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第三話 オカルトな日常?!
奇跡だ。
今、俺の目の前には、雪のように真っ白の肌の黒髪美少女がはにかんでいる。
貧血のひどい俺は、部活に参加せずに幽霊部(帰宅部ともいう)の村田と下校した。
ファミレスのある三叉路で、彼と別れてすぐに、俺の前に日本人形のような美少女が現れたのだ。
「あの、お願いがあるんです。私と一緒に下校して下さいませんか?」
涼やかで可憐な声だった。この界隈では見慣れない紺色のセーラー服に紅いリボンをつけた彼女は、恥じらいながらも俺に微笑みかけてくる。
白磁のように白く滑らかな肌に、艶めいた黒髪のセミロングの彼女は、学校指定風の白いソックスをはいている。冬仕様のセーラー服のスカートは膝丈だ。 いまどき珍しいくらい清楚な印象を受ける。
スレンダーで、俺と同じくらいの身長の正統派美少女だ。可愛いというよりも、きれいという感じの。なんていうか、クラスのマドンナ的存在?
そんな国民的美少女が、なぜに俺なんかと一緒に帰りたがるんだ?!これは、奇跡としかいいようがない。
ありがとう、神様。渋谷有利、彼女いない暦=歳から脱却のチャンス!! それどころか、大飛躍だ。
ここはひとつ、カッコいいところをみせないと――。
「えと、は、はい」
心では、彼女にいいところを見せようと意気込むものの、気恥ずかしさから、返事さえぎこちない。我ながらシャイな典型的日本人だ。
「ありがとう。とっても嬉しいわ」
にこっと鮮やかに微笑む彼女に、どぎまぎしながら肩を並べて歩き出す。緊張のせいで、右手と右足、左手と左足が揃ってしまいそうになる。
いつもの見慣れた町並みを、華奢な彼女と肩を並べて歩く。恥ずかしくて彼女のほうは向けない。まっすぐに見上げた西の空は茜色で、うっすらと紺色も混じり始める。すごく叙情的な景色だ。それなのに。
ああ、俺の馬鹿。気の利いた台詞の一つもいえない。
きっと、あいつなら、あのヴァンパイアのコンラッドならきっと顔から火が出そうなほど甘い台詞をぽんぽん言うに違いない。
そんなコンラッドのことを思い浮かべて、羨ましく思った。けれど、俺は結局何も言い出せないままに、彼女と無言のまま歩き続ける。
革靴が路面を踏みつける乾いた音だけが、単調に続いていく。あまりに容赦なく続く、その単調な音に現実逃避してしまいたくなる。
ああ、もう俺ってなんて気が効かないんだ。そうだ、コンラッドに今度教わろう、女性への気のまわし方とか、甘い台詞とかさ。曲がりなりにも、俺は彼のご主人様らしいし、きっと教えてくれるよな。
ところで、今コンラッドってどこにいるんだろう?
やっぱり、ヴァンパイアだから日が沈むまでは姿を匿っているのかな?
「あの、すみません。次、右に曲がってもらえますか?」
彼女の可憐な声で、ふいに現実に引き戻された。今まで一本道だったために、迷わずただひたすらにまっすぐに歩いていた。けれど、いつのまにか先の道路は二手に別れていた。
「あ、う、うん」
彼女の言うとおりに、右に進んで歩き始める。いつのまにか、空には完全にオレンジ色がなくなって、一面が薄紫色になっていた。どこからともなく夜の帳が下りていた。身体を包む空気が、つんと冷たくなってきた。
それにしても、こちらの方角にはあまり来た事が無い。右に曲がることはめったにない。いつもは左に曲がるから。商店や民家の数が心なしかどんどんまばらになっていく。けれど、いっこうに彼女は、歩調を緩めない。
本当に、この辺りに家なんてあるんだろうか、と疑いたくなるような深い竹林が目の前に広がっていた。
うわ・・・・・・、俺、怖いのって苦手なんだよな。
鬱蒼と生い茂る竹林の、その真っ黒のシルエットに怖気づいてしまう。
「ごめんなさいね、こんな寂れたところにつき合わせて」
俺の思いが態度に表れていたのだろうか。彼女が、今にも泣きそうな声でそう告げた。
「そ、そんなことないよ。でも、こんなに暗いところで女の子一人は危険だからさ、こんな俺でも、役に立って嬉しいよ」
申し訳なさそうに、俺を覗き込む彼女の黒い瞳が、濡れているようで艶っぽい。思わず眼を逸らして、早口で彼女をフォローした。
うーん、やっぱり、今の俺にはこれが精一杯の優しさだ。とてもじゃないけど、コンラッドみたいにはできそうもない。
だって、これだけでも、顔が火照ってしょうがない。穴があったら入りたい。
彼女は、ふふ、と魅惑的な笑い声を立てると、そっと俺の手を握ってきた。
俺は、思わず固まってしまった。
そりゃ、こんな美少女に手を握られたら固まってしまうだろう。いや、でも、この背筋を伝う寒気はなんだ。
この、氷をそのまま掴んでいるんじゃないかと思うほどの冷たい手―― コンラッドの手と同じ・・・・・・。彼女も、人間じゃない?!
