2009.4.22設置
『今日からマ王』メインです。
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第八話 Birthday Wedding ③
※コンユ挙式編ですv
本日、午後1時に血盟城の眞王廟にて、挙式が執り行われる。眞魔国は、地球のような神への信仰はない(眞王への信仰のようなものはあるが)ので、結婚といえば人前式が主流だ。日ごろお世話になっている人、親しい人達の前で、結婚を宣言し、承認してもらうのだ。
国税を浪費するわけにはいかない、と俺のたっての希望で、式は身内で密やかに行うことにした。それでも、一国王の晴れ舞台を、国民に披露しないわけにはいかないということで、挙式後に血盟城で盛大なセレモニーを行うことになったんだけど。
今、なぜか俺はジェニファーもといおふくろ譲りのウェディングドレスを血盟城のメイドさん達に総出で着付けてもらっている。何か歴史のあるものを身につけると幸せになれるとかで。そんでもって、スカートの下にはヴォルフラムに貰った青いペチコートを穿いてる。なんでも青いものをこっそりと身につけるとよいのだとか―って、そういう問題じゃないだろっ?!
他にも、何か新しい物をとかいってハイヒール!を新調したり、何か友人から借り物をとかいって、グリエちゃんからイヤリングを拝借させられたんですけど・・・?!
盛大に言っておくが・・・・俺は男だーーーー!!!
でも、無事に式を挙げられることになってよかった。
だって、俺はついさっきまで、ヴォルフラムの叔父さんに軟禁されてたんだ。
彼はどうしても、コンラッドのことが信じられないからって、俺を誘拐して(!)、アニシナ作『雪の陛下人形(何でも氷の心で相手の愛を拒絶する俺そっくりの喋る人形なんだとか。それでも相手が負けずに愛を囁き続けると、幸せに天に召されるのだとか)』を俺の身代わりとして血盟城に投入したんだ。
ヴァルトラーナは、大シマロンで俺を裏切ったコンラッドが信用ならなったらしい。
だからって、こんなことして赦されるのか?!もう、色々ぶっとんでるんだから、あの人は。ついでにアニシナも・・・。
でも、でも、そんなことよりも、コンラッドが一番傷ついたんだ。
いくら最後は、俺じゃなくて人形でしたよ・・・なんていわれたってさ。俺だと思ってた相手にずっと冷たくされ続けてたんだよ。俺が、同じ事をされたら、きっと辛くて堪らない!
心が、折れてしまったと思う。
それでも、コンラッドは、俺人形が結婚したくないと散々ひどいことを言った時、絶対に諦めたりしなかった。コンラッドの信じられないくらいの壮絶な愛の告白を、俺は中庭のローズマリーの陰で聞いていた。ヴァルトラーナに魔術を掛けられていたから、すぐにコンラッドを救いに行けなかったのが辛かったけど。
それで、気づいたら上様になっていたみたいで、記憶がないんだ。
気がついたら、ここの控え室にいたんだ。
だから、まだコンラッドとちゃんと話していないんだ。
コンラッドときちんと話したい。人形が酷いこと言って辛かっただろって。
えっと、その―俺はコンラッドのこと、ちゃんと大好きだよって・・・・。結婚できて、幸せだよって。
ふいに、ドアがノックされ、愛娘のグレタとメイドのドリアがやってきた。グレタは、可憐でひらひらのピンクの衣装に身を包んでいた。そんな愛らしいグレタは、目をきらきらさせて、俺に抱きついた。
「ユーリすごい!きれ~い!お姫様みたいだよ!!私も、早くパパみたいに綺麗なお嫁さんになりたいっ!」
「だめっ!グレタはお嫁に行っちゃいけません!今のグレタでも、もう十分に綺麗だよっ」
「うーん、お嫁さんには憧れるけど・・。でも、ありがとう。ユーリ、大好き!」
突込みどころは、むしろ『パパみたいに綺麗なお嫁さん』っていうおかしな日本語(いや、眞魔国語か?)だったかも。でも、グレタがお嫁に行くなんて―くう、涙が出そうだ。
一人妄想に入りだした時、ドリアの声が俺を現実に引き戻した。
「陛下、とても仲睦まじい親子のふれあいのところ申し訳ないですが、そろそろ式の準備が整ったようですので、こちらへお越し下さい」
ドリアにドレスの裾を持ち上げてもらいながら、グレタとふたり眞王廟の前に辿りつく。
そこには、勝馬がいた。入場する時は、新婦(俺・・・ヲイ)の父が花嫁をエスコートする。そのために、親父は地球からはるばるスタツアしていた。もちろん、おふくろも、勝利もスタツアして来て、式に参列している。そして、グレタがフラワーガールとして俺のドレスの裾を持ってくれるというわけだ。
「まさか、息子が嫁入りするとはな―」
どこかおどけたように、でも感慨深げに親父が俺を見た。
「もう、茶化すなよな」
「おまけに、こんなに可愛い娘がいたなんてな?!グレタちゃんっ」
親父は、グレタを満面の笑みで抱きしめる。
「お爺ちゃん、くすぐったいよぉ」
グレタも、嬉しそうに笑っている。
うわぁ、なんか、ほのぼの家族の絵だ~、俺ちょっと感動したかも。
そのとき、ドリアが眞王廟の厳かな扉を開き俺たちを中へ促した。
「では、皆様、お進み下さい」
俺は、親父にエスコートされ、グレタにスカートの裾を持ち上げて貰いながら、眞王廟の中心、紅い絨毯を敷かれた上を歩いていく。
今日のために、わざわざ木製の参列席が用意されていた。また、いつもは飾り気のない眞王廟内が可憐な白い薔薇、ユリ、ジャスミンと光沢のある蒼いリボンの装飾で華やかに彩られていた。甘い上品な花の香りがうっすらと漂う。
傍らでは、宮廷楽団が、ヴァイオリンとフルートの優雅な音色を奏でていた。
今から、うん十年前にお袋が着ていたこのドレスは、お袋の趣味そのものの、レースやフリルがふんだんにあしらわれたお姫様チックなドレスだった。
純白のふわりとしたラインのドレスには、繊細なゴールドレースが段違いに重ねてある。歩くたびに優しく揺れる様は、可憐だった。頭には、微細な刺繍をあしらわれたマリアヴェールを掛けて、その上に淡いゴールドの冠を載せている。
そして、手元には、白を基調にした可愛らしい花で造られた丸いシルエットのブーケを携えている。白い薔薇の中に垣間見える鈴蘭の小さくて可憐な花弁とその緑の葉が、美しいコントラストを織り成している。
可憐過ぎて、野球少年の俺に浮いてしまうんじゃないか、心配だ。
