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2009/12/15 (Tue)                  一夜のメリークリスマス

ショートストーリー第二十編 一夜のメリークリスマス
※アニメ39話から40話くらい(コンラッドがユーリを裏切って大シマロンに忠誠を尽くすあたりのころの話)を大幅に(汗)捏造もしくは妄想したコンユです^^;
敵同士で迎えるメリークリスマス?という強引な設定のお話ですがどうぞ^^







 コンラッドが、俺の側にいない。

 あの顔が忘れられない。なんの優しさも感じられない突き放すような冷たい顔が。
 確かに彼は、俺に言った。針葉樹に囲まれた雪原の大地の中、大シマロンの軍服姿で。

 今度会うときは、あなたと私は敵同士です、と。
 もう眞魔国に戻るつもりはない、と。

 あのときから、俺の中の大事な何かがごっそりと抜け落ちてしまったような虚脱感が拭えない。
 いつだって、あたりまえに俺の側にいて、いつだって俺を安心させてくれた彼が突然俺を突き放した。何も言わずに。
 コンラッドは、俺にとって眞魔国の最後の砦―― 心の拠り所だった。

 彼がいてくれるだけで、俺は揺るぎ無い地面に立っていられた。なのに、今の俺ときたら、砂の城みたいに打ち寄せては返していく波に、いとも簡単に足元をすくわれてしまう。

 けれど、絶望に似た空虚な気持ちの影に、魂を揺さぶられるような鋭い激情がくすぶっていた。ただ、その気持ちの正体を見出すのが怖くて、気づかないふりをしていた。
 ひたすらに、悲しみに身を任せていた。



「えっ? 何だ?」
 
 魔王専用風呂に一歩足を踏み入れた俺は、その光景に息を呑んだ。
 プールほどの大きさの風呂には、一面に赤と白のポインセチアらしき花弁が散っていた。薔薇風呂みたいに。いや、入ったことはないんだけど。どっちかっていうとゆず風呂のほうが親しみがあるかな。

 ポインセチアといえば、今の時期は嫌というほど地球で眼にしていた。何せ、クリスマスシーズンだから。

 あ、っていうか、今日ってもしかして地球ではクリスマスだ。

 俺が、元気がないのを気にして、侍女たちが湯に花を散らせてくれたのだろうか。でも、ポインセチアを選んだっていうことは、クリスマスを知っている村田が気を回してくれたのかもしれない。

 きっと、俺が元気がないからだよな。皆には迷惑をかけないように平静に勤めてるつもりだけど、きっと隠し切れないものが現れてしまったんだ。
 
 みんな、優しいよな。
 なのに、こんなに頼りない王様でゴメン。箱のことだってある、こんな大切な時期に。

 しんみりとした気分のまま、ゆっくりと湯船に浸かり、目の前の真っ赤なポインセチアをすくい上げた。

 すごく幸せそうな、いかにもクリスマスの象徴の真っ赤な花を、まじまじと見つめた。真紅の花弁を見ていると、すごく幸せそうな恋人達の絵が浮かんでくるようだった。日本でクリスマスっていったら、どこもかしこも微笑みあうカップルで溢れてるよな。

 クリスマス、か。
 コンラッドは、アメリカにいたからきっとよく知ってる行事だよな。確か、アメリカではクリスマスは家族と過ごすんだよな。

 家族・・・・・・か。その単語に胸がずきっと痛んだ。
 そう、コンラッドは俺の名付親だから。

 だから、本当は、俺だってコンラッドとクリスマスを過ごす資格があってもいいよな?

 出来心で、そんな儚い願いが思い浮かんだ。

 そのくせ、一度そう思ってしまうと、身体の奥が熱くなってきて、彼に遭いたくてたまらなくなってしまった。胸のペンダントまでもが、熱をもっているようだった。今まで、ずっと抑えてきた願望が溢れ出てきてしまった。
 真っ赤にもえる幸せそうなポインセチアに、心の深いところが焚きつけられるように。

 やっぱり、どうしても、コンラッドに遭いたい。遭って、彼の真意を確かめたい。

 それに、今日はクリスマスだし、今日ぐらい、名付け親と二人で話したいよ。

 我ながら突拍子もないし、無茶苦茶だと思う。だけど、ひとたび火のついた感情を抑えることなど到底できそうもない。無茶苦茶だって構うもんか! こうなったら、絶対に、コンラッドに遭いたい!!

