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2009/07/03 (Fri)                  ショートストーリー第十三編 時空を超えて
ショートストーリー第十三編 時空を超えて

※アニシナさんの発明品で、過去に戻ったユーリが若獅子コンラッドに出会うお話です。






 

 俺が、迂闊だった。


 気だるい昼下がり、ギュンターの歴史の授業が長くて、げっそりしていた俺は、トイレに行くと言って部屋を抜け出した。
 そこまでは、脱出作戦大成功!!だったんだけど・・・赤い悪魔に掴まった。



「おや、陛下。もう歴史のお勉強は終えられたのですか?それにしては、随分と早いような気が致しますが・・・」

 すいっと眼を細める赤毛のアニシナ。

 ひ~、眞魔国の魔女出た~。

「もしかして、歴史の授業がつまらなくて抜け出して来たのではないですか?」

 うぅ、図星。さすが、毒女の勘恐るべし。

 俺が、苦しい笑顔を浮かべていると、にっこりと偽物のような笑顔で微笑まれた。

「調度良いです。歴史の勉強などせずとも,この国の歴史が手に取るように分かる発明品を作ったのです!」

「えっ?すごい!そんなのあるんだ・・・・」
 思わず、反射的に答えてしまった自分に戸惑う。これでは、彼女の思う壺だ!

「えぇ、では早速陛下に『もにたあ』になっていただきましょう!」
「そんな、ちょっとアニシナさん~~!!」
 彼女に、腕を掴まれて、ずんずんと研究室まで引っ張られていく。
 
  数分後。

 妖しげな、実験器具が所狭しと置かれた、血盟城の一室に哀れなモルモットがいた。俺だけど・・・。

「な~に、心配しなくて大丈夫ですから。ちょっと過去にタイムスリップするだけですよ。おまけに、そこで貴方が遭った人たちは、貴方とのことを自動的に忘れるようにプログラムされた優れものですから。歴史が変わらないような対策は万全に練られているわけです」
 意気揚々と燃え上がる紅い髪を振り乱して、説明をするアニシナ。


「その名も、『私を過去へ連れてって、試運転1号機』です。さぁ、お乗りください!」

 し、試運転・・おまけに・・・1号機?!めちゃくちゃ不安な単語が並んでるんですけど・・・・。
 その場で立ち尽くしている俺に、アニシナさんが詰め寄る。

「過去に戻って、この国の歴史をその眼で直に学ぶのです・・・・さぁ、陛下!」

 彼女の迫力に気圧されるように、俺はゴーカートみたいな玩具の車の中に入らされた。うわぁ、激しく不安だ・・・。なんかバックトゥザフューチャーのしょぼい版の車みたいだ・・・うう。

 うう、俺の馬鹿・・・・。どうか、おかしなことが起きませんようにっ!






*****************



「う・・・・ん」
 眩い光に眼を開けると、そこは賑やかな歓楽街の路地裏だった。どうやら、あのゴーカートみたいな車はこちらには来ないらしい・・・俺だけが、ここまで送り飛ばされたらしい。これって、いいのか?そういや、この辺のところの説明を全くもって受けていない・・・!
 迂闊だった!もう、あとの祭りだけど。どうか無事に過ごせますように。

 日はすっかり暮れていた。派手な電飾が石造りの家屋を煩いくらいに照らしているのが路地裏から見えた。

 こんなところ、眞魔国にあったっけ?なんか人間の国に似てるような・・・・。

 あ、ここは前に来たところだ。確か、前に足の治療で来た人間の土地、シルドクラウトだ。そんでもって、この歓楽街で、ごろつきに囲まれていた女の子を救おうとして自分も捕まっちゃたんだっけ。

 そんなことを考えていると、いつのまにか俺の目の前に体格のいい二人の男達が現れた。しかも、ここ路地裏だし、激しく嫌な予感。

「あんた、人間じゃないな。魔族だろ」
 
 しまった、ここは眞魔国じゃないんだった。それどころか、人間の土地~!アニシナさん~~!飛ばす場所が違いま~す!
 髪の毛も眼も双黒のままだった。どうしよう?!いや、もうすでに手遅れだけどっ。

 男達が俺を値踏みするようないやらしい目つきで見てくる。
「あんた、魔族のくせに、よくのこのこと人間の土地に来たな。それも、こんな歓楽街に、たった一人で。もしかして、な・に・かを期待して来たんじゃねぇの?」

 じりじりと俺に詰め寄りながら、もう一人の男が喉の奥で低く笑う。
「そうだよ、あんたえらい美人だしな・・・・。俺たちの言うことを聞くんだったら、見逃してやっても良いぜ?今人間と魔族がどういう状態か知らないわけじゃないだろ?今、ここで魔族が見つかってみろ。お前は、血祭りにあげられるぞ」


 なんか、俺今とんでもないピンチに直面してるんですけど?!
 
 この変態な男達の言うなりになるか、血祭りにあげられるか・・・どうする、どうするよ、俺・・・って、そんなんどっちも嫌だ~!

