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2009.4.22設置 『今日からマ王』メインです。 
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2009/09/01 (Tue)                  ショートストーリー第十七編 きっと、好き
ショートストーリー第十七編 きっと、好き 
 
※泉で水遊びするユーリは、なんと紐パン姿なわけで・・・・・・。
  コンラッドからユーリへの想いが強いSS  

 
 腱鞘炎けんしょうえんを起こしかけている俺を気遣って、またコンラッドが俺を城外へ連れ出してくれた。

 いや、王たるもの、サインしなくちゃいけない書類が山ほどあるのは分かる。分かるんだけどさ。さすがに2時間ぶっ続けでサインするのはきついです。

 『渋谷有利原宿不利』は、やたら角ばってるし、画数が多い。って、自分で最初の書類に初サインしたとき、うっかり『原宿不利』までつけちゃったんだよねぇ。
 自業自得かぁ。
 はぁ。


 俺の溜息が聞こえたのか、コンラッドは上体をひねって俺に微笑みかけた。そう、俺は彼に抱きつきながらノーカンティに騎乗している。
 俺がアオに乗るからいいって言うのに、お疲れでしょうから俺がお連れします、って言って聞かないんだもん。

 一度言い出すと、意外と頑固だからな、コンラッドって。
 でも、この広い背中は、男のプライドをチクチクと刺激してくるんだけど。
 いいんだ、俺はまだ発展途上だから。

「そんなにため息吐いて、よほど執務がお疲れなんですね。さぁ、着きましたよ。元気出してください」

 頭上を木々に覆われて、ひやりと涼しい森の中に入ったところだった。 

 木漏れ日を受けて、細められた色素の薄い彼の瞳には、銀の星が盛大に散らばっていた。夏風に弄ばれる、繊細な飴色の髪、優雅に笑みの形を作る、端整な唇。

 そんな綺麗な顔、俺にするのもったいないよ。宝の持ち腐れじゃん。
 
 おまけに、彼はいつの間にか下馬していて、俺に手を差し出す。

「あ、ありがとう」

 彼は、当たり前のように、自然に俺をエスコートしてくれる。か弱い女の子相手ならわかるけど、俺、男だし、ちょっと気恥ずかしいんだよな。

 けれど、コンラッドに手を差し出されると、自然にそこへ身体が向かってしまう。勝利に同じことをされたら、舌を出してやるのに。

「難しい顔をしてどうしたのですか?陛下の所望する日陰の沢山あるところ、ですよ」

「陛下言うな・・・・・・って、うわ!あっちの方に泉あるじゃん!行ってみよう、コンラッド」


 俺は、一目散で森の中の泉を目指す。
 途端に視界に広がる、深い碧色みどりいろの泉。王専用の風呂くらいの、適度な大きさの泉だった。多分、中央の水深は風呂どころじゃないと思うけど。

 浅瀬のほうは、透き通るような透明な色なのに、中心に行くにつれて、吸い込まれそうに深い碧が広がっている。
 心が洗われるような、きれいな泉だった。

 俺の後を追ってきた、コンラッドにお願いをする。
「ねぇ、ちょっと泳いでもいい?」

 彼のことだから、すぐに頷いてくれるかと思った。けれど、彼は思いの他、難色を示した。
「えぇ、ですが、タオルも水着も持ってきていませんよ」

「なぁんだ、そんなことか。いいじゃん、男同士だし。下着一枚で入るよ。暑いから、濡れてもすぐ乾くだろうしさ」

「ユーリ、ですが・・・・・」

 それでも何か言いかけるコンラッドに、笑いかける。

「ね、いいでしょ?コンラッド」

 そういうと俺は無造作に、全部服を脱ぎ捨てる。あっという間に、眞魔国製の紐パン一枚になる。

「ねぇ、コンラッドも一緒に泳ごうよ?」
「いいえ、私は入りません。貴方の護衛をしなくてはいけませんので。剣から離れるわけにはいかないんです」
 俺の提案を、即座に断るコンラッド。なぜか眼を合わせてくれない。
 む、俺の身体が男として粗末で眼もあてられないのか?
 