けれど、それよりも感慨深い気持ちが込みあがってきたんだ。
花嫁の気分を、男の俺が味わうことになるなんて―。
今まで、俺を育ててくれた父が俺をエスコートしてくれている。走馬灯のように、父とキャッチボールした思い出や、遊園地に行った思い出、父の日に肩たたき券なんかをあげたこと、自立心が芽生え、激しく言い争った思い出が、次々と駆け巡る。
そして、参列席で俺のことを暖かい目で見守ってくれる、家族、眞魔国の皆。
―どうしよう、俺、なんか泣きそうかも。
眞王廟の祭壇まで来たとき。霞む視界に映る、一人の美青年の姿。すらりとした長身のシルエット。そこだけ空気が澄んで居るような気がした。
俺の護衛兼、名付親兼―だ、旦那様。
コンラッドだ。
俺が、地球のウェディングドレスを着ているので、コンラッドはそれにあわせて、オフホワイトのショートフロックコートを着用していた。
肩のラインが湾曲しツンと上を向いたスタイリッシュなデザインは、より一層顔周りをすっきりと見せ、ウェストのラインをスマートに見せる。中のシャツも、タイも、ベストも全て白で統一されて、とても洗練された印象を与えた。
ただでさえ、美形で長身の彼が、そんな華やかな衣装を着た日には、もう言葉も出ない。
惚けたように、見惚れていると、そんな彼が俺に跪いて、手を差し出した。
大きくて、形のいい・・・・いつでも俺を守っていてくれた―その・・・・手。
親父の腕をそっと解くと、吸い寄せられるように、彼の手をしっかりと掴む。
―今、この瞬間!
俺は、家族の元を離れ、彼との人生を、確かに歩みだすんだ!
どうしよう、どうしよう?親父、ごめん・・・ありがとう。でも、すっげぇ、嬉しい!
親父への僅かな罪悪感と感謝の気持ち、それとこれから始まる未来への期待に―幸せに胸が躍る。
感極まって、泣いてしまいそう。
だめだ、泣いたら!これから、結婚の宣言文を読み上げないといけないんだから―!しっかりしないとっ・・・・・。
葛藤する俺の様子に気がついたのか、コンラッドが花が綻ぶような優しい笑顔で見つめてくれた。ブラウンにグレーが混ざったような色素の薄い瞳に、今にも泣きそうな自分が映っていた。
「ユーリ―我慢しないで・・・・泣いていいんだよ?俺がフォローするから」
胸にじわっと染み込むような、優しさの溢れる低音で囁かれて、ぽんぽんと優しく頭を撫でられた。
もう限界。
彼と結婚できる嬉しさと、こんなときまで、とろけそうなくらいに優しい彼への、たまらなく大好きな気持ちがどんどんあふれ出てくる。
にわかに、先程のことを思い出した。
そう、俺にそっくりの人形が彼に、結婚したくないとか、信じられないとか言いたい放題言ってたんだ。
まだ、まだ彼に、ちゃんと・・・・伝えてない。
伝えなきゃ―。
「コンラッド・・・・俺・・・・・こんな優しいコンラッドと結婚できて・・・・嬉しすぎだよ・・・・。
さっきは・・・・辛かったよな・・・・。ごめんな・・・・、俺、上様になっちゃって記憶がないんだ。ちゃんと、コンラッドのこと―好きだよって、あんたの不安だった気持ちを全部取り去ってあげたいって思ってたのに・・・・」
ぽろぽろと涙が溢れ、コンラッドの姿が滲んでいく。
コンラッドが、俺の両頬を大きな手で包み込む。そのまま、ふわっと、柔らかな彼の微笑みが目の前で零れた。
「ユーリ、うれし泣きはいいけど、悲しくて泣いちゃ、駄目だよ・・・・。それに、魔王の貴方も俺のことをとても優しく気遣って下さいましたよ」
彼は、俺の目元に溢れる涙に、そっとキスをする。
そして、涙のあとをたどるように、キスを降らしていく。
唇のところまで来ると、甘い甘い―今までしたキスの中で、一番幸せなキスをした。
「コンラッド・・・・」
「ユーリ・・・・・」
二人が見つめあい、手と手を重ね合わせる。
「ユーリ・・・・いついかなるときも、貴方の側で貴方をお守りします。生涯をかけて、ただ一人―貴方を愛します」
彼は、優しく俺の左手袋を外す。そして介添え人から差し出された、マリッジリングを俺の左手の薬指に嵌めていく。
指輪の冷たい感触が、ゆっくりと俺の薬指を通っていく。
眞王廟のステンドグラスから差し込む、神々しい光が指輪に反射して、キラリと光る。
そして――確かに今―俺の左手の薬指に嵌められた、マリッジリング。
もう、俺は―生涯にわたって彼に愛される者。
その証を身につけた。
次は、俺の番。
コンラッドの長い薬指に、ゆっくりと愛の証を嵌めていく。
そして今―確かに彼の左手の薬指にその指輪が嵌められた―。
もう、彼は一生涯に渡って俺が愛するただ一人の人。
今まで、何度だって見詰め合ったのに、今、目の前に佇む彼は、とても眩しくて―照れくさい。
彼も、いつもよりずっと余裕の無い顔、してる。幸せが全開で、照れくさくて、はにかんだみたいな―俺と同じ顔、してる。
きっと―幸せすぎるから。
大好きでたまらなかった、二人が、やっと、誰からも祝福されて、その愛をはぐくんでいけるから。
その大切な、始まりの一瞬だから。
だから、お互いが眩しくて照れくさくてたまらない―。
幸せすぎて、ずっとコンラッドのことを見てた。
ここが他にも人が居る、挙式のまっ最中だって気づいたのは、どよめきと、暖かい拍手が起きたときだった。
「お誕生日おめでとうございます!!そして、ご結婚おめでとうございます!!陛下!!」
「誕生日おめでとう、ゆーちゃん!!結婚おめでとう!!とっても、素敵な式だったわよ!」
「お父さんも、感激したぞ!」
「コンラッド!ゆーちゃんに、チューまでして赦せん!でも、俺のゆーちゃんをくれてやるんだ、大事にするんだぞ!」
「ユーリ!俺という婚約者がいながら、コンラートを選んだんだ!絶対に幸せになるんだぞ!!」
「べいぐわぁぁ、おだんじょうび、おめでどうございまず~、ごげっごんおめでどうございまず~」
「・・・・・幸せにな」
「坊ちゃん、隊長、見せ付けてくれますね!おめでとうございます!」
「本当、あてられちゃったなぁ、幸せにね!」
「パパ、とっても、幸せそうだった!グレタもやっぱり早く結婚したくなっちゃったよ!」
俺の大事な人たちからの暖かい言葉が、溢れた。
その溢れんばかりの、祝辞が眞王廟を揺らした。
本当に、今日は、十六年生きてきた中で、最高に幸せな日だ!