 身を強張らせて、立ち尽くしていると、両手をそれぞれの男達から掴まれた。
「いてっ、ちょっと離せよっ」
 苦痛に、うめき声が漏れる。

「ほら、あんたも痛い目は見たくないだろ?ちょっと着いてこいよ。宿は、この辺りには、腐るほどあるんだよ、へへへ」

 下心を剥き出しにした、いかつい男達がにやりと笑う。
 
 うぎゃ~~、嫌過ぎる~!
「嫌だよ~!!やめろよ、俺、男だし~~!!!」

 俺が、大声で喚いた時、背後から聞き覚えのある声が聞こえた。凛とした低音のその声・・・。

「そこまでにしないか、そいつは俺の連れだ」

 振り返って声の主を見遣る。
 やっぱり!コンラッドだ・・・!!それも、若い!!いつもよりちょっと髪が長い。
 相変わらず、カッコいいけど。

 どうやら、タイムスリップには成功していたらしい。ただ場所が違うだけで。

 いやいや、今はそれどころじゃなくて、本当によかった、助かった~~!!ありがとうっ、コンラッド!!

 二人のマッチョな男達は、コンラッドの姿を見た途端に、蜘蛛の子を蹴散らすように退散した。
「これはこれは、大変失礼致しました~、若様~」
 
 若様?あ、そうか。この時代はチェリ様が魔王だから、コンラッドは王子なんだな。すごい、王子なんて似合いすぎだと思う。ああ、だからそうじゃなくてお礼言わないと!

 一向にこちらに近づいてきてくれないコンラッドに違和感を覚えながらも、彼にお礼を言う。
「コン・・・いや・・、あの~、助けていただいてありがとうございますっ!俺、本当に助かりました」

 思わず彼の名前を言いそうになって慌てて言い直した。
 けれど、コンラッドは青い軍服の襟を正すとつれない態度で返事をする。
「お前は、見たところ魔族のようだな。どうして、こんなところにいるのか知らないが、気をつけるんだ」
 
 若さから来るものなのだろうか、言葉遣いも、今とは違う彼。やさぐれたような、斜に構えたような態度の彼。

 俺に、返事を返す隙も与えぬうちに、彼はアンニュイに髪を掻き揚げると、颯爽と踵を返す。俺は、呆然といつもの彼より細めな後姿を見つめていた。


 何だろう、ひどく悲しかった。
 いつものコンラッドなら、こんなところで俺を置き去りにしたりしない。
 いつでも、俺のことを過保護なほどに大事にしてくれるから、俺はそれに慣れすぎちゃってるんだろうか。

 今の彼にとって、俺は全くの他人・・・・。いつものような扱いを受けられなくて当然の筈なんだけど。コンラッドから、冷たくされるとなんか予想外のダメージだな・・・。
かなり・・・ショックかも。例え過去の彼だとしても。


 こんな、もしものこと考えるの馬鹿らしいけど、考えずにはいられなかった。


 もしも、彼が俺の名付親じゃなかったら?臣下という立場じゃなかったら、彼は今みたいに俺に振舞うんだろうか。
 いつもみたいには、俺のことを大事にしてくれないんだろうか。

 こんな不毛なことを考えながら、俺はずっと路地裏で膝を抱えて座り込んでいた。

 瞳も髪の毛も、真っ黒のままじゃ、目立ちすぎるから、俺はどの道、ここから出られない。先の男達の話によると、今は人間と魔族の間がひどく悪化しているらしいし。今度こそ見つかったら、大変な目に遭う。


 おまけに、元来た世界への帰り方も分からないし。
 俺に出来ることと言ったら、路地裏に身を潜めてただ暗い想像をするだけ・・・。
 

 
 自嘲気味な笑いが漏れた。
 コンラッドに冷たくされただけで、俺ってこんなに駄目になっちゃうんだ。

  けれど、もうどうでもよかった。
 もっと、もっと暗い考えに耽って、とことん惨めな気持ちを味わってしまいたい。



 俺の哀れな願いは、思いがけず霧散することになった。



「まだ・・・こんなところにいたのか」
 少し呆れた様な、けれど優しい声が聞こえた。
 ゆっくりと、顔を上げると若いコンラッドがいた。

「早く、こちらへ。ここは不貞の輩が多すぎる」
 彼の声は、優しくて、暖かくて胸がじんとした。

「あ、ありがとう」
 そのまま、彼に手を引かれて、ネオンの輝く歓楽街を歩いた。もしかして、俺のことが心配でまた来てくれたのか?

「あ、あの。わざわざ、来てくれてありがとう!」
 嬉しくて、大声で彼に感謝の念を伝える。先程までの、惨めな気持ちはすっかり消え去っていた。俺って、現金な奴だな。コンラッドが優しいだけですぐに機嫌がよくなるなんて。

 にわかに、彼が道端で立ち止まる。すると、彼は俺をいかがわしいピンクのネオン看板が掲げられた小さな建物に引き込んだ。1階は、喫茶店の様だった。けれど、とても薄暗い雰囲気。隠れ家のような妖しい喫茶店だった。

