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2009.4.22設置 『今日からマ王』メインです。 
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2009/08/10 (Mon)                  塾講師と甘い夏?! 第三話
第三話 遊園地デート 
※途中から裏へ続きます。


  先生は、俺の学習意欲をあげるために、必死で恋人ごっこをしてくれてる。

 数日前に、イタリアンレストランで、お祝いケーキなんて用意してくれた。
 ――二人の付き合う記念に・・・・・・って。

  しかも、その日に携帯番号を交換して以来、塾がなくて遭えない日は毎晩、先生から電話がある。

 正直、こんなにいい先生はいないと思う。

 ありがとう、コンラッド先生! 胸も尻も平坦な、つまんない少年と恋人のふりなんてしてくれて! そこまでして、俺の英語への学習意欲をあげようとしてくれてっ! 

 彼の努力を無駄にしないためにも、俺は、最近机に向かう時間が増えていた。おかげで、最近ようやくSVOCが呪文じゃないってことは、分かった。
 
 兄の勝利には、それが晴天の霹靂だったらしい。勉強をしている俺のところへ来ては、『ゆーちゃん、さては男ができたな?お兄ちゃんは、心配だ!誰だ、言え、言うんだ~~』と背後から羽交い絞めにする。あまりに騒音なので、椅子に座ったまま、肩を水平に回して、必殺! 肘鉄を食らわす。みぞおちに俺の肘がクリーンヒットして、ゴフっと、呻いて、崩れる兄。懲りない兄の日常の姿だ。

 まったく、ふつうは、『彼女でも、できたな?』とかだろ。何だよ、男が出来たな、って。コンラッド先生は、そんなんじゃないよ。そりゃ、キ、キスしたりしたけどさ。それも、全部、塾講師としての采配なの!

 ふいに、俺の部屋に、水戸黄門の着信音が流れる。

 コンラッド先生からだ!

 部屋から兄貴を引きずり出すと、ドアを閉める。携帯の受話ボタンを押す。

「ユーリ、今電話してもよかったですか?」

 彼の声が、聞こえるだけで部屋の中がぽかぽか陽気の春になったみたいだ。
 先生、甘い、甘いよ、声が。
  携帯越しに聞く彼の声は、いつ聞いても、殺人的に甘い。

「うん! 全然、いいよっ」

「よかった。貴方の声が聞きたいと思っていたところだったんです」

 で、でた~、殺し文句。相変わらず、甘ったるい声。
   耳から、融けてしまいそうデス。

「先生、ちょっと演出がすごすぎるよ~?」

「・・・・・・? 演出?」

 暫しの沈黙と疑問符。電話の向こうで、先生が困惑する様子が伝わってきた。
 あれ?俺、変なこと言ったかな?あ、そうか!折角、恋人同士の演技してるのに、これは興醒めな発言だったかも。

「ごめん、何でもないよ。先生。俺も、先生の声が聞きたいなぁって思ってたよ。それに、先生の声が甘すぎて、おかしくなりそうだったよ」

「貴方の事が、好きですから。声だって、際限なく貴方に甘くなってしまうんですよ。甘い、ついでにもう一つ。明日、一緒にデートしてくれませんか?」

 さりげなくすごい台詞を言われた気がしたけど、俺の関心は『デート』という単語にロックオンした。正確には、デートという名の、レジャーに、脳内の『遊びたい』願望が、アドレナリンを大放出させた。

「やった~? デート! 明日、日曜日だから先生も塾無いんだ?俺、遊園地とか行きたい!」



 と、いうわけで。コンラッド先生に家まで迎えに来てもらって、遊園地に行くことになった。幸い、勝利はゼミの合宿で朝早くから家を出た。おふくろと親父は、熟年デートに出かけていた。

 時間通り8時にやってきた先生を見て、ハリウッドスターかと思った。
 夏らしく爽やかなオフホワイトのジャケットに、淡いブルーのインナーシャツ、ダメージジーンズ―― カジュアルながら、大人の色気漂うファッションだった。
 俺、なんか、隣で歩くのが憚られるなぁ。ハリウッドスターの横に並ぶのは、大量生産型のボーダーのTシャツと、カーキのチノパン姿の、平凡な男子高校生、渋谷有利です。
 男として、全面的に降伏です。

「お待たせしました、どうぞ、ユーリ」
 夏のきらめく陽射しを受けて、助手席の扉を開ける先生。色素が薄いせいか、眩しそうに細められた瞳は煌いていた。端整な薄い唇は、品良く口角を持ち上げられていた。
 そんな美形すぎる彼の顔を見ていたら、もう次元が違いすぎて、少しでも比べていた自分が馬鹿らしくなった。
 彼に、エスコートされるままに、元気良くポルシェに乗り込んだ。