とっても、幸せなバースデイ・ウェディングだ!
けれど、感慨深い気持ちは、次の一瞬、吹き飛んだ。
城門付近を護っていた、兵士の一人が、荒い息を上げながら、勢い込んで眞王廟の扉を開けた。
「た、大変です!陛下!城門に沢山の人間と魔族が押し寄せています!」
グウェンダルが、眉間に一層の皺を刻み込む。
「まだ、血盟城での祝典の時間ではないはずだが・・・・?!」
「え、えぇ。確かに―。夕刻の5時より、眞魔国内の住民を招待しておる手筈でございますが・・・・」
ギュンターが、銀色の懐中時計を訝しげに見つめる。
「人間・・・は、どのくらい押し寄せているんだい?」
村田が眼鏡を鋭く光らせて、兵士に尋ねた。
「え・・はい。おそらく押し寄せてきた魔族と同人数だと思われます!」
村田は、それを聞くと俯いて、なるほど・・・と呟いた。
グウェンダルは、こめかみに手を当て、顔をしかめた。
「ま、まさか―暴動?!」
コンラッドが、表情を険しくして叫んだ。
「ユーリは、ここに居てください!俺たちが今様子を伺ってきますので―!!」
「僕も行くぞ、コンラート!」
コンラッドに続いて、ヴォルフラム、グウェンダル、ギュンター、ヨザック、勝利までもが、眞王廟を去ろうとした。
「待って!俺も行くっ!」
俺は、慌てて飛び出そうとするも、スカートが足に纏わりついて上手く動けない。
その俺を大急ぎで、制止するコンラッド。
「貴方に何かあったら、困ります。私に任せてください」
「そんな―!!」
俺が、反論しようとしたとき、村田が意味深な笑顔で微笑んだ。
「いいと思うよ、渋谷。ここは、渋谷も行くべきだと思う」
彼の考えは、きらりと反射する眼鏡に隠されて見えない瞳のごとく、読めない。けれど、きっと大丈夫・・・な気がした。
「うん!!だって、俺がこの国の王なんだ。ここで引っ込んでいたら男が廃 るよ!誰に止められたって、絶対に行くから!」
ウェディングドレス姿で、『男が廃 る』って発言もどうかと思ったけど止められない!俺も行って暴動を鎮めるんだ!!
―大丈夫、きっと話せばみんなわかってくれるんだから!!
コンラッドは、苦々しい表情で頷いた。
「―分かりました、ユーリ。でも、その格好では走れないでしょう。俺が抱きかかえて行きますから」
ええっ?!
俺が、驚きの声を挙げる間もなく、コンラッドは俺を素早く横抱きにした。
―こ、これって、姫様だっこじゃん?!暴動を起こす民衆の前で国王がウェディングドレス姿で、それもお姫様抱っこされて登場?!
そ、それって、余計に民の怒りをかうんじゃ?!
「ちょっと・・・駄目だって。コンラッド~!!」
俺が、情けない声を挙げるも、彼は俺をそのまま抱きしめて城門を目指す。
近づくにつれ、ざわざわと民衆の声が耳に届く。その声から察するに、かなりの人数が揃っているようだった。
姫抱きされていることなど忘れて、緊張に胸が軋 む。
―彼らは一体、何を訴えに来たのか?何を求めているのだろう?
血を一滴も流さずに、和解したい―!!
ヴォルフラムやグウェンダル達を携えて、コンラッドに抱き抱えられたままの俺は、城門付近の広場へと降り立った。
そこには、一兵士が言う通り、あふれんばかりの魔族と人間達がいた。ざっと見渡すだけで、百人はいる!
こんなにたくさんの人数―なんとか説得できるだろうか。
でも、俺が、俺がやるしかないんだ―!!
「コンラッド、俺をもっと彼らの側に近づけて」
「ユーリ・・・ですが・・・・!!分かりました」
俺を嗜めようとしたかに見えた彼だったが、俺の真剣な瞳に譲歩してくれた。
コンラッドに抱えられたまま、彼らの側に近づいていったとき―!!