「あ、あの~、ここは、どこ?」
 コンラッドに、問いかけるけれど、全く返事をしてくれない。
 
 コンラッドは、喫茶店の女主人と何やら話をしたあと、俺の腕を引っ張って、狭い階段を上って行く。
 強引に部屋に連れ込まれて、ドアを閉められる。

 中には、ダブルベッドがその存在を見せ付けるかのように中心に置かれていた。他にはこれといった装飾品もなかった。

 彼は、窓際の簡素な椅子に物憂げに腰掛ける。

 入り口で立ち尽くしたままの俺は、彼にもう一度同じ質問を繰り返す。
「あ、あの~、ここは、どこなんですか?なんかちょっと妖しい雰囲気って言うか・・・」
 彼の様子をちらちらと伺う。何だろう、今のコンラッドと全然違うから調子が狂っちゃうなぁ。
 気だるげな様子で、視線だけこちらに向けると、ぶっきらぼうに答えるコンラッド。
「ここは、人目を忍んで恋人達が逢引をするところだ」

 あぁ、なるほどね、恋人達がね・・・。って、えぇえぇええ?
「ええええっと、俺たちは恋人同士ではないよねっ」
 仰天して、彼をまじまじと見つめる。

 あまりにも、驚く俺の様が可笑しかったのか、彼の顔が少し綻んだ。いつもの彼に戻ったみたいだった。
「お前、何も知らないんだな。そんな外見してるんだから、少しは気をつけたほうがいいんじゃないか」
 にわかに、彼が立ち上がるとゆっくりと俺の元に歩み寄る。彼はドアに両手を着き、自身とドアの間に俺を挟みこんで上から俺を覗き込んできた。
「ほら、俺が君の事を襲うかもしれないよ?」

 わぁ、なんだぁ、こんなコンラッド見たこと無い!!
 びっくりして瞬きもせずに彼の瞳を見ていたら、とうとう彼が吹き出した。自然とドアから手は離されていた。

「っあははっ、お前、面白いな。全く、毒気を抜かれるって言うか・・・。可愛いっていうか・・・」

 長い前髪を掻き揚げながら、彼に優しく微笑まれた。
「大丈夫、何も君を取って食おうなんて思っちゃいないから。君のその魔族そのものの外見じゃ、泊まれる宿が限られてただけだよ。そういうことだから、深く考えるなよ」

 俺は、無愛想で暗い表情が多かった彼がだんだん笑う回数が増えていくことが嬉しくてたまらなかった。

 やっぱり、コンラッドは笑顔が似合うよな。すっごく綺麗な笑顔だもん。

 きっと今の時代の彼の笑顔が少ないのは、それなりの事情があるんだと思う。コンラッドが、人間と魔族の間に生まれたと言うだけで、ひどい時代を送ったことがあるらしい。もしかしたら、今のコンラッドはその時代の彼なのかもしれない。

 きっと、笑顔が無くなるくらい苦しいんだ。アニシナさんの説明によると、ここで俺と過ごしたことは、彼は全て忘れてしまうらしい。けれど、ほんの一瞬でも彼が笑える時間が持てたらいいと思う。

「そうなんだ、ありがとう!あんたも笑顔が増えてきたみたいでよかった!」
 これでもかっていうくらいに、彼に笑いかけた。だって、本当に彼の笑顔が見れて嬉しかったんだ。

 彼は、目を丸くして俺の顔を見ていた。心なしか、頬が朱に染まったように見えた。

 
 ぐぅぅ。

 そのとき、俺の恥ずかしい腹の虫がなった。

 俺とコンラッドは、顔を見合わせると再び笑い合った。
 何か食べるものを貰ってくるよと言って彼が、階下に下りていった。

 彼は手に美味しそうなサンドイッチを携えて、戻ってきた。
「はい、どうぞ。サンドイッチだよ。好きなだけ食べて」

 彼は、円形の木製のテーブルにその美味そうなサンドイッチを置いてくれた。俺は、目をキラキラさせながら食らいついた。

 その様子を見て、また彼は面白そうに笑った。
「っはは・・。そんな勢いで食べたら、お腹がびっくりするぞ」

 だんだん、いつものコンラッドに近くなってきたな。
 なんだか、ほっと心が温かくなった。ほんの僅かでも、彼が今を笑って過ごしてくれたら嬉しい。魔族と人間の間に生まれた憂き目とか、そんなことを今だけは全く忘れてくれたら嬉しい。

 サンドイッチを平らげた俺は、食欲が満たされて、幸せな気持ちになった。
 ベッドで、うつ伏せになって、顔だけ捻り、隣に腰掛けたコンラッドの方を見ていたら、ふいに、彼が優しく俺の髪を撫でてきた。

「君は・・・・何者だ?ひどく、懐かしい感じがするけれど・・・・、それに俺のよく知っている人に似てるような気もするし、全く違うような気もする・・・」

 彼の発言に目を瞠った。
 この時代の彼は俺のことをまったく知らない筈なのに、それなのに、うすうす俺の存在を感じてくれるなんて、そんなことがあるんだろうか。
 時空を超えてつながる絆があるんだろうか?