「う~ん、そうなの?じゃあ、俺、ちょっと泳いでくる」
 泳ぎたくて堪らなかった俺は、急いで泉に向かって駆け出すと、勢いよく飛び込む。

「っつめて~! でも、気持ちいい~~!」
 灼熱の太陽に照らされていた身体は、泉の清らかな冷たい水に、癒されていく。
 ひとしきり、平泳ぎや、クロール、背泳ぎなんかを試してみる。
 けれど、やっぱり一人で泳ぐのはつまらない。

 ざぶん、と勢いよく立ち上がると、思わず下着の紐がほどけてしまいそうになる。俺は急いで、紐を結びなおすと、コンラッドのほうへ向かう。
 白樺に背を預けた彼は、何故か顔を伏せた。
 
 眠いのかな?コンラッド。

 全身から、泉の水を浸らせて、濡れそぼった身体で、彼に近づく。

「やっぱり、一人で泳いでもつまらないんだ。コンラッドも泳ごうよ」

「ユーリ、ですから、貴方の護衛をなおざりにするわけには―― !」
「大丈夫だって!もう、あんまり、焦らすと服脱がせちゃうぞ――っ!」
 
 かたくなに拒否するコンラッドがじれったくて、思わず、彼の襟に手を掛けたときだった。

「やめて下さい!!」
 激しい叫び声と共に、俺の手が払われた。

 あまりのことに、時が止まった。
 彼が、俺を全力で拒んだ。拒絶の怒声、振り払われた俺の手。
 払われた手に、彼の手の感触がヒリヒリと残る。

「ご、ごめん、コンラッド。濡れた手で服に触られるの嫌だよね。無骨者でごめん、コンラッド。それに、俺の護衛してくれてるっていうのに、我が儘言ってごめんなさい」

 いつもスタツアで、こちらに来た時は、ずぶぬれの俺をいとわずに、ふわふわのバスタオルに包んでくれるのに。

 過保護なほどに、いつもは優しい彼なのに。そんな彼から、突然突き放されると、正直、胸が痛くてしょうがない。

 寂しくて、涙が出そうなのを堪えて、踵を返すと泉に駆け込んだ。
 背後から、切羽詰まったような、彼の俺を呼ぶ声が聞こえた。けれど、すぐには向き直れない。今、振り返ったら、彼の顔を見て、泣いてしまいそうだったから。

 彼に背を向けて、泉に鳩尾みぞおちまで浸したところで立ち止まる。
 そこで、いつもの元気な笑顔になるように、気合を入れる。

 よし、もう大丈夫。
 いつもの笑顔で、彼を振り返る。

「悪い、コンラッド。ちょっと泳ぐ間、待っててな」

「・・・・・・折角ですから、たくさん泳いで下さいね」
 
 少しの沈黙の後、彼の爽やかな笑顔が返ってきた。

 よかった、いつものコンラッドに戻ったみたい。
 だけど、俺は少し胸がざわめいていた。

 そんな、もやもやした気持ちを消し去りたくて、むきになって泳いでしまった。







 泳ぎ疲れた俺は、下着が乾くまで、木陰の下で待つことにした。さすがに、外で全裸はまずいかと思って、下着は濡れたまま穿いていた。

 ちょっと、無理して泳ぎすぎたみたい。
 だって、コンラッドに手を払われたのが、すごく悲しくって――。
 そんなことされたこと、一度だって無かったから。

 俺のすぐ傍らには、涼しい顔をした、いつものコンラッドがいる。
 相変わらず、彫が深くて、綺麗な横顔。鍛え抜かれた身体。でも、決して暑苦しくない。女子がうっとりしてしまう、騎士然とした彼。

 もう、俺のこと、除けたりしないよな。
 泳ぎ疲れた俺は、ふいに彼に尋ねた。

「ねぇ、コンラッド、もたれてもいい?」

「御免なさい、ユーリ。今だけは、赦してください」
 
 感情を抑えたような、低い声が、無機質に響いた。
 思わず、俺はむきになって言い返してしまう。

「どうして?俺が、水に濡れてびちゃびちゃだから?」

「違います」

「じゃあ、どうして?」

「わからないんですか?」
 横に座ったのに、今まで一切視線を合わせてくれなかった彼が、ふいに俺を見つめた。信じられない、というように、彼の柔らかいブラウンの瞳が丸くなっていた。

