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the light of day 1 ※グウェコン(若獅子風設定です) ややR18気味注意
狭いライブハウスで、ライトに照らされる衣装は、レースが殊更に華美なゴシック調の白シャツ、身体にぴったりとした細身の黒パンツ。ヨザックの趣味で押し切られた衣装だ。その上、黒のリキッドアイライナーで瞳を囲み、瞼にはブラウン系のアイシャドウを塗っている。唇には、ヌードベージュのグロス……。
衣装は悪趣味だが、それでも音楽はいい。
コンラッドの指がエレキギターを縦横無尽に滑ると、それにシンクロするみたいにファンが、耳を劈くような悲鳴をあげる。メロディーラインの根幹を厚く低い音で先導していくヨザックのベース。気を良くしたコンラッドが、追い上げるように軽やかなメロディーを歌い始める。後ろを振り向けば、ドラムの勝利は、こちらのやりとりを楽しそうに眺めつつ、リズミカルな律動でこちらを追いかけ、纏め上げてくれる。キーボードの孝が、絶妙なところで曲に装飾をつけてくれる。
客席の期待が最高潮になったとき、ヨザックはコンラッドのマイクスタンドまで駆けつけて、声を張り上げる。まるで、マイクを奪い合うように二人でサビを歌い上げる。折り重なった二人の歌声に、観客も陶酔したように歌い始める。
コンラッドが、ちらと目だけでヨザックを見ると、ヨザックは心底楽しそうに笑い返す。普段なら、『顔が近い、化粧が濃い』などと彼を毒づくコンラッドも、音楽にどっぷりと浸かっているときは機嫌がいい。挨拶代わりに彼に片目だけ閉じると、再び身体の奥底に溜まったすべての感情を吐き出すように歌いあげる。アンプから流れるギターの唸るようなエフェクト音に身体を委ねながら。
何も考えずに、本能で音楽の渦に巻き込まれていれば、とても気持ちがいい。すべてが、音に溶けていくから。痛みも苦しみも、音となって昇華される。
今日も、最高の気分だった。欲にまみれた契約を結ぶまでは。
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光が眩い高層ビル群の中、ひときわ目を引くラグジュアリーなホテルに辿り着いた。コンラッドはタクシーを降りると、途端に纏わりつくような熱気に包まれて、眉間に皴を寄せた。賑やかにライトアップされたホテルのエントランスに目を眇め、足早にカウンターまで向かう。
コンラッドが受付の女性に名前を告げると、一枚のカードキーを渡された。コンラッドは、そのカードキーを、投げ捨ててやろうかと思った。けれど、唇を噛むだけに押しとどめた。口の中に広がる錆びた鉄の味に、顔を顰めることになったが。
ノックもせずに、カードキーを扉に差し込んだ。硬質な金属音……扉のロックが解除される音が、耳障りだ。
乱暴にドアを開けると、腹が立つほど広い部屋だった。ホテルの一室のはずなのに、そこにはスタイリッシュなリビングルームがあった。しばし、呆気に取られたコンラッドだったが、黒皮のソファに腰掛ける人物の存在が現実に引き戻した。優雅に白いバスローブ姿でくつろぐ男。コンラッドと同じく西欧人―― 長身に黒に近いグレーの長髪の男、グウェンダル・ヴォルテール。
「少し遅かったんじゃないか」
先日、ふざけた契約を持ちかけた張本人は、眉間に皴を寄せてそう言った。威圧的な低い声だ。
「来てやっただけでも、嬉しく思え」
鼓膜に絡んでくるような低い声を振り払うように、コンラッドはぶっきらぼうに言い放った。
「随分と威勢がいいな。だが、気の強い猫も嫌いじゃない」
長身の男は、鼻で笑うと、薄情そうな薄い唇の端を上げた。その態度にコンラッドの中で何かが切れた。
「くそっ、ふざけんなっ!」
コンラッドは、ソファに腰掛けたままの男に飛び掛り、乱暴にバスローブの胸倉を掴んだ。けれど、コンラッドの下で、男は顔色ひとつ変えなかった。ただ静かに、暗い青の瞳がコンラッドを見つめた。
「それでは、契約を破棄するか。私は、一向に構わないが、競争の激しい業界だ。お前だって、馬鹿じゃない。ここで、メジャーデビューの機会を逃したら、次はいつになると思う?」
悔しさとやり切れなさでコンラッドは、ぎりぎりと奥歯をかみ締めた。グウェンダルの胸倉を掴む手が、興奮して震える。けれど、男は傲慢な表情を崩さなかった。左手をコンラッドの頬に添えたかと思うと、ゆっくりと撫で下ろし、喉仏を指先でころころと擦った。さながら、猫のように。
「すこし毛色の違う猫を飼いたいと思っていた。週末だけ、私のところに通う気まぐれな猫で構わない……そういう約束だったな」
コンラッドの呼吸が速くなる。そうだ。目の前にいる男は、音楽業界で名の馳せたプロデューサー、グウェンダル・ヴォルテールだ。そんな彼が、コンラッドの在籍するバンドをメジャーデビューさせると言ってきた。ただし、コンラッドと恒常的に肉体関係を結ぶのが条件だった。
「ここに来たということは、もうお前も了承済みだろう?」
「……っ」
