2009.4.22設置
『今日からマ王』メインです。
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
ショートストーリー第十三編 時空を超えて
※アニシナさんの発明品で、過去に戻ったユーリが若獅子コンラッドに出会うお話です。
俺が、迂闊だった。
気だるい昼下がり、ギュンターの歴史の授業が長くて、げっそりしていた俺は、トイレに行くと言って部屋を抜け出した。
そこまでは、脱出作戦大成功!!だったんだけど・・・赤い悪魔に掴まった。
「おや、陛下。もう歴史のお勉強は終えられたのですか?それにしては、随分と早いような気が致しますが・・・」
すいっと眼を細める赤毛のアニシナ。
ひ~、眞魔国の魔女出た~。
「もしかして、歴史の授業がつまらなくて抜け出して来たのではないですか?」
うぅ、図星。さすが、毒女の勘恐るべし。
俺が、苦しい笑顔を浮かべていると、にっこりと偽物のような笑顔で微笑まれた。
「調度良いです。歴史の勉強などせずとも,この国の歴史が手に取るように分かる発明品を作ったのです!」
「えっ?すごい!そんなのあるんだ・・・・」
思わず、反射的に答えてしまった自分に戸惑う。これでは、彼女の思う壺だ!
「えぇ、では早速陛下に『もにたあ』になっていただきましょう!」
「そんな、ちょっとアニシナさん~~!!」
彼女に、腕を掴まれて、ずんずんと研究室まで引っ張られていく。
数分後。
妖しげな、実験器具が所狭しと置かれた、血盟城の一室に哀れなモルモットがいた。俺だけど・・・。
「な~に、心配しなくて大丈夫ですから。ちょっと過去にタイムスリップするだけですよ。おまけに、そこで貴方が遭った人たちは、貴方とのことを自動的に忘れるようにプログラムされた優れものですから。歴史が変わらないような対策は万全に練られているわけです」
意気揚々と燃え上がる紅い髪を振り乱して、説明をするアニシナ。
「その名も、『私を過去へ連れてって、試運転1号機』です。さぁ、お乗りください!」
し、試運転・・おまけに・・・1号機?!めちゃくちゃ不安な単語が並んでるんですけど・・・・。
その場で立ち尽くしている俺に、アニシナさんが詰め寄る。
「過去に戻って、この国の歴史をその眼で直に学ぶのです・・・・さぁ、陛下!」
彼女の迫力に気圧されるように、俺はゴーカートみたいな玩具の車の中に入らされた。うわぁ、激しく不安だ・・・。なんかバックトゥザフューチャーのしょぼい版の車みたいだ・・・うう。
うう、俺の馬鹿・・・・。どうか、おかしなことが起きませんようにっ!
*****************
「う・・・・ん」
眩い光に眼を開けると、そこは賑やかな歓楽街の路地裏だった。どうやら、あのゴーカートみたいな車はこちらには来ないらしい・・・俺だけが、ここまで送り飛ばされたらしい。これって、いいのか?そういや、この辺のところの説明を全くもって受けていない・・・!
迂闊だった!もう、あとの祭りだけど。どうか無事に過ごせますように。
日はすっかり暮れていた。派手な電飾が石造りの家屋を煩いくらいに照らしているのが路地裏から見えた。
こんなところ、眞魔国にあったっけ?なんか人間の国に似てるような・・・・。
あ、ここは前に来たところだ。確か、前に足の治療で来た人間の土地、シルドクラウトだ。そんでもって、この歓楽街で、ごろつきに囲まれていた女の子を救おうとして自分も捕まっちゃたんだっけ。
そんなことを考えていると、いつのまにか俺の目の前に体格のいい二人の男達が現れた。しかも、ここ路地裏だし、激しく嫌な予感。
「あんた、人間じゃないな。魔族だろ」
しまった、ここは眞魔国じゃないんだった。それどころか、人間の土地~!アニシナさん~~!飛ばす場所が違いま~す!
髪の毛も眼も双黒のままだった。どうしよう?!いや、もうすでに手遅れだけどっ。
男達が俺を値踏みするようないやらしい目つきで見てくる。
「あんた、魔族のくせに、よくのこのこと人間の土地に来たな。それも、こんな歓楽街に、たった一人で。もしかして、な・に・かを期待して来たんじゃねぇの?」
じりじりと俺に詰め寄りながら、もう一人の男が喉の奥で低く笑う。
「そうだよ、あんたえらい美人だしな・・・・。俺たちの言うことを聞くんだったら、見逃してやっても良いぜ?今人間と魔族がどういう状態か知らないわけじゃないだろ?今、ここで魔族が見つかってみろ。お前は、血祭りにあげられるぞ」
なんか、俺今とんでもないピンチに直面してるんですけど?!