耳をを劈 くような歓声が大地を揺らした。
「ユーリ陛下、お誕生日おめでとうございます!!陛下、コンラート閣下!!ご結婚おめでとうございます!!」
拍手喝采と、溢れんばかりの祝辞に包まれた。
俺とコンラッドは、狐につままれたみたいに目を合わせた。
ひとしきりの大歓声の後、彼らのリーダーと思しき人物が、語りだした。
「私は、魔族のジェラルミンと申します。この度は、突然の城前でのご無礼、大変失礼いたしました。実は、我々は、他国から駆け落ちしてまいりました。私達は、皆、各々が種族を超えて―魔族と人間との間で―愛し合う恋人同士なのです。自国では、魔族と人間が恋をすることは赦されないのです。まして、結婚など―!!ですから、このたび、陛下と閣下の結婚は、私達に一筋の光を照らして下さいました。この国ならば、私達の愛が赦されるのだ―と、結婚もできるのだ―と!!王自らが、人間との混血であらせられるコンラート閣下を、生涯の伴侶にお選びになったのですから!!」
目をキラキラと輝かせて、熱弁をふるう彼。
そして、より一層、瞳を輝かせる彼。
「陛下、どうか、我々の結婚を御許し下さい。そして、貴方の民となることを御許し下さい」
「陛下のご加護を―!!」
民衆が、一斉に頭を垂れて、陳情する。
俺は、胸が熱くなった。
俺たちの結婚で、勇気付けられて亡命までしてこの国に来てくれるなんて―!
こんな、未熟で、十六になったばかりの、王に出来ることがあるんなら、何だって協力したい―!!
俺が、燃え滾る思いに胸を熱くした時、グウェンダルの硬い声が響く。
「陛下!亡命した彼らを受け入れるということは、我が眞魔国が彼らの祖国に謀反を起こすということになるんだぞ。戦争の火種になるやもしれん。分かっているか?」
俺は、思わずたじろいでしまった。
そんな、そんなこと考えもしなかった。いや、わからなかった。
なんて、浅はかなんだろう。俺は、やっぱりただの子供・・・・・。
―情けない。俺は、熱い思いだけで、突っ走ろうとしてた。俺の一時の感情が、眞魔国を振り回すことになるんだ―俺は、王なんだ。その一挙手一投足が、この国の平和を左右しているんだ。
改めて、自分の王という責任の重さに眩暈がした。
うな垂れる俺に、グウェンダルはやはりな・・・とため息を吐いた。
だけど、それでも、俺の中の熱い気持ちに嘘はつけない。俺は、実際まだ子供だし、大した事もできないよ。でも、こんな無鉄砲な若さが時に、国のために、世界のためになることだってあると思うんだ。その想いが、善に基づいている場合。
彼らを助けたい―!
ここで、彼らを追い返したら、それこそ彼らは祖国で牢に囚われてしまうのではないか?
この眞魔国から、この世界を変えていってやる。
魔族も人間も、互いに差別することのない、平和な世界を―!
「ユーリ、俺が協力します」
コンラッドが、硬い意思でもって俺を見つめた。俺の心の声を聞いていたみたいなタイミングだった。
「コンラッド・・・」
「グウェン、やれないことは無いはずです。以前、スヴェレラの採掘場で強制労働させられる人間の女性達を、救ったではないですか?眞魔国に住まわせることができたじゃないですか?」
真っ直ぐな、コンラッドの眼差しに、グウェンダルは少し譲歩の色を示しだす。
「まぁ、そうかもしれないが。―だが、土地はどうするのだ?!」
グウェンダルが、鋭く問い返す。
その折、背後から声がした。振り返るとヴォルフラムの叔父ヴァルトラーナだった。
「それなら、我がフォンビーレフェルト領を差し出しましょう。我が領土は、十貴族の中でも、広大な土地を持つからな」
ヴォルフラムが、驚いて声を出す。
「叔父上・・・貴方は―あれほど人間との混血を毛嫌いしておられたのに・・・人間までをその土地に住まわせる気になったのですか?!」
俺も、驚いて声を挙げる。
「いいのか、ヴァルトラーナ?!」
「はい、かまいません。私は、貴方とコンラート殿の婚儀を無礼にも妨害致しました。それでも、魔王陛下は、私に何のお咎めもありませんでした。その広い心にいたく感銘を受けました。また、コンラート殿の一途な愛にも、考えさせられました。その償いといっては何ですが、少しでも陛下のお役に立てたらと―それだけでございます」
胸に手を置いて、彼は最敬礼してみせた。
初夏の爽やかな風が、煌く陽射しを駆け抜けた。
何だか、とってもいい方向に向かってる。
人間と魔族が共存できる世界が近づいている―。
グウェンダルは、渋々返事した。
「致し方ない、彼らを眞魔国の民とし、結婚を赦し与えよう」
「グウェンダル・・・!」
俺だけでなく、コンラッドも、ヴォルフラムもギュンターも、皆彼を暖かい目で見つめた。
その寸分の後、再び大喝采が起こった。
城門に詰め寄った、人間と魔族の愛し合う者たちが、涙して喜び震えた。
「ユーリ陛下、万歳!!」
夕刻から行われた、俺の婚儀の祝典内で、彼らの結婚式も一斉に行われた。
その宴も終焉を迎えるころ、俺とコンラッドは、二人回廊に出た。
アーチ型の柱から覗く夜空は、盛大な花火で彩られていた。
その華麗な夜空は、これからの俺とコンラッドの、そして眞魔国の新しい始まりを象徴している・・・・そんな気がしたんだ。
「お誕生日おめでとう。俺と結婚してくれてありがとう、ユーリ」
花火に照らされた、眩い銀を纏ったコンラッドが、甘くて優しさに満ちた声でそっと囁く。
「俺こそ・・・・いつも、本当にありがとう―側にいてくれて。コンラッドと結婚できて幸せだよ」
返事をする俺に、優しいキスが甘く降り注いだ。
俺の右頬に添えられた彼の左手に、硬い指輪の感触を感じた。
咄嗟に、自分の左手をぎゅっと握り締めた。
そこにも、確かに感じた―幸せな一対の指輪の一つ。
最高に、幸せなバースデイ・ウェディングだった。
第八話③=完
あとがき★
とうとう、コンユで挙式をあげてしまいました(^^;
結婚式は、すっかり二人の愛の舞台となってしまったわけですが、きっとこれから眞魔国内のあちこちで二人の愛の劇場が繰り広げられることでしょう(苦笑
いろいろ、眞魔国の記述が変なところあったらすみません。詳しい人、教えてください(汗
眞王廟には多分ステンドグラスなんてない気がしたけど、雰囲気的に捏造しました(汗
少しでも、楽しんでいただけたら、拍手ポチッとしてもらえると、感激です★
※コンユ挙式編ですv
本日、午後1時に血盟城の眞王廟にて、挙式が執り行われる。眞魔国は、地球のような神への信仰はない(眞王への信仰のようなものはあるが)ので、結婚といえば人前式が主流だ。日ごろお世話になっている人、親しい人達の前で、結婚を宣言し、承認してもらうのだ。
国税を浪費するわけにはいかない、と俺のたっての希望で、式は身内で密やかに行うことにした。それでも、一国王の晴れ舞台を、国民に披露しないわけにはいかないということで、挙式後に血盟城で盛大なセレモニーを行うことになったんだけど。
今、なぜか俺はジェニファーもといおふくろ譲りのウェディングドレスを血盟城のメイドさん達に総出で着付けてもらっている。何か歴史のあるものを身につけると幸せになれるとかで。そんでもって、スカートの下にはヴォルフラムに貰った青いペチコートを穿いてる。なんでも青いものをこっそりと身につけるとよいのだとか―って、そういう問題じゃないだろっ?!
