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2009.4.22設置 『今日からマ王』メインです。 
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2009/12/01 (Tue)                  ヴァンパイア スレーブ 第四話 

第四話 ヴァンパイアの契り

※第三話の裏を書く予定でしたが、あまりに長くなったので第四話にしました。四話こそ裏に続きます。



 つい、流れに任せて彼のデートとやらを引き受けてしまったわけだけど・・・・・・。

 先ほどから、横抱き、いわゆる姫抱きをされたままずっと深い色合いの夜空を飛び続けている。
 さながら、アラジンみたいな。いや、ヴァンパイアなんだけどさ。

 夜空にしては深い蒼色にうっすらと白が混ざったような、爽やかなロイヤルブルーの中を、文字通りに飛んでいる。おとぎ話のように。

 オフィス街や市街の灯りは、遥か下に、薄雲に透けて小さな星屑のように見える。
 複雑な蒼色に包まれながら、雲の中を突き抜けるたびに、天空の星屑が透明な夜空に広がる。思わず弛緩した身体に、澄んだ空気がいっぱいに広がる。

 自然の絶大な、ため息がでるような美しさに触れていると、本当に今夢を見ているんじゃないかと思えた。

 コンラッドが俺を抱きかかえながら、徐々に下降しはじめた。
 頬をゆるやかに冷たい夜風が撫でていく。

「寒くないですか、ユーリ」

 ふいに甘い声で囁かれた。それと同時に、マントを巻きつけられた身体をきつく抱きしめられた。
 声の主を見上げると、蒼色を映す色素の薄い瞳が、優しく細められた。

 その甘い顔に、気が落ち着かなくてあさっての方を向いてしまった。

「べ、別に寒くないよ。あんたが抱きしめながら俺をマントで覆ってくれてるしさ。でも、お姫様抱っこはやりすぎだろ?」

「そうですか。この姿勢のほうが安定感があって、あなたにとって一番くつろげる姿勢かと思いまして」

「あ、なんか、ごめん」

 何で、こんなに俺中心に考えてくれるんだろう、コンラッドのやつは。
 なんとなく、彼の優しさを踏みにじった気がして、思わず謝った。

「いいえ、気にしないで下さい。あなたは、私の御主人様なんですから、何でもご命令下さい」

「ご、ご命令って! やっぱり、俺いまいち御主人様になる自信がないかも・・・・・・って! あれ、レインボーブリッジ? それに、東京タワーか?! ってお台場かよ?! いつのまにか、東京まで来ちゃったんだ? すげー、車だと家から2時間位かかるのに。さすが、快適なお空の旅は違うな。飛行機じゃなくて、ヴァンパイアだけど。それにしても、すげーいい景色・・・・・・」

 連なる高層ビルの壮大な灯りや、列を成す自動車のヘッドライトの流れるような白銀の光の渦。東京湾にかかる虹のように繊細なフォルムのレインボーブリッジは、キラキラの光の装飾を、深い闇を映す水面にさえ映し出す。

 そして、白銀のライトとは対照的な、燃えるような紅色を含む橙色の強い光を、まるで巨大な蝋燭台のような鉄塔に灯らせる東京タワー。

 光の渦に吸い込まれてしまいそうな、まばゆいばかりの景色に胸が躍る。
 光の只中で、コンラッドは俺を抱えたまま、しばし佇む。

「気に入っていただけましたか、ユーリ」

 相変わらずの甘ったるい声で俺に呼びかけるコンラッド。多分、彼は溶けそうに甘い顔で俺を見ているにちがいない。
 なんとなく至近距離でそんな顔を見上げるのが恥ずかしくて、景色だけを見渡していた。

「うん、すっげー綺麗! あんたの言ってたデートってここのこと? 綺麗だけどあんたがいうような変な刺激はなくてよかった!!」

「ユーリ、残念ながら、ここではありませんよ。もう少しだけ、お付き合い下さい」
「そ、そうなんだ」

 なんとなく嫌な胸騒ぎを感じた俺の直感はすごい。俺たちは光の渦を通り越えて、深い山奥へと突入することになった。

 ええっと、確か墓地が物騒だからデートに誘われたんじゃなかったっけ?てか、そもそも男同士でデートって何だよ?!今頃になってやっとそこに違和感を感じるなんて、俺も相当おかしくなってきてるのか?