「ねぇ、コンラッド先生、今日はどこの遊園地に行こう?」

 ダークグリーンの車体が目も綾なポルシェに乗り込むと、わくわくしながら、先生に尋ねた。

「実は、もう行きたい場所があるんです。着いてからのお楽しみです」
「マジ?! すっげ~、楽しみっ」

 はしゃぐ俺に、先生は流し目で微笑んできた。
 わ、なんか、すっげ~照れる。本物の恋人同士みたいじゃん。

 陽射し除けのために、ジャケットの胸ポケットからティアードロップのサングラスを取り出して、掛けるコンラッド先生。
 トップガンですか?トム・クルーズですか?ってな勢いでカッコいいデス。

 軽快なエンジン音を立てながら、車は高速道路に乗った。圏央道インターチェンジから乗り、中央道に合流する。

 何気ない会話をしながら、車に乗ること一時間半。河口湖で高速を下りると、目の前に巨大な遊園地が見えてきた。絶叫系マシンで有名な、眞魔国ハイランドだ。


 夏休みの日曜日の所為か、駐車場は車で一杯だった。入り口から、大分離れたところに、ようやく車が泊められた。

 駐車場からは、当遊園地の目玉のジェットコースター『エンギワル鳥(すげー名前だ)』が存在感を見せ付けていた。数学の教科書でも放物線は見たことがある。でも、それを嫌いな教科書の中で見るのと、大好きな遊園地で見るのとは全然違う。今、目の前にある放物線に痺れた。

「うわっ!コンラッドせんせ~、エンギワル鳥じゃん! 早く乗りたいっ!」

 くすっ、と優しく微笑む先生の手を引っ張って、エントランスに駆け込む。

 先生が当たり前のように、二人分の入園チケットとフリーパスを買ってくれた。自分の分くらいお小遣いから出そうと思ってたのにな。

「ごめん、先生。出費がかさんじゃったよね?俺、園内で、飯とかおごるから」
 ふわっと、栗毛を風にそよがせて、微笑まれた。

「貴方は、俺の恋人ですから。そんなことは、気にしないで。俺のほうが、社会人ですし。でも、どうしても気になるなら――」

 少し、意地悪な顔になる先生。
 瞳を細めると、上品な唇の端を片方だけ吊り上げる。

「あとで、たくさん、キスして?」

 例のごとく、甘い声が耳元で囁かれる。
 ころされる~!
 顔から火が出そうなくらい真っ赤になった俺は、先生の手を強引に引っ張って、ジェットコースターを目指した。恥ずかしくて、顔が見れなかった。

 俺たちは、途中で軽食をとりながらも、有名どころのジェットコースターを制覇した。日曜日で、人が多くて待ち時間が無駄に長かったけれど。半ば、強制的に先生を、絶叫マシーンと、気が遠くなるような待ち時間につき合わせてしまった。だって、どれも乗りたかったんだ。

 『エンギワル鳥』は、放物線の頂上から落下したと思ったら、激しいトルネードが襲いかかった。急な落下で、無重力状態になって、お腹がふわふわしたまま、回転地獄が待っていて、アドレナリンが爆発した。

 『くまはち』は、出発と同時に、爆発的なスピードで突進した。あまりの機体の速さに、乗客の叫び声が、瞬時に不気味な残響音に変わった。本当に、心臓が止まるんじゃないかっていうくらい、例のGとやらを体感した。自分の体重の5倍くらいの重力を一瞬にして受けた。『くまはち』なんていう可愛い名前とは、えらい違いだ。

 他にも、いっぱいあっただけど、挙げたら切りがない。

 大満足した俺は、先生と一緒に、ジュースを買ってベンチで休んだ。いつの間にか、頭のてっぺんにあったはずの太陽が西に傾いていた。二人の影が、オレンジの霞んだ光の中、長く伸びる。

「はぁ~、めっちゃ、楽しかった!」

 俺は、脱力仕切った身体をベンチに預ける。
 そっと、コンラッド先生を見遣る。彼の柔らかそうなブラウンの髪の毛が、夕日に染められて、綺麗な金髪になっていた。
 眼が合うと、橙を帯びた瞳が優しく細められた。

「ユーリに楽しんでもらえてよかったです。ところで、これから行きたいアトラクションがあるのですが、ついて来てもらえますか?」

 爽やかに微笑まれた。


 そう、爽やかに微笑まれたから、俺はてっきり観覧車にでも行くのかと思った。

 それなのに――!!