「わからない」
 それでも、俺にはなぜ彼がそんな表情をするのか、皆目検討もつかない。

「貴方の格好が、扇情的過ぎるからです」
 俺に一瞥をくれると、再び視線をそらしてしまうコンラッド。

「せん・・・じょうてき?え、エロいってこと?また~、コンラッド。こんな野郎の紐パン姿なんて、色気の欠片もないし。もう、冗談ばっかり」

 思いがけないコンラッドの台詞に、おかしくなってしまった。

 だって、ありえないだろ?こんな胸も尻も無い少年の身体なんて、グラビアのお姉さんの足元にも及びませんから。健康美には自信があるけど、それはまた次元が違うし。

 思いっきり吹き出して、コンラッドの背中をバンバン叩いた。
 ふいに、コンラッドの背中を叩く手を、彼に掴まれた。そのまま、彼に向き合わされた。
 

「ユーリは、本当に何も分かっていません。もう少し、危機感を持ったほうがいいかもしれませんよ」
 
 絡み付くように、熱い彼の視線が俺を責める。

「え、何?危機感って?俺が、いやらしい眼で見られるから、気をつけろっていうこと?あははは。もう、コンラッドは相変わらず、冗談きついんだから。俺が、そんな眼で見られるわけ無いだろ?ごくごく平凡な高校生男子だぞ?ツェリ様みたいに、ボンキュボンどころか、キュキュキュですよ?せめて、もう少し胸筋があればボンキュキュくらいにはなれるのに~」

「茶化さないで、ユーリ。冗談だと、本当にそう思うんですか?――これでも?」

「―― っふンン!」

 彼の力強い指があごに掛かり、上を向かされたと同時に、熱い唇で塞がれた。空いた手で、頭の後ろに大きな手を差し込まれて、そのまま泉のほとり、草の上に寝転がされた。視界の淵に、無数の木の葉が爽やかに揺れているのが見えた。
 
 けれど、次の瞬間から、硬く眼をつぶる羽目になり、景色などまるで見えなくなった。

「―― っんんっ・・・フ・・・ンンっぅ」

 熱くて柔らかいものが、口内に入ってきたかと思うと、俺の舌を絡め取ったり、歯列をなぞられる。
 あろうことか、舌を唇で吸い上げられる。

 先まで、水遊びしていたせいで、彼の唇は、灼けつくように熱くて、熱くて・・・・・・堪らない。
 剣だこのある指が、蕩けるように甘く、外気に晒されたままの皮膚を撫で下ろしていく。

 身体の芯がゾクゾクと痺れ、気だるい欲望が顔を覗かせそうになる。

 
 どこで息をついていいのか、分からないほどの激しいキスが、酸欠状態を招いて、眩暈めまいがする。

 唐突に、熱い唇が離れていく。
 まだ意識が朦朧もうろうとする、俺の前に映ったのは、見たこともない表情のコンラッド。

 甘くて、心が痺れてしまいそうな、顔。

 彼は、俺の顔の横に手を付いて、そっと俺を見下ろしていた。繊細な髪が重力にしたがって、優雅に垂れている。彼の背後には、夏風に揺らされる若葉と、垣間見える水色の空。

 途端に、我に返る。
 こんな青空の覗く森の下で、よりによって彼にキスされていたなんて―― !

 羞恥に、顔中に血が集まってくるのがわかる。

「御免なさい、いきなりキスして。怖かったですか?」
 
 腰が砕けてしまいそうな甘い声で囁くコンラッド。どこまでも甘い顔のくせに、瞳には野生的な輝きを宿している。
 だから、思わず声が震えてしまう。

「な、なんで?コ、コンラッド。う、うそ、でしょ?なんで、キスしたの?し、しかもこんなすごいキス・・・・・・」

「わかりませんか?」
 にわかに彼の美形な顔がかげりを見せる。凛々しい眉が、苦々しげにひそめられる。色素の薄い、繊細な瞳が揺れている。

 胸が締め付けられるように、彼の顔に魅入ってしまう。頭上で、小鳥のさえずりが聴こえた。若葉風が優しく頬をくすぐる。

 ふいに、唇から零れる彼の告白。

「ユーリ、ずっと貴方の事が好きだった。貴方にキスしたかった」

「嘘、うそだ。コンラッド、俺のこと、そ、そういう眼で見てたの?わっかんねーよっ。そんなこといきなり言われたって!」

 現実から逃避するように、硬く眼をつぶった。
 けれど、胸の鼓動が、一向に収まらないどころか、どんどん高鳴る。
 今まで味わったことのない暖かいものが胸の一部でじわっと広がっている。
 可愛い女の子をみて、ドキドキするなんて比じゃないくらいの、熱い想いが湧き上がってる。

 ―― この想いは何?!