 彼もベッドに転がると、俺の手を握り指を絡めてきた。
「何でだろう?俺は、君がとても大切な存在のような気がする。遭ったばかりなのに・・・自分でもおかしいと思うが」

 彼の節くれだった暖かい指が絡まってきて、鼓動が早くなる。

「それに、君を不貞の輩から助けた時、どうしても君の事が気になってしまった。君の容姿が良いからだけじゃない。何か、ひどく気になったんだ、君のことが。それで、気がついたら、君のことを夢中で探してしまった・・・・」

 長い前髪の間から、切なげに瞳を揺らして、俺を見つめるコンラッド。

「もしかしたら・・・俺は君に一目惚れしてしまったのかもしれない・・・」




 突如、眩しい光に覆われた。
 目をゆっくりと開けていくと、そこにはいつものコンラッドがいた。
「おかえりなさい、ユーリ」

 まだ、思考が鈍る。えっと、俺どうしてたんだっけ・・・?
 コンラッドが、そんな俺を見て、状況を説明してくれた。
「今まで、貴方は魔道装置で過去の世界に行っていたんですよ」

 そう言われて、よくよく辺りを見渡してみる。俺はアニシナさんの実験室で、ゴーカートみたいなあの魔道装置の中に居た。

「もう、夜も遅いので皆、寝てしまいましたよ」
「あ、そうなんだ。でもコンラッドは待っててくれたんだ。ありがとう」
 

 コンラッドのくすぐったくなるような優しさに触れた時だった。

 走馬灯のように、魔道装置で行った先程の出来事が思い出された。


 コンラッドは、俺が名付子でも王様でなくても俺のことを大事にしてくれるんだって、わかってしまった。それは、彼と俺のとてつもなく強い結びつきのような気がして嬉しかった。

 ふと幸せな気持ちになった俺は、若かりし頃の彼の最後の言葉を思い出した。
『もしかしたら・・・俺は君に一目惚れしてしまったのかもしれない・・・・』

 それって、まさか・・・・今のコンラッドも俺のことを好きだったりするのかな?だって、昔の彼が俺に惚れたなんて言ったんだから・・・。

 じっと彼の瞳を覗き込んでいたら、そっと胸に抱きしめられた。
「貴方は、私の庇護欲を掻き立てる人だ。だから、貴方のことを放っておけません。」

 彼の甘い囁きに、思わず、考えていたことが俺の口をついて出てきた。言うつもりは無かったのに。

「コンラッド・・・それって俺のことを好きってこと?」
 月光の差し込む実験室に、俺の声が響いた。

 月明かりに照らされた、コンラッドの瞳が僅かに切なく揺らされた。

 けれど、すぐにいつもの柔らかい笑顔に戻ってしまった。
「そうですね、ユーリは私の大切な名付子であり、我が王ですからね。さぁ、夜も更けてきました。早く、寝室へ行きましょう」

 颯爽と実験室を出て行くコンラッド。
 何となく答えをはぐらかされたような気持ちになりながら、俺は急いで彼の後を追った。




第十三編=完

裏面、入り口は、右下のほうです。
やたら、エッチが長くてくどいって思う人は、前半の両思いになるまでだけでもお読みくださいです。

★★あとがき
 やさぐれ次男がユーリに甘くなっていく過程を書きたくてSSにしました。
 難しかったです(撃沈
 
 
 

※十八歳以上推奨です。
『時空を超えて』続編

 

 寝静まった血盟城。
 ただ、二人の靴の音がカツン、カツンと響く。

 ひょんなことから、俺はアニシナさんの実験装置の中で眠り込んでいた。そして、眼が覚めた今、コンラッドと二人、寝室に向かっている最中だ。


 それにしても―なんだか、やけに歩くのが早いな、コンラッド。


 俺は、置いていかれそうになりながらも、必死で歩調を速める。

 さっき、俺があんなこと言ったからか?

 ―それって、俺のこと、好きってこと?
 
 なんて、思わず聴いてしまった。言うつもりはなかったのに。コンラッドってば、俺のことを『庇護欲を掻き立てる人だ』とか、すっげぇ甘い声で言うんだもん。それに、抱きしめながら言うんだ。

 でも、おそらくそんなことを聴いてしまった一番の理由はあれだ。
 ―あの言葉。
 魔道装置でタイムスリップをした先で、過去の彼が俺に言ったあの言葉。
 『もしかしたら・・・俺は君に一目惚れしてしまったのかもしれない・・・』

 そんな思いもかけない言葉を言われてしまった。だから、もしかして、今のコンラッドも俺のこと好きなんじゃないかって思ったんだ。

 でも、コンラッドはいつもの笑顔で返事をしてくれた。
 俺のことは、王として、名づけ子として、好きですよって言われたんだ。

 なんとなく、納得がいかないような、しこりがあるような・・・おかしな気持ちになったけど。

 
 少し前を行くコンラッドの背中は凛としている。だから、声を掛けづらい雰囲気だった。

 いつもなら、俺の前を歩くなんてことしないのにな―。少し、寂しい・・・かも。




 なんとなく、ぎこちない空気が流れたままだった。ようやく寝室のドアの前に辿りついたとき、ふいに、コンラッドが沈黙を破った。 

「おやすみなさい、ユーリ。今夜はここで失礼してもよろしいですか?」

 回廊は暗くて、彼の表情は良く見えなかった。でも、彼の声は硬かった。それが、すごく突き放されているようで嫌だった。

「えっと・・・。さっきから、変だよ?コンラッド?なんか、俺に冷たくないか?」
「いいえ、そんなことありませんよ」
 彼は、本当に何事もないといった風に返事した。暗くて、彼の顔が見えないはずなのに、いつもの笑顔がばっちり見えた気がする。
 それが、俺の中のもやもやしてた気持ちに火をつけた。
 

