2009.4.22設置
『今日からマ王』メインです。
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ショートストーリー 第十六編 寝顔にキス
※コンユv二人はつきあっていない設定です。
ふと、眼が覚めた。
辺りはまだ乳白色のぼんやりした光に包まれていた。
相も変わらずに、華やかなベッドから抜け出して、ロードワーク用のジャージに着替える。
高校指定のジャージにそっくりの眞魔国製(ギュンターの特注といったほうがいいか)のジャージに着替え終わると、ふと悪戯心が芽生えた。
いつも起こしてもらってばかりだから、たまにはコンラッドを起こしに行っちゃおう。
いつもとは違う新鮮さに、少し心が浮き立つ。
どんな顔で寝てるんだろう、コンラッドって。きっと寝てるときまでカッコいいに決まってる。寝ながらにしても、護衛が出来ちゃうような、精悍な顔付きか?
いやいや、いつもみたいに余裕ぶった大人の表情だったりして?
そんな思考を面白おかしく巡らせながら、そっと彼の部屋のドアを開ける。
王の間よりは、簡素だが、渋谷家の一室に比べれば、相当広くて立派な部屋だ。
彼らしく、無駄に装飾品を置いていない落ち着いた部屋だった。
軍人の彼は、少しの物音でもすぐに起きてしまうに違いない。慎重に彼の元へ忍び寄る。
そっと膝立ちになって、ベッドサイドから彼の顔を覗きこんでみた。
う、うわ。なんだ、コンラッド。めっちゃ可愛い。
そこにある彼の顔は、精悍な顔でも、余裕ぶった大人の顔でもなかった。意外にも彼の寝顔は、少年のようにあどけなかった。
穏やかな形の眉毛。閉じられた瞼に縁取られる長い睫毛。整った鼻梁。
柔らかそうな、薄い唇。綺麗な形の唇。いつも俺の名前を呼んでくれる唇。
って、俺さっきから唇ばっかり見てるし。
彼を見ているだけで、胸の鼓動が早くなってきた。
ふいに、彼の唇から小さな声が漏れた。
「ユーリ・・・・・・」
起きたのかと思って、思わず身を竦めた。なんとなく、寝顔を見ていたことを彼に知られるのが気恥ずかしくて。
けれど彼は眼を覚ましたわけではなかった。仰向きだった身体を、こちらに向けただけだった。そのおかげで、彼の顔がますます間近で見られた。
彼は、目を瞑ったまま、一瞬、にっこりと微笑みを浮かべた。
うわ、こんなコンラッド初めて見る。すげ~可愛いんですけど。
いや、それよりも、もしかして、彼は夢の中でも俺の名前を呼んで、微笑んでくれてるのか?なんか、ちょっと照れるかも。
俺は、すっかりコンラッドの寝顔に釘付けになっていた。
いつも護衛をしてくれるときの精悍な顔もカッコいいけれど、無防備な顔も無性に嬉しかった。余裕ぶった大人の顔も好きだけど、あどけない子供の顔も可愛い。
キス・・・・・・してみたい。
ふいに、心に魔が差した。
頭の中で、煩 いほどに心臓の音が鳴り響いていた。
綺麗な形の唇は、どんな感触なんだろう?
ときどき、驚くほど甘く俺の名前を発するその唇は、感触までも甘いんだろうか?
そんなことしか考えられなくなってきた。
端整な薄い唇に、どんどん引き寄せられていく。
ついに感情の赴くままに、自分の唇をそっと彼の唇に触れさせた。
熱くて、柔らかい・・・・・・甘い。
寝ている所為か、とても熱い唇だった。初めて触れた唇は、とても柔らかくて、痺れるように甘かった。
これが、コンラッドの唇。いつも、優雅に笑みの形を作る、綺麗な唇。そこに、今、俺はキスしちゃってるんだ?!
心臓の鼓動がついには全身から鳴り響いている気がした。
俺は、慌てて彼から離れると、小走りに部屋を出た。
途端に、我に返った。
どうしよう、何で?!
俺、どうしてコンラッドにキスしちゃったんだろう?!
女の子にだってキスしたことないのに!
彼の寝顔を見ていたら、唇に触れたくてたまらなくてしょうがなくて!
で、でも、コンラッドは男なのに。
どうしよう?!
こんなことしたのがばれたら、コンラッドに気持ち悪いって思われるかも―― !
