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2009.4.22設置 『今日からマ王』メインです。 
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2009/09/03 (Thu)                  塾講師と甘い夏?! 第五話 揺れる気持ち

第五話 揺れる気持ち
 ※まだ彼らは夏休みです≪汗
   これから、ちょっとずつ話に動きが出てくる予定。





 今日は、登校日。久しぶりに、懐かしい顔に会えて嬉しいはずなのに。
  俺の心は、ずっと霞が掛かったみたいにもやもやしていた。

 半月ぶりの懐かしい教室の机に、突っ伏した。
   コンラッド先生のことを考えると、胸がすっきりしないんだ。

 彼は、訳あって、恋人ごっこをしてくれてる。

 でも、先生はどうしてあんな、あんなエロいことをしてくるんだろう。
 恋人ごっこだから、やむを得ずに、あんなことしてくるんだろうか?

 彼との情事を思い出して、体温が急上昇した。エアコンのない公立の高校では、きつすぎる。

「ど~したの?渋谷?なんか随分と不良債権でも抱えちゃったみたいだね」

 心が晴れない俺に、賑やかな友人の声が響いた。彼は、背格好も俺とあまり変わらない。強いて言うなら彼は、メガネをかけている。メガネ君、こと村田健だ。
 脱力仕切って、机に伏せている俺を、悪戯っぽい瞳で覗きこんでくる。

「債権回収してくれるのかよ。って、俺の親父が、銀行員だからって、なんでも金融用語言うな!」

 咄嗟に、言い返す。我ながら、いい漫才コンビだと思う。じゃなくてさ~。

 俺は溜息をつくと、彼に悩みを打ち明けた。そう、コンラッド先生とのことを。こんなデリケートで難解な問題を相談できるのは、彼くらいだ。

 普段は、ふざけたようなことしか言わないけれど、彼は俺を本気で馬鹿にしているわけではない。
 それどころか、俺のことを大切に思ってくれてる、頼れる奴だ。
 おまけに全国模試ではいつも東大がA判定の大賢者だ。


 けれど、そんな彼が俺の相談を聞き終えて、眼鏡を曇らせた。彼の眼鏡は、心情を映すらしい。
 低い声で彼は囁いた。

「渋谷、君は騙されてるんじゃないの?その先生に」
「そ、そんなことねーよっ?!」
 
 思わず上半身を起こして、全力で否定する。俺の叫び声に驚いた周りの級友が、一斉にこちらを振り向く。俺と村田は、周りに何でもありません、と選挙立候補者のごとく、手をひらひら振って営業スマイルしてみせる。

 クラスメートの視線が散ったところで、村田は、俺と先生の間に起きたことを、冷静に分析していく。いつの間にか村田は、出来る奴の顔になっている。

「英語の成績を上げるために、恋人のふりをするにしても、どうして渋谷にそんな性的なことまでするんだ?普通そんなことしないよ、良識ある大人なら」

 友人の言葉は、胸の触れられたくないところを刺していく。けれど、彼はおかまいなしに、話を続けていく。内容が繊細な物なだけに、彼は声を潜める。

「おまけに、彼は『俺『も』君のことが好きだよ』って言ってきたんだろ?狡猾な大人の手口なんじゃないか?あたかも君のほうが、自分に惚れているように錯覚させて、その上キスなんかして、思考を麻痺させちゃったんじゃないの?・・・・・・まぁ、外見のいい奴にしか出来ない手口だろうけど。駄目だよ、渋谷。人を見た目で判断しちゃ」

 彼の言葉がズキズキと胸を刺す。
 それでも、彼の言葉が止むことは無い。彼はいつも率直に意見を言ってくれる。それは、嬉しいことなんだけど、玉に辛い。

 聞いているのがしんどくて、俺は、また机に突っ伏した。
 机に突っ伏す俺の耳元で、彼は、ひと際声を潜める。

「渋谷は、彼の性の玩具にされてるんじゃないか?僕は、それが心配だ。世の中には、いろんな性癖を持った人が居るんだ。渋谷みたいな少年がいいっていう輩もたくさんいるんだよ。学校では、僕が、そういうのを影から排除してるんだけどね」
 
 再び、身体を起こして、彼を見た。
 にわかに、村田の眼鏡が光る。たまに、光るんです、彼の眼鏡は。
 おまけに、どさくさに紛れてとんでもない事実を発見した気がする。
 新大陸を発見したコロンブスもびっくり的な。

 いや、それより、何だよ、何だよ、『俺が先生の性の玩具にされてる』って!!

「渋谷、悪いことはいわない。ただちに、今の関係を解消するべきだと思う。何なら、僕が協力しようか?」

 彼は、握手を求めるように、手を差し出してきた。
 けれど、俺はそれを拒んだ。

「いい、いいよ!自分のことは、自分で何とかするよ。俺、村田みたいに頭の回転はいいほうじゃないけど、もう立派な高校生だよ!」

 彼の協力を拒んだのは、そのくらい自分で何とかできるという自負の念もある。
 でも本当は、それ以上に、先生との関係が終わるのが嫌だと思ってしまったから。
 例え、村田の言うように、彼が俺のことをただの『遊び』としか見ていないのだとしても。

 ―― 俺とのことが『遊び』?

 改めて、そう言い切ってしまうと、頭をガンと殴られたような衝撃が起こった。

 違う、違う! 俺は、先生を信じてる。信じたい・・・・・・。
 
 さっきまでは、先生が『俺の勉強意欲をあげるために恋人ごっこ』をしてくれてると思ってた。それでさえ、悲しくなってきたところだったのに。

 ―― そうだよ、俺、悲しかったんだよ!
 だって、先生が俺に好きって言ってくれるのも、優しい笑顔も全部が、恋人としての演技だなんて、辛すぎるじゃん!

 それなのにさ―― ただの遊び目的だったなんて、もっと嫌だよ! 嫌過ぎるよ!


 嘘だろ?! 
 それってつまり、俺、先生のこと、本当に好き・・・・・・になっちゃったんだ?!

 なんてことだろう、今頃、気づくなんて。
 俺、随分前から、彼に惚れてたんだ・・・・・・。

 あまりのことに、身体中の力が抜けてしまった。
 今や、俺の机は、本来の役割を全く果たしていない、枕代わりになってしまった。

「渋谷?」
 友人が心配そうに、俺を見つめていることに気が付いた。

「ご、ごめん。心配かけて。相談に乗ってくれて、ありがと、な」

 村田は、力なく頷いた後、強い意志をもった眼差しで、こちらを見た。

「渋谷、君が性的なことを拒んでみればいいよ。彼の本性が分かるさ」

 彼の助言が、いつまでも頭の中で響いた。





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