******

 深い深い山奥には僅かな月明かりしかない。さきほどまでのまばゆいばかりの光の世界とは対照的だ。

 コンラッドに姫抱きされながら、山の斜面を飛行する。かなりの低空飛行だ。舗装されたアスファルトの斜面から5メートルほど浮いている程度だ。

 そうだな、例えていうなら電飾でやかましいデコレーショントラック、略してデコトラの運転手くらいの目線かな。いや、乗ったことないんだけど。
 あぁ、でも今まさにその派手な電飾の光が欲しい。

 アスファルトの両サイドには、眼をつぶりたくなるような真っ黒のシルエットの広葉樹が風に揺られてさざめいている。しかも、地表の近くには不自然な霧が発生していたりする。

 ここまで、不気味なほどに暗闇が続くと、よからぬことばかり思い出してくる。そう、先ほどの形容しがたいゾンビの容姿とか、あのどろっどろの手の感触とか!!

 たまらずに、コンラッドの胸元のマントをギュッと掴んだ。

「ユーリ? 寒いですか?」

 コンラッドは、俺が寒いのだと勘違いしたらしい。甘い声を少し心配そうに潜めるとひときわ強く俺を抱き寄せた。そのせいで、彼の端整な顔が驚くほど接近した。

 心配そうに切れ長の瞳を揺らして俺を見つめてくる。いいのか悪いのか、こんなに至近距離だと、暗闇でもコンラッドの整った顔がよく見える。
 かすかに薔薇の香りのするサラサラの彼の前髪が、俺の前髪に軽く混ざる。

 きっと、俺が女だったら、一撃で恋に堕ちそうなシーンだった。

「あ、えと、ごめん。なんでもないから」

 俺は、ぶっきらぼうに言い捨てながら俯いた。
 彼の甘い顔を見ていると、何だか落ち着かないから。

 ふいに、冷たい指で顎先を掴まれて、そっと上を向かされた。

「すみません、御主人様。俺の我が儘につき合わせてしまって」
 だから、またそんな顔するなよ。
 俺は、コンラッドの心から寂しそうなこの顔にかなり弱いらしい。

「あぁ、もういいから! どうせ振り回すなら、最後まで責任を持って振り回してくれよ」
 コンラッドを見上げながら、少しふくれっ面でフォローする。

「ユーリは、本当に優しい御主人様ですね」
 途端に、優雅に微笑むコンラッドから目を逸らす。

「だから、御主人様いうな」 
「そうでした、ユーリ。それに、もうすぐで目的地にたどり着きますから」
 その言葉に反応して、思わず見上げた俺に、彼は軽くウィンクをした。

 うう、こんなキザなことをしてもまるで嫌味じゃない。

 それどころか、軽く女子みたいにときめきそうになった。いや、違う。これは、同性への単純な憧れみたいなもんだよ、そうそう。ウィンクまで似合う端整な顔でいいなー、みたいな。

 なんて、必死にときめきかけた言い訳を考えてる俺って、いったい・・・・・・。

「なにかとても楽しそうことを考えているんですか? 顔がころころと変わって、可愛らしいですよ?」

「!! か、可愛い言うな! べ、別にあんたの顔がカッコよくて、ウィンクされてときめいたことへの言い訳とか考えたりしてねぇから・・・・って、俺は何言ってんだ!!」

 コンラッドは、柔らかい笑い声を立てるとそっと俺を地面に下ろした。靴の裏に、少し湿った土の感触がした。

 正面を見渡すと、いつのまにか視界が開けていた。視界を遮る木々がなくなったために、月明かりが煌々と輝きを放った。

 ここは、山の中にある野原だった。いや、野原というよりも人工的に作られた公園というほうが近い。自然美を生かした自然に近い公園という感じだ。中央には月を反射する大きな池があった。

 そして、それよりもなぜかこんな山奥に中東風の平たい屋根の石造りの洋館があった。おまけに、窓からうっすらとオレンジ色の灯りがチラチラと覗いている。

 ―― なんで、こんなところに洋館が?!