急に泣きたくなるほど悲しくなった。
再び自分の部屋に戻ると、ベッドの中に沈み込んだ。布団を頭まですっぽりと被った。
ええい、今はもう何も考えないに限る。
俺は、無理やり二度寝をすることにした。
けれど、眠れるわけがなかった。布団の中で、いろんな考えが頭を渦巻いていた。
その結果、たどり着いた事実―― 俺は、コンラッドのことが好き。
名付け親だから、信頼の置ける護衛だから『好き』っていうのはニュアンスが違う。
ドキドキするくらい、思わずキスしちゃうくらいの『好き』・・・・・・なんだ。
ふいに、扉が軽くノックされて、軽やかな彼の足取りが聞こえる。
どうしよう?!コンラッドに合わす顔が無いよ。
彼は、俺のことを名付子として、王としては大事に思ってくれる。
だけど、俺が彼に恋愛感情を持ってるって知ったら?おまけに、寝てる間にキスなんてしたことがバレたら、どうしよう?あぁ、俺、恥ずかしくて、コンラッドを見れない。
「ユーリ、いつまで寝ているんですか?そろそろ、起きないと朝食の時間までにロードワークを終えられませんよ?」
そういうと、無遠慮に布団を剥ぎ取られた。
「わああっ!だめっ!」
思わず必死に布団を手繰り寄せてしまう。
「あれ、ユーリ?ジャージに着替えていたんですか?」
コンラッドは、ジャージを着ている俺の姿をみると、顎に手を置いて暫し考えるような表情をした。
そうだよな、不自然だよな、ジャージ姿で寝てるなんて。まるで、一度起きたのにまた寝ましたって言ってる様なもんだよな。
っていうか、ま、まさか。
も、もしかして、俺がキスしたのばれたか?!俺と違って、鋭いコンラッドなら気づくかも?!
冷や汗が背中を伝い落ちた。駄目だ、深く追求される前に、話を切り替えよう。
「さ、朝飯前にロードワークに行こうっ!!コンラッド!」
俺は、軽やかにベッドから飛び降りると、精悍な軍服姿の彼の手を引っ張った。
軽やかな足取りで、城内を駆け抜ける。ようやく、外は小鳥の囀 りやエンギワル鳥のユニークな鳴き声が聞こえてきた。
城外へ出ると、とても神聖な早朝の空気に包まれた。それと同時に、爽やかな一陣の風が吹き抜けた。
けれど、心は爽快、というわけにはいかない。むず痒いような、照れくさいような、じれったい気分だった。
そして、今更ながら、彼の手を掴んだままだったことに気づいた。
「わ、ご、ごめんっ!」
俺は、咄嗟に手を離すと走るスピードをぐんと上げた。彼の顔が見れない。きっと、俺、すっげ~真っ赤な顔してる。野郎の照れた顔なんて、気色悪いだろうから、コンラッドには見せられない!
彼のことが好きだと気づいた途端に、彼に触れることさえドキドキする。
「ユーリ?」
背後から訝 しげに尋ねてくる上品な低い声にさえ、胸が甘く痛む。やばい、俺、重症だ。
全くいつものコースを、無言で走る二人。
けれど、いつもよりずっとぎこちない空気が流れていた。早朝のため、いつもながら、街はひっそりとしている。
城下街の石畳を蹴る二人の靴の音と、規則的な呼吸音だけがやけに大きく響く。
街を取り囲んだ外壁の外へ抜けると、いつもの森のなかへ突き進む。
もう15分は走り続けている。
コンラッドは、鍛え抜かれた軍人なので少しも息が上がっているようにはみえない。
けれど、彼は毎回この森へ入ると、俺に気遣って小休止を提案してくれる。
「ユーリ、そろそろ休みましょう」
彼のさりげない優しさに促されて、いつものように森の泉のほとりで腰を下ろす。プラタナスの木に背中を預けて、まるで底が無いような深い翠色の泉を見つめる。
いつもなら、心も身体も休まる一時なのに。今日は、心がちっとも休まらない。隣に、コンラッドがいるっていうだけで、必要以上に、心拍数が上がってしまうから。
朝露に濡れる瑞々しい草花の香りが立ち籠める。東の空から、太陽が顔を覗かせる。黄金色の光が、木立の合間から差し込んでは、泉に反射する。キラキラと水面を輝かす泉。
そんな長閑 な景色を眺めている折に、突然、先程のキスを思い出した。
少年のようにあどけないコンラッドの寝顔。彼の甘い唇が瞬時に蘇る。