この変態な男達の言うなりになるか、血祭りにあげられるか・・・どうする、どうするよ、俺・・・って、そんなんどっちも嫌だ~!
身を強張らせて、立ち尽くしていると、両手をそれぞれの男達から掴まれた。
「いてっ、ちょっと離せよっ」
苦痛に、うめき声が漏れる。
「ほら、あんたも痛い目は見たくないだろ?ちょっと着いてこいよ。宿は、この辺りには、腐るほどあるんだよ、へへへ」
下心を剥き出しにした、いかつい男達がにやりと笑う。
うぎゃ~~、嫌過ぎる~!
「嫌だよ~!!やめろよ、俺、男だし~~!!!」
俺が、大声で喚いた時、背後から聞き覚えのある声が聞こえた。凛とした低音のその声・・・。
「そこまでにしないか、そいつは俺の連れだ」
振り返って声の主を見遣る。
やっぱり!コンラッドだ・・・!!それも、若い!!いつもよりちょっと髪が長い。
相変わらず、カッコいいけど。
どうやら、タイムスリップには成功していたらしい。ただ場所が違うだけで。
いやいや、今はそれどころじゃなくて、本当によかった、助かった~~!!ありがとうっ、コンラッド!!
二人のマッチョな男達は、コンラッドの姿を見た途端に、蜘蛛の子を蹴散らすように退散した。
「これはこれは、大変失礼致しました~、若様~」
若様?あ、そうか。この時代はチェリ様が魔王だから、コンラッドは王子なんだな。すごい、王子なんて似合いすぎだと思う。ああ、だからそうじゃなくてお礼言わないと!
一向にこちらに近づいてきてくれないコンラッドに違和感を覚えながらも、彼にお礼を言う。
「コン・・・いや・・、あの~、助けていただいてありがとうございますっ!俺、本当に助かりました」
思わず彼の名前を言いそうになって慌てて言い直した。
けれど、コンラッドは青い軍服の襟を正すとつれない態度で返事をする。
「お前は、見たところ魔族のようだな。どうして、こんなところにいるのか知らないが、気をつけるんだ」
若さから来るものなのだろうか、言葉遣いも、今とは違う彼。やさぐれたような、斜に構えたような態度の彼。
俺に、返事を返す隙も与えぬうちに、彼はアンニュイに髪を掻き揚げると、颯爽と踵を返す。俺は、呆然といつもの彼より細めな後姿を見つめていた。
何だろう、ひどく悲しかった。
いつものコンラッドなら、こんなところで俺を置き去りにしたりしない。
いつでも、俺のことを過保護なほどに大事にしてくれるから、俺はそれに慣れすぎちゃってるんだろうか。
今の彼にとって、俺は全くの他人・・・・。いつものような扱いを受けられなくて当然の筈なんだけど。コンラッドから、冷たくされるとなんか予想外のダメージだな・・・。
かなり・・・ショックかも。例え過去の彼だとしても。
こんな、もしものこと考えるの馬鹿らしいけど、考えずにはいられなかった。
もしも、彼が俺の名付親じゃなかったら?臣下という立場じゃなかったら、彼は今みたいに俺に振舞うんだろうか。
いつもみたいには、俺のことを大事にしてくれないんだろうか。
こんな不毛なことを考えながら、俺はずっと路地裏で膝を抱えて座り込んでいた。
瞳も髪の毛も、真っ黒のままじゃ、目立ちすぎるから、俺はどの道、ここから出られない。先の男達の話によると、今は人間と魔族の間がひどく悪化しているらしいし。今度こそ見つかったら、大変な目に遭う。
おまけに、元来た世界への帰り方も分からないし。
俺に出来ることと言ったら、路地裏に身を潜めてただ暗い想像をするだけ・・・。
自嘲気味な笑いが漏れた。
コンラッドに冷たくされただけで、俺ってこんなに駄目になっちゃうんだ。
けれど、もうどうでもよかった。
もっと、もっと暗い考えに耽って、とことん惨めな気持ちを味わってしまいたい。
俺の哀れな願いは、思いがけず霧散することになった。
「まだ・・・こんなところにいたのか」
少し呆れた様な、けれど優しい声が聞こえた。
ゆっくりと、顔を上げると若いコンラッドがいた。
「早く、こちらへ。ここは不貞の輩が多すぎる」
彼の声は、優しくて、暖かくて胸がじんとした。
「あ、ありがとう」
そのまま、彼に手を引かれて、ネオンの輝く歓楽街を歩いた。もしかして、俺のことが心配でまた来てくれたのか?
