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2009.4.22設置 『今日からマ王』メインです。 
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2009/09/10 (Thu)                  塾講師と甘い夏?! 第七話 ラブレター

第七話 ラブレター


 断じて酔っ払いではないが、飲みすぎて(ジュースを)フラフラする俺は、夜の雑踏ざっとうを縫うように歩いていた。

 そのとき、肩に鈍い痛みが走った。胃もたれを起こして、千鳥足で歩いていた俺は、向こうから歩いてきた人にぶつかってしまったらしい。

「すみませ・・・・・うわっ」
「おい、どこ見て歩いてんだ~?」
 どすの利いた声と共に、シャツの胸倉を掴まれた。今時珍しいリーゼントの金髪に、夜なのに黒いサングラスをかけたお兄さんの顔が大接近していた。ついでにいうと、彼は、リゾート全開のアロハシャツを着ていた。
 
 多分、一番ぶつかってはいけない部類の人だ。

「あ、あの、すみません、ちょっと自棄やけ飲みをしていて」
「はぁ?あんた、どうみても高校生だろ?可愛い顔してんのに、飲酒してたのかよ?」
「いやぁ、あのだから、お酒じゃなくてジュースを飲みすぎてて」
「ぐだぐだ言うな!とにかく、俺にぶつかった詫びを入れろってんだよ」

 男は、俺の襟首を掴むとそのまま路地裏に引き連れていった。周りの人たちは、ドナドナのごとく連れられていく俺を見ないふりをしていた。なに、俺、売られていくの?
 いつから、哀れな子牛になったんだ。じゃなくて。

 いつの間にか俺たちは、人の少ない危険地帯にいた。危険を感じた俺は、彼に交渉を試みる。交渉人 渋谷有利だ。なんちゃって。
「あ、あの詫びって?かつあげですか?あの良かったら、この財布差し上げます。ノーブランドですが。ついでにいうなら、財政難のため残高380円ですが。吉牛なら食べられますから」
「てめぇ、馬鹿にしてんのかぁ?!」
 しまった、交渉決裂。余計にヤンキーの怒りを買ってしまったっ。ヤンキーか・・・・・・ヤンキーズに一文字足りない。ああ、そうじゃなくて。

「ああぁ、すいません、すいません!堪忍して~!」
 何故か似非えせ関西弁が出てきたし。

 
「落とし前、きっちりつけてやらぁ~!」
 ひ~、やっぱり似非えせ関西弁は駄目ですか。ヤンキーが腕を振り上げ、俺が眼をつぶったとき。
「お待ちなさい!」
 凛然とした女性の声が、闇夜をつんざく。

 す、スケバン刑事か?!
 思わぬ救世主の登場に、ほっとしたのも束の間。その人物を見て度肝を抜かれた。
「ジュ、ジュリアさん?!」

 俺の頭が、急速に働きだした。正義感の強い彼女は俺のことを放っておけなくて、こんな火の中に飛び込んできたんだ。
 飛んで火に入る夏の虫ならぬ、夏のお嬢さん状態だ。(ちなみに『夏のお嬢さん』も、村田のカラオケ十八番だ)
 そんなことよりっ! ジュリアさん、駄目だ、自らこんな野蛮なヤンキー狼に近づいたら!!
 お嬢様の彼女が、彼に太刀打ちできるわけがない。それこそ、スケバン刑事でもあるまいし。

 案の定、グラサン男は下卑た笑いを浮かべて彼女ににじり寄っていく。
「こんなマブいねーちゃんが、どうしたんだ?俺に用があるのか?ほら、用があるならこっちへ来い?へへへ」

 俺は、居た堪れずに飛び出した。
「ジュリアさ―― !!!」

 けれど、俺の目の前には予想外の展開が待ち受けていた。

 ジュリアさんが白のスカートを華やかにひるがえしながら、流れるように相手との間合いを詰める。
 彼女が優雅に白い腕を振り上げると、長い髪が花のように舞う。清らかな長い腕は、鋭く空を切る。彼女の手刀は、正確に男の顔面を叩き切った。
 一刀両断スタイルだ。 まるで空手のような動作だった。

 か、カッコいい!ジュリアさん!
 
