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第六話 婚前旅行はスリル満点 前編
今日も、しとしととうっとおしい雨が降る。
眞魔国にも、梅雨入りってあるんだろうか?
でも、雨がこんなにうっとおしく感じるのはきっと俺の欲求不満のせいだ。
俺とコンラッドは全くといっていいほど、血盟城で二人きりになれなかった。
そりゃあ、執務だってやらなきゃいけないし、この国のことをもっと王佐から学ばないといけないことはわかってる!!
でも、なんで俺とコンラッドが二人になろうとすると、必ずギュンターとヴォルフラムが邪魔をするんだ~~~。一応、俺たち婚約してるんで、気を使ってほしいなぁなんて思うんですけど。
でも、ヴォルフラムがやっと元気になったんだもんな。
また、彼のことを傷つけて、落ち込まれても悲しいし。
ああ、でも、ジレンマだ~~。
「ユーリ!!ここにいましたか!!」
俺のどんよりと曇った雰囲気とは対照的で雨上がりの空のように明るいコンラッドが俺に駆け寄る。
「見てください、ユーリ!」
彼の弾んだ声に、導かれるように彼の指すA4の紙を見る。地球でよく目にする広告だった。
けれど、内容を見て仰天する。
「うわぁ!これって、旅行会社の広告じゃん。しかも、何、このハネムーンって!」
コンラッドが、にっこりと微笑む。
「まだ、式は挙げていませんが、日本ではよく結婚前に婚前旅行をするのでしょう?猊下からお聞きしました。おまけに、猊下から二人で行って来るようにと、勧められました」
俺の気分は、たちどころに晴れ渡った。食い入るように、パンフレットを読み耽る。
「うわ~~、エクアドルの宝物、ガラパゴス諸島?!美しい自然の残る魅惑の島々。プライベートビーチ併設のホテル?!すっげ~、村田の奴、いつの間に地球からこんなもの持って来てたんだ?!」
その時、背後から硬い靴の音がこつこつと響く。
陽気な友人の声が聞こえる。
「やぁ、渋谷にウェラー卿。早速、見てくれてるんだ、そのパンフレット。どう?行って見たい?」
俺は、飛び上がるように村田に駆け寄ると、彼の手を掴み取る。
「行きたい行きたい、行きたいです、大賢者~~!!」
コンラッドも、優雅に微笑んでいる。
「えぇ、ぜひ行かせて戴きたいです、猊下」
満面の笑みで、応える村田。
「うん!!了解。じゃあ、眞魔国の皆からの結婚祝いってことで、プレゼントするよ。なんか最近君達いらいらしてるようだったからね。誰も邪魔しないところで、二人でのんびりと羽を伸ばしてきて」
悪戯にウィンクする村田。
あぁ、なんて、気が利く、親友なんだ~、なんて、細かい気遣い、さすが大賢者~!それにしても、婚前旅行っていうと国内で温泉旅行とかが相場じゃないか?こんな、南米にまで旅行に行くなんて・・・本当にもうすっかりハネムーンだな・・・・。
いけない、顔が緩んでしまう。
そっと、コンラッドを見遣ると彼も蕩けそうな甘い笑顔で俺に微笑んできた。
とうとう、旅行日の朝が来た。
俺たちは、昨夜から渋谷家にスタツアしてきていた。
ここでも、コンラッドと二人きりになろうとすると勝利が邪魔をしてきたのだけれど・・・。
お袋が、俺たちのために旅行用の服を新調してくれていた。そんなこといいっていうのに、全く聞き入れてくれなくてせっせと用意してくれていた。多分、コンラッドに自分好みの服を着せたくてしょうがなかったんだと思う。俺は、そのついでっていうか・・・。
けれど、お袋のコーディネートには度肝を抜かれた。
着替え終わったコンラッドを見て、俺はハリウッドスターかと思った。
ピュアホワイトの細身のシルエットのジャケット。インナーには、淡いブルーのシャツ、ボトムスはブルージーンズ。ダメージ加工の施してあるジーンズがワイルドさを引き立たせる。