「あ、あの。わざわざ、来てくれてありがとう!」
嬉しくて、大声で彼に感謝の念を伝える。先程までの、惨めな気持ちはすっかり消え去っていた。俺って、現金な奴だな。コンラッドが優しいだけですぐに機嫌がよくなるなんて。
にわかに、彼が道端で立ち止まる。すると、彼は俺をいかがわしいピンクのネオン看板が掲げられた小さな建物に引き込んだ。1階は、喫茶店の様だった。けれど、とても薄暗い雰囲気。隠れ家のような妖しい喫茶店だった。
「あ、あの~、ここは、どこ?」
コンラッドに、問いかけるけれど、全く返事をしてくれない。
コンラッドは、喫茶店の女主人と何やら話をしたあと、俺の腕を引っ張って、狭い階段を上って行く。
強引に部屋に連れ込まれて、ドアを閉められる。
中には、ダブルベッドがその存在を見せ付けるかのように中心に置かれていた。他にはこれといった装飾品もなかった。
彼は、窓際の簡素な椅子に物憂げに腰掛ける。
入り口で立ち尽くしたままの俺は、彼にもう一度同じ質問を繰り返す。
「あ、あの~、ここは、どこなんですか?なんかちょっと妖しい雰囲気って言うか・・・」
彼の様子をちらちらと伺う。何だろう、今のコンラッドと全然違うから調子が狂っちゃうなぁ。
気だるげな様子で、視線だけこちらに向けると、ぶっきらぼうに答えるコンラッド。
「ここは、人目を忍んで恋人達が逢引をするところだ」
あぁ、なるほどね、恋人達がね・・・。って、えぇえぇええ?
「ええええっと、俺たちは恋人同士ではないよねっ」
仰天して、彼をまじまじと見つめる。
あまりにも、驚く俺の様が可笑しかったのか、彼の顔が少し綻んだ。いつもの彼に戻ったみたいだった。
「お前、何も知らないんだな。そんな外見してるんだから、少しは気をつけたほうがいいんじゃないか」
にわかに、彼が立ち上がるとゆっくりと俺の元に歩み寄る。彼はドアに両手を着き、自身とドアの間に俺を挟みこんで上から俺を覗き込んできた。
「ほら、俺が君の事を襲うかもしれないよ?」
わぁ、なんだぁ、こんなコンラッド見たこと無い!!
びっくりして瞬きもせずに彼の瞳を見ていたら、とうとう彼が吹き出した。自然とドアから手は離されていた。
「っあははっ、お前、面白いな。全く、毒気を抜かれるって言うか・・・。可愛いっていうか・・・」
長い前髪を掻き揚げながら、彼に優しく微笑まれた。
「大丈夫、何も君を取って食おうなんて思っちゃいないから。君のその魔族そのものの外見じゃ、泊まれる宿が限られてただけだよ。そういうことだから、深く考えるなよ」
俺は、無愛想で暗い表情が多かった彼がだんだん笑う回数が増えていくことが嬉しくてたまらなかった。
やっぱり、コンラッドは笑顔が似合うよな。すっごく綺麗な笑顔だもん。
きっと今の時代の彼の笑顔が少ないのは、それなりの事情があるんだと思う。コンラッドが、人間と魔族の間に生まれたと言うだけで、ひどい時代を送ったことがあるらしい。もしかしたら、今のコンラッドはその時代の彼なのかもしれない。
きっと、笑顔が無くなるくらい苦しいんだ。アニシナさんの説明によると、ここで俺と過ごしたことは、彼は全て忘れてしまうらしい。けれど、ほんの一瞬でも彼が笑える時間が持てたらいいと思う。
「そうなんだ、ありがとう!あんたも笑顔が増えてきたみたいでよかった!」
これでもかっていうくらいに、彼に笑いかけた。だって、本当に彼の笑顔が見れて嬉しかったんだ。
彼は、目を丸くして俺の顔を見ていた。心なしか、頬が朱に染まったように見えた。
ぐぅぅ。
そのとき、俺の恥ずかしい腹の虫がなった。
俺とコンラッドは、顔を見合わせると再び笑い合った。
何か食べるものを貰ってくるよと言って彼が、階下に下りていった。
彼は手に美味しそうなサンドイッチを携えて、戻ってきた。
「はい、どうぞ。サンドイッチだよ。好きなだけ食べて」
彼は、円形の木製のテーブルにその美味そうなサンドイッチを置いてくれた。俺は、目をキラキラさせながら食らいついた。
その様子を見て、また彼は面白そうに笑った。
「っはは・・。そんな勢いで食べたら、お腹がびっくりするぞ」
だんだん、いつものコンラッドに近くなってきたな。
なんだか、ほっと心が温かくなった。ほんの僅かでも、彼が今を笑って過ごしてくれたら嬉しい。魔族と人間の間に生まれた憂き目とか、そんなことを今だけは全く忘れてくれたら嬉しい。
サンドイッチを平らげた俺は、食欲が満たされて、幸せな気持ちになった。
ベッドで、うつ伏せになって、顔だけ捻り、隣に腰掛けたコンラッドの方を見ていたら、ふいに、彼が優しく俺の髪を撫でてきた。
「君は・・・・何者だ?ひどく、懐かしい感じがするけれど・・・・、それに俺のよく知っている人に似てるような気もするし、全く違うような気もする・・・」
彼の発言に目を瞠った。
この時代の彼は俺のことをまったく知らない筈なのに、それなのに、うすうす俺の存在を感じてくれるなんて、そんなことがあるんだろうか。
時空を超えてつながる絆があるんだろうか?