 お願い! 新王様! 俺をコンラッドのところへスタツアさせて!

 熱く疼く心に反応するように、俺を取り巻く湯はまるで生き物みたいに渦を描いていった。迸る激流に流されながら、いつのまにか足もつかないほどの深い水底を漂流していた。



 本能に従って、水面に顔を出すと、そこは、どうやらかなり広い浴室のようだった。それこそ、魔王専用風呂に近い代物だった。もしかしたら、大シマロンの浴室か?
 揺らぐ湯煙の向こうに、人の姿を見つけた。なぜだか分からないけれど、すぐにそれが誰か分かった。彼独特の凛とした、けれど柔らかなオーラみたいなものを感じた。
 どうやら、スタツアは無事に成功したみたいだ!!

「コンラッド!!」

 気が付くと、俺は半身を湯に浸からせる彼に、思いっきり抱きついていた。

「ユーリ?!」

 ひどくうろたえて掠れる美声が、すぐ側で響いた。浴室のせいか、音響が効いていっそう甘い声に感じた。ずっと聞きたかったその声に、胸が震えた。
 裸のまま抱きついたせいで、彼の火照った素肌の感触や意外に逞しい胸板をじかに感じた。
 勢いよく抱きついたはいいけれど、彼も俺も裸ということに今更ながらに気が付いて、慌てて身を離した。

「あ、え、えと、ごめん!! いきなりで」

 けれど慌てふためく俺に、彼は冷たく言い放った。

「それで? どういった用件ですか?」

 いつの間にか、すっかり落ち着き払ったコンラッドは、怜悧な表情で、俺の様子を探っていた。衣服を纏っていないのに、まるで、隙がない。彼は、俺を警戒している気さえした。まるで、俺が刺客であるかのように。

 そんなコンラッドを見ていたら、絶望的な悲しみに呑まれそうになった。
 けれど、それ以上に熱い渇きが喉元までじりじりとせり上がるのを感じた。

 こんなのコンラッドじゃない。絶対に、違う。どうして、掌を返したようにそんなに俺に冷たくできるんだよ?! それは、本当のあんたじゃないんだろ?!

 本当は、そう言いたかった。けれど、怖くて言えなかった。そこで、もしコンラッドが否定してくれなかったら、何かが壊れてしまう気がしたから。

「あ、あのさっ。今日は、クリスマスだろ? だから、だからお願い。眞魔国のこととか、大シマロンのこととか今は抜きにして、渋谷有利のことだけ考えて?今だけでいいから・・・・・・あんたにただの名付け親に戻ってほしいんだ」

 気が付くと、俺はとんでもない台詞を口にしていた。まるで、別れた恋人によりを戻して欲しいっていってるみたいじゃないか?
 立ち上る湯けむりの中、耳まで熱を持つのを感じながら、じっとコンラッドを見上げた。

「ユーリ、頼みますから、そんな無防備なことを言わないで」

 彼は、自身の汗ばむ額を掌で拭うと、水の滴る前髪をかき上げた。彼は、切なげに切れ長の瞳を揺らして、銀の星を濁らせた。けれど、すぐに硬い表情に戻ると冷たい声で言った。

「俺は、今はもう大シマロンに、ベラール殿下に忠誠を尽くしているのですから」

「コンラッド・・・・・・」

 その一言に、目の前が真っ暗になった。その直後には、瞼のうらが真っ赤になって、脳に閃光が走った。熱い塊が、胸に重くのしかかっていた。激しい感情が渦巻いて、眩暈がした。

 ずっと、我慢していた想いが爆発してしまって、どうにも抑えられなかった。
 ずっと、コンラッドの本心を知りたくてたまらなくて、でも怖くて抑えていた―― それが、堰を切ったように狂ったようにあふれ出した。

「コンラッドの分からず屋・・・・・・」

 身体の震えがとまらない。感情のコントロールの仕方をすっかり忘れてしまった。キッと彼を睨み、彼の両肩を揺すっていた。その度に、彼の髪から雫が飛び散って、浴槽の湯が飛沫をあげた。