「いやだ、ちゃんと、部屋の中に来て。おやすみなさいって言って」
 駄々っ子のように、彼の軍服の袖を掴んだ。キッと彼を見上げた。
 
 今日はどうしても、もう少しだけ側にいてほしい。だって、胸のもやもやが、気持ち悪いんだ。いつもの優しい声で、おやすみって言われたい。

「ユーリ―本当に、今日は赦してください。明日以降なら、いつでも構いません」
 少し尖った声でコンラッドが俺をたしなめた。そして、彼の袖を掴む俺の手が解かれた。

 そんな怖い声出すなよ・・・。どうして、俺の手を離すの―?お願いだから、いつもみたいに優しくしてくれよ。

「俺だって、どうしても、今日がいいの。お願い、少しだけ側にいて―コンラッド?」
 必死に、彼を見上げるのに、彼は足元を見つめたままだ。

 なんだか、悔しくて、彼の腕を引っ張って、強引に部屋の中に導いた。
「ユーリっ・・・・!」
 

 コンラッドは、いつも肝心なときに、一番知りたいところが見えない。
 それが、悔しくてたまらない。

「ねぇ、コンラッド?俺、さっき過去へタイムスリップした時に、昔のコンラッドに助けてもらったんだよ」

 凛々しい立ち姿の彼に淡々と語り続ける。

「過去のコンラッドに、俺、一目惚れしたって言われたんだ」

 一瞬、彼の息を呑む気配を感じた。けれど月明かりが、仄かに差し込む部屋は暗くて、彼の顔が良く見えない。―その心と同じように。

「コンラッド?!聴いてる?過去のあんたが俺に惚れたなんていうもんだから、もしかして、今のあんたも俺のこと好きで居てくれるのかなって、どうしても気になっちゃったんだ。でも、コンラッドは俺のこと、王として、名付子として好きですよっていうから、ああそうか、って納得しようとしたんだけど、なんか胸がもやもやして、気持ち悪くて。そんなときに、あんたは俺に冷たいし!!あ~、もうわけわかんねぇ!」

「―!!!コンラッドっ?!」

 にわかに、俺の身体は宙に浮いた。コンラッドの意外と逞しい腕の中に抱き抱えられていた。

「ちょっと、コンラッド?!これって、姫抱きじゃん?!わっ―!!」
 彼は、そのまま俺を抱えて、歩みだした。咄嗟のことに、しどろもどろの俺は、いつの間にかベッドの上に座らされた。

「―っ!!」
 彼はベッドサイドで、立ったまま腰を屈めて俺の身体をきつく抱きしめた。いつもの抱擁と全然違う。今、彼が俺を抱きしめる腕の力は驚くほど強い。すっかり、その腕の中に閉じ込められた。
 腕の中で、コンラッドの凛とした香りがした。彼の柔らかい髪が頬を撫でて、ぞくっとした。
 
「好きです・・・・」
 ふいに、切なく掠れるコンラッドの声が耳元で響く。その吐息の熱さに、思わず身を捩らせた。

「こ、こ、コンラッド?!」
 言葉の意味を理解すると、もう何が何だかわからなくなる。頭が真っ白だ。

 そんな俺を見て、頬を緩めるコンラッド。
「―なんて、俺が言ったら貴方はどうするつもりだったんですか?」
 
 彼の顔が、窓から差し込む月光に映される。
 まったくの、いつもの笑顔だった。
 困ったユーリだ―なんて声が聞こえてきそうな笑顔だった。

 どうして―?! 

 目尻に生暖かい水分が滲んできた。

「コン・・・ラッド・・・・俺、・・・・なんか・・・・すっげぇ、かなしい・・・・。そうだよね、コンラッドが、俺のこと好きなわけなんてないもんな・・・・。俺、男だし。過去のあんたが俺に惚れたなんていってくれたからさ、てっきり、今のあんただって俺のこと好きなのかなって・・・期待して・・・あっ・・・?!」

 俺、馬鹿だ。今頃気づくなんて。
 

 俺、コンラッドのことが、好きだから・・・・彼もそうだったらいいのにって、期待してたんだ。だから、『俺のこと好きなの?』なんて、聴いちゃったんだ。

 なのに・・・なのに・・・、彼のことを好きだと気づいた瞬間に振られるなんて―。
 自分で、墓穴を掘るなんて・・・・、なんて、惨めなんだろう・・・・。


「ユーリ・・・・・」
 ふいにコンラッドから、優しい笑顔が消えた。涙で滲む視界に映る彼は、ひどく狼狽していた。

 俺たちは、お互いの心を探りあうみたいに、そのままじっと瞳を見つめあった。

 ふいに、コンラッドが何かを決意した。強い光が、瞳に宿った。

 彼の長い指が、俺の目尻の涙を掬った。
 どんどん溢れ続ける涙を、その都度、胸が苦しくなるような、優しいタッチで拭ってくれた。
 そっと、俺の隣に腰を降ろすコンラッド。
 夏初月が、コンラッドの端整な顔に陰影をつける。
 間近で見つめると、本当に綺麗で思わず目を逸らしそうになった。

 けれど、突如俺の右腕がコンラッドに掴まれた。
 そのまま、ぐいっと腕を引かれた。同時に腰にも腕を回されて、彼の身体に引き寄せられた。
「―ッ!!」

 唇に、ひやりと柔らかい感触を感じた。
 コンラッドの綺麗な瞳は閉じられていた。信じられないくらい目の前に見えた。


 ―う、うそ?!俺、キスされてる・・・?!