彼もベッドに転がると、俺の手を握り指を絡めてきた。
「何でだろう?俺は、君がとても大切な存在のような気がする。遭ったばかりなのに・・・自分でもおかしいと思うが」
彼の節くれだった暖かい指が絡まってきて、鼓動が早くなる。
「それに、君を不貞の輩から助けた時、どうしても君の事が気になってしまった。君の容姿が良いからだけじゃない。何か、ひどく気になったんだ、君のことが。それで、気がついたら、君のことを夢中で探してしまった・・・・」
長い前髪の間から、切なげに瞳を揺らして、俺を見つめるコンラッド。
「もしかしたら・・・俺は君に一目惚れしてしまったのかもしれない・・・」
突如、眩しい光に覆われた。
目をゆっくりと開けていくと、そこにはいつものコンラッドがいた。
「おかえりなさい、ユーリ」
まだ、思考が鈍る。えっと、俺どうしてたんだっけ・・・?
コンラッドが、そんな俺を見て、状況を説明してくれた。
「今まで、貴方は魔道装置で過去の世界に行っていたんですよ」
そう言われて、よくよく辺りを見渡してみる。俺はアニシナさんの実験室で、ゴーカートみたいなあの魔道装置の中に居た。
「もう、夜も遅いので皆、寝てしまいましたよ」
「あ、そうなんだ。でもコンラッドは待っててくれたんだ。ありがとう」
コンラッドのくすぐったくなるような優しさに触れた時だった。
走馬灯のように、魔道装置で行った先程の出来事が思い出された。
コンラッドは、俺が名付子でも王様でなくても俺のことを大事にしてくれるんだって、わかってしまった。それは、彼と俺のとてつもなく強い結びつきのような気がして嬉しかった。
ふと幸せな気持ちになった俺は、若かりし頃の彼の最後の言葉を思い出した。
『もしかしたら・・・俺は君に一目惚れしてしまったのかもしれない・・・・』
それって、まさか・・・・今のコンラッドも俺のことを好きだったりするのかな?だって、昔の彼が俺に惚れたなんて言ったんだから・・・。
じっと彼の瞳を覗き込んでいたら、そっと胸に抱きしめられた。
「貴方は、私の庇護欲を掻き立てる人だ。だから、貴方のことを放っておけません。」
彼の甘い囁きに、思わず、考えていたことが俺の口をついて出てきた。言うつもりは無かったのに。
「コンラッド・・・それって俺のことを好きってこと?」
月光の差し込む実験室に、俺の声が響いた。
月明かりに照らされた、コンラッドの瞳が僅かに切なく揺らされた。
けれど、すぐにいつもの柔らかい笑顔に戻ってしまった。
「そうですね、ユーリは私の大切な名付子であり、我が王ですからね。さぁ、夜も更けてきました。早く、寝室へ行きましょう」
颯爽と実験室を出て行くコンラッド。
何となく答えをはぐらかされたような気持ちになりながら、俺は急いで彼の後を追った。
第十三編=完
裏面、入り口は、右下のほうです。
やたら、エッチが長くてくどいって思う人は、前半の両思いになるまでだけでもお読みくださいです。
★★あとがき
やさぐれ次男がユーリに甘くなっていく過程を書きたくてSSにしました。
難しかったです(撃沈
※アニシナさんの発明品で、過去に戻ったユーリが若獅子コンラッドに出会うお話です。
俺が、迂闊だった。
気だるい昼下がり、ギュンターの歴史の授業が長くて、げっそりしていた俺は、トイレに行くと言って部屋を抜け出した。
そこまでは、脱出作戦大成功!!だったんだけど・・・赤い悪魔に掴まった。
「おや、陛下。もう歴史のお勉強は終えられたのですか?それにしては、随分と早いような気が致しますが・・・」
すいっと眼を細める赤毛のアニシナ。
ひ~、眞魔国の魔女出た~。
「もしかして、歴史の授業がつまらなくて抜け出して来たのではないですか?」
うぅ、図星。さすが、毒女の勘恐るべし。
俺が、苦しい笑顔を浮かべていると、にっこりと偽物のような笑顔で微笑まれた。
「調度良いです。歴史の勉強などせずとも,この国の歴史が手に取るように分かる発明品を作ったのです!」
「えっ?すごい!そんなのあるんだ・・・・」
思わず、反射的に答えてしまった自分に戸惑う。これでは、彼女の思う壺だ!
