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2009.4.22設置 『今日からマ王』メインです。 
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2024/05/18 (Sat)                  [PR]
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第六話 前途、多難?


「なぁ! お前、正直に言えよ!! 奇術師なんだろ?!」
「マジシャンなんだろ?!」
「イリュージョンなんだろ?!」
「それとも……まさか―― ほ、本物か?!」

 俺は、下校途中にまたしても不良集団に絡まれていた。数日前にかつあげにあった、パンチパーマやらドレッドヘアやらの4人組だ。それでも、今回は彼らの趣旨が違う。
 彼らは、俺が先日、彼らの前から瞬間移動なみに、突然姿を消したことが気になって仕方がないらしい。まぁ、それもそうだよな。まさか、俺がヴァンパイアによって、空中に連れ去られたとは思うわけがない。 

「ほ、本物ってなんの本物ですか……。俺は、正真正銘の真人間ですっ」

 薄暗い夕方の公園で、自分でも何を言っているんだろうと思う。でも、こういうしかない。
 けれど、そんな答えに彼らが納得してくれるはずもない。いや、むしろ馬鹿にしていると取られたらしい。
 チョコレート色の肌(そんな可愛い表現はおおよそ似つかわしくない)のお兄さんに、強引に顎先を掴まれた。

「話してくれないなら、話したくなるようにさせてやろうか?」
「そうそう、この前の続き……しようかなぁ?」
 またしても、不良のお兄さん達の趣旨が変わってきた。じりじりと彼らに間合いを詰められて、冷や汗が滲む。けれど、男、渋谷有利。ここで、可愛らしく怯んでいる場合ではない。

「だ、だから、俺は男だーーー!!……?!」

 そのときだった。ぶわん、と物凄い風圧を顔面に感じて反射的に眼を瞑った。全身に竜巻のような鋭い風を感じたのと同時に、絶叫系マシーンに乗ったときのように腹の中が頼りなく揺れる感じがした。けれど、すぐに風が止んで、逆立っていた髪が静かに下りてきた。
 ほっとして、眼を開くと遥か下方に、夕闇の公園が見えた。もう不良集団なんて、公園の木の影と完全に一体化していた。
 それより、この景色どこかで見たことがある――。遊園地の急上昇するアトラクションのてっぺんで見た景色……を凌駕する絶景。この既視感はまちがいない。

「コンラッドだろ?!」
「違う!!」

 またヴァンパイアのコンラッドが俺を、あぶないお兄さんのいる地上から上空へ非難させてくれたものだとばかり思っていた。それなのに、聞こえた返事は中性的なアルトの声だ。それもひどく興奮気味で、キンキンと鼓膜に響く。明らかに、コンラッドとは異なる声だ。
 おれは、慌てて後ろを振り仰いだ。俺を後ろから抱きしめて空の散歩に駈り出している人物が見えた。群青色の夕闇の中にいても、真っ白な素肌や黄色に近い華やかな金髪がうっすらと輝いてみえる彼は、人離れした美しさをもっていた。ただ、小さな顔にある零れ落ちそうなほどの大きなエメラルドの瞳が、幼い印象を与えた。
 そして、それ以上に、漆黒のマントを風に翻す彼には、見覚えがあった。

「コンラッドとは違う方向にキラキラの美形っていうか、美少年。確かあんたはこの前の……」
「ヴォルフラムだ! コンラッドの弟の!!」
「あ、そうそう!! 丁寧な説明ありがとな。それにしても、なんで?」

 つい夕べの記憶が蘇る。あの東京の山奥に突如現れた妖しい洋館で、俺はコンラッドと主従関係を持つことを、ヴァンパイア達から赦された。(いや、かなりついていけない展開だろ……はは)けれど、コンラッドの弟のヴォルフラムだけは、最後まで俺を認めずにいたはずだ。それなのに。

「どうして、俺を助けてくれたんだ? 俺の記憶が正しければ、俺は、あんたには目の敵にされてると思ってた。でも、俺の思い違いだったのかな。でも、ありがとな」

 俺は、顔を後ろに捻ったまま、ヴォルフラムにばつが悪いような間の抜けた笑顔を向ける。
 けれど、その湖底のような翡翠色の瞳が、優しく細められることはなさそうだった。 

「無礼者! お前など、助けるものか。お前に話があって来たというのに、お前と言う奴は、あんなごろつきどもにさえ絡まれているのだから。面倒くさいから、お前を拉致しただけだ」
「ら、拉致ですか……それは、また、えらい物騒な物言いで」