「じゃあ、俺は今のあんたにとっては敵なんだ? 俺は、そんなこと信じられない。だったら、証明してみせてよ。俺が敵だっていうんなら、俺の首を絞めてみろよ。今、ここで、俺を殺しておいたほうが、人間の国の大シマロンにとっては都合がいいだろ?あんただって、ベラール殿下に真の忠誠を見せ付けられるはずだ」

「えぇ、そうですね」

 びくっと身体を震わせるほど、ぞっとする冷たい瞳、声でコンラッドは肯定した。心のどこかでは、絶対に否定してくれると信じていたのに。
 最後の最後の、大切にとっておいた僅かな希望さえ粉々に砕け散った。

 さきほどまでの激情は、すっかり絶望に呑み込まれた。心の真っ暗闇の、ぽっかりと穴の開いた部分から、代わりに涙がとめどなく流れてきた。

「はは・・・・・・、俺って、なんか本当に、コンラッドに駄々を捏ねる幼児みたいでみっともねぇ。いいよ、あんたの好きにしろよ」

 涙を流しながら、霞んだ視界にコンラッドを映した。

「―― っぁ!」

 唐突に視界が反転した。濛々と立ち込める湯けむりの中に、俺を見おろすコンラッドがいた。
 あっという間に、俺は風呂の縁に背中を預け、浴室のタイルに頭を乗せていた。いや、タイルじゃなくてこの感触は、コンラッドの腕だ。
 俺はコンラッドによりによって腕枕されながら、上から見下ろされていた。
 重力にしたがって垂れる彼の髪から、ポタポタと綺麗な雫が滴る。

 不意に、彼の左手が俺の首筋に触れた。怖くて、堪らずに眼を閉じた。その手が、俺の喉仏を包み込んで、緩やかに力が籠もりはじめた。ビクッと身体が弾けたのちに、身体が硬直した。

「っぐ・・んン!」

 もう、身体が思うように動かなかった。信じられなくて、悲しすぎて、もう何も考えられない状態だった。ただ、ずっと彼の大きくて節だった手の感触だけを感じていた。
 けれど、俺の喉仏を包み込んでいた手は、大した力を籠められることもなく、すぐにどけられた。

「こ、ンラッド?」

 咳き込みながら彼を見上げた瞬間に、俺は抱き起こされて、彼の腕の中に抱きしめられた。むせそうなほどに、きつい力で胸の中に抱きしめられた。コンラッドの性急な動きに合わせて、お湯が小気味のよい音を立てた。
 しっとりとした互いの素肌が、吸い付くように接触した。

「あなたには敵いません。あなたは、誰よりも大切だから」
 
 一瞬、何を言われているのか分からなかった。
 だって、俺は彼に見捨てられてしまったんじゃないのか?
 もう、あんたにとって俺は敵なんじゃないのか?

「こんな俺なのに、あなたはまだこのペンダントをつけていてくれたんですね」


 その甘い声に、胸がじんじんして、急激に身体が熱を持ち出した。

「あ・・・・っ」

 唐突に長い指が胸元をまさぐって、ペンダントの紐を弄ぶ。
 コンラッドは、俺を少し離すと優しい眼差しで俺を見つめてきた。けれど、どこか憂いを含んだ、申し訳なさそうな表情だった。

 色素の薄いブラウンの瞳は、切なく揺れていた。俺のよく知った名付け親の顔だった。



「けれど、どうしても今はあなたに忠誠を尽くすわけにはいかないのです。ごめんね、ユーリ。ここ、痛かったでしょう?」

「あ・・・・っぁ」

 コンラッドの端整な顔が近づいたと思ったら、熱くて柔らかい唇に首筋を触れられた。
 脊髄に電流が走ったように、情けないくらいびくっと身体が痙攣した。そんな自分の反応が恥ずかしくて、余計に首筋が甘く痺れた。
 それなのに、コンラッドはなかなか俺を解放してくれなかった。