「えぇ、では早速陛下に『もにたあ』になっていただきましょう!」
「そんな、ちょっとアニシナさん~~!!」
彼女に、腕を掴まれて、ずんずんと研究室まで引っ張られていく。
数分後。
妖しげな、実験器具が所狭しと置かれた、血盟城の一室に哀れなモルモットがいた。俺だけど・・・。
「な~に、心配しなくて大丈夫ですから。ちょっと過去にタイムスリップするだけですよ。おまけに、そこで貴方が遭った人たちは、貴方とのことを自動的に忘れるようにプログラムされた優れものですから。歴史が変わらないような対策は万全に練られているわけです」
意気揚々と燃え上がる紅い髪を振り乱して、説明をするアニシナ。
「その名も、『私を過去へ連れてって、試運転1号機』です。さぁ、お乗りください!」
し、試運転・・おまけに・・・1号機?!めちゃくちゃ不安な単語が並んでるんですけど・・・・。
その場で立ち尽くしている俺に、アニシナさんが詰め寄る。
「過去に戻って、この国の歴史をその眼で直に学ぶのです・・・・さぁ、陛下!」
彼女の迫力に気圧されるように、俺はゴーカートみたいな玩具の車の中に入らされた。うわぁ、激しく不安だ・・・。なんかバックトゥザフューチャーのしょぼい版の車みたいだ・・・うう。
うう、俺の馬鹿・・・・。どうか、おかしなことが起きませんようにっ!
*****************
「う・・・・ん」
眩い光に眼を開けると、そこは賑やかな歓楽街の路地裏だった。どうやら、あのゴーカートみたいな車はこちらには来ないらしい・・・俺だけが、ここまで送り飛ばされたらしい。これって、いいのか?そういや、この辺のところの説明を全くもって受けていない・・・!
迂闊だった!もう、あとの祭りだけど。どうか無事に過ごせますように。
日はすっかり暮れていた。派手な電飾が石造りの家屋を煩いくらいに照らしているのが路地裏から見えた。
こんなところ、眞魔国にあったっけ?なんか人間の国に似てるような・・・・。
あ、ここは前に来たところだ。確か、前に足の治療で来た人間の土地、シルドクラウトだ。そんでもって、この歓楽街で、ごろつきに囲まれていた女の子を救おうとして自分も捕まっちゃたんだっけ。
そんなことを考えていると、いつのまにか俺の目の前に体格のいい二人の男達が現れた。しかも、ここ路地裏だし、激しく嫌な予感。
「あんた、人間じゃないな。魔族だろ」
しまった、ここは眞魔国じゃないんだった。それどころか、人間の土地~!アニシナさん~~!飛ばす場所が違いま~す!
髪の毛も眼も双黒のままだった。どうしよう?!いや、もうすでに手遅れだけどっ。
男達が俺を値踏みするようないやらしい目つきで見てくる。
「あんた、魔族のくせに、よくのこのこと人間の土地に来たな。それも、こんな歓楽街に、たった一人で。もしかして、な・に・かを期待して来たんじゃねぇの?」
じりじりと俺に詰め寄りながら、もう一人の男が喉の奥で低く笑う。
「そうだよ、あんたえらい美人だしな・・・・。俺たちの言うことを聞くんだったら、見逃してやっても良いぜ?今人間と魔族がどういう状態か知らないわけじゃないだろ?今、ここで魔族が見つかってみろ。お前は、血祭りにあげられるぞ」
なんか、俺今とんでもないピンチに直面してるんですけど?!
この変態な男達の言うなりになるか、血祭りにあげられるか・・・どうする、どうするよ、俺・・・って、そんなんどっちも嫌だ~!
身を強張らせて、立ち尽くしていると、両手をそれぞれの男達から掴まれた。
「いてっ、ちょっと離せよっ」
苦痛に、うめき声が漏れる。
「ほら、あんたも痛い目は見たくないだろ?ちょっと着いてこいよ。宿は、この辺りには、腐るほどあるんだよ、へへへ」
下心を剥き出しにした、いかつい男達がにやりと笑う。
うぎゃ~~、嫌過ぎる~!