男のセクシーさを強調するような格好。
俺の視線に気が付くと、コンラッドが俺に微笑む。
笑顔が、ま、眩しいっ。
「ユーリ、とても愛らしい格好ですね」
そ、そうだった。コンラッドの格好に見惚れて、忘れてたけど俺に用意された服には悪い意味で度肝を抜かれた。コンラッドは、こんなに格好いいのに俺の格好は、まるで女の子チックだった。お袋め~。
明るいイエローのパーカーに、インナーは、紺のボーダーのタンクトップ。いや、タンクトップって言うか、もはやキャミソール??ボトムスは、ふんわりとしたシルエットのベージュのショートパンツだった。おまけに、トップスとお揃いのボーダー柄のオーバーニーハイソックス付き。絶対これ、休日の女子高生ルックだよな・・・・。うう・・・。
だけど、コンラッドはこんな格好の俺をえらく気に入ってくれたみたいで、ぎゅっと腕の中に抱きしめられる。
「本当に、とてもお似合いです・・・ユーリ」
うう、コンラッドがこんなに気に入ってくれてると着替えづらいな。俺としては、即効で、別の服に着替えようと思ってたんだけど。ま、いいか。婚約者がこんなに喜んでくれてるし、このまま出かけるか。
俺たちは、広い空港の国際線へたどり着いた。
「行ってらっしゃ~~い」
「く~、こんな可愛いゆうちゃんを独占するコンラート、憎し」
親父、お袋、馬鹿勝利に見送られて、俺たちは出国検査場に進む。
気軽に、家族に声を掛ける俺。
「お土産、買ってくるからな~」
一方、改まって、俺の家族に挨拶するコンラッド。
「では、行ってまいります、父上、母上、兄上。どんな危険が起ころうと必ずユーリをお守りします」
回りの視線が俺たちに集まる。
「ちょっと・・・コンラッド・・・ここは地球だからそんな危険は起きないって・・・もう、大げさだなぁ」
「すみません、ユーリ」
ばつが悪そうに微笑むコンラッド。
そんな顔もカッコいいんだけど・・・・。いけない、顔が緩む。
そんな折、とてつもない大声が響く。
「コンラート、ユーリに手を出したら承知しないからな~~!!」
馬鹿勝利の大声に、恥ずかしくなった俺は、周りの目から逃れるようにコンラッドの腕を掴んでどんどん出国検査場の奥、搭乗者ゲートを目指して進んでいった。
ここまで来れば、もう勝利には俺達の姿が見えないはずだ。
俺たちは、アメリカ経由で南米エクアドルまで向かう。そこで、国内線に乗り換えて、ガラパゴス諸島の空港があるバルトラ島へ向かう。さらに、そこからフェリーに乗って、イザベラ島へ向かう。この島に、俺達の泊まるホテルがある。
乗り継ぎを間違えないように、しっかり覚えてきたんだ。我ながら、偉いぞ、俺。
それにしても、この飛行機内は若いカップルだらけだな。おまけに、皆異常にいちゃいちゃしている。
そうか、確か村田の見せてくれた旅行のパンフレットに、ハネムーンって書いてあったっけ。どおりで、皆いちゃいちゃしてるんだ。新婚さんなんだもんな。当然か。
あ、そういう俺ももうすぐ新婚さんになるんだ。っていうか、すでにもう婚約者同士だし・・・・。
そう思うと、急に恥ずかしくなってしまった。
真っ赤になって俯く俺を心配そうにコンラッドが覗き込む。
「どうしましたか、ユーリ。気分が優れませんか?」
俺は慌てて否定する。
「ううん、全然そんなことない・・・・ちょっと、周りの新婚パワーに当てられちゃった感じかな?」
少し、考え込むような顔をして、コンラッドは、フライトアテンダントを呼ぶ。
「すみません、ブランケットを貰えますか」
コンラッドの格好良さに、目がハートになったフライトアテンダントが小鹿のように軽やかに、ブランケットを持って舞い戻ってきた。
「どうぞ、何かあったら、またいつでもお申し付けください」
にっこりと、笑う彼女。
本当に、コンラッドってカッコいいよな、女の人なら皆惚れちゃうんじゃないかな?