他にも、何か新しい物をとかいってハイヒール!を新調したり、何か友人から借り物をとかいって、グリエちゃんからイヤリングを拝借させられたんですけど・・・?!
盛大に言っておくが・・・・俺は男だーーーー!!!
でも、無事に式を挙げられることになってよかった。
だって、俺はついさっきまで、ヴォルフラムの叔父さんに軟禁されてたんだ。
彼はどうしても、コンラッドのことが信じられないからって、俺を誘拐して(!)、アニシナ作『雪の陛下人形(何でも氷の心で相手の愛を拒絶する俺そっくりの喋る人形なんだとか。それでも相手が負けずに愛を囁き続けると、幸せに天に召されるのだとか)』を俺の身代わりとして血盟城に投入したんだ。
ヴァルトラーナは、大シマロンで俺を裏切ったコンラッドが信用ならなったらしい。
だからって、こんなことして赦されるのか?!もう、色々ぶっとんでるんだから、あの人は。ついでにアニシナも・・・。
でも、でも、そんなことよりも、コンラッドが一番傷ついたんだ。
いくら最後は、俺じゃなくて人形でしたよ・・・なんていわれたってさ。俺だと思ってた相手にずっと冷たくされ続けてたんだよ。俺が、同じ事をされたら、きっと辛くて堪らない!
心が、折れてしまったと思う。
それでも、コンラッドは、俺人形が結婚したくないと散々ひどいことを言った時、絶対に諦めたりしなかった。コンラッドの信じられないくらいの壮絶な愛の告白を、俺は中庭のローズマリーの陰で聞いていた。ヴァルトラーナに魔術を掛けられていたから、すぐにコンラッドを救いに行けなかったのが辛かったけど。
それで、気づいたら上様になっていたみたいで、記憶がないんだ。
気がついたら、ここの控え室にいたんだ。
だから、まだコンラッドとちゃんと話していないんだ。
コンラッドときちんと話したい。人形が酷いこと言って辛かっただろって。
えっと、その―俺はコンラッドのこと、ちゃんと大好きだよって・・・・。結婚できて、幸せだよって。
ふいに、ドアがノックされ、愛娘のグレタとメイドのドリアがやってきた。グレタは、可憐でひらひらのピンクの衣装に身を包んでいた。そんな愛らしいグレタは、目をきらきらさせて、俺に抱きついた。
「ユーリすごい!きれ~い!お姫様みたいだよ!!私も、早くパパみたいに綺麗なお嫁さんになりたいっ!」
「だめっ!グレタはお嫁に行っちゃいけません!今のグレタでも、もう十分に綺麗だよっ」
「うーん、お嫁さんには憧れるけど・・。でも、ありがとう。ユーリ、大好き!」
突込みどころは、むしろ『パパみたいに綺麗なお嫁さん』っていうおかしな日本語(いや、眞魔国語か?)だったかも。でも、グレタがお嫁に行くなんて―くう、涙が出そうだ。
一人妄想に入りだした時、ドリアの声が俺を現実に引き戻した。
「陛下、とても仲睦まじい親子のふれあいのところ申し訳ないですが、そろそろ式の準備が整ったようですので、こちらへお越し下さい」
ドリアにドレスの裾を持ち上げてもらいながら、グレタとふたり眞王廟の前に辿りつく。
そこには、勝馬がいた。入場する時は、新婦(俺・・・ヲイ)の父が花嫁をエスコートする。そのために、親父は地球からはるばるスタツアしていた。もちろん、おふくろも、勝利もスタツアして来て、式に参列している。そして、グレタがフラワーガールとして俺のドレスの裾を持ってくれるというわけだ。
「まさか、息子が嫁入りするとはな―」
どこかおどけたように、でも感慨深げに親父が俺を見た。
「もう、茶化すなよな」
「おまけに、こんなに可愛い娘がいたなんてな?!グレタちゃんっ」
親父は、グレタを満面の笑みで抱きしめる。
「お爺ちゃん、くすぐったいよぉ」
グレタも、嬉しそうに笑っている。
うわぁ、なんか、ほのぼの家族の絵だ~、俺ちょっと感動したかも。
そのとき、ドリアが眞王廟の厳かな扉を開き俺たちを中へ促した。
「では、皆様、お進み下さい」
俺は、親父にエスコートされ、グレタにスカートの裾を持ち上げて貰いながら、眞王廟の中心、紅い絨毯を敷かれた上を歩いていく。
今日のために、わざわざ木製の参列席が用意されていた。また、いつもは飾り気のない眞王廟内が可憐な白い薔薇、ユリ、ジャスミンと光沢のある蒼いリボンの装飾で華やかに彩られていた。甘い上品な花の香りがうっすらと漂う。
傍らでは、宮廷楽団が、ヴァイオリンとフルートの優雅な音色を奏でていた。
今から、うん十年前にお袋が着ていたこのドレスは、お袋の趣味そのものの、レースやフリルがふんだんにあしらわれたお姫様チックなドレスだった。
純白のふわりとしたラインのドレスには、繊細なゴールドレースが段違いに重ねてある。歩くたびに優しく揺れる様は、可憐だった。頭には、微細な刺繍をあしらわれたマリアヴェールを掛けて、その上に淡いゴールドの冠を載せている。
そして、手元には、白を基調にした可愛らしい花で造られた丸いシルエットのブーケを携えている。白い薔薇の中に垣間見える鈴蘭の小さくて可憐な花弁とその緑の葉が、美しいコントラストを織り成している。
可憐過ぎて、野球少年の俺に浮いてしまうんじゃないか、心配だ。
けれど、それよりも感慨深い気持ちが込みあがってきたんだ。
花嫁の気分を、男の俺が味わうことになるなんて―。
今まで、俺を育ててくれた父が俺をエスコートしてくれている。走馬灯のように、父とキャッチボールした思い出や、遊園地に行った思い出、父の日に肩たたき券なんかをあげたこと、自立心が芽生え、激しく言い争った思い出が、次々と駆け巡る。
そして、参列席で俺のことを暖かい目で見守ってくれる、家族、眞魔国の皆。
―どうしよう、俺、なんか泣きそうかも。