また、胸が痛くなった。俺は、キスしたくなるほどにコンラッドのことが好きなんだ。
思わず隣に座る彼の顔を見た。
彼は、繊細な髪の毛を金色に染めて、眩しそうに色素の薄い眼を細める。どこまでも優しく、俺に微笑み返した。
薄く開いた唇から、白い歯が爽やかに覗く。相変わらず、おとぎ話に出てくる王子のように綺麗な笑顔だった。
いつも、散々見慣れている筈なのに――。今日は、その甘い顔を見ただけで、小指が痺れるような、切なくて甘い気持ちで満たされた。
そわそわして、彼の顔を見ていられなくなる。
不自然に眼をそらす俺に、彼はいぶしげに声をかける。
「どうしましたか、ユーリ?」
「な、なんでもないよ」
明後日の方向を向いたまま、ぶっきらぼうに答えるのが精一杯だった。瞳をあわせてしまったら、おかしなことを口走ってしまう気がして。
そのとき、手の上に、とても優しい温もりを感じた。
はっとして、草の上に置いた手元を見ると、彼の大きな手が俺の手の上に重ねられていた。
心臓が止まるかと思った。咄嗟にコンラッドの顔を、仰ぎ見た。
彼は、苦しそうな顔で微笑んでいた。
どうかしてしまいそうなほどに、頭の中で、心臓の鼓動が鳴る。
「ユーリ、好きです」
短いフレーズ。けれど、心を掴んで離さない言葉。
視界に彼しか映らなくなる。頭の中で、甘い綺麗な声が繰り返し再生される。
痺れたように動かない身体を、突然きつく腕の中に抱きしめられた。彼の凛とした香りと、暖かい体温を深いところで感じた。
胸がじんじんとして、呼吸をするのを忘れてしまいそうだった。
「俺の勘違いだったら、すみません。貴方が、今朝俺にキスをしてくれたような気がして。嬉しくて、気持ちを伝えずにはいられませんでした。・・・・・・でも、貴方を好きなあまりに、俺が都合のいい夢でも見てしまっただけかもしれません」
何も言えない。言葉が出てこない。
一度にいろんな感情が渦巻いて、言葉にするのが追いつかない。
嬉しすぎて。
そっと、腕を解き、少し傷ついたような顔で微笑むコンラッド。
「驚かせてしまったようですね。ごめんなさい。護衛に愛の告白などされても、困りますよね。忘れてください」
「そんなこと・・・・・・言うなよ。そんな悲しい顔・・・・・・すんなよ」
堪らずに、大きな彼の背中に手を回した。
今、正直に気持ちを打ち明けなかったら、これから先、ずっとお互い素直になれない気がしたから。
「今朝、早く眼が覚めて、あんたを起こしに行ったんだ。でも、コンラッドの寝顔を見てたら、キスしたくてしょうがなくなって。気づいたら、キス・・・・・・してた。俺、自分の行動に、信じられないくらい驚いた」
少し、言葉を区切ると、大切な一言を囁く。
「でも、それって、あんたが好きってことなんだって・・・・・・気づいた」
まっすぐに、想いを伝える。恥ずかしさで頭に血が上って、くらくらするけれど。男同士とか、そういう固定概念が崩れていく。『彼』だから、好き。コンラッドだから、好き。
「コンラッドが好き。だから、『忘れてください』なんて、言うなよな」
コンラッドは、俺の左手を掴み上げ、手の甲に接吻 けをした。
「ユーリ―― 幸せすぎて、まるで夢を見ているみたいです。これからは、王への忠誠だけでなく、貴方の恋人としても、貴方への愛に忠誠を誓っていることを忘れないでくださいね」
蕩けそうに甘く優しく瞳が細められる。二人の間を夏風が爽快に駆け抜けた。澄んだ空気が胸いっぱいに広がった。
風で髪が乱された頃には、どちらからともなくキスをしていた。
朝陽が差し込む泉のほとりで。
そっと唇を折り重ねるだけの優しくて爽やかなキス。
けれど、今まで生きてきた中で、何よりも幸せな気持ちに包まれた。
それは、きっと、初めて二人の想いが重なったから。
二人の『好き』が重なった接吻 けだから。
素直に、あんたが好き。全部、好き。
ずっと、キスしていたいくらい――大好きだよ、コンラッド。
第十六編=完了
★あとがき
寝顔にキスするネタを思いついて、発作的に書き上げました。
どうだったでしょうか?