 俺の言葉に、ヴォルフラムは、大きな緑色の瞳をさらに大きく見開いた。

「兄とお前が主従関係を結ぶなんて、僕は認めていないのだからな! コンラートがお前に隷属している理由を暴きだして、二人の関係を絶ちきってやるからな!」

 血管が透けて見えそうなくらいに繊細な彼の白い肌が、見る間に真紅に染まっていた。その声は、耳鳴りがしそうなほどに鋭くてズキズキと頭に響く。けれど、怒りに打ち震えるその姿は、畏怖する対象というより、いかにも人間らしいものに思えた。いや、むしろその必死さは、駄々を捏ねる子どものようだ。
 だからなのか。彼に何を言われてもそれほどの嫌悪感を感じなかった。

「てか、そんなに俺嫌われてるのに、今あんたに抱きしめられてるんですけど……いや、手を離されたら落下しちゃうんで勘弁ですけど」
「んなっ?!」
「それに、あんたがそういうと、なんていうか……」
「な、なんだ? 人間?」

 天使みたいなヴァンパイアの額に、うっすら冷や汗が滲んで見える気がした。

「つまり、つんつんしてるけど、お前ってお兄ちゃんっこなんだな? 俺みたいなのが、おまえのお兄ちゃんの御主人様だなんて、腹立たしいんだろ。お前って案外、お兄ちゃん思いの優しい子なんだ。俺がいうのは変だけど」

 ぼこぼこぼこっ。瞬間湯沸かし器。目の前の美少年ヴァンパイアは、怒りで頭から蒸気を発散させる気だ。

「き~さ~ま~! 僕を僕を、茨の道に送り込む気か~!」
「はい? 茨の道?」
「とぼけるなっ。人を勝手に変態扱いしただろっ。ヴァンパイアの世界では、近親相姦は禁忌とされているのだ!」
「いや、人間界でも近親相姦はだめだろ。ってか! どうしてそうなるんだよ。お兄ちゃんっ子だなっていっただけだし! 脳内変換についていけねぇ」
「人間の分際で、なにを好き勝手にしゃべっている!! 少しくらい外見がいいからって、いい気になるな!!」
「いや、俺、いたって容姿は普通なんですけど。むしろあんたのほうが天使みたいだけど。(黙ってたら)」
「僕が、気にしていることを!! ヴァンパイアにむかって天使みたいとは失礼にもほどがある形容だ!! あっ」
「―― ?!」

 きゃんきゃんと喚く彼の口から、鋭い牙が覗くのを見て、彼がヴァンパイアなのだと実感した時だった。彼の細い腕が俺の脇からずるっと抜け落ちた。う、嘘だろ―― ?!

 ぞわっと総毛立つ。髪の毛は、見事なほどに真上に逆立つ。
 まるでスローモーションみたいに、一瞬空中で止まっているような気がした。けれど、それは0.1秒くらいのほんの一瞬のことで、すぐに腹の内容物を戻してしまいそうなほどのとんでもない感覚に襲われた。ふわふわっとした頼りなくて吐きそうな気分を感じながら、身体が自由落下していく。際限なく、絶叫マシーンのフリーフォールに乗っているような気分だった。
  
 どこにあるのかわからない地面へと確実に向かっているはずだ。それなのに、地面に引き摺られるような重力を感じることはなく、ただひたすらに濃紺の闇の中を、両手両脚で情けなくもがいているだけだった。その刹那、ヴォルフラムのツンとすました声が聞こえた。

「悪く思うな、人間! 誓っていうが、手が滑っただけだ」

『手が滑っただけだ』、じゃ済まされないだろ?! ここは、上空何百メートルの世界だしっ!

「んなことよりっ、早く、早く掴んでくれぇぇぇ!!」

 闇の中に放り出されて、もがいても、もがいても、そこから逃れることができない。身体中を締め付けるような冷たい風が纏わりつき、口内には自動的に大量の酸素を送り込まれている。それなのに、たまらなく息苦しい。そして、ずっと続く耐え難い感覚――腹の内臓が中で縦横無尽に揺れ動いている―― に翻弄される。

 そして、最後には必ず地面が待ち受けているという恐怖に、一瞬にして紺の空は瞼の奥に追いやられた。そのほんの僅かなときだった。

「全く、あなたという方は。手が掛かるほど、可愛いのですけれど」
「?」

 甘く掠れたような声が、突然耳元で聞こえたので、意識が急浮上した。ぱちん、と目を開けば、まるで今まで自分が空を落下していることなど嘘だったかのように、しっかりと抱きしめられていた。彼に。ヴァンパイアのコンラッドに。
 うっ、やっぱり……カッコいい。
 すっかり暮れた黒い空には、対照的な白い月が輝いていた。その光の中、彼のしなやかな髪が振り乱れたままなのが覗えた。ヴァンパイアの本領発揮、全速力で俺を助けに来てくれたのだろう。
 髪が乱れていても、やはり彼には、爽やかで甘い雰囲気が纏っていた。少し上から俺の顔を覗きこむと、端整な切れ長の瞳は、とても優しく細められた。ふいに、薄く薔薇の香りがした。薔薇の香りは、ヴァンパイアの特性なんだろうか?
 とにかく彼の存在は、聴覚にも、視覚にも、嗅覚にまで甘く訴えかけてきた。