悔しいが、事実だった。もとより、インディーズだけで活動する気はなかった。ずっと音楽を続けていきたかった。そのために、現実問題としてメジャーデビューする必要があった。沸いてきたチャンスは、どんなものでも掴んでやる気だった。音楽を続けられる場所を与えてくれるなら、その代償に寝ることくらいたやすいと思ったのは自分だ。それだけ、音楽はコンラッドの中で大切な地位を占めていた。
「どうした、大人しくなったな。立場をわきまえたか。そろそろ、手を離してもらえるか」
グウェンダルは、嘲笑すると、胸元のコンラッドの手を絡め取り、引き寄せた。バスローブとシャツが擦れあう。ハーブ系のシャンプーの香りが鼻先を掠めた。大きく節だった手は、熱っぽく少し汗ばんでいた。
「舌を出せ」
低く囁かれた言葉は、コンラッドの頬を羞恥に染めるには十分だった。咄嗟にふざけるな、と目の前の傲慢な男を睨み返す。
「そんな表情も、そそるだけだ」
「……っ?! ん…ぐっ!!」
唐突に、長い指先が、強引に唇を割って侵入した。二本の指が、執拗にコンラッドの舌を嬲る。その長さや、柔らかさを確かめるように、ねっとりと舌を弄られる。指先が舌の上を滑り、喉元へと進むと、コンラッドは嘔吐反射に咽ぶ。滲む涙は、ゆるやかに頬を伝う。
そのとき、脳裏にいやな映像がよぎった。それは、卑猥で屈辱的な記憶だった。そのフラッシュバックした映像と目の前の出来事が同調し、コンラッドは微かに身体を震わせた。けれど、そんな姿に気づかれないようにと、コンラッドは、きつく目の前の男を睨み付けた。また、そうすることで、何とか自我を保っていられた。
「とても上等な猫だ。いい舌をしている」
グウェンダルが、ゆっくりとコンラッドの口から指を引き抜くと、だらりと卑猥に唾液が垂れた。耐えられずに目を背けると、ぐいと顎を掴まれた。その先にあったのは、冷酷な青い目だった。再び、じわり、とコンラッドの古傷が疼いた。
「さぁ、お遊びはここまでだ。物分りのいいお前なら、どうすればいいか分かるだろ」
「……」
威圧的な濃い青の瞳が、鋭くコンラッドを射抜いた。嫌だと否定する選択権は、もうない。そう強く思わせる瞳だ。
ソファの上で、ぴたりと身体が重なり合っているせいで、グウェンダルの中心が、バスローブ越しに硬く形を持っているのが伝わる。コンラッドは、一度固く瞳を閉じると、徐に白いバスローブの中に手を差し込んだ。嫌になるくらいすぐにそれを見つけ出すと、躊躇なく手のひらで包み込み、上下に摩擦を与えた。
グウェンダルは、刹那、ため息のような小さな声を漏らした。けれど、コンラッドはそちらを見なかった。自分の行為で、憎い相手が興奮するさまなど見たくなかったからだ。
早く終わるように、この状況から一刻も早く抜け出すために。コンラッドは、ひたすらに、熱心に忌々しい男のものを擦り立てた。
「必死だな。そんなに早く終わらせたいのか?」
「っ!」
唐突に冷笑を浴びせられた。グウェンダルは、暗く瞳を眇め、唇の端を上げた。傲慢なせいで、表情さえ乏しい男が不敵な笑みを浮かべた。
コンラッドの背中に、冷たい汗が滲んだ。ぞくりと冷たい不快感に、身体の奥から震えがくる。この既視感に。
「それなら、舐めろ。そのほうが早く終わるんじゃないのか」
不機嫌そうに、男は言った。内蔵を抉られるような鋭い痛みが、ちりちりと走り、頭が痛くなる。くそ、こんなときに思い出すなんて―― !
あの記憶は、そう簡単に忘れられるものではない。忘れるために、ヨザックと日本まで来て音楽活動を始めたというのに。
性的な強要をされることは、初めてではなかった。
日本に移り住む前、アメリカでのことだった。悪質な教師に目をつけられた。高校生のコンラッドには、どうしようもなかった。権威を振りかざし、巧妙な罠をしかける大人に太刀打ちできなかった。奴の言いなりにならなければ、冤罪で牢にぶち込まれるところだった。
だから、性的な強要を受け入れざるを得なかった。
その犯された記憶が、血液が流れるように当たり前のように思い出されていく。もうそんな映像見せないでくれ! と切望しても、それは自然に流れるように再生される。その度に、呼吸は浅くなり、酸素不足に眩暈がする。震えが止まらない。
唐突にがっしりと両肩を捕まえられた。
「興が削がれた。もういい、帰れ」
目前の男の声が、ひどく遠くから聞こえた。もう男の声が不機嫌なことも、ここに赴いた理由も、どうでもいいと思った。いや、どうでもいいというよりも、何も考えられなかった。
ただ、低い声に促されるままに、部屋を出た。
★あとがき★
うわ、鬱エンド(涙)ここから、二人をラブラブにするんだっっ。ついでに、ヨザックにもがんばってもらうんだ。いつになるかわからないけど…ごほっ、続きがんばろう。ついでに、ドラムの勝利(笑)にもちょっかい出させようかな。キーボードは、いきなり無関係キャラです。出番ないと思います。
鬱からハッピーへの流れがたまらないので、こんな事態になってしまった。ごめん、コンラッド。そして、イメージ汚してごめんなさい、グウェン。グウェン好きですから!グウェンダル、こんなんじゃないですよね、本当にごめんなさい(土下座)
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