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第五話 恋わずらい?!
二日酔いの朝みたいな気分で眼が覚めた。
いや、二日酔いになったことはないんだけど。健全な高校生だし。
二日酔いなんて想像でしかしたことないんだけど。その想像くらい、なんか胸がもやもやしてるっていうか・・・・・・気だるい。寝不足。頭痛い。
布団から抜け出すと、全身の筋肉が収縮した。肌の毛穴までがぶつぶつと粟立った。ツンとした朝の空気に包まれた。
紛うことない。間違いなく冬の朝のはずなんだけど、なんか俺の頭の中は、けぶるような陽気に包まれそうな・・・・・・春だった。
って、俺は、変なおじさんではないんだけど。
洗面所で顔を洗い終わって、タオルで顔を拭く瞬間や、リビングに向かうふとした瞬間。動作の合間に、どうしてもコンラッドの顔が思い出される。
無駄に甘くて、優しくて、整った顔。挙句の果てに、歯の浮くような甘い台詞を、甘ったるい声で囁く――。
「ちょっと、ゆーちゃん! トーストが蜂蜜に埋もれてるわよっ!」
「へ? うわっ!!」
母の大声に、現実に戻された俺は、机の上の光景に絶句した。俺の皿の上に乗ったトーストは、言葉通り蜂蜜に埋もれていた。俺、いつのまに、こんなにトーストに蜂蜜をかけ続けていたんだ?!
「まったくもう! ゆーちゃんてば。あら、やだ。もしかして、恋わずらいって奴かしら?」
「うっせーよ。そんなんじゃないって!!」
お袋は、年甲斐もなくフリフリエプロンを翻してきゃんきゃんとはしゃぐ。そんなお袋に、俺は目一杯大声で否定した。
そうだよ、恋わずらいなんかじゃないよ。ただ、コンラッドがちょっと気になるだけだよ。だって、あいつは、秘密が多すぎるしさ。なんてったって、俺は、コンラッドの御主人様らしいんだぜ?! なんてったって彼は、ヴァンパイアなんだぜ?! ムラケン十八番のカラオケソング♪なんてったってアイドル~とは、わけが違うんだぜ?
面白そうに俺を見つめるお袋を尻目に、蜂蜜漬けトーストを平らげた。兄の勝利も親父もこの場にいなくてよかった。なんか、無駄に騒がれそうだし。特に馬鹿勝利には。
蜂蜜漬けトーストは、甘くて・・・・・・くらくらした。この甘さに、またコンラッドの甘い顔を思い出した。
でも、でもっ、これは断じて恋わずらいなんかではないっ。
******
朝食を終えて、自室で制服に着替える。硬そうな金属音と共に、ズボンから何かが床に滑り落ちた。
「あ・・・・・・、これ」
それは、ミサの授業で使うロザリオだった。あれ? どうして、制服のズボンに入っていたんだろう。
昨日は、授業でロザリオを使ったから、首につけていたはずだけど。
あれ? でも、昨日はヴァンパイアの館で、ヴァンパイア達に囲まれてる中で、コンラッドに胸元を肌蹴られて・・・・・・。んん?
もしかして、いや、もしかしなくても、コンラッドが俺のために外してくれてた?
あのどさくさに紛れて、俺の胸元のロザリオを外して、ズボンにしまってくれたんだ。
だって、とんでもないことになるよな。あんなヴァンパイアだらけの巣窟で、彼らの忌み嫌うものを大切に肌に身に着けていることが知られたら、俺はただじゃすまされないよな。
やっぱり、コンラッドは優しいよな。
わけもわからず、体温が上昇した。
******
「しーぶや君? どうしたの頭の中がお花畑みたいな顔して?」
ホームルームの最中に、ぼんやりと窓の外を見ていたら、やたらに可愛い子ぶりっこな声に現実に引き戻された。
それが、男のクラスメートなのが残念なんだけど。そもそも男子校だしな。
「何だよ?村田。俺を頭のおかしな人みたいにっ。結構失礼な言い草だぞ。いや、でもまぁ、実際にな~んか、気だるいんだけどさ」
脱力感と共に、ため息を吐いた。
とたんに、隣の村田の眼鏡が光った。
「それ、ずばり恋わずらいだね~。いいねぇ、渋谷は一人だけ先に春が来たみたいでさ~。でも、僕を置いていかないでよね」
なかば拗ねたような声で、村田は机に頬杖をついて、横から俺をじっと覗き込んでくる。ネコみたいな悪戯な瞳で。
また、だ。また『恋わずらい』なんていわれた。またしても俺には、無縁そうな単語が出てきた。お袋といい、村田といい、しっかりしてくれよ。ちょっと人が、気だるそうだからって、全部が全部『恋わずらい』のわけがないだろうに。
「なんだよ、断定するなよな。ちょっと気がかりなことが一度にたくさん出てきただけで・・・・・・。それに、なんか、気がつくといつも思い出しちゃう奴ができたっていうか・・・・・・あ、でもそいつはさ、やたらに俺に抱きついたりしてくるんだよ。だから、気になるだけかもしんねーし」
「ふ~ん、そうなんだぁ。迷える子羊ちゃんなんだね。よしよし、じゃあ、試してみようか?」
隣の村田が、やけににっこりと悪戯に微笑んだ。何か企んでいるに違いない。そう思った矢先だった。
ふいに、ごつごつとした贅肉のない細い身体に抱きしめられた。耳には、村田の柔らかい頬がくっついた。
「はぁ~?! なんだよ? わけわかんねーよ?!」
頭の中は、疑問符でいっぱいになった。思わず叫んだ途端に、教壇から担任に睨まれた。クラスメートからの好奇な視線が痛い。ただでさえ昨日、ミサの授業中に、寝言で喘いだばかりだっていうのにっ! 今度は、なんとっ、男同士でホームルーム中に抱き合ってま~す!