「や・・・・ンンぁ・・・っふぁ、やめ、くすぐ・・・・ぁ・・・たい・・・っ」

 触れるか触れないかの感覚で、そっと唇で首筋をなぞられる。くすぐったいような、甘いような感覚が遂には全身にまで広がって、ゾクゾクと粟立った。そのうえ、今更ながらだけどお互い裸なわけで、胸の突起が無遠慮に彼のしっとりとした素肌に擦りあわされる。
 その微細な刺激が、強烈に甘い疼きを引き起こして、頭の中まで熱で満たされる。

「――っアぁっ、ん!!」

 唐突に、首筋にぴりっとした痺れを感じた。コンラッドが俺の首筋をきつく吸い上げた。彼の鍛えられた腕で支えられていなかったら、そのまま湯船に沈んでしまいそうだった。

「ユーリ」

 ささやくような声と共に、そっと彼は身体を離して俺の顔を甘い顔で見つめてきた。今まで、見たことも無いような、扇情的で艶めいた、それでいてどこか儚げな顔だった。

 ただでさえ切れ長の二重の瞳に、すっと通った鼻梁に、形のいい薄い唇という恵まれた顔のくせに、どうしてそんな甘い顔してるんだよ。
 それに、水も滴るいい男の癖に、どうしてそんな悲しみを抱えたような顔をするんだよ。

 なんとなく堪らずに、言葉が口をついて出ていた。

「俺、どんなにあんたが俺を裏切るような素振りをしたって、そんなの全部信じない。あんたが呆れるくらい、あんたを信じてるから。だから、早く帰って来いよな」

 胸のうちが、甘くて苦しくて息が上がっていく。今の俺、きっと情けないくらい甘い顔をしてるんじゃないだろうか? それさえ照れくさくて、ますます身体中が火照ってしまう。
 たぶん、俺の顔を投影しているらしい。コンラッドのどこまでも溶けてしまいそうに甘い顔が、やさしい笑みの形を作った。

「ユーリ・・・・・・。いつかあなたとクリスマスを過ごしたい。日本式のね」

「な、なんだよ? 日本式のクリスマスって?! あ、え?!日本ってクリスマスって言うとよく恋人達がいちゃいちゃしてるよな・・・・って?! うそ?! まさか、恋人としてクリスマスを過ごしたいってこと?!」

 謎賭けみたいに、突拍子もないことを言い出すコンラッドの真意を探ろうとして、思い当たったその意味に、目がちかちかした。

 いや、でも、俺の早とちりか?うそ、早とちりだったら恥ずかしいっ! で、でもそうじゃないなら、とんでもないことを言われたことにならないか?! 

「メリークリスマス、ユーリ」

 すっかり落ち着きをなくして慌てふためく俺は顎先を、コンラッドに掴まれた。そのままぐいっと顔を上に向かされて、気が付くと彼の整った顔がどんどん俺に急接近した―― !!

う、うそ?! キス、される?  

 思わず目を瞑った瞬間に周囲の湯がさざめき立った。台風の目のように著しく発生した渦巻く水流に飲み込まれた。都合よく俺だけ激流に引き込まれていった。

 日本式のクリスマスですごしたいだなんて謎めいた言葉をかけられたまま、彼が俺にキスするつもりだったのかもわからないまま、全てが激流に流されていった。

 幻みたいに。一夜の夢みたいに。

 だけど、俺の気持ちは、流されることはなかった。いや、むしろ、その強い気持ちを見つけることができた。

 やっと気づいた。コンラッドに異常なほどに自分が執着していた理由に。ずっと、自分の心の奥底に疼いていた激しくて熱いものの正体に。

 やっと気づいたよ。

 俺、あんたが・・・・・・好きだよ、コンラッド。

 早く帰ってこいよな。絶対に、今度のクリスマスは、眞魔国で過ごすんだからな。

 ついでに、日本式のクリスマスで過ごしてやるから。
 




 ★あとがき★

ありがちだったかもしれませんが(汗)甘いひとときのクリスマス・・・・になっているでしょうか?クリスマスって言うか温泉でいちゃいちゃ、でしたね^^;
コンラッドもユーリも、天然でエロい(なんじゃそりゃ)感じが好きです。
きっと次のクリスマスは、すごいことになっているんでしょうね。^^;

日本式のクリスマスって、なんだよ、と突っ込みどころが満載ですみません;
ご想像にお任せします^^

 お付き合いくださってありがとうございました^^


 web拍手ありがとうございました^^
 

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