「……可愛い言うな」

 彼の甘さに、どうしても太刀打ちできそうにないので、俯いてただ一言つぶやいた。
 それにしても、ヴァンパイアは、耳がいいんだろうか。だったら、今の俺の心拍数、聞かれたくないな。

「そんなところも、可愛いです。けれど、無茶ばかりしないで下さいね。俺の可愛いご主人様には、いつも笑顔でいてほしいから」
「ばかっ、もう何もしゃべんなっ……っあ」

 ふいに、頬に触れてきた彼の手の凍るような冷たさに、息を呑んだ。彼が、人ではないのだと改めて気付かされる。
 けれど、そっと柔らかに微笑む彼の瞳は、とても真摯で温かい。
 出遭ったばかりなのに、どうしてだろう。彼のそんな瞳が、なぜか懐かしさを感じさせて、同時に胸の奥がズキンと熱くなった。沸点を越えても温度が上がり続ける水みたいに、どんどんそれは加熱していく。とても、危険だ。
 ずっと逸らせずに見つめていた彼の瞳の端で、頼りなく月が揺れた。

「俺の側にいれば、あなたには危険が付き纏う。あなたは、決して俺のせいで傷つくことがあってはいけない」
「コンラッド……?」
「それなのに、あなたの側にどうしてもいたい。だから、呆れるくらいあなたに仕えさせて戴きます」

 ゾクっとするほどの甘い瞳だった。人間離れしているとしかいいようのない、痺れるように甘く妖しいものだった。その瞳は、遠浅の澄んだ海水のように、不思議な透明感がある。そんな瞳の中に自分が映っている。まるで、彼の中に囚われているようだ―― 。だから、何もいえない。コンラッドの言っている内容がめちゃくちゃなのに。

 何も言えずに、抱きかかえられたまま、彼を見上げていると、唐突に脳天に甲高い声が聞こえてきた。途端に、熱っぽくて甘い空気が吹き飛んだ。

「お前ら! 主従ごっこなぞ、僕のいないところでやれっ!!」

 声の主は、ヴォルフラムだった。

「な、何だよ。主従ごっこって?! そ、そりゃ、コンラッドはなんかすっげー甘いけど……」
「そうですか。そういっていただけると光栄です、ご主人様」

 コンラッドは、俺に優雅に、それは爽やかに、微笑みかけてくる。闇夜なのに、俺の顔は真っ赤に見えているはずだ。てか、ご主人様言うな。

「ご主人様。俺の弟が、今宵は大変な失礼を致しました。お詫びに、今宵、我が屋敷で接待致します。お越しいただけますね」
「え? ええっと、はい?」
「御意。ご主人様の仰せのままに」
「あ、ちょっと、たんま! 今の『はい』は、疑問の『はい?』で、返事の『はい』じゃないしっ。接待? までしてもらわなくても全然大丈夫だしっ!」
「ユーリ、男に二言は無いですよね?」
「うう、それを言われると……。無いけど、けどっ」
「決まりですね」
 
 コンラッドは、にこり、と嬉しそうにこちらに爽やかな笑顔を撒き散らした。そもそも、肯定の返事なんてしてないしっ、と言い返すつもりだったのに。その笑顔の華やかさに、圧倒されて、言い返すことさえ忘れてしまう。それどころか、無駄に体温が上昇してしまう。
 やっぱり、俺は既にコンラッドに囚われているのかもしれない。
 ってか、俺が仮にも主人なんじゃないのか?! いや、全然、仕えて欲しいわけじゃないけど。あまりにも、俺が振り回されていないか? 気のせいか?

「こら!! 僕を無視するなっ、僕は、二人の契約を認めないからな!!」

 コンラッドが俺を抱えて優雅に飛行しはじめると、背後からは、美声の無駄遣いと思えるキンキンした超音波ボイスが投げつけられた。

 ……俺の前途は、多難みたいだ。


★あとがき★
うわぁ、半年ぶりくらいに続きを書きました^^;
いろいろ、すみません。特に、三男ファンには、申し訳ないです。どうか、このサイトに迷い込まれていないことを祈ります。まるマキャラは、皆、好きですが、コンユサイトなので、他キャラの扱いがどうしても…損な役回りになることは必至なので、ご注意くださいです><;
 そもそも、パラレルすぎる/// 自由すぎる(汗)ヴァンパイアなコンラッド、ヴォルフラム、グウェンダルに、神父なギュンターとか。なんか、恥ずかしい。今更になって恥ずかしくなってきた。もう、可笑しかったら笑ってください(笑)
 もう、メインのコンユでご主人様ごっこ? ヴァンパイアなエロコンラッドが書ければ、ほんもう、ですv



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