簡素な窓の外には、スズメが楽しそうに空を飛んでいた。あぁ、俺も、鳥になってしまいたい!!あい うぃっしゅ あい わー あ ばーど。仮定法過去を使ってみた。昨日は、これでも予習したんだ。偉いだろう。
チャイムの音と共に、ぱっと、身体が解放された。
同時に、邪気のない爽やかな笑顔が飛び込んだ。
「どうだった? 渋谷? ドキドキした? もし、俺に抱きつかれてドキドキしたんだったら、渋谷はそいつのことを本当に好きとは言えないんじゃない?! でもさ、ドキドキしなかったんだとしたら、渋谷は相当そいつが好きなんだと思うよ? てへっ」
てへっ、てなんだよ。てへって。昔のアイドルかよ。
それよりそれより、そんなことより。なんだよ、今の実験もどきは―― 。
全然、ドキドキしなかった・・・・・・。いや、確かに、ホームルーム中にいきなり抱きつかれたっていうことには驚いたけど。ただ驚いただけだ。
まさか、俺は―― 黒 なのか?! 俺、コンラッドに恋わずらいしてるのか?!
いや、でも一回だけで決め付けてしまうのは、どうだろう?
頭の中で、一休さん並みに思いを巡らせた。
慌てない慌てない、ひとやすみ、ひとやすみ・・・・・・っと。あれ、これじゃなかったっけ? あ、座禅を組まないといけないよな。
空想の中で、俺は座禅を組んで、目を閉じる。(てか一応クリスチャンなんですが、俺)
チーン!!
そうだっ! 閃いた! 俺って、冴えてる!
ギュンター神父にも、抱きついてもらおう。彼は、コンラッドと同じくらい長身だし、白薔薇の君という通称まであるくらい美形だしな。
******
村田は、俺の閃き(ギュンター神父に抱きついてもらう)を大絶賛してくれた。けれど、その笑顔が黒く見えたのは気のせいだろうか。
おまけに、俺が村田に抱きつかれても全然ドキドキしなかったと言ったら、寂しそうな顔をした。なんだよ、男の癖に。お前は、俺にドキドキしてほしかったっていうのかよ?
頭がいいくせに、村田って結構変人だよな。まったく。
昼食を終えた俺は、ギュンター神父のいると思われる天主堂へ向かう。木枯らしの吹く寒空に、赤い三角の屋根と白亜の殿堂が、目の前にそびえ立つ。さすが、お坊ちゃま学校だけあって立派な建物だ。硝子を埋め込まれた木製の扉を開けると、正面高くに一面のステンドグラスが飛び込んでくる。
イエス生誕の場面が多彩な硝子で描かれており、その周りには黄色の花模様が規則的に造られている。
冬の午後の陽射しが、ステンドグラスから繊細に注がれていた。
そして、その中に、一人長椅子に腰を下ろしているギュンター神父を見つけた。
俺の気配に気づかないのか、一人で何かを祈り続けていた。
中央通路を通って、斜め後ろから神父を覗き見た。流れるような銀髪が、陽光を浴びて、幾重にも光の輪を描いていた。俯く睫毛は長くて、すっきりと通った鼻梁に、僅かに微笑まれる唇。聖母マリア像みたいに、慈悲深い表情だった。
白薔薇の君なんて、生徒たちから呼ばれている彼は、未だに俺の気配に気が付かずに両手を組み合わせて一生懸命祈っている。
ふいに、彼の囁く言葉が微かな音となって俺の耳に響いた。
「・・・・・・渋谷君の下僕になりたい」
自分の存在に気づいてもらおうと、ギュンター神父の肩に手を置く寸前で、思いとどまった。いや、それが大正解だと思う。
頭の中が、漢字二文字に支配された。下僕、下僕、下僕・・・・・・。
さきほどまでの聖母マリア像みたいだったギュンター像が音を立てて、がらがらと崩れていく。
な、なんだよ下僕って?! 真剣に祈ってると思ったら、なんてことを祈ってるんだよ?!神父である以前に、人間失格だろーー?!