眞王廟の祭壇まで来たとき。霞む視界に映る、一人の美青年の姿。すらりとした長身のシルエット。そこだけ空気が澄んで居るような気がした。
俺の護衛兼、名付親兼―だ、旦那様。
コンラッドだ。
俺が、地球のウェディングドレスを着ているので、コンラッドはそれにあわせて、オフホワイトのショートフロックコートを着用していた。
肩のラインが湾曲しツンと上を向いたスタイリッシュなデザインは、より一層顔周りをすっきりと見せ、ウェストのラインをスマートに見せる。中のシャツも、タイも、ベストも全て白で統一されて、とても洗練された印象を与えた。
ただでさえ、美形で長身の彼が、そんな華やかな衣装を着た日には、もう言葉も出ない。
惚けたように、見惚れていると、そんな彼が俺に跪いて、手を差し出した。
大きくて、形のいい・・・・いつでも俺を守っていてくれた―その・・・・手。
親父の腕をそっと解くと、吸い寄せられるように、彼の手をしっかりと掴む。
―今、この瞬間!
俺は、家族の元を離れ、彼との人生を、確かに歩みだすんだ!
どうしよう、どうしよう?親父、ごめん・・・ありがとう。でも、すっげぇ、嬉しい!
親父への僅かな罪悪感と感謝の気持ち、それとこれから始まる未来への期待に―幸せに胸が躍る。
感極まって、泣いてしまいそう。
だめだ、泣いたら!これから、結婚の宣言文を読み上げないといけないんだから―!しっかりしないとっ・・・・・。
葛藤する俺の様子に気がついたのか、コンラッドが花が綻ぶような優しい笑顔で見つめてくれた。ブラウンにグレーが混ざったような色素の薄い瞳に、今にも泣きそうな自分が映っていた。
「ユーリ―我慢しないで・・・・泣いていいんだよ?俺がフォローするから」
胸にじわっと染み込むような、優しさの溢れる低音で囁かれて、ぽんぽんと優しく頭を撫でられた。
もう限界。
彼と結婚できる嬉しさと、こんなときまで、とろけそうなくらいに優しい彼への、たまらなく大好きな気持ちがどんどんあふれ出てくる。
にわかに、先程のことを思い出した。
そう、俺にそっくりの人形が彼に、結婚したくないとか、信じられないとか言いたい放題言ってたんだ。
まだ、まだ彼に、ちゃんと・・・・伝えてない。
伝えなきゃ―。
「コンラッド・・・・俺・・・・・こんな優しいコンラッドと結婚できて・・・・嬉しすぎだよ・・・・。
さっきは・・・・辛かったよな・・・・。ごめんな・・・・、俺、上様になっちゃって記憶がないんだ。ちゃんと、コンラッドのこと―好きだよって、あんたの不安だった気持ちを全部取り去ってあげたいって思ってたのに・・・・」
ぽろぽろと涙が溢れ、コンラッドの姿が滲んでいく。
コンラッドが、俺の両頬を大きな手で包み込む。そのまま、ふわっと、柔らかな彼の微笑みが目の前で零れた。
「ユーリ、うれし泣きはいいけど、悲しくて泣いちゃ、駄目だよ・・・・。それに、魔王の貴方も俺のことをとても優しく気遣って下さいましたよ」
彼は、俺の目元に溢れる涙に、そっとキスをする。
そして、涙のあとをたどるように、キスを降らしていく。
唇のところまで来ると、甘い甘い―今までしたキスの中で、一番幸せなキスをした。
「コンラッド・・・・」
「ユーリ・・・・・」
二人が見つめあい、手と手を重ね合わせる。
「ユーリ・・・・いついかなるときも、貴方の側で貴方をお守りします。生涯をかけて、ただ一人―貴方を愛します」
彼は、優しく俺の左手袋を外す。そして介添え人から差し出された、マリッジリングを俺の左手の薬指に嵌めていく。
指輪の冷たい感触が、ゆっくりと俺の薬指を通っていく。
眞王廟のステンドグラスから差し込む、神々しい光が指輪に反射して、キラリと光る。
そして――確かに今―俺の左手の薬指に嵌められた、マリッジリング。
もう、俺は―生涯にわたって彼に愛される者。
その証を身につけた。
次は、俺の番。
コンラッドの長い薬指に、ゆっくりと愛の証を嵌めていく。
そして今―確かに彼の左手の薬指にその指輪が嵌められた―。
もう、彼は一生涯に渡って俺が愛するただ一人の人。
今まで、何度だって見詰め合ったのに、今、目の前に佇む彼は、とても眩しくて―照れくさい。
彼も、いつもよりずっと余裕の無い顔、してる。幸せが全開で、照れくさくて、はにかんだみたいな―俺と同じ顔、してる。
きっと―幸せすぎるから。
大好きでたまらなかった、二人が、やっと、誰からも祝福されて、その愛をはぐくんでいけるから。
その大切な、始まりの一瞬だから。
だから、お互いが眩しくて照れくさくてたまらない―。
幸せすぎて、ずっとコンラッドのことを見てた。
ここが他にも人が居る、挙式のまっ最中だって気づいたのは、どよめきと、暖かい拍手が起きたときだった。
「お誕生日おめでとうございます!!そして、ご結婚おめでとうございます!!陛下!!」
「誕生日おめでとう、ゆーちゃん!!結婚おめでとう!!とっても、素敵な式だったわよ!」
「お父さんも、感激したぞ!」
「コンラッド!ゆーちゃんに、チューまでして赦せん!でも、俺のゆーちゃんをくれてやるんだ、大事にするんだぞ!」
「ユーリ!俺という婚約者がいながら、コンラートを選んだんだ!絶対に幸せになるんだぞ!!」
「べいぐわぁぁ、おだんじょうび、おめでどうございまず~、ごげっごんおめでどうございまず~」
「・・・・・幸せにな」
「坊ちゃん、隊長、見せ付けてくれますね!おめでとうございます!」
「本当、あてられちゃったなぁ、幸せにね!」
「パパ、とっても、幸せそうだった!グレタもやっぱり早く結婚したくなっちゃったよ!」
俺の大事な人たちからの暖かい言葉が、溢れた。
その溢れんばかりの、祝辞が眞王廟を揺らした。
本当に、今日は、十六年生きてきた中で、最高に幸せな日だ!