 けれど、その疑問など、どこかにいってしまう。
 ふいにコンラッドが、俺の顎先を掴んで、唇が触れそうなほど近くに顔を寄せたから。

「本当に、可愛らしい御主人様だ」
 
 可愛らしい御主人様って、何だよ・・・・・・なんて言葉が浮かんできても、何もいえなかった。わざとらしいくらいに心臓がうるさくて。唇に触れる彼の吐息が甘くてくすぐったくて。思わず、身体から力が抜けてしまいそう。

 けれど、タイミングよく再びコンラッドに横抱きにされた。
 すごく安心感に満たされた。思わずまじまじとコンラッドを見つめてしまった。

「ユーリ、頼みますからそんなに無防備でいないで下さい。さぁ、着きましたよ。我らがヴァンパイアの夜会へようこそ、御主人様」 
 
 な、な、なんだよ?! ヴァンパイアの夜会って?!

 信じられない言葉をいうコンラッドに愕然とした。けれど、そのときにはすでに俺は彼に抱えられたまま洋館の扉の前にいた。確か、洋館までは100メートルくらい離れてたはずなのに。あ、そうか、ヴァンパイア的猛スピードだ。

 なんて、もう、そんなことどうでもいいっ。

 俺をおうちへ帰してーー!!

******


 
 アーチ型の凝った装飾の鉄格子の扉が開かれて、奥の木の扉が重々しく開かれた。
 黒と白の市松模様のタイルに、一歩脚を踏み入れた。

 とてもじゃないけれど、恐ろしくて顔を上げられなかった。だって、ここにはヴァンパイアがうじゃうじゃいるんだろーっ。

 地面しか見ていなくても、フロアに流れるクラシック調の優雅な音楽や、男女っていうかヴァンパイアの談笑や、食べ物の匂い、ワインらしい香り、挙句には彼らの長い脚が見えてしまう。男の人は、コンラッド同様に長いマントに黒いズボン、黒の皮靴だ。女の人は、どうやら中世ヨーロッパ的なドレスらしい。エリザベス女王みたいなふわふわのスカートが、彼女らが歩くたびに優雅に舞っている。

 意外にも、部屋は灯りで満たされていたおかげで、彼らの姿が見えてしまう。
 なんて異空間に招かれてしまったんだろう、俺。

 怖さのあまり、歩きながらコンラッドの手をぎゅうぎゅうと握りしめてしまう。

「ユーリ、心配しないで。少し挨拶をするだけですから」
「あ、あ、あ、挨拶?って、しゃべらないと駄目なんですかっ?!」

 ああ、俺の馬鹿。コンラッドの台詞に驚いて顔をあげてしまった。おまけに、素っ頓狂な大声を挙げたせいで、ヴァンパイア達の熱い視線を独り占めですよ。

 顔を上げてわかった。ここは、人種の坩堝ならぬヴァンパイアの坩堝だった。白色人種系が圧倒的に多いが、黄色人種系のヴァンパイアや黒色人種系のヴァンパイアまでちらほらといた。
 ヴァンパイアもグローバル化の時代なのか? 
 ああ、もう、そんなことどうでもいいっ。
 駄目だ、腰が抜けそう。何せ、渋谷家は大のヴァンパイア嫌いで、俺はそれに洗脳されてきたし。

 ああ、よく考えたらコンラッドもヴァンパイアなんだ。俺、よくコンラッドの御主人様になんてなったよな。

「ユーリのおかげで、手間が省けたみたいです」
「ひっ!!!」

 考え事をしている間に、急に人口密度ならぬヴァンパイア密度が濃くなっていた。

 俺たちの周りは、ヴァンパイアでぐるっと囲まれてしまっていた。だから、どうして彼らはこんな驚異的スピードなんだ?!おまけに彼らは、じっとりと俺を食い入るような目つきで見てくる。
 にやりと笑う彼らの口元にはそれぞれ鋭い刃が覗いている。