それにしてもなんで? 最近俺を御主人様にしたがる輩が多すぎる。俺って、そんなにSっ気があるか? いや、むしろ全くねぇよ。
「はうわぁぁ!! し、し、し、渋谷君ではあ~りましぇんくわぁぁぁ」
とうとう俺の存在に気づいたらしい。
一人吉本新喜劇のギュンター神父が、血走った目でこちらを見上げた。唐突に立ち上がると、髪を振り乱して言い訳を始めた。
「ええっと、ですね。こ、これは、つまり、つまり―― 」
大げさに長い両腕を振り回すその姿は、南の島で遭難したときの救助隊へのSOSサインみたいだ。ひとしきり、腕を振り終えると、魂が抜けたようにがくっとうな垂れた。
そして、ゆらり・・・・・と再び彼の顔が正面を向いて、俺を見据える。
「ひ、ひっーーー!!」
俺は、たまらずに叫んだ。
そのビジュアルの迫力―― !! さ、貞子?!
その色こそ派手なプラチナとはいえ、長い髪の間から覗くぎょろりとした血走った瞳。荒い呼吸に、指を不規則に蠢かしながらふらふらと俺ににじり寄ってくるその姿。
「ごめんなさい、ごめんなさい!! 訊かなかったことにしますから、お見逃しくださいっ!!」
脚をもつれさせながら、狭い長椅子の間を後ずさる。ギュンター神父に抱きしめてもらおうなんて、浅はか過ぎた。罰が当たったんだ。自分の気持ちを確かめるために、人に抱きしめてもらおうなんて不埒な考えをしていたから。後悔先に立たずとはまさにこのこと。脳裏に、少し陰のある村田の笑顔が浮かぶ。あいつ、最初からこんな展開を予想してたんじゃ?!
「うあっ!」
唐突に、脊椎に鈍い痛みが走った。背後の柱に背中から激突していた。これをチャンスとばかりにギュンター神父が俺に向かってダイブしてくる。鼻血やら、鼻水やら涙やら、派手に汁を撒き散らしながら。白薔薇の君っていうか、白汁の君。あ、赤汁もか。
「渋谷くぅぅぅぅ~んっ!!」
「ひ~~~~~っ!! い?」
てっきり、汁塗れの顔が大接近するものと思っていたら、俺の足元でその長身が跪いた。彼は、両膝を木の板につけたまま、俺の片足を持ち上げて、ふくらはぎ辺りに頬ずりをする。へ、変態~~!!
「あぁ、もう、露呈してしまったからには、申し開きの余地もありませんっ!! わたくしはっ、ずっとあなたのおみ足に這いつくばりたかったのでございます~~!!」
頭の中で、何かがぷっつりと切れた。許容範囲は、とっくに過ぎていたみたいだ。
罰当たりを覚悟で、ギュンター神父を振り払うと、一目散に天主堂の扉を目指した。
この異空間から早く抜け出したい―― !! これ以上、下僕なんて要りません~~!!
勢いよく扉を開けると、新鮮な空気が広がって、真っ青な青空が飛び込んできた。
救われたような気持ちで、そのまま校舎を目指して突っ走った。遠くで、不穏な雄叫びが聞こえた気がした。
土を踏みつける革靴の規則的な音を聴きながら、思った。
やっぱり、コンラッドのことは、恋わずらいかはさておいて・・・・・・特別だったみたい―― 。
ギュンター神父に、下僕になりたいなんて言われて、纏わりつかれても(やばい、思い出すと悪寒が!!)恐怖しか感じなかったし。
浅い呼吸に、浮き沈みを繰り返す胸と、身体中に籠もる熱は、決して走ったことによる生理現象のせいだけじゃない。
脳裏に、また爽やかで甘いコンラッドの顔が浮かんだ。
★あとがき★
え~と、ふざけすぎたでしょうか? すみません。 ムラケンもギュンターもBL度を原作より大幅にUPさせてみました^^;
特に、ギュンターが変態M男みたいになってしまってすみませんっ(汗)
次は、ヴォルフラムがちらっとでてきて、コンラッドとラブラブ??かエロエロモードに突入したいです。
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