とっても、幸せなバースデイ・ウェディングだ!
けれど、感慨深い気持ちは、次の一瞬、吹き飛んだ。
城門付近を護っていた、兵士の一人が、荒い息を上げながら、勢い込んで眞王廟の扉を開けた。
「た、大変です!陛下!城門に沢山の人間と魔族が押し寄せています!」
グウェンダルが、眉間に一層の皺を刻み込む。
「まだ、血盟城での祝典の時間ではないはずだが・・・・?!」
「え、えぇ。確かに―。夕刻の5時より、眞魔国内の住民を招待しておる手筈でございますが・・・・」
ギュンターが、銀色の懐中時計を訝しげに見つめる。
「人間・・・は、どのくらい押し寄せているんだい?」
村田が眼鏡を鋭く光らせて、兵士に尋ねた。
「え・・はい。おそらく押し寄せてきた魔族と同人数だと思われます!」
村田は、それを聞くと俯いて、なるほど・・・と呟いた。
グウェンダルは、こめかみに手を当て、顔をしかめた。
「ま、まさか―暴動?!」
コンラッドが、表情を険しくして叫んだ。
「ユーリは、ここに居てください!俺たちが今様子を伺ってきますので―!!」
「僕も行くぞ、コンラート!」
コンラッドに続いて、ヴォルフラム、グウェンダル、ギュンター、ヨザック、勝利までもが、眞王廟を去ろうとした。
「待って!俺も行くっ!」
俺は、慌てて飛び出そうとするも、スカートが足に纏わりついて上手く動けない。
その俺を大急ぎで、制止するコンラッド。
「貴方に何かあったら、困ります。私に任せてください」
「そんな―!!」
俺が、反論しようとしたとき、村田が意味深な笑顔で微笑んだ。
「いいと思うよ、渋谷。ここは、渋谷も行くべきだと思う」
彼の考えは、きらりと反射する眼鏡に隠されて見えない瞳のごとく、読めない。けれど、きっと大丈夫・・・な気がした。
「うん!!だって、俺がこの国の王なんだ。ここで引っ込んでいたら男が廃 るよ!誰に止められたって、絶対に行くから!」
ウェディングドレス姿で、『男が廃 る』って発言もどうかと思ったけど止められない!俺も行って暴動を鎮めるんだ!!
―大丈夫、きっと話せばみんなわかってくれるんだから!!
コンラッドは、苦々しい表情で頷いた。
「―分かりました、ユーリ。でも、その格好では走れないでしょう。俺が抱きかかえて行きますから」
ええっ?!
俺が、驚きの声を挙げる間もなく、コンラッドは俺を素早く横抱きにした。
―こ、これって、姫様だっこじゃん?!暴動を起こす民衆の前で国王がウェディングドレス姿で、それもお姫様抱っこされて登場?!
そ、それって、余計に民の怒りをかうんじゃ?!
「ちょっと・・・駄目だって。コンラッド~!!」
俺が、情けない声を挙げるも、彼は俺をそのまま抱きしめて城門を目指す。
近づくにつれ、ざわざわと民衆の声が耳に届く。その声から察するに、かなりの人数が揃っているようだった。
姫抱きされていることなど忘れて、緊張に胸が軋 む。
―彼らは一体、何を訴えに来たのか?何を求めているのだろう?
血を一滴も流さずに、和解したい―!!
ヴォルフラムやグウェンダル達を携えて、コンラッドに抱き抱えられたままの俺は、城門付近の広場へと降り立った。
そこには、一兵士が言う通り、あふれんばかりの魔族と人間達がいた。ざっと見渡すだけで、百人はいる!
こんなにたくさんの人数―なんとか説得できるだろうか。
でも、俺が、俺がやるしかないんだ―!!
「コンラッド、俺をもっと彼らの側に近づけて」
「ユーリ・・・ですが・・・・!!分かりました」
俺を嗜めようとしたかに見えた彼だったが、俺の真剣な瞳に譲歩してくれた。
コンラッドに抱えられたまま、彼らの側に近づいていったとき―!!