ちゃんと、面白くなって居ればいいのですが(汗
※コンユv二人はつきあっていない設定です。
ふと、眼が覚めた。
辺りはまだ乳白色のぼんやりした光に包まれていた。
相も変わらずに、華やかなベッドから抜け出して、ロードワーク用のジャージに着替える。
高校指定のジャージにそっくりの眞魔国製(ギュンターの特注といったほうがいいか)のジャージに着替え終わると、ふと悪戯心が芽生えた。
いつも起こしてもらってばかりだから、たまにはコンラッドを起こしに行っちゃおう。
いつもとは違う新鮮さに、少し心が浮き立つ。
どんな顔で寝てるんだろう、コンラッドって。きっと寝てるときまでカッコいいに決まってる。寝ながらにしても、護衛が出来ちゃうような、精悍な顔付きか?
いやいや、いつもみたいに余裕ぶった大人の表情だったりして?
そんな思考を面白おかしく巡らせながら、そっと彼の部屋のドアを開ける。
王の間よりは、簡素だが、渋谷家の一室に比べれば、相当広くて立派な部屋だ。
彼らしく、無駄に装飾品を置いていない落ち着いた部屋だった。
軍人の彼は、少しの物音でもすぐに起きてしまうに違いない。慎重に彼の元へ忍び寄る。
そっと膝立ちになって、ベッドサイドから彼の顔を覗きこんでみた。
う、うわ。なんだ、コンラッド。めっちゃ可愛い。
そこにある彼の顔は、精悍な顔でも、余裕ぶった大人の顔でもなかった。意外にも彼の寝顔は、少年のようにあどけなかった。
穏やかな形の眉毛。閉じられた瞼に縁取られる長い睫毛。整った鼻梁。
柔らかそうな、薄い唇。綺麗な形の唇。いつも俺の名前を呼んでくれる唇。
って、俺さっきから唇ばっかり見てるし。
彼を見ているだけで、胸の鼓動が早くなってきた。
ふいに、彼の唇から小さな声が漏れた。
「ユーリ・・・・・・」
起きたのかと思って、思わず身を竦めた。なんとなく、寝顔を見ていたことを彼に知られるのが気恥ずかしくて。
けれど彼は眼を覚ましたわけではなかった。仰向きだった身体を、こちらに向けただけだった。そのおかげで、彼の顔がますます間近で見られた。
彼は、目を瞑ったまま、一瞬、にっこりと微笑みを浮かべた。
うわ、こんなコンラッド初めて見る。すげ~可愛いんですけど。
いや、それよりも、もしかして、彼は夢の中でも俺の名前を呼んで、微笑んでくれてるのか?なんか、ちょっと照れるかも。
俺は、すっかりコンラッドの寝顔に釘付けになっていた。
いつも護衛をしてくれるときの精悍な顔もカッコいいけれど、無防備な顔も無性に嬉しかった。余裕ぶった大人の顔も好きだけど、あどけない子供の顔も可愛い。
キス・・・・・・してみたい。
ふいに、心に魔が差した。
頭の中で、煩 いほどに心臓の音が鳴り響いていた。
綺麗な形の唇は、どんな感触なんだろう?
ときどき、驚くほど甘く俺の名前を発するその唇は、感触までも甘いんだろうか?
そんなことしか考えられなくなってきた。
端整な薄い唇に、どんどん引き寄せられていく。
ついに感情の赴くままに、自分の唇をそっと彼の唇に触れさせた。
熱くて、柔らかい・・・・・・甘い。
寝ている所為か、とても熱い唇だった。初めて触れた唇は、とても柔らかくて、痺れるように甘かった。
これが、コンラッドの唇。いつも、優雅に笑みの形を作る、綺麗な唇。そこに、今、俺はキスしちゃってるんだ?!
心臓の鼓動がついには全身から鳴り響いている気がした。
俺は、慌てて彼から離れると、小走りに部屋を出た。
途端に、我に返った。
どうしよう、何で?!
俺、どうしてコンラッドにキスしちゃったんだろう?!
女の子にだってキスしたことないのに!
彼の寝顔を見ていたら、唇に触れたくてたまらなくてしょうがなくて!
で、でも、コンラッドは男なのに。
どうしよう?!
こんなことしたのがばれたら、コンラッドに気持ち悪いって思われるかも―― !