 宙を舞っていた彼女の髪やワンピースが定位置に戻るころには、男はにやけた顔のまま、地面に仰向けに転がった。

「大丈夫?渋谷君?さぁ、彼の意識が戻る前にここから離れましょう」

 俺、まさか、お嬢様に助けられるとは。それも、こんなに美人で儚げな彼女に。それも、恋敵こいがたきの。いや、恋敵なんていうのもおこがましいんだけどさ。だって、清楚で美人で、知的な上に、喧嘩まで強いなんて無敵すぎる。

 ぼさっとしていた俺は、彼女に腕を掴まれて、大通りへ出た。二人して、雑踏を駆け抜けると、大通りに面した駅前の喫茶店に入った。チェーン展開をしているカフェスタンドだ。
 近くには派出所がある。さっきの男が追いかけてきても、いざとなれば交番に駆け込めばいい。

 俺は、とても飲み物を飲めそうになかった(おまけに財布の残高も少しだったし)ので、ジュリアさんに珈琲だけ買って、席に着いた。

 仕事帰りのサラリーマンや、OLで店内は賑わっていた。明るすぎない照明が店内を柔らかく包んでいた。深緑色のソファと丸い木製テーブルで統一された店は、二面がガラス張りでスタイリッシュだ。ただ、本来ならいい香りの珈琲の匂いが苦痛だったけど。

 ジュリアさんが座るソファの、向かい側に腰を下ろした。
 
「はい、これよかったらどうぞ。助けてもらっちゃったし。俺は、諸事情で今飲み物を受け付けないんだ」
「ありがとう。いただくわ・・・・・・とっても、おいしいわ」

 少し珈琲を口に含むと、にこりと花が綻ぶように、彼女は微笑んだ。
 いまだに信じられない。こんな可憐なお嬢様が、チンピラを気絶させたなんて――。

 彼女は、少し悪戯いたずらな顔をした。
「ねぇ、あなた、コンラッド先生のこと好きなんじゃない?」
「はい?!ええええっ?!」
 
 彼女の思いもよらない一言に、盛大に取り乱した。ドリフのコント並みに、飛び上がった。特殊メイクなしでも、顔が真っ赤になってしまった。
 
「貴方ってば、私とコンラッド先生を見て、塾を飛び出していっちゃったから」
「えぇっ、知ってたの?!だ、だってさ、二人して階段の裏で手を取り合っていたから。いたたまれなくって・・・・はっ」
 
 しまった。これでは、先生に惚れてます宣言したも同然だ。慌てて口を手で押さえて、彼女を見遣った。彼女は、にっこりと邪気なく微笑んだ。

「ふふっ、やっぱり。薄々そうじゃないかとは思っていたんだけど、塾まで抜け出して行っちゃうから確信したの。ごめんなさいね。嫌な思いをさせて。誤解のないように言っておくけど、私は先生のことを異性として好きなわけじゃないわ」

「ええっ? コンラッド先生を振ったの?」
 眼を丸くして彼女を見つめると、彼女は微笑んだ。

「先生も私のことを好きなわけじゃないわ。だって、私は先生から合気道について学んでいただけだから。階段の裏で、手を握っていたのも、手刀を正確に相手に当てるレクチャーを受けていただけよ。早速、さっき実践させてもらったわけだけど」
 
 彼女は、少し手を振り上げる動作をして、悪戯に微笑んだ。
 た、確かに、すごい破壊力だったけど。
「せ、先生って合気道やってるんだ?」

「えぇ、先生の実家は合気道の道場を開いているのよ。明日もそこへ通わせて貰う約束をしたわ。合気道について学んでいるだけで、それ以上のことは何もないわ。本当に、誤解させてゴメンね。嫌な思いをさせて御免なさい」
 彼女は、申し訳なさそうに微笑んだ。

「で、でも、先生にラブレターをだしたって言ってたのは?!」
 往生際悪くも、彼女に問い詰めた。男の嫉妬は、醜いぞ、と。

「え、ラブレター?!あぁ、もしかして手紙のことかしら。ラブレターだと思っていたのね、渋谷君は。違うのよ、それも。先生ってば、いつも授業中、背中に隙がないのよ。どうして、あんなに強い気が溢れているのか、気になって。そうね、先生の強さの秘密を知りたくて、それでお手紙を出したのよ。私も強くなりたくて。ほら、お嬢様学校って、よくない方が度々いらっしゃるから、彼らをこの手でくじきたかったの。先生なら何か手助けをしてくれると思って」

「な、なんだ。そうだったんだ」

 くじくとか、すごい単語が聞こえた気がするけど・・・・・・。いやいや、それより、要は彼女は先生に出したのはラブレターじゃなかったんだ。そんでもって、ジュリアさんとコンラッド先生は、恋人同士でもなんでもなかったんだ。

 正直、安心した。いや、それどころかたまらなく嬉しい!

