズタにしても構わないって思えるくらいに、きっと心が疲れきってたんだよ? そんな状態になる前に、俺がすぐにでも飛んで行って味方になってやったのに!!」
確かに、そのころは、心に闇を抱えていた。混血というだけで、好奇の目で見られることと、自分の兄弟にさえ受け入れられないこと。そして、母を傷つけたくないがために、その一切の思いを全て塞ぎこんでいた。
いつのまにか心は、閉じ込められて、何も考えられなくなっていた。本当は、辛く、悲しいと全身で叫びたかったのに。暗闇に押し込められて、素直な感情を吐露することさえままならなかった。
そして、本人でさえ、その痛みに気づかなくなっていたのに。
どうして、この人はすぐに人の痛みに気づいてくれるのだろう。
そして、改めて思い出した。俺が心の平静を手に入れられたのは、あなたのおかげなのだと。
あなたがあなたとして、可愛らしい産声をあげたあのときから、想像も付かないような満ち足りた気持ちになった。護るべきものができることは、こんなに、満たされるのだと、感激した。
そして、15歳になったあなたと再会して、共に時を過ごすにつれて、その思いは激しい恋に姿をかえた。
幸せなことに、あなたは俺の恋人になってくれた。
「ありがとう、ユーリ。俺には、今あなたがここにいてくれるだけで、もう十分に幸せです。俺のために泣いてくれてありがとう。でも、もう大丈夫だから。こんなに優しいあなたがついていてくれたら、何も悲しいことはありません。だから、もう泣かないで、ね?」
いまだに身体を痙攣させる彼を今一度、きつく抱きしめた。暖かくて、日なたの香りのするユーリの身体を確かに胸の中に感じた。
たまらない愛しい気持ちが溢れてきた。
わだかまり続けた、俺の些細なこだわりが、氷が解けていくように、とても自然に消えていく。
そして、眼が覚めた。
俺にとって、こんなにかけがえのない、生きがいのような彼が恋人になってくれたというのに、俺はなんて勘違いをしていたんだ。
こんなに好きなきもちがあるのに、肉体同士が結ばれることが汚らわしいわけがない。
俺を好きなように弄んだあいつらと、俺が同じなわけがないのに。どうして、そんな単純なことに気づかなかったんだろう。
ふいに、真顔のユーリが胸の中から、遠慮がちに俺を覗いた。幼い顔立ちなのに、その瞳の中には、ひどく大人びた包み込まれるような優しさが伺えて、たじろいでしまう。
「こ、コンラッド? あのさ、あんたが俺とえ、えっちしてくれないのって、きっと、さっきのトラウマでえっち事体が汚らわしいとか、思ってるから、なんだろ?」
そのものを言い当てられて、俺は面食らった。
ユーリの見せる本能的な勘の鋭さには、いつもはらはらさせられる。俺が、主導権を握っているようでいて、もうとっくにユーリに優しく包まれているのかもしれない。
ユーリは、黒く濡れる大きな瞳でじっと俺を見上げた。
その可愛らしい表情に、庇護欲がかき乱される。
大人びていると思ったら、急に少年のあどけなさに戻る。正直、そんな彼に俺は振り回されっぱなしだ。
「あ、あのさ。時間がかかってもいいから、えと・・・・、その、俺はコンラッドになら、え、えっちされたいし・・・・・・。きっと、大好き同士だから・・・・・。大好き同士でするえっちは、すごく幸せなことだと思うよ。って!!うわぁ、恥ずかしい、俺のばか!!」
歳相応に、可愛らしい態度を見せるユーリに少しほっとすると同時に、たまらなく愛しいと思う。
今までこだわっていた独りよがりの、わだかまりが消えた今、俺は、目の前の人が欲しくてたまらない。
偏屈に抑え付けていた欲望が、素直に正直に身体にあふれ出す。
けれど、決して苦々しいものじゃない。
寧ろ甘くて、切ない。たまらない多幸感で満ちてる。
「ユーリ、抱かせて?」
「はいっ?! い、今からっ?!」
ベッドを軋ませて、ユーリを押し倒す。
戸惑うユーリさえ、愛しい。もっと早くこうすればよかった。
「そう、今から。嫌ですか?」
ユーリの首筋に、唇を這わせながら甘い声で囁いた。
「・・・っふぁ・・・ンンっ、いや・・・じゃな、いよ?」
びくびくと身体を捩らせながら、甘えたような幼い声をあげるその唇に、甘い口付けを降らせた。
何度も柔らかくて熱い唇を啄ばみ、舌先で撫でる。愛撫に開いた、可憐な唇に舌を差し込んで、熱い粘膜を絡み合わせる。
互いの存在を何度も確かめ合った。
そして唐突に、唇を離して、俺の身体の下にいる潤んだ瞳のユーリを見つめる。
「嫌じゃないなら・・・・・・どうしてほしい?」
少し意地悪に、甘く囁いた。
「ばか・・・・・・。コンラッドの意地悪。でも、嬉しいよ。だって、俺ずっとあんたに抱かれたかったから・・・・・・!!」
それだけいうと、顔から火が出そうな勢いでユーリは真っ赤になって拗ねた。
「いじめてごめんね。拗ねないで、ユーリ」
再び彼の熱い唇にキスをして、夜間着のボタンを外していく。
熱にうなされたような、甘く上擦った彼の声に、俺は一晩中溺れることになった。
裏へ続く
ヒント:記事の右下の小さな英語
★あとがき★
地下室のわりに、表に置くような代物になりました。物足りない人すみません。
とりあえず、両思いになるところまでにしました。区切りがいいので(そして、力尽きたので・・・・・^^;)
いじいじしている次男が好きです。でも、火がつくと危険なんですよね、彼は。たぶん、そんな気がします。でも、今回の話は白次男で責めようかと思います。まだ、書いてみないとわかりませんが。次男視点のエロは久しぶりなので、どうなるか心配ですが・・・・・・。
ユーリは、心が広いから、いつでもコンラッドは救われているんですよね、きっと。管理人の妄想でした。
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