急に泣きたくなるほど悲しくなった。
再び自分の部屋に戻ると、ベッドの中に沈み込んだ。布団を頭まですっぽりと被った。
ええい、今はもう何も考えないに限る。
俺は、無理やり二度寝をすることにした。
けれど、眠れるわけがなかった。布団の中で、いろんな考えが頭を渦巻いていた。
その結果、たどり着いた事実―― 俺は、コンラッドのことが好き。
名付け親だから、信頼の置ける護衛だから『好き』っていうのはニュアンスが違う。
ドキドキするくらい、思わずキスしちゃうくらいの『好き』・・・・・・なんだ。
ふいに、扉が軽くノックされて、軽やかな彼の足取りが聞こえる。
どうしよう?!コンラッドに合わす顔が無いよ。
彼は、俺のことを名付子として、王としては大事に思ってくれる。
だけど、俺が彼に恋愛感情を持ってるって知ったら?おまけに、寝てる間にキスなんてしたことがバレたら、どうしよう?あぁ、俺、恥ずかしくて、コンラッドを見れない。
「ユーリ、いつまで寝ているんですか?そろそろ、起きないと朝食の時間までにロードワークを終えられませんよ?」
そういうと、無遠慮に布団を剥ぎ取られた。
「わああっ!だめっ!」
思わず必死に布団を手繰り寄せてしまう。
「あれ、ユーリ?ジャージに着替えていたんですか?」
コンラッドは、ジャージを着ている俺の姿をみると、顎に手を置いて暫し考えるような表情をした。
そうだよな、不自然だよな、ジャージ姿で寝てるなんて。まるで、一度起きたのにまた寝ましたって言ってる様なもんだよな。
っていうか、ま、まさか。
も、もしかして、俺がキスしたのばれたか?!俺と違って、鋭いコンラッドなら気づくかも?!
冷や汗が背中を伝い落ちた。駄目だ、深く追求される前に、話を切り替えよう。
「さ、朝飯前にロードワークに行こうっ!!コンラッド!」
俺は、軽やかにベッドから飛び降りると、精悍な軍服姿の彼の手を引っ張った。
軽やかな足取りで、城内を駆け抜ける。ようやく、外は小鳥の囀 りやエンギワル鳥のユニークな鳴き声が聞こえてきた。
城外へ出ると、とても神聖な早朝の空気に包まれた。それと同時に、爽やかな一陣の風が吹き抜けた。
けれど、心は爽快、というわけにはいかない。むず痒いような、照れくさいような、じれったい気分だった。
そして、今更ながら、彼の手を掴んだままだったことに気づいた。
「わ、ご、ごめんっ!」
俺は、咄嗟に手を離すと走るスピードをぐんと上げた。彼の顔が見れない。きっと、俺、すっげ~真っ赤な顔してる。野郎の照れた顔なんて、気色悪いだろうから、コンラッドには見せられない!
彼のことが好きだと気づいた途端に、彼に触れることさえドキドキする。
「ユーリ?」
背後から訝 しげに尋ねてくる上品な低い声にさえ、胸が甘く痛む。やばい、俺、重症だ。
全くいつものコースを、無言で走る二人。
けれど、いつもよりずっとぎこちない空気が流れていた。早朝のため、いつもながら、街はひっそりとしている。
城下街の石畳を蹴る二人の靴の音と、規則的な呼吸音だけがやけに大きく響く。
街を取り囲んだ外壁の外へ抜けると、いつもの森のなかへ突き進む。
もう15分は走り続けている。
コンラッドは、鍛え抜かれた軍人なので少しも息が上がっているようにはみえない。
けれど、彼は毎回この森へ入ると、俺に気遣って小休止を提案してくれる。
「ユーリ、そろそろ休みましょう」
彼のさりげない優しさに促されて、いつものように森の泉のほとりで腰を下ろす。プラタナスの木に背中を預けて、まるで底が無いような深い翠色の泉を見つめる。
いつもなら、心も身体も休まる一時なのに。今日は、心がちっとも休まらない。隣に、コンラッドがいるっていうだけで、必要以上に、心拍数が上がってしまうから。
朝露に濡れる瑞々しい草花の香りが立ち籠める。東の空から、太陽が顔を覗かせる。黄金色の光が、木立の合間から差し込んでは、泉に反射する。キラキラと水面を輝かす泉。
そんな長閑 な景色を眺めている折に、突然、先程のキスを思い出した。
少年のようにあどけないコンラッドの寝顔。彼の甘い唇が瞬時に蘇る。
また、胸が痛くなった。俺は、キスしたくなるほどにコンラッドのことが好きなんだ。
思わず隣に座る彼の顔を見た。