「嫌だよ~!!やめろよ、俺、男だし~~!!!」
俺が、大声で喚いた時、背後から聞き覚えのある声が聞こえた。凛とした低音のその声・・・。
「そこまでにしないか、そいつは俺の連れだ」
振り返って声の主を見遣る。
やっぱり!コンラッドだ・・・!!それも、若い!!いつもよりちょっと髪が長い。
相変わらず、カッコいいけど。
どうやら、タイムスリップには成功していたらしい。ただ場所が違うだけで。
いやいや、今はそれどころじゃなくて、本当によかった、助かった~~!!ありがとうっ、コンラッド!!
二人のマッチョな男達は、コンラッドの姿を見た途端に、蜘蛛の子を蹴散らすように退散した。
「これはこれは、大変失礼致しました~、若様~」
若様?あ、そうか。この時代はチェリ様が魔王だから、コンラッドは王子なんだな。すごい、王子なんて似合いすぎだと思う。ああ、だからそうじゃなくてお礼言わないと!
一向にこちらに近づいてきてくれないコンラッドに違和感を覚えながらも、彼にお礼を言う。
「コン・・・いや・・、あの~、助けていただいてありがとうございますっ!俺、本当に助かりました」
思わず彼の名前を言いそうになって慌てて言い直した。
けれど、コンラッドは青い軍服の襟を正すとつれない態度で返事をする。
「お前は、見たところ魔族のようだな。どうして、こんなところにいるのか知らないが、気をつけるんだ」
若さから来るものなのだろうか、言葉遣いも、今とは違う彼。やさぐれたような、斜に構えたような態度の彼。
俺に、返事を返す隙も与えぬうちに、彼はアンニュイに髪を掻き揚げると、颯爽と踵を返す。俺は、呆然といつもの彼より細めな後姿を見つめていた。
何だろう、ひどく悲しかった。
いつものコンラッドなら、こんなところで俺を置き去りにしたりしない。
いつでも、俺のことを過保護なほどに大事にしてくれるから、俺はそれに慣れすぎちゃってるんだろうか。
今の彼にとって、俺は全くの他人・・・・。いつものような扱いを受けられなくて当然の筈なんだけど。コンラッドから、冷たくされるとなんか予想外のダメージだな・・・。
かなり・・・ショックかも。例え過去の彼だとしても。
こんな、もしものこと考えるの馬鹿らしいけど、考えずにはいられなかった。
もしも、彼が俺の名付親じゃなかったら?臣下という立場じゃなかったら、彼は今みたいに俺に振舞うんだろうか。
いつもみたいには、俺のことを大事にしてくれないんだろうか。
こんな不毛なことを考えながら、俺はずっと路地裏で膝を抱えて座り込んでいた。
瞳も髪の毛も、真っ黒のままじゃ、目立ちすぎるから、俺はどの道、ここから出られない。先の男達の話によると、今は人間と魔族の間がひどく悪化しているらしいし。今度こそ見つかったら、大変な目に遭う。
おまけに、元来た世界への帰り方も分からないし。
俺に出来ることと言ったら、路地裏に身を潜めてただ暗い想像をするだけ・・・。
自嘲気味な笑いが漏れた。
コンラッドに冷たくされただけで、俺ってこんなに駄目になっちゃうんだ。
けれど、もうどうでもよかった。
もっと、もっと暗い考えに耽って、とことん惨めな気持ちを味わってしまいたい。
俺の哀れな願いは、思いがけず霧散することになった。
「まだ・・・こんなところにいたのか」
少し呆れた様な、けれど優しい声が聞こえた。
ゆっくりと、顔を上げると若いコンラッドがいた。
「早く、こちらへ。ここは不貞の輩が多すぎる」
彼の声は、優しくて、暖かくて胸がじんとした。
「あ、ありがとう」
そのまま、彼に手を引かれて、ネオンの輝く歓楽街を歩いた。もしかして、俺のことが心配でまた来てくれたのか?