 お、俺は食料じゃありませんからーっ。

 そのとき、輪の中から一人が流れるような不思議な動きで、こちらに詰め寄った。

 本当にヴァンパイアか?と疑いたくなるような眼が覚めるような金髪に、サファイアブルーのきらめく瞳の持ち主だった。背格好は、俺と相違ないが、顔の作りが圧倒的に違う。相当な美少年だった。

「貴様! 人間か?! どうして、こんなところに紛れ込んだ?!」

 天使のような容貌の彼は、その華奢な手で俺の胸倉を掴み、たちまち小悪魔のような険悪な表情で騒ぎ立てた。

 ってか、人間が来ちゃだめなんですか?だって、コンラッドに招かれたんですけど?! こ、コンラッドさん?!今にもなきそうな俺は、コンラッドを縋るように見つめた。

「ヴォルフラム! よすんだ。彼は、私の御主人様となられたユーリ様だ」

 コンラッドにしては珍しく険しい声だった。コンラッドは、ヴォルフラムの手を払うと俺を庇うようにマントの中に包み込んだ。

 途端に、周囲のヴァンパイア達からは、感嘆のため息が零れた。彼らの目つきが、ひどく柔らかく羨望の眼差しのようなものに変わった。どうやら、彼らの中で俺は食料ではなくなったらしい。よ、よかった。

 けれど、天使のようなヴォルフラムという彼だけは、喚き散らした。

「これだから、兄上は!! いまどき人間に隷属するなど、時代錯誤もいいところだ!!」

「あ、兄上ってことは、この金髪美少年は、コンラッドの弟か?」

「そうです、ユーリ。それより、ヴォルフラム、いいかげんによしてくれ。我が主が怯えてしまうだろ」

 コンラッドが、美少年に凄むと、彼はなおも不服そうにしながらも、踵を返した。けれど、再び振り返ると俺を睨みつけた。

 ひー、ヴァンパイアに睨まれたぁぁ!!膝ががくがくと震えてしまう。綺麗な顔だけに、凄むとものすごい迫力だ。

「ふん、そんなに怯えて情けない! 俺は、お前のような人間に兄上が隷属することなど認めないからな!! 今もうひとりの兄上を連れてきてやる。覚悟しろ!!」
「ヴォルフ!」

 ヴォルフラムは、去り際にも激しい怒りを顕わにしていた。ってか、もうひとりの兄上って誰ですか?その人って怖いんですか?!

 俺は情けない顔で、コンラッドを見上げた。

「ユーリ、心配しないで下さい。私の兄は、今は日本でヴァンパイアの長を務めています。どのみち、彼には俺達の仲を承認してもらう必要がありますから。だから、ね、心配しないで、ユーリ」

 同じヴァンパイアなはずなのに、コンラッドに囁かれるとすごく安心する。懐かしいような優しい、甘い声は、心地がいい。

「うん、ありがとう、コンラッド」

 嬉しくて、にっこりと彼に笑いかける。すると、周囲から甘いため息が零れる。まぁ、羨ましい主従関係ね、恋人みたいなものよねぇ、なんてギャラリーから囁かれる。

「ち、違いますからっ。恋人じゃありませんからっ!! はっ!!」
 俺ってば、なにヴァンパイア相手に軽口叩いてるんだ?!どんだけ命知らずだよ?

 途端に固まる俺をみて、彼らは失笑した。コンラッドまでも!!