耳をを劈 くような歓声が大地を揺らした。
「ユーリ陛下、お誕生日おめでとうございます!!陛下、コンラート閣下!!ご結婚おめでとうございます!!」
拍手喝采と、溢れんばかりの祝辞に包まれた。
俺とコンラッドは、狐につままれたみたいに目を合わせた。
ひとしきりの大歓声の後、彼らのリーダーと思しき人物が、語りだした。
「私は、魔族のジェラルミンと申します。この度は、突然の城前でのご無礼、大変失礼いたしました。実は、我々は、他国から駆け落ちしてまいりました。私達は、皆、各々が種族を超えて―魔族と人間との間で―愛し合う恋人同士なのです。自国では、魔族と人間が恋をすることは赦されないのです。まして、結婚など―!!ですから、このたび、陛下と閣下の結婚は、私達に一筋の光を照らして下さいました。この国ならば、私達の愛が赦されるのだ―と、結婚もできるのだ―と!!王自らが、人間との混血であらせられるコンラート閣下を、生涯の伴侶にお選びになったのですから!!」
目をキラキラと輝かせて、熱弁をふるう彼。
そして、より一層、瞳を輝かせる彼。
「陛下、どうか、我々の結婚を御許し下さい。そして、貴方の民となることを御許し下さい」
「陛下のご加護を―!!」
民衆が、一斉に頭を垂れて、陳情する。
俺は、胸が熱くなった。
俺たちの結婚で、勇気付けられて亡命までしてこの国に来てくれるなんて―!
こんな、未熟で、十六になったばかりの、王に出来ることがあるんなら、何だって協力したい―!!
俺が、燃え滾る思いに胸を熱くした時、グウェンダルの硬い声が響く。
「陛下!亡命した彼らを受け入れるということは、我が眞魔国が彼らの祖国に謀反を起こすということになるんだぞ。戦争の火種になるやもしれん。分かっているか?」
俺は、思わずたじろいでしまった。
そんな、そんなこと考えもしなかった。いや、わからなかった。
なんて、浅はかなんだろう。俺は、やっぱりただの子供・・・・・。
―情けない。俺は、熱い思いだけで、突っ走ろうとしてた。俺の一時の感情が、眞魔国を振り回すことになるんだ―俺は、王なんだ。その一挙手一投足が、この国の平和を左右しているんだ。
改めて、自分の王という責任の重さに眩暈がした。
うな垂れる俺に、グウェンダルはやはりな・・・とため息を吐いた。
だけど、それでも、俺の中の熱い気持ちに嘘はつけない。俺は、実際まだ子供だし、大した事もできないよ。でも、こんな無鉄砲な若さが時に、国のために、世界のためになることだってあると思うんだ。その想いが、善に基づいている場合。
彼らを助けたい―!
ここで、彼らを追い返したら、それこそ彼らは祖国で牢に囚われてしまうのではないか?
この眞魔国から、この世界を変えていってやる。
魔族も人間も、互いに差別することのない、平和な世界を―!
「ユーリ、俺が協力します」
コンラッドが、硬い意思でもって俺を見つめた。俺の心の声を聞いていたみたいなタイミングだった。
「コンラッド・・・」
「グウェン、やれないことは無いはずです。以前、スヴェレラの採掘場で強制労働させられる人間の女性達を、救ったではないですか?眞魔国に住まわせることができたじゃないですか?」
真っ直ぐな、コンラッドの眼差しに、グウェンダルは少し譲歩の色を示しだす。
「まぁ、そうかもしれないが。―だが、土地はどうするのだ?!」
グウェンダルが、鋭く問い返す。
その折、背後から声がした。振り返るとヴォルフラムの叔父ヴァルトラーナだった。
「それなら、我がフォンビーレフェルト領を差し出しましょう。我が領土は、十貴族の中でも、広大な土地を持つからな」
ヴォルフラムが、驚いて声を出す。
「叔父上・・・貴方は―あれほど人間との混血を毛嫌いしておられたのに・・・人間までをその土地に住まわせる気になったのですか?!」
俺も、驚いて声を挙げる。
「いいのか、ヴァルトラーナ?!」
「はい、かまいません。私は、貴方とコンラート殿の婚儀を無礼にも妨害致しました。それでも、魔王陛下は、私に何のお咎めもありませんでした。その広い心にいたく感銘を受けました。また、コンラート殿の一途な愛にも、考えさせられました。その償いといっては何ですが、少しでも陛下のお役に立てたらと―それだけでございます」
胸に手を置いて、彼は最敬礼してみせた。
初夏の爽やかな風が、煌く陽射しを駆け抜けた。
何だか、とってもいい方向に向かってる。
人間と魔族が共存できる世界が近づいている―。
グウェンダルは、渋々返事した。
「致し方ない、彼らを眞魔国の民とし、結婚を赦し与えよう」
「グウェンダル・・・!」
俺だけでなく、コンラッドも、ヴォルフラムもギュンターも、皆彼を暖かい目で見つめた。
その寸分の後、再び大喝采が起こった。
城門に詰め寄った、人間と魔族の愛し合う者たちが、涙して喜び震えた。
「ユーリ陛下、万歳!!」
夕刻から行われた、俺の婚儀の祝典内で、彼らの結婚式も一斉に行われた。
その宴も終焉を迎えるころ、俺とコンラッドは、二人回廊に出た。
アーチ型の柱から覗く夜空は、盛大な花火で彩られていた。
その華麗な夜空は、これからの俺とコンラッドの、そして眞魔国の新しい始まりを象徴している・・・・そんな気がしたんだ。
「お誕生日おめでとう。俺と結婚してくれてありがとう、ユーリ」
花火に照らされた、眩い銀を纏ったコンラッドが、甘くて優しさに満ちた声でそっと囁く。
「俺こそ・・・・いつも、本当にありがとう―側にいてくれて。コンラッドと結婚できて幸せだよ」
返事をする俺に、優しいキスが甘く降り注いだ。
俺の右頬に添えられた彼の左手に、硬い指輪の感触を感じた。
咄嗟に、自分の左手をぎゅっと握り締めた。
そこにも、確かに感じた―幸せな一対の指輪の一つ。
最高に、幸せなバースデイ・ウェディングだった。
第八話③=完
あとがき★
とうとう、コンユで挙式をあげてしまいました(^^;
結婚式は、すっかり二人の愛の舞台となってしまったわけですが、きっとこれから眞魔国内のあちこちで二人の愛の劇場が繰り広げられることでしょう(苦笑
いろいろ、眞魔国の記述が変なところあったらすみません。詳しい人、教えてください(汗
眞王廟には多分ステンドグラスなんてない気がしたけど、雰囲気的に捏造しました(汗
少しでも、楽しんでいただけたら、拍手ポチッとしてもらえると、感激です★
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