「あ、あの。わざわざ、来てくれてありがとう!」
嬉しくて、大声で彼に感謝の念を伝える。先程までの、惨めな気持ちはすっかり消え去っていた。俺って、現金な奴だな。コンラッドが優しいだけですぐに機嫌がよくなるなんて。
にわかに、彼が道端で立ち止まる。すると、彼は俺をいかがわしいピンクのネオン看板が掲げられた小さな建物に引き込んだ。1階は、喫茶店の様だった。けれど、とても薄暗い雰囲気。隠れ家のような妖しい喫茶店だった。
「あ、あの~、ここは、どこ?」
コンラッドに、問いかけるけれど、全く返事をしてくれない。
コンラッドは、喫茶店の女主人と何やら話をしたあと、俺の腕を引っ張って、狭い階段を上って行く。
強引に部屋に連れ込まれて、ドアを閉められる。
中には、ダブルベッドがその存在を見せ付けるかのように中心に置かれていた。他にはこれといった装飾品もなかった。
彼は、窓際の簡素な椅子に物憂げに腰掛ける。
入り口で立ち尽くしたままの俺は、彼にもう一度同じ質問を繰り返す。
「あ、あの~、ここは、どこなんですか?なんかちょっと妖しい雰囲気って言うか・・・」
彼の様子をちらちらと伺う。何だろう、今のコンラッドと全然違うから調子が狂っちゃうなぁ。
気だるげな様子で、視線だけこちらに向けると、ぶっきらぼうに答えるコンラッド。
「ここは、人目を忍んで恋人達が逢引をするところだ」
あぁ、なるほどね、恋人達がね・・・。って、えぇえぇええ?
「ええええっと、俺たちは恋人同士ではないよねっ」
仰天して、彼をまじまじと見つめる。
あまりにも、驚く俺の様が可笑しかったのか、彼の顔が少し綻んだ。いつもの彼に戻ったみたいだった。
「お前、何も知らないんだな。そんな外見してるんだから、少しは気をつけたほうがいいんじゃないか」
にわかに、彼が立ち上がるとゆっくりと俺の元に歩み寄る。彼はドアに両手を着き、自身とドアの間に俺を挟みこんで上から俺を覗き込んできた。
「ほら、俺が君の事を襲うかもしれないよ?」
わぁ、なんだぁ、こんなコンラッド見たこと無い!!
びっくりして瞬きもせずに彼の瞳を見ていたら、とうとう彼が吹き出した。自然とドアから手は離されていた。
「っあははっ、お前、面白いな。全く、毒気を抜かれるって言うか・・・。可愛いっていうか・・・」
長い前髪を掻き揚げながら、彼に優しく微笑まれた。
「大丈夫、何も君を取って食おうなんて思っちゃいないから。君のその魔族そのものの外見じゃ、泊まれる宿が限られてただけだよ。そういうことだから、深く考えるなよ」
俺は、無愛想で暗い表情が多かった彼がだんだん笑う回数が増えていくことが嬉しくてたまらなかった。
やっぱり、コンラッドは笑顔が似合うよな。すっごく綺麗な笑顔だもん。
きっと今の時代の彼の笑顔が少ないのは、それなりの事情があるんだと思う。コンラッドが、人間と魔族の間に生まれたと言うだけで、ひどい時代を送ったことがあるらしい。もしかしたら、今のコンラッドはその時代の彼なのかもしれない。
きっと、笑顔が無くなるくらい苦しいんだ。アニシナさんの説明によると、ここで俺と過ごしたことは、彼は全て忘れてしまうらしい。けれど、ほんの一瞬でも彼が笑える時間が持てたらいいと思う。
「そうなんだ、ありがとう!あんたも笑顔が増えてきたみたいでよかった!」
これでもかっていうくらいに、彼に笑いかけた。だって、本当に彼の笑顔が見れて嬉しかったんだ。
彼は、目を丸くして俺の顔を見ていた。心なしか、頬が朱に染まったように見えた。
ぐぅぅ。
そのとき、俺の恥ずかしい腹の虫がなった。
俺とコンラッドは、顔を見合わせると再び笑い合った。
何か食べるものを貰ってくるよと言って彼が、階下に下りていった。
彼は手に美味しそうなサンドイッチを携えて、戻ってきた。
「はい、どうぞ。サンドイッチだよ。好きなだけ食べて」
彼は、円形の木製のテーブルにその美味そうなサンドイッチを置いてくれた。俺は、目をキラキラさせながら食らいついた。
その様子を見て、また彼は面白そうに笑った。
「っはは・・。そんな勢いで食べたら、お腹がびっくりするぞ」
だんだん、いつものコンラッドに近くなってきたな。
なんだか、ほっと心が温かくなった。ほんの僅かでも、彼が今を笑って過ごしてくれたら嬉しい。魔族と人間の間に生まれた憂き目とか、そんなことを今だけは全く忘れてくれたら嬉しい。
サンドイッチを平らげた俺は、食欲が満たされて、幸せな気持ちになった。
ベッドで、うつ伏せになって、顔だけ捻り、隣に腰掛けたコンラッドの方を見ていたら、ふいに、彼が優しく俺の髪を撫でてきた。
「君は・・・・何者だ?ひどく、懐かしい感じがするけれど・・・・、それに俺のよく知っている人に似てるような気もするし、全く違うような気もする・・・」
彼の発言に目を瞠った。
この時代の彼は俺のことをまったく知らない筈なのに、それなのに、うすうす俺の存在を感じてくれるなんて、そんなことがあるんだろうか。
時空を超えてつながる絆があるんだろうか?