愕然としたまま彼女を見つめると、失笑された。
「うふふ、もしかして、気づいちゃったかしら? くす、それでも逃がさないわ」
「うひっ、ち、ちょっとーたんまー!!」
半ば強引に、引きずりこまれるように正面の竹林に連れ込まれる。まるで少女の力とは思えない。掴まれた腕が、軋むほどにきつく掴まれ、圧倒的な力で引きずられる。両腕を掴まれたままの俺は、万歳をするような格好で情けなく引きずられていく。何とか体勢を立て直そうとするも、まるでままならない。地面を蹴り上げるもむなしく、ずるずると引き摺られてしまう。地面の笹の枯葉ばかりが、かき混ぜられて、かさかさと乾いた音が響く。
ボディビルダーも真っ青な怪力だよ。
―― なんて、のんきなボケをかましている余裕はない!
ふいに、放り投げるように腕を離されて俺はみっともなく仰向けに転がる。視界にが反転して、暗い紫紅色 の奇妙な空が広がる。あれ・・・?竹林の中じゃなかったっけ?
違和感を感じて、周りを見渡す。
なんとそこは、竹林のなかにぱっくりと開けた墓地!!だった。
「だって、あなたって堪らなくおいしそうだったんだもの。ごめんなさい?」
美少女は、黒髪をサラリと垂らしながら小悪魔な微笑を浮かべた。彼女は、俺に跨ると可愛い声でそう言った。ああ、勝利だったら萌え死んでるんだろうか?いや、彼は二次元にしか興味が無いか。って、そんなことどうでもいいから!!
それにしても俺だって、一瞬何かを勘違いしそうになる。
けれど―― !! 唐突に彼女が両腕を伸ばした。そして、めいっぱいに俺の喉元を両手で締め付ける。
先ほどまでは、まさに美少女だったはずなのに!!
俺の喉元に触れる彼女の手の感触が、まるで釣りたての魚のようにぬめぬめっとして、どろどろっとした。その感触に全身が総毛立って、気を失いそうになった。けれど、反射的にその腕に眼をやると、今度こそ本気で失神しそうになった。
ぞ、ゾンビじゃん―― !! もう俺の首に巻きついているのは、もはや手とはいえない。腐敗したようなふやけた変色した皮膚に、ヘドロがびっしりと纏わり付いたこの世の終わりの象徴みたいなぁぁ!!
おまけに、おまけに、うっかり正面を向いた俺は、頭の中で何か線がプッツリと切れたように意識を手放しかけた。
そのとき、鞭のしなるような空を切る音が聞こえた。その直後だった。目を瞑りたくなるような激しい破裂音と共に、目の前のおぞましい怪物が凄まじい、獣じみた咆哮を轟かせた。
俺は、後ろから大きな身体に抱きしめられて、その元美少女から遠ざかっていた。
彼女(といっていいのか?)は、見る間に土に還っていく。あぁ、なんか、地球に優しいエコだ・・・・・・。
虚脱感でいっぱいな俺は、呆然とその光景を見つめていた。
「まったく、困った御主人様だ。見ず知らずの人に、のこのこ着いて行ったらいけませんよ?」
後ろから抱きしめられる俺は、耳元に甘い吐息がかかったことで、我に返った。
「あ、え、ええっと! この甘ったるい声は、コンラッド?! てか、俺を小学生みたいに諭すなよ。あと、御主人様いうな」
「おや、でも貴方はなぜ今ゾンビの餌食になりかけていたのですか?ユーリ」
「う・・・・・・、そ、それは、だってめっちゃ美少女が俺と一緒に下校しようなんていうから、舞い上がっちゃって・・・・・・。っていうかさ、まっとうな高校生なら、普通に美少女がゾンビなんて思わねぇから!! あ、それにやっぱりさっきのってゾンビだったんだ!! でもさ、なんで俺がダイレクトに餌食に選ばれちゃったわけ?俺、十五年も生きてきて、ゾンビに遭遇するの生まれて初めてなんですけど。ま、昨日はヴァンパイアのあんたに生まれて初めて出遭ったわけだけど」
一方的に捲くし立てると、俺は一息ついて後ろを振り向いた。
そこには、相も変わらずカッコいいコンラッドがいた。繊細そうなダークブラウンの髪から、柔らかな薔薇の香りが漂う。色素の薄いセピアの瞳を優しく細めて、怪物離れした甘ったるい笑顔で俺をそっと見下ろしてくる。