 堪らずコンラッドを睨みつけるも、心の中は軽くなった。これだけのヴァンパイアの巣窟にいながらにして、和やかな雰囲気になれるなんて。

 案外、ヴァンパイアは、話が分かる種族なのかもしれない。渋谷家ではこんなこと言えないけど。何せ、大のヴァンパイア嫌いだから。

「貴様か、コンラートの主人になった人間とやらは」
「うひっ!!」

 腹のそこに響くような、まさしくヴァンパイアといった重低音とともに、これまたいかにも渋い美形ヴァンパイアといった容貌の長身の男に突然、顎先を掴まれた。

 だから、少しくらい俺が見えるように行動してくれよっ。し、心臓が止まる・・・・・・。やっぱり、ヴァンパイアは怖い!!

 間違いない、きっとこの眉間に皺を寄せながら俺を睨みつけるこの彼が、コンラッドの兄なんだ。濃灰色の髪は無造作に一つに纏められている。灰色がかった碧い瞳は、不機嫌そうに細められている。

 な、なんか俺、めちゃくちゃ嫌われてるよっ、こ、こえーっ。コンラッドに全く似ていないこの兄弟達からは、俺は相当嫌われているらしい。ってか、どうすんだよ、彼らヴァンパイアだぞ。

 俺は、食料にされるのかーっ?!

「グウェンダル、手を離してください。彼は大切な私の主人ユーリです」

 コンラッドが嗜めると、すぐにコンラッドの兄というグウェンダルは俺の顎から手を離した。
 けれど、相変わらず眉間に皺を寄せて、腕組みをしながら不機嫌そうに俺を見おろす。コンラッドよりもさらに長身で、体格のいい彼は、ものすごい威圧感だ。おまけに、睨まれてるし。当たり前のように、背筋に冷たいものが流れていく。

「ふん、いかにもお前の好きそうなタイプだな、コンラート。魂の資質といい、がさつそうな性格といい。ああ、そういうことか、コンラート」

 どこか遠い眼をしたグウェンダルは、失笑した。
 なんだよ、がさつそうな性格で悪かったな。どうせ俺は、風呂上りはタオル一枚ですよー。

「随分と律儀な男だな、お前は」
 気のせいか、グウェンダルの瞳がコンラッドに対して柔らかく細められたかに見えた。

「律儀というか、俺の生きがいです」
 コンラッドは俺を見つめると爽やかに微笑んだ。甘い瞳に晒されて、たまらなくて眼を逸らした。そのせいで、俺達を囲むギャラリーの女性達がうっとりとコンラッドを見つめているのが分かった。もてもてじゃん、コンラッド。

 ってかコンラッド好きの彼女らに俺は食料にされたりしないよなー?!いやいや、やめとこう、そんな不吉なことを考えるのは。
 それより、二人の会話がさっぱり見えないんですけど・・・・・・。


 
「なんなの?コンラッド?律儀とか、生きがいとか?」
 グウェンダルにはとても聞けそうに無いので、コンラッドに尋ねた。

「これは、ヴァンパイアの古くから伝わる契りに関係することなので、例え貴方にでもお教えすることができません。いえ、貴方だからこそ話しません。貴方になぜ私が隷属するのか、その謎を貴方に明かすときは、今の関係を断ち切ることになるからです」

「断ち切る・・・・・って、俺が突然コンラッドのことを全部忘れちゃって、普通の日常に戻ってるっていう、ファンタジー的展開ってこと?」

 コンラッドは、ひどく憂いを秘めた顔で俺をそっと見つめて頷いた。天井の豪奢なシャンデリアでオレンジ色に照らされるその顔をまじまじと見ると、本当にカッコいいと思った。

 眉毛は嫌味が無い程度に凛々しく、長く通った鼻梁、二重で切れ長の、長い睫毛に縁取られた琥珀色の瞳。形のいい薄い唇。
 そんな美形の彼が、心底俺との繋がりがなくなることを憂慮している。

 なんで、俺、こんなカッコいいひとから大事に思われてるんだろう?
 ヴァンパイアの古めかしい契りとやらに関係するんだよな、多分?
 うわぁ、気になる。でも、聞けないっていうんだよな。それって、ますます知りたくなるのが人の心理って奴じゃん?