 俺って、なんて現金なんだろう。本当に、コンラッド先生のことが好きでたまらないんだな。

「ねぇ、それより、どうして、先生のことがすきになったの?教えてくれる?」

 頬が緩む俺の前に、瞳を好奇心でキラキラ輝かすジュリアさんが居た。古今東西、女の子は恋愛話が好きらしい。

 俺は、今までのいきさつを話した。赤点を取った日に呼び出されたから、居残り勉強かと思ったら、俺『も』好きだよって先生に言われたこと。なぜ、俺『も』なのか、疑問だったことも。でも、それは、俺の勉強意欲を上げるための先生の冗談めいた芝居だと思ったこと。
 赤点を取った負い目から、先生の芝居に付き合う決心をしたこと。  
 でも、そのうち、本当に先生が好きになったことを話した。
 
 さすがに、エッチな部分は省略した。
 本当は、先生にとって俺とのことは、エッチ目的だなんてことも伏せておいた。

 
 ジュリアさんが愕然がくぜんとする。
 
「渋谷君?貴方は、なんて天然なの?どうして、先生の一世一代の愛の告白を、勉強意欲をあげるための芝居だなんて受け取ってしまったの?!」
 
「ええぇ?なんで?」
 俺は、口をぽかんと開けて、彼女の言葉に耳を傾けた。

「先生が生徒に性的な悪戯をして送検されるこのご時勢に、そんな『恋人ごっこ』なんて、やっかいなことするかしら?本当に、純粋に貴方を愛しているから、気持ちを抑えられなかったんでしょう?思わず、告白してしまったんでしょう?貴方への愛にやましい気持ちがないから、生徒という難しい立場の貴方に告白できたんでしょう?」

 愛の女神然とした彼女の啓示に、胸がじんと痺れた。

 彼が、俺のことを本当に、愛してた?!
 どうして、俺は、そういう風に考えなかったんだろう。
 嬉しさと同時に、自分の大馬鹿ぶりを恨んだ。

「で、でもなんで、彼は俺が先に告白したかのような言い方をしたんだろう。俺『も』好きですって。」

 何かをひらめいた顔をするジュリアさん。みるみる白い頬は、朱に染まり、幸せそうに微笑んだ。

「そうよ、彼はその日、貴方に抱きついて、俺『も』好きだよっていったのよね?先に貴方からのアプローチを受けての返答よね?どう考えても。そうなのよ!!その日って私がコンラッド先生に手紙を出した日なのよ。あくまでも、その手紙は、先生への尊敬の念を綴ったつもりだったんだけど。そういえば、あの手紙は誤解を与えるような内容だったわ。『先生の内面から滲み出るものに惹かれました。一度ゆっくりお話をしてくれませんか』って書いたのよ。それも、差出人をイニシャルの筆記体で書いていたわ。私は意外と字が汚いのよ。ほら見て。」

 彼女は、鞄からペンとノートを出すと、筆記体のJとYを書いてくれた。驚くことに、彼女の書く筆記体のJは、Yと限りなく似ていた。

 い、意外だ。彼女は字が苦手だったんだ。

 「もしかしたら、いいえ、もしかしなくても、コンラッド先生は私の書いたイニシャルを読み間違えたのよ。Y.S 有利 渋谷 だと思ったのよ。クラスに、Y.Sは貴方だけだもの」

 彼女は、瞳を輝かせると、俺の手を取った。

 「そういうことだったのよ。よかったわね、渋谷君。貴方からラブレターを貰ったと思った先生は、たまらず貴方に愛を告白したのよ! 彼の愛は偽物じゃないわ。貴方は、本当に愛されているのよ。勉強の意欲を上げる恋人ごっこなんかじゃないわ」

 俺は、なんて馬鹿だったんだろう。
 あれは恋人ごっこじゃなくて、コンラッド先生が真剣に俺を大事にしてくれてたんだ。

 どうしよう。俺、先生があんなに甘く、優しく、俺のことを見つめてくれたのに、大事にしてくれたのに、それが、本物の気持ちだって気づいてあげられなかった。
 それどころか、身体目当てなのかもなんて悩んでた。

 だから、だからあの日――俺の学習意欲を上げるために恋人ごっこしてくれてるんだよな――なんて、言ったから、先生は俺に失望したんだ。

 あの日の先生は、どこか怒っているようにみえた。それは、俺が、馬鹿すぎたからだ。先生が、心から俺のことを想っていてくれたのに、俺は、その大切な気持ちを、ちゃんと受け止めていなかったことが露呈したから。
 
 きっと、先生はこんな俺に愛想を尽かせてしまったんだ。

 でも、先生にちゃんと言わなきゃ。
 初めは恋人ごっこに付き合ってるだけのつもりだった。
 だけど、気がついてみれば、先生が大好きで堪らなくなってるって。
 先生のまっすぐで誠実な想いを、歪めて受け止めてごめんなさいって。

 今すぐ、謝りに行きたい―― !
 俺だって、心から先生に惚れちゃったって言わなきゃ。
 
 俺の強い意志が瞳に投影されたのか、ジュリアさんが俺を見て力強く頷いてくれた。
「私が、彼の家を案内してあげる!」



★あとがき★

 次回、いよいよ最終話です。なかなか二人がいちゃいちゃしないところばかりですみません。お付き合いくださりありがとうございました。
 最終回は、飛びぬけて甘甘なコンユを書きたいですvvもちろん、裏も書きます。
 しばらくお待ち下さいです。
 

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