あぁ、もう男としての劣等感が刺激されまくりだよ。圧倒的な身長さといいさ。
それにしても、どうしてそんな優しい顔で俺を見つめるんだ。
「あのさ、ありがとな。コンラッド。あんたが来てくれなかったら俺今頃は、ここにいなかったよ」
ヴァンパイアらしい黒マントに身を包む彼の胸元に、拳で軽く小突いた。
「あっ、ちょ、やめろよ。恥ずかしい」
彼は、その俺の手を掴みあげると、素早く俺の甲にキスを落とした。
「御主人様のためでしたら、身を挺してお守り致します」
「―― っ!」
その現実離れした台詞を、甘い声と、甘ったるい微笑みで告げられて、顔から火が出そうになった。
ああ、なんか俺今一瞬、自分が女になったのかと思った。
「ユーリ、もうどんなに可愛い女の子から誘われても着いて行ったらいけませんよ。ヴァンパイアである私を隷属させている貴方は、ゾンビ達のような下等怪物にはご馳走ですから」
「ちょっと、ちょっと待った!! じゃあさ、俺はあんたの御主人様になったばかりにゾンビに狙われやすいってこと?! うそ、じゃあ可愛い女の子に誘われても、それがゾンビかもしれないから付いていけないってこと」
「えぇ、そうなります。けれど、安心してください。下等生物である彼らは、私たちヴァンパイアには決して近づいてきませんから。彼らの活発になる時間帯も、私と同じ闇の時間帯ですから。いつでも、あなたの側にいて、あなたをお守り致します」
誠実そうなライトブラウンの瞳を煌かせて、コンラッドは俺に誓う。
吸い込まれそうな意志の強い瞳に魅入られていたら、いつのまにか腕の中に抱きしめられていた。でた、ヴァンパイア的猛スピードだ。本当に、心臓に悪い。
「それに、あなたが女の子に向けられないフラストレーションは、俺が満たしてあげますから」
甘い声で、耳元で囁かれる。
甘い吐息に、身を震わせてしまう。その言葉の意味を咀嚼して、俺はみるみる顔が真っ赤になっていく。
「ば、ば、ばかっ! コンラッドの馬鹿! 俺は、俺は、そんなフラストレーション、満たされなくていいですからっ!!」
少し、意地悪に微笑むコンラッド。端整な唇が片端だけ吊り上げられる。悔しいけど、こういう顔も、カッコいい。
「ユーリは、想像力が豊かですね。俺にどうされてるのを想像したのですか?」
前言撤回。意地悪すぎる。
「コンラッドの馬鹿ー!!」
それにしても、ここは薄気味が悪い。墓地の周囲を囲む竹林が風に乱暴に揺すられて、さざめく音といい、無数の墓石といい。
思わず身震いしてしまう。
「ユーリ、こんな物騒なところも何ですので、これから俺とデートしてくれませんか?」
思わず両腕で彼の身体を離して、顔を覗きこむ。
「で、デートぉ?! いや、でもさ、その格好じゃ目立ちすぎるんじゃ?」
「目立たない場所なら、問題ないでしょう?」
闇を吹き飛ばすような爽やかな笑顔で、彼は言い返した。
「そ、そんな場所あるんデスか?」
「ありますよ。少し貴方には、刺激が強すぎるかもしれませんが、私がエスコート致しますから」
なんだよ、刺激が強すぎる場所って?!明らかに地雷だろっ?!
「お、俺はそんな刺激が強すぎる場所は遠慮したいデス~!!」
「これは、私の我が儘なんです。どうしても、貴方に招待したいところがあるんです。駄目ですか、ユーリ?」
長い睫毛が縁取る、セピアの瞳が揺れている。
形のいい眉毛が、顰められる。
また、そんな顔で俺を見つめて。嫌って言えなくなるじゃん。
「あぁ、もう、わかったよ」
「ありがとうございます。ユーリ!」
なんだか俺が御主人様なのか、いまいち分からないのは、気のせいですか?!
★あとがき★
なんか、ゾンビの話が無駄に長引いて・・・・すみません。
次回は、裏の予定です。
軽めだけど、ある意味危険・・・・・・な感じの予定です。(←なんて、わかりにくい説明だ;)
web拍手ありがとうございました^^
癒されます^^
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