「ユーリ、俺に・・・・・・キスしてくれませんか。もし、貴方の気持ちが少しでも俺にあるのなら。・・・・・・そうでないのなら、今後一切、貴方を困らせるようなことはしないと、約束します」

 優しくて、今にも消えてしまいそうな柔らかい声が届く。
 思わず眼を開けて、彼の顔を見上げた。

 グリーンが混じったようなダークブラウンの瞳は、まっすぐに俺を捉えていた。情熱的で甘い瞳は、一点のにごりもなくて、吸い込まれていきそうだった。

 初めてのことで、自分のこの気持ちを、どう捉えていいのか分からない。

 だけど、この熱い気持ちは、嘘じゃない。

 ―― 俺、コンラッドのこと、きっと、好き。

 彼の首に両手を回すと、思い切って彼を引き寄せた。
 彼に、キスをした。でも、口端に。

 まだ、唇にキスする勇気は持てなかったから。自分の気持ちが、まだ揺れているから。突然、沸いた自分の気持ちの正体は、これからゆっくり掴んでいきたいんだ。
「ご、ごめん。今はこれが精一杯」
 
 こんな曖昧な俺を、ふわりと、花が綻ぶように、彼は微笑んでくれた。
 じわっと胸が熱く痺れた。

「ま、まだ、好きとか、よくわからないけど、キス・・・・・・されて、好きっていわれて、すげ~胸が熱くなったから。だから、俺、この熱さは嘘じゃないと思ったから。そ、その、きっと、コンラッドのこと好きだよ」

「ユーリ!」
 彼は、俺の上半身を抱き起こして、その胸にきつく抱きしめた。こんなに、きつく抱きしめられたのは、初めてだった。それは、恋人同士の抱擁。親愛の抱擁とは違うんだ・・・・・・。胸が甘くくすぐったい気持ちでいっぱいになる。
 彼の夏風みたいに爽やかで甘い香りに満たされた。

「貴方が、俺を受け入れてくれた、その勇気を忘れません。誰よりも幸せにすると誓います」

 甘くて融けてしまいそうな、上品な声がそっと鼓膜を震わした。
 俺は、その吐息に身体を捩じらせて、耳まで赤く染めてしまった。

「こ、コンラッドってば大げさなんだから。なんか、まるでプロポーズみたいだぞ?」

 悪戯な瞳で、俺をみつめながら、俺の左頬を優しく撫でるコンラッド。
 ひ、左頬って、古式ゆかしきプロポーズに関連する重要な部分ですから。ま、まさか?!

「いいんですか、プロポーズしても?」

「ば、ばかっ。コンラッド! 一応、今俺は、あんたの弟に求婚したことになってるんだぞ。ひどい異文化交流の失敗とはいえ。その上、兄のあんたが俺にぷ、プロポーズ?!そんな昼メロみたいな展開、赦されるかっ!」

 トルコ行進曲並みに捲くし立てる俺に、彼はワルツのように優雅な顔で微笑む。

「貴方が望むなら、どんな障害でも乗り越えて見せますよ、ユーリ」

「―― っ!」

 唐突に唇に、熱を感じた。
 またしても、彼に唇を触れ合わされた。


 ためらいがちに唇が離されると、情熱的に囁かれた。

「誓いのキスです」

 眼を見開いて、驚いていると、とても幸せそうに微笑まれた。

 だから、俺もつられて微笑んだ。



 ごめんなさい、コンラッドのこと、 『きっと』好きなんて言って。



 俺、コンラッドのこと大好きだったみたい。





★★あとがき★★


 やっぱり、最後はユーリも彼が大好きだと気づくのでした。
 よかったね、コンラッド。

 今日は熱かったので、水遊びさせてみました。
 コンラッドは辞退したけど(苦笑

 

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