 え、え~と、これは何かの間違いじゃないですか?いや、そうであってほしいデス。

 目の前にそびえ立つ、古びた洋館。遊園地特有の嘘っぽい造りの建物でなく、廃墟の洋館をそのまま持ってきちゃいました、みたいな概観には引いた。

 ツタの絡まった、石造りの二回建ての重厚な洋館。石造りの円柱が何本もそびえ立つその様は、ギリシャ建築を思わせた。

 入り口に、『最恐、血盟迷宮』と書かれている。説明書きには、最短徒歩40分、リタイア可能と書いてある。おまけに、一組ずつ、時間をずらして入るらしい。

 徒歩40分のおばけ屋敷ってなんだよ?! しかも、最短で40分?!
 ありえねー。どうやら、人間がおばけの役をして脅してくるみたいだし。いや、洋館だから、おばけじゃなくてゴーストか?モンスターか?ってそういうことじゃなくて!!

「こ、コンラッド先生?まさかとは思いますが、ここに入ったりしませんよね?」
 おそるおそる、彼の様子を伺う。

 
「おや、ユーリは怖いのですか?」
 さも心外だとばかりに、俺を挑発するかのような先生。

 う、俺の男気を試そうってわけか?!
 し、しかたない。
「べ、別に怖くなんかねぇよ。行こう、先生!」



 
 ランプを入り口で渡されて、俺たちは洋館の中に足を踏み入れた。

 く、くそっ。怖くなんかないんだからな! 俺は、無敵の高校生男子だ!
 むなしくも、自分で必死に奮い立たせる。


 一階の中央に、螺旋階段らしきものがあるのが見えた。けれど、直接そこへは行くなとでも言うように、広い敷地には、高さ一メートルほどの柵が迷路状に張り巡らされていた。ご丁寧にも、一階の全部の部屋を通らないと、階段を登れない仕組みになっていることにようやく気づいた。柵をよじ登れば、とんでもないショートカットになるけど。

 そこは、まるで沼地の中の廃墟だった。手元のランプのおかげでかろうじて見える足元の木製の床は、腐食していて、そこから雑草が、まばらに生えていた。苔のような泥のような、不快な感触が常に足元に感じられた。靴からは、湿った音が響いた。   鼻を突く、かびたような湿ったような嫌な匂い。リ、リアルすぎないか?
 天井には、今にも消えそうな薄灯りを、不気味に点滅させたシャンデリアが、ぶら下がっていた。それには、幾重にも重なった蜘蛛の糸が張り巡らされている。

 まだ、お化けさえ出てきていないのに、この不気味さ。
 まるで、これから起きる悪夢を予感させる静かな恐怖。

 背中を嫌な汗が伝い落ちる。

「ユーリ?大丈夫?怖かったら、手を繋ぎますよ」

 この恐怖の中での彼の声は、一段と頼もしくて、甘えてしまいたい。けれど、こんな恐怖の中でも、俺の中の男としてのプライドが僅かに残っていた。
本当に、欠片ほど。ベビーチョコ一粒くらい。

「いっ、いいよ。だ、大丈夫だから」

 精一杯、虚勢を張る。ってか、もう声がどもってるんですけど・・・・・・。

「そうですか?いつでも、怖くなったら教えてくださいね」
 超絶なほどに、冷静な先生の声が聞こえた。どうして、こんなときに、そんな態度で居られるんだよ~~。
 こっちは、もう、さっきからいっぱいいっぱいだってのに~~!


 最初の扉のノブに、先生が手を掛けた。彼の後ろで、俺は息を潜めていることにした。もはや、男気ゼロだ~。だって、怖いんです、怖いんです。

 ゆっくりと、扉が開けられていく。ギギ・・・・・・と蝶番ちょうつがい の音が気味悪く響く。

 絶対何か仕掛けてあるに違いない!ああ、もうやだ。 

 次第に開けられていくドアを見ているのが、耐えられなくて、ぎゅっと固く目をつぶ った。

 刹那、後ろから手首を掴まれた!
 ゾクッとするような、冷たさと、気色悪いぬめりが、皮膚をざわっと刺激した。

「うううっぎゃあぁあああ~~~!!」

  
  脊髄反射的に、俺は飛び上がった。何も考えられず、障害物競走のごとく、一目散に次々とフェンスを越えて、螺旋らせん 階段を駆け上った。
「ユーリっ!」
 遠くで、先生の声が聞こえた気がした。