 あまりのことに、身体が硬直して動けない。


 そっと、ためらいがちに唇が離された。そこには、見たこともないほど甘い顔のコンラッドがいた。
 胸が、痛い。締め付けられたみたいに。
 頭の中で、心臓の音が大きく響いていた。


「ユーリ。ずっと言えなかった―ずっと、言いたかった・・・・あなたのことが―好きです」

 ドクン・・・心臓がひと際大きく脈打った。
 せつな過ぎて、苦しくて、嬉しくて、身体の力が全部抜けてしまいそう。
 咄嗟に、彼の身体にしがみついた。俺の全身が、小刻みに震えていた。

「もう・・・・もう、誤魔化したりしないよな?こんなこといったらどうするんですか?なんて、言わないよな?」

 俺の腰に回された、彼の腕に力が籠められた。
「そんなこといいません!覚悟を決めました。臣下という立場を、名付け親という立場を差し置いても、貴方を一人の人として愛させて下さい」

「―迷惑・・・ですか?」
 彼は、俺の身体と少し間を空けると、不安げに見つめてきた。

 迷惑なんて―そんなことあるわけない・・・!

「コンラッド!!俺も、あんたのことが好き・・・!迷惑なわけがないよ!」

 どうしよう・・・振られたと思ったのに・・・・。
 こんな形で、告白されるなんて・・・!
 嬉しすぎておかしくなりそう。

「ユーリ!!ありがとう・・・・・でも、嬉しすぎて―歯止めが利かなくなりそうです」
「こ、コンラッド?!」
 にわかに、俺をベッドの上に押し倒すコンラッド。俺との間に隙間を残しつつ覆いかぶさるコンラッド。
「ユーリ・・・・貴方が・・・・欲しい。駄目ですか?」
 泣きそうな切ない瞳が俺を捉えた。

 俺自身も、感情が昂ぶりすぎて、それをどうしていいか困っていた。だから、思わず頷いてしまった。それが、どういうことになるのか、きちんと考えずに返事していた。
「駄目・・・じゃないよ、コンラッド・・・・」

「ユーリ・・・過去の俺は、貴方に何かしましたか?」
 少しだけ、硬い声音だった。

「ええ?な、何かって?そそそんな、ことないよ。手を絡めたくらいだよっ」
 言い終えた途端に、コンラッドが俺の両手に自身の指を絡めてきた。
 長くて、節くれだった指は冷たくて、ぞくっとした。しっかりと握り締められる、その安心感に胸が熱くなった。

「他には?もう何もされてない?」
 再び彼に尋ねられた。
「―コンラッド・・・?もしかして、過去の自分に嫉妬してる?」
 すこし、コンラッドの顔が意地悪になった気がした。
 き、聴いちゃいけなかった?!
「情けない所を見せてしまいましたね。こんな、俺は嫌?」
 心配そうに、眉をひそめるコンラッド。そんな美形な顔で、切ない表情をつくるのは、反則だ。
「ううん、全然やじゃない」
 俺は、脳が揺れてしまうほどに、左右に激しく頭を振った。
 
 彼は、甘くて蕩けてしまいそうな笑顔で微笑んでくれた。
「本当ですか?ユーリ。 よかった」
 相変わらず、甘くて綺麗な声だった。
 コンラッドのばか!どれだけ、俺のことドキドキさせるつもりだよ―!
 俺は、少しむくれて、そっぽを向いた。
 けれど、少し強引に顎を掴まれて、彼のほうを向けなおされた。
 いつもと違う、少し乱暴な仕草に不覚にもドキリとした。
「な、なんだよ、コンラッド?!」
 彼の瞳がひどく、熱っぽくて扇情的で、目が離せなくなった。

「嫌だったら、言ってね、ユーリ」
 俺の目を見つめながら、彼が言った。ぎゅっと、絡めた指先を握り締められた。そんな儚げな甘い瞳で見つめられたら―俺はどうすればいいんだ?!

「―ン・・・・むっ!」
 深く考える間を与えぬほどに、唐突に彼の唇が重ねられた。先程の触れ合わせるだけのキスとは比べ物にならない。
 
 な、なんだよ―これ?!