「小僧、そんなに秘密を知りたいなら俺が教えてやってもいいぞ?」

 顔に出ていたのだろうか。グウェンダルが、俺を嘲笑する。人間で言うと30代半ばくらいにみえる渋い美形ヴァンパイアに、俺は相当馬鹿にされているらしい。

「グウェンダル?!」
 コンラッドの顔色が青ざめる。

「ええっとさ? でも、それを聞くと俺はコンラッドのことを全部忘れるんだろ?!」
 頭の回路をまわしながら、俺を小僧呼ばわりするヴァンパイアの日本支部長に向かって尋ねる。周りの野次馬が、好奇心に目を輝かせて俺達のやりとりをみていた。

「だからだ。正直、今さら我らの種族の一員を人間に隷属などさせたくない。要らぬやっかいごとを抱えるのは、御免だ」

 グウェンダルのその言葉を聞くと、俺の中の今一番爆発させてはいけない感情が昂ぶってしまった。

 やめておけよ、と俺の理性が囁くものの、俺の中の感情は抑えられることなく爆発した。

「あんたさ、いくらヴァンパイアだからって、そんなのあるかよ?! 実の弟の気持ちは完全無視かよ?! 俺は、まだコンラッドに昨日出遭ったばかりだけどさ、すっげー優しくて、信じられないくらい俺のことを大事に思ってくれるのが伝わるんだよ。 コンラッドは、俺に遭ったことをすごく喜んでくれたんだ。なんでか、わかんねぇけどさ。きっとそのヴァンパイアの契りとかいうやつに関係してるんだろうけどさ。 でも、どうして、実の弟が大切に想ってた気持ちとかを踏みにじれるんだよ?!」

「青いな、小僧、それにとんだ自惚れだな。お前は、そこまでコンラートに惚れ抜かれていると想っているのか? 面白い、では証明して見せろ。今、ここでコンラートに吸血してもらうんだ。私達種族が、半端な気持ちで人間に隷属するのは破滅に繋がるからな」

「ああ、そのくらいやってやるよ。な、コンラッド?」

 なんだよ、そんなことくらいか、と思い勢い込んでコンラッドを振り仰ぐ。

「ユーリ・・・・・・」
 けれど、そこには困惑するコンラッドの顔があった。
 何だよ、コンラッド。あんなに俺のことを大事そうにしていながら、そんなことも出来ないのか?
 意気消沈する俺を抱き寄せると、コンラッドは耳元でそっと囁いた。

「ユーリは、忘れたのですか? 俺が貴方の血液を吸血した後のことを」
「なっ!!うわっ!! や、やばいじゃん!!」

 俺は、慌ててコンラッドから身体を離すと、彼を見上げた。

 そうだよ、すっかり忘れてた。コンラッドは、吸血するとヴァンパイアの本能が目覚めて、信じられないくらい強引でエロくなるんだよな。

 こんなヴァンパイアの巣窟で、本領を発揮されたら、俺は、いったいどうなっちゃうんだよーー?!食料決定かー?!

 顔面蒼白の俺の耳に、アルトの高笑いが聞こえた。野次馬を掻き分けて、先ほどの金髪天使みたいなヴォルフラムが再びやってきた。ヴァンパイアらしい鋭い牙を覗かせながら、彼は俺を嘲笑する。

「あははは、これは面白い。おい、そこの人間! コンラートの本能が目覚めたとき、ここにお前の味方は一人もいないと思え」

 なに?! 俺、食料決定なの? そ、それとも破滅的な貞操の危険が待ち受けているのか?!
 俺を抱きしめるコンラッドの腕の力がいつになくきつくなった。

 それが、たまらなく不安だった。


裏へ続きます。。
ヒントは、右下英語です。裏といっても、緩めです。

★あとがき★


 ここまで書くのに時間がかかって裏までたどり着けませんでした(汗)

  お付き合いくださったら、嬉しいです。

 あまり重い展開は苦手なので、軽いエロだと思っていただけると幸いです。あくまでも、甘コンユが基本なので。

web拍手ありがとうございました^^

 

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