 勢いに任せて、2階の一室に飛び込んだ。
 肩で大きく息をして、ドアの前に座り込んだ。床に敷かれた絨毯らしき、毛皮の感触に全身が粟立った。

 カタタ、と不穏な窓の音が聞こえた。不気味な冷気が頬を撫でた。ぱっと顔を上げると、そこは、蝋人形だけが窓際に一列で展示されていた。中世ヨーロッパの王候貴族、騎士、農民といった蝋人形たち。ドアのほうを一様に向けられた蝋人形たち。

 ここまで、一気に駆け抜けてきた所為で、力が抜けて動けない。地面に座り込んだまま、息を詰めて、人形と見つめあっていた。目を逸らしたいのだけど、なにか違和感を感じて、目が離せない。

 ふと感じた違和感。
 
 先程から、たくさんある蝋人形の何体かの目がまばた きをしている・・・・・・気がする。いや、気のせいじゃない。俺は、視力のよさが売りなんだ、と威張ってみる。
 人形の目・・・・・。動くはずのないもの。それがたしかに、パチパチと生身の人間のごとく静かにまばた きを繰り返している。激しい違和感が、背筋を凍らせる。

 突如、廊下のほうで激しい物音がした。びくっと、反射的に後ろを振り返る。

 けれど、当然ながら目の前にはドアがあるだけ。誰かが入ってくる気配もなかった。小さく息を吐き、前を振り返る。

 ひ・・・・・・、な、なんだこりゃ~?!

 先程まで、一列で俺を見つめていたはずの蝋人形の内の数体が、俺の回りを取り囲んでいた。その上、さらに、じりじりと距離を詰めようとする彼ら。その動きは、有名なホラー映画を彷彿ほうふつ させる。

 ぞ、ゾンビだ~~~!!それも、格式高い中世ヨーロッパ封建制度バージョン~~!!

「コンラッド~~!!」
 先生、なんて敬称をつけている余裕がなかった。
 だ、だめだ、やられるっ!ゾンビが俺にまさに食って掛かろうとしたとき―― !

 蹴破るような勢いで、ドアが開く音が聞こえた。

 軽やかな足取りで、誰かが俺の元へ駆け寄る。ヒーローの登場か?!
 黒い影が王様ゾンビと、王女様ゾンビの間を風のごとくすり抜けて、俺の側にたどり着く。にわかに、俺の膝の裏と肩甲骨に温かい腕が差し込まれた。

 俺は、そのままふわっと宙に浮いた。
 途端に、とてつもない安心感で満たされた。

 凛とした、けれど甘い香りがした。

 はっとして、俺を抱える人物の顔を見上げた。

 薄闇の中でも、端整な顔が良く見えた。むしろ、窓から差し込む月光が、彼の顔に恐ろしいほどに綺麗な陰影をつけていた。

 ヒーローっていうより、王子様だ―― コンラッド先生。

「ユーリ、彼らはお化け役のエキストラだから襲うふりはしますが、実際に手を出してきたりはしません。安心してください」

 彼は、俺を抱きかかえたまま、ゾンビ役の彼らの間を冷静に通り抜けていった。

 なんで、こんなに冷静で居られるんだろう、本当にカッコいいなぁ。同じ男として、憧れるって言うか、尊敬しちゃうよな。

 その後、出口に向かうまで、先生はずっと俺を横抱きしてくれた。

 途中で、突然横からミイラ男が飛び出したとき、俺は、驚いて思わず先生の胸に顔を埋めた。でも、先生は耳元で大丈夫だよ、って甘く囁いてくれた。先生の厚い胸板とシャツのすべらかな感触、優しい先生の声で満たされて、怖さは露となって消えていく。
 さっきまでは、あんなに怖くて堪らなかったのに、今は、くすぐったいような甘い気持ちでいっぱいだった。

 だから、自分が今どんな状態か、気づかなかったんだ。

 出口で、やたら従業員や、他の客が、俺たちのことをジロジロと見てくる。

 それで、ようやく気づいた。

 俺、高校生男子が、ハリウッドスター並みにカッコいい青年に、『お姫様だっこ』されてるという現実に―― !!

「ば、ばかっ! コンラッド先生!いつまで俺をお姫様抱っこしてるんだよっ!」

 
俺は、大慌てで、先生から下りた。真っ赤になって、先生を睨んだ。

「すみません、ユーリ」
 まったく悪びれた様子もなく、爽やかに先生は微笑んだ。多分、この場に居た、女子全員がノックアウトする微笑み方だった。

 なんだか、俺はとんでもない相手と恋人ごっこなんてしてるんじゃないか?

 甘い不安が胸をよぎった。



第三話 表=了
裏の入り口 ヒント 右下、英語

 裏のイメージ絵 観覧車の中のコンユvよかったら、大人の方は、読んでください。








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