彼もベッドに転がると、俺の手を握り指を絡めてきた。
「何でだろう?俺は、君がとても大切な存在のような気がする。遭ったばかりなのに・・・自分でもおかしいと思うが」
彼の節くれだった暖かい指が絡まってきて、鼓動が早くなる。
「それに、君を不貞の輩から助けた時、どうしても君の事が気になってしまった。君の容姿が良いからだけじゃない。何か、ひどく気になったんだ、君のことが。それで、気がついたら、君のことを夢中で探してしまった・・・・」
長い前髪の間から、切なげに瞳を揺らして、俺を見つめるコンラッド。
「もしかしたら・・・俺は君に一目惚れしてしまったのかもしれない・・・」
突如、眩しい光に覆われた。
目をゆっくりと開けていくと、そこにはいつものコンラッドがいた。
「おかえりなさい、ユーリ」
まだ、思考が鈍る。えっと、俺どうしてたんだっけ・・・?
コンラッドが、そんな俺を見て、状況を説明してくれた。
「今まで、貴方は魔道装置で過去の世界に行っていたんですよ」
そう言われて、よくよく辺りを見渡してみる。俺はアニシナさんの実験室で、ゴーカートみたいなあの魔道装置の中に居た。
「もう、夜も遅いので皆、寝てしまいましたよ」
「あ、そうなんだ。でもコンラッドは待っててくれたんだ。ありがとう」
コンラッドのくすぐったくなるような優しさに触れた時だった。
走馬灯のように、魔道装置で行った先程の出来事が思い出された。
コンラッドは、俺が名付子でも王様でなくても俺のことを大事にしてくれるんだって、わかってしまった。それは、彼と俺のとてつもなく強い結びつきのような気がして嬉しかった。
ふと幸せな気持ちになった俺は、若かりし頃の彼の最後の言葉を思い出した。
『もしかしたら・・・俺は君に一目惚れしてしまったのかもしれない・・・・』
それって、まさか・・・・今のコンラッドも俺のことを好きだったりするのかな?だって、昔の彼が俺に惚れたなんて言ったんだから・・・。
じっと彼の瞳を覗き込んでいたら、そっと胸に抱きしめられた。
「貴方は、私の庇護欲を掻き立てる人だ。だから、貴方のことを放っておけません。」
彼の甘い囁きに、思わず、考えていたことが俺の口をついて出てきた。言うつもりは無かったのに。
「コンラッド・・・それって俺のことを好きってこと?」
月光の差し込む実験室に、俺の声が響いた。
月明かりに照らされた、コンラッドの瞳が僅かに切なく揺らされた。
けれど、すぐにいつもの柔らかい笑顔に戻ってしまった。
「そうですね、ユーリは私の大切な名付子であり、我が王ですからね。さぁ、夜も更けてきました。早く、寝室へ行きましょう」
颯爽と実験室を出て行くコンラッド。
何となく答えをはぐらかされたような気持ちになりながら、俺は急いで彼の後を追った。
第十三編=完
裏面、入り口は、右下のほうです。
やたら、エッチが長くてくどいって思う人は、前半の両思いになるまでだけでもお読みくださいです。
★★あとがき
やさぐれ次男がユーリに甘くなっていく過程を書きたくてSSにしました。
難しかったです(撃沈
PR
カレンダー
04 | 2025/05 | 06 |
S | M | T | W | T | F | S |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 2 | 3 | ||||
4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 |
11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 | 17 |
18 | 19 | 20 | 21 | 22 | 23 | 24 |
25 | 26 | 27 | 28 | 29 | 30 | 31 |
カテゴリー
最新CM
[05/01 ずきんちゃん]
[04/18 花菜]
[04/18 ずきんちゃん]
[03/03 ずきんちゃん]
[03/03 花菜]
最新記事
(06/03)
(05/26)
(10/24)
(10/20)
(07/20)
最新TB
プロフィール
HN:
ずきんちゃん
性別:
女性
趣味:
ひとりカラオケ カラオケ 旅
自己紹介:
とても気が弱く長いものに巻かれろ的な性格です。
ブログ内検索
最古記事
(04/21)
(04/21)
(04/23)
(04/23)
(04/24)
P R
カウンター
アクセス解析
忍者アナライズ