 キスなんてしたことない俺からしたら、唇を重ね合わせるだけでも精一杯なのに―!!彼の舌が俺の唇を押し入って、口腔内に侵入してきた。そして、俺の舌を絡めとるように、蠢かされる。
 なんだか別の生き物が侵入してきたみたいで少し怖い。

「ん・・・ン!」
 無意識に彼の身体を手で押し遣っていた。

 俺の異変に気がついたのか、すぐに唇が解放された。優しく、上から顔を覗き込まれた。
「ユーリ?!・・・・御免なさい、少し度が過ぎたみたいですね」
 まるで、今の俺の心を全部分かってくれたみたいに優しさに溢れた声だった。
 彼は、俺の頭を優しく撫でた。
「怖かったですか?御免ね、ユーリ。今日はこのくらいにしておきましょう」
 そっと優しく微笑んでくれた。
 それが、妙に悲しくて・・・・いたたまれなくなった。

 俺は、強い口調で言い返していた。
「嫌だ・・・!もっと―してほしい」
 言いながらも、顔が真っ赤だった。俺は一体なんてガキなんだ?!拒否しておいて、もっとしてほしいなんて、我がままにもほどがある。
「わがままでごめんなさい」
 コンラッドが呆れ果てるんじゃないか、急に心配になった。ぎゅっとコンラッドの首に手を巻きつけて、自分のほうへ抱き寄せた。

「まったく・・・・どうして、あなたはそんなに可愛らしいんですか?もう止めてっていってもやめませんからね」
 俺の耳元で、穏やかな低音が響いた。甘い吐息に、びくびくと身体を捩じらせてしまう。

 そんな、俺なんて可愛くも何ともないし。コンラッドのほうがずっと綺麗で、カッコよくて、優しくて・・・・。
「好き・・・!」
 堪らずに、コンラッドに囁いた。
「ユーリ・・・!」

 再び、甘いキスが舞い降りた。
 角度を変えて丁寧に、何度も何度も俺の唇をついばんでくる。
 くすぐったくて、甘くって、鼻に掛かったようなおかしな声が、漏れてしまう。
「ン・・・ゥ・・・・」
 自分のあげるおかしな声が恥ずかしくて、頭に血が上ってしまう。
 
 俺の髪や頬を、優しく撫でていた大きな手が、首筋を撫で下ろす。思わずに、びくんと大きく身体をよじらせてしまう。
 その衝撃で僅かに開いた唇の中に、彼の舌が入り込んできた。もう、怖くなかった。むしろ、歯列をなぞられる度に、舌を絡まされる度に、全身が粟立った。
 
 気持ちいい・・・何これ・・・。

 もう何も考えられなかった。思考が鈍くなり、瞳の焦点が合わなくなってくる。思わず、彼の柔らかい髪の毛に両手を差し込んだ。

 そんな俺の様子を、全て掌握しているかのように、彼の愛撫がエスカレートしていく。彼は、キスをしながらも器用に俺のシャツをはだけさせていく。
 熱くて堪らなかった身体は、外気に晒されてひんやりと心地よかった。

 けれど、次の瞬間、身体を電流が流れたのかと思った。コンラッドが、俺の敏感な胸の突起部分を指で軽くつねった。
「んあああっ!」
 大げさに身もだえてしまった。その弾みで、キスを中断された唇からは、激しい喘ぎ声が漏れた。
「痛かったですか?」
 彼の不安げな声が、意識の端に聞こえた。
「ううんっ・・・んなこと・・・な・・・イっ!ふぁぁ!」
 今度は、優しく唇で包まれた。

 くっと、コンラッドは喉の奥で少し意地悪に笑った。
「痛くないなら・・・どうしてそんな声を出すんですか?」

「わかってるくせに―!・・・コンラッドの意地悪!」
 少し、意地悪な彼を睨みつけた。

「ごめんなさい、貴方が可愛すぎて、いじめてしまいました」
 優しく、目尻にキスされた。  
「ごめんね、ユーリ?怒った?」
 そう尋ねながらも、彼は俺のズボンを下着ごと刷り降ろした。
「やっ!だめ!恥ずかしいから見ないで!!コンラッド!」
「どうして?貴方の身体に恥ずかしいところなんて、何もありません」
 コンラッドは俺のお願いを全く聞きいれてはくれなかった。それどころか、敏感な恥ずかしいところをその手で包み込んでしまった。
 そのまま、ゆるゆると、繊細な手つきで扱かれる。
「ん・・・あああっ・・・や・・だ・・・っ!」

 信じられない!昼間は俺と暢気にキャッチボールしてたのに。俺の護衛をつとめてくれてたのに―!そのコンラッドが、おれのこんなところを触ってる!

 その背徳が、いっそうの興奮をもたらしてしまう。一時も休むことなく、彼の手が、俺のはしたなく熱をもったそこを、擦りあげていく。リズミカルな動きに、思わず、自身も腰を振ってしまう。もっと甘い部分を刺激して欲しくて、浅ましい姿を彼に晒してしまう。
「ん・・ん・・あ・・・あ・・・だめ・・だめ・・・っ」
 極限まで追い詰められたところで、彼の手が思いがけず離された。

「ん―?!」
 情けない顔で彼を見つめてしまう。浅い呼吸が断続的に続く。もっと、してほしい―なんて不埒な考えが頭を占領する。それなのに、予期せぬ事態が待っていた。

「はぁぁっ。う、そ。ヤダ!!」
 思わず瞳に涙が滲んだ。身体を俺の足元に移動した彼が、俺のものを口に含んでしまったからだ。いつも、優しい笑顔で笑ってくれるコンラッドがよりにもよって、俺のを・・・!!もう、眩暈がして、訳がわからなくなった。

「だめ!だめっ!絶対駄目!」
 気持ちよさよりも恥ずかしさが先立って、俺は彼を押し遣った。

 コンラッドが、少し傷ついたような顔で見つめてきた。
「ユーリ?俺がするのは、嫌ですか?」

 違う、だから、そうじゃない―!