ちくりと、嫉妬心が胸を刺す。
そんな俺の様子を感じ取ったのか、コンラッドがそっと俺の耳元で囁く。
「俺が、好きなのは貴方だけですから」
彼の甘い声と吐息が耳に触れて、ぞくりとする。
「コン・・ラッド・・・・」
甘えたような声が漏れてしまう。
コンラッドは、俺と自身の膝の上にブランケットを掛けると、そっとブランケットの中で俺の手を握る。
繋いだ手が、他の乗客から見えないように。
「俺は、人目など気にしないのですが、貴方は困るかと思いまして」
柔らかく微笑むコンラッド。
「地球では、同性同士の恋愛は難しいようですので、表立って、貴方を愛せないのが残念ですが、少しでも貴方に触れていたくて・・・・手を、繋いでいてもいいですか」
彼の切ない声に、熱に浮かされたように返事をしてしまう。
「うん・・・コンラッド」
ブランケットの下で、コンラッドの長くて細い指が、俺の指に絡まる。指を絡めるだけの行為でも、隠れてしているというだけで、妙にいけないことをしている気がする。動悸が早くなる。
そんな俺の気持ちが伝わったのか、コンラッドは、熱いまなざしで俺を見つめる。
そっと、耳元で低い声で囁く。
「ユーリ・・・・早く貴方を抱きたいです」
甘く低い声が俺の鼓膜をじかに震わせる度に、全身が粟立ってしまう。
もう、コンラッドの馬鹿・・・俺は、あんたの声に弱いんだから・・・・。こんな、耳元でばかり囁かれたら・・・しかも、そんな台詞言われたら、おかしくなっちゃうだろっ。
俺たちはもうすっかり、二人の世界に酔いしれていた。
日本から、ガラパゴス諸島までの道のりは長い。経由地のヒューストンまででも、12時間も掛かる。そこから、エクアドルの首都、キトまでも6時間半かかる。更に、キトから国内線に乗り換えてガラパゴス諸島まで1時間半かかる。
飛行機初心者には、かなりきつい道のりだ。
俺は、アメリカ合衆国マサチューセッツ州ボストンで生まれて、日本に移り住んだので、飛行機は初心者というほどではなかった。
けれど、コンラッドは飛行機自体が初めてだし、しょっぱなから、こんなに長い時間飛行することになって、飛行機酔いになってしまった。
俺たちは、20時間近くかけてガラパゴス諸島のバルトラ空港にようやくたどり着いた。
苦しげに、息を吐くコンラッドの肩を抱いてバルトラ空港で入国手続きを済ませる。ベルトコンベアーなどない前時代的な手法で機内預けのスーツケースを受け取り、人ごみの中、空港出口へと向かう。
コンラッドは、申し訳なさそうに俺を見つめる。
「すみません、ユーリ。俺がふがいないばかりに・・・」
いつものキザで頼りがいのあるコンラッドと違って弱弱しくてなんか可愛いな。
「ううん、全然いいんだ。だって、いつもあんたって完璧すぎるからさ、ちょっとくらい弱い所見れたほうが、むしろ安心しちゃうよ。って、ごめん。コンラッドが辛いときに安心なんて言っちゃって」
思わず、口を滑ってしまった言葉に焦る。口に手を当てて、そっとコンラッドの様子を見る。
彼は、この上なく優しく瞳を細めて俺に微笑んでくれた。
「貴方は、本当に・・・・優しいですね」
「そんな・・・コンラッドのほうがいつもずっと優しいよ」
俺は、真っ赤になって俯いてしまう。
自動ドアを通って、空港ロビーに出る。オープンエアーの開放的なロビーだった。ディズニーランドのアドベンチャーゾーンの施設のように、風通しのよい木製の建物だった。南国の乾いた風が身体をさらりと撫でた。
たくさんの人々が搭乗者を出迎えていた。搭乗者の家族だったり、旅行会社の現地スタッフだったりした。
そうだ、コンラッドが体調が悪いんだから、俺がしっかりしないとな。
俺は、自分達の申し込んだツアーの現地スタッフがいないかを確認する。
けれど、あまりにもツアースタッフが多すぎて、なかなか探せないでいた。すると、一人の中年のおばさんが親切そうな笑顔で近寄ってきた。
英語ではない言語で、しきりに話しかけてくる、中年女性。
えっと、ガラパゴス諸島の公用語、スペイン語だっけ?
俺達のスーツケースにつけられたツアーのタグをしきりに指して、何かを訴えかけている。
あぁ、そうか。きっと、この人が現地のガイドさんなんだ。なんか親切そうな人だし、多分大丈夫だろ。
俺は、コンラッドを連れて、女性の後を付いて行った。コンラッドは、飛行機酔いが酷そうで、ぐったりとしていた。
空港を出て、どんどん進んでいく彼女。
気がつくと、人気の少ない、空港の裏口の方へ進んできた。
あれ・・・、なんか人が少なくて、怪しい雰囲気だけど大丈夫かな?