彼は、繊細な髪の毛を金色に染めて、眩しそうに色素の薄い眼を細める。どこまでも優しく、俺に微笑み返した。
薄く開いた唇から、白い歯が爽やかに覗く。相変わらず、おとぎ話に出てくる王子のように綺麗な笑顔だった。
いつも、散々見慣れている筈なのに――。今日は、その甘い顔を見ただけで、小指が痺れるような、切なくて甘い気持ちで満たされた。
そわそわして、彼の顔を見ていられなくなる。
不自然に眼をそらす俺に、彼はいぶしげに声をかける。
「どうしましたか、ユーリ?」
「な、なんでもないよ」
明後日の方向を向いたまま、ぶっきらぼうに答えるのが精一杯だった。瞳をあわせてしまったら、おかしなことを口走ってしまう気がして。
そのとき、手の上に、とても優しい温もりを感じた。
はっとして、草の上に置いた手元を見ると、彼の大きな手が俺の手の上に重ねられていた。
心臓が止まるかと思った。咄嗟にコンラッドの顔を、仰ぎ見た。
彼は、苦しそうな顔で微笑んでいた。
どうかしてしまいそうなほどに、頭の中で、心臓の鼓動が鳴る。
「ユーリ、好きです」
短いフレーズ。けれど、心を掴んで離さない言葉。
視界に彼しか映らなくなる。頭の中で、甘い綺麗な声が繰り返し再生される。
痺れたように動かない身体を、突然きつく腕の中に抱きしめられた。彼の凛とした香りと、暖かい体温を深いところで感じた。
胸がじんじんとして、呼吸をするのを忘れてしまいそうだった。
「俺の勘違いだったら、すみません。貴方が、今朝俺にキスをしてくれたような気がして。嬉しくて、気持ちを伝えずにはいられませんでした。・・・・・・でも、貴方を好きなあまりに、俺が都合のいい夢でも見てしまっただけかもしれません」
何も言えない。言葉が出てこない。
一度にいろんな感情が渦巻いて、言葉にするのが追いつかない。
嬉しすぎて。
そっと、腕を解き、少し傷ついたような顔で微笑むコンラッド。
「驚かせてしまったようですね。ごめんなさい。護衛に愛の告白などされても、困りますよね。忘れてください」
「そんなこと・・・・・・言うなよ。そんな悲しい顔・・・・・・すんなよ」
堪らずに、大きな彼の背中に手を回した。
今、正直に気持ちを打ち明けなかったら、これから先、ずっとお互い素直になれない気がしたから。
「今朝、早く眼が覚めて、あんたを起こしに行ったんだ。でも、コンラッドの寝顔を見てたら、キスしたくてしょうがなくなって。気づいたら、キス・・・・・・してた。俺、自分の行動に、信じられないくらい驚いた」
少し、言葉を区切ると、大切な一言を囁く。
「でも、それって、あんたが好きってことなんだって・・・・・・気づいた」
まっすぐに、想いを伝える。恥ずかしさで頭に血が上って、くらくらするけれど。男同士とか、そういう固定概念が崩れていく。『彼』だから、好き。コンラッドだから、好き。
「コンラッドが好き。だから、『忘れてください』なんて、言うなよな」
コンラッドは、俺の左手を掴み上げ、手の甲に接吻 けをした。
「ユーリ―― 幸せすぎて、まるで夢を見ているみたいです。これからは、王への忠誠だけでなく、貴方の恋人としても、貴方への愛に忠誠を誓っていることを忘れないでくださいね」
蕩けそうに甘く優しく瞳が細められる。二人の間を夏風が爽快に駆け抜けた。澄んだ空気が胸いっぱいに広がった。
風で髪が乱された頃には、どちらからともなくキスをしていた。
朝陽が差し込む泉のほとりで。
そっと唇を折り重ねるだけの優しくて爽やかなキス。
けれど、今まで生きてきた中で、何よりも幸せな気持ちに包まれた。
それは、きっと、初めて二人の想いが重なったから。
二人の『好き』が重なった接吻 けだから。
素直に、あんたが好き。全部、好き。
ずっと、キスしていたいくらい――大好きだよ、コンラッド。
第十六編=完了
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寝顔にキスするネタを思いついて、発作的に書き上げました。
どうだったでしょうか?
ちゃんと、面白くなって居ればいいのですが(汗
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