「男のこんなところを、あんたが咥えるなんて、絶対だめ!」
 顔を真っ赤にして、言い切った。

 彼はにわかに、頬を緩めた。すごく安心した―って感じの笑顔だった。
「ユーリ、俺は貴方だから、したいんです。貴方に気持ちよくなってほしいだけです。男だからとか、そんなこと、全く気にしていません」

「それとも、ユーリはやっぱり男の俺が、こんなことをするのは嫌ですか?」
 また少し、彼の瞳が揺れていた。

「違う!そんなことあるわけない!―んああっ」
 言い終わるやいなや、彼の愛撫が始まった。もう、恥ずかしさよりも、気持ちよさが遥かに上回って、瞼の裏がちかちかした。
 彼の口内は、暖かくて、それだけで敏感に感じてしまう。それなのに、唇や舌で丹念に弄られていく。

「駄目・・・コンラッド・・・イ・・・っちゃう・・・ううああああっ!」
 腰の奥がじんと痺れて射精感を強く感じた。彼の口に出したくなくて、咄嗟に、彼の肩を遠くに押し遣った。
 その反動で、迸る俺の乳白色の液体が、コンラッドの綺麗な顔にたくさん掛かってしまった。
「ご、ごめんね、コンラッド!今綺麗にしてあげるから」
「ユーリ・・・!!」
 俺は、迷うことなく彼の顔に掛かった自身の白濁色の液体を、舐め取っていった。何ともいえない苦味が広がって、苦しかったけど、コンラッドのためなら平気だった。
「ユーリ・・・!ティッシュでふき取りますから、貴方はこんなことしないでください!」
 コンラッドが俺の身体をそっと押し退けた。
「だめ!俺、コンラッドが好きだから、全然嫌じゃないよ。気にしないで!」
 言いながら、あれ・・・と思った。
 こんなような台詞、さっきはコンラッドが言ってた。
 思わず俺たちは顔を見合わせた。
 コンラッドも、同じことを思っていたらしい。
 
 思わず二人で、微笑みあった。俺たちって、なんてバカップルなんだろう?!だけど、すっげぇ幸せだ。

 コンラッドは、顔についていた汚れをさっと手のひらで拭い取った。そして、艶っぽい顔で、俺を見つめた。
「ユーリ?俺のもしてくれる?」
 こっくりと首を縦に振ると、仰向けのコンラッドの軍服のベルトを外し、ファスナーを下ろしていった。その音がいやらしく部屋に響き渡る。
 存在を強く主張しているそれは、俺とは比べ物にならない大人の男のそれで、緊張した。でも、コンラッドのだと思うと、まったく嫌じゃなかった。それよりも、俺がこれを舐めあげたら、彼はどんな反応をしてくれるか、すごく気になった。

 だから、こんなことをするのは初めてだったけど、一生懸命に彼に奉仕した。
「んむ・・・っフ・・・ン」
 あまりの大きさに、喉の奥にまでそれが突いてきて、苦しさに涙が滲む。だけど、コンラッドが、切なげに眉をよせて荒い呼吸をしている姿を垣間見て、嬉しくなった。
 だから、苦しかったけれど、一生懸命に舌を動かして、唇を窄めて上下させた。
「ん・・・上手ですよ・・・ユーリ。もう、そろそろ・・・・」
 彼のものが、口内で脈打ち始め、その絶頂が近いことを知らせていた。
「んむ?!・・・はぁ、はぁ」
 にわかに、それが口内から抜き出された。コンラッドは、身を起こすと、自身を手で覆って、その中に、絶頂の印を吐き出していた。

 切なげに、凛々しい眉をよせ、唇から甘い吐息を零し、びくんと身体を震わせるコンラッドなんて始めてみた。こんな淫靡な姿の癖に、凛とした佇まいが残ったままの彼は壮絶な色香を纏っていた。
 俺自身も、再びはしたなく熱を持ってきた。じくじくとした欲望に下腹部が疼いた。

「ユーリ、四つん這いになれる?」
「えっ・・・?!」
 相変わらず上品な彼の声が、すごい要求をしてくる。卑猥な想像をしてしまって、自身がはしたなく脈を打った。甘い快感を期待してしまう俺は、驚きながらも従順に従う。
 パジャマの上着だけがだらしなく上半身に纏わりついたままの格好で、ベッドに両手、両膝をつく。にわかに、コンラッドが背後に回りこむ。姿が見えなくなると、不安で、でもその不安感が余計に甘い疼きをもたらした。

「んふああぁ!だ・・・め・・・!」
 長いコンラッドの指が、俺のとんでもないところを擦りあげた。繊細な窄まりに触れる彼の指は、ヌルヌルしていて、快感に打ち震えた。

 ま、まさか。コンラッドの指が粘ついているのって―さっきの、コンラッドが出した・・・アレか?

 カッと羞恥に身体が震えた。なのに、いっそう興奮してしまう。

「ン・・ア・・うあぁぁ!」
 俺の内部に、繊細な手つきで指が動かされる。ヌルヌルとした、彼の体液が、内部に塗り込められていく。卑猥な音が、ぐちゅぐちゅと響く。恥ずかしくて、枕に顔を埋めた。
 性器でない筈なのに、