なんて、思っていると、小型のバンの前に案内された。
しきりに、身振り手振りでここに乗れというおばさん。
うん、多分大丈夫だと思う。
俺は、苦しそうなコンラッドの肩を抱いて、バンに乗り込む。スーツケースも、大事に抱えて。だって、お袋にすげーしつこく注意されたしな。荷物から目を離すなって。
俺が、最後に見たのは、バルトラ島の赤茶色の大地とサボテンの景色だった。
「ん・・・・」
どうやら、すっかり眠りこけていたらしい。
目を覚ますと、俺はその景色に仰天する。
なぜか今俺達は、コンラッドと二人きりでジャングルの深い森の中にいた。バンの運転手と別れた記憶さえない。おまけに、スーツケースや、身体に隠し持っていたパスポート、お金などの貴重品が一切無くなっていた。あんなに、お袋から荷物から目を離すなって言われてたのに・・・。
騙されたんだ!!あのおばさんたちに!それよりも、こんなジャングルの中で!!ど、どうしよう?!
同じ頃に、目を覚ましたコンラッドも事の異常さを理解したらしい。
慌てふためく俺を胸に抱きしめるコンラッド。
「すみません、俺が乗り物酔いなどをしたばかりに貴方をこんな危険な目に遭わせてしまうなんて・・・!!」
俺を抱く手にぐっと力が篭るコンラッド。
「絶対に、ここから貴方を救い出して見せます」
「そんな、コンラッドが悪いことなんて何一つ無いのに。俺が、もっとちゃんとしてれば、あのおばさんに付いて行かなければこんなことにならなかったのに・・・!!」
熱帯雨林の原生林が不気味に生い茂る中、きつく、コンラッドにしがみつく俺。
「いいえ、貴方は悪くありません。俺が、乗り物酔いさえしなければよかったんですから。さぁ、行きましょう」
王子のように、優雅に微笑み手を差し出すコンラッド。すっかり飛行機酔いは醒めたみたいだった。
まったく、過保護なんだから・・・・。どう考えても、俺が悪いのに、俺のことを責めないなんて、優しすぎだよ、コンラッド。
コンラッドの手を握って、そっと立ち上がる。
立ち上がって、手を離そうとすると、彼にぎゅっと強く手を握り締められる。
「このまま、俺の手に掴まっていて、ユーリ。道が険しそうですから」
もう、本当に過保護なんだから・・・。
アララー アララー
おかしな鳴き声が聞こえる。
頭上をいかにも熱帯にふさわしい緑と青色の巨大なインコのような鳥が飛んでいく。
樹木を見上げると、大きな黄色い嘴のオウムのような鳥が小首を傾げてこちらを見ていた。
目の前には、見たことも無いような華美な蝶々が何匹も連なって舞う。
あまりの大自然に、俺は置かれている境遇を忘れてはしゃいでしまう。
「ちょっと、コンラッド!すごい、綺麗な鳥がたくさんいるよ!蝶々もすごい、見たこと無いよ、こんな派手な奴!」
にこりと微笑む、コンラッド。
「ええ、原生林ですから、自然がそのままの姿で残っていますね。こんなことになってしまったけれど、ユーリが、少しでも喜んでくれることがあってよかった」
コンラッドは、いつでも俺のことばかり考えてくれてるんだな・・・・。
こんな状況なのに、胸がじんと熱くなる。
俺は、ただ彼に手を引かれ、大自然に目を輝かせながら彼の後を付いていく。
しばらく歩いていくと、コンラッドが安堵の息を漏らした。
「よかった・・・。探していたものが見つかりました。これで飲み水は確保できそうです」
俺達の目の前には、鬱蒼とした原生林の中、浮かび上がるように澄んだ泉が広がっていた。翡翠色の澄んだ水。辺りには、極彩色の花々が咲き乱れ、桃源郷のようだった。
それにしても、俺はただ彼の後を付いてきただけなのに、彼は、水のことまで考えていたなんて・・・カッコよすぎるよ・・・コンラッド。
「ありがとう、コンラッド。コンラッドと一緒だとこんなジャングルの奥地でも、全然怖くないよ」
原生林の隙間から射す陽光を爽やかに浴びて、微笑むコンラッド。
「ありがとう、ユーリ。貴方のためなら、貴方を守るためなら全力を尽くしますから」
もう、どこまでも甘いんだから、コンラッドは。
コンラッドの提案で、この泉の付近を拠点にすることにした。この付近で、食べ物を採取しながら、岸辺を探索したり、他に来ているかもしれない観光客を探し、帰路を見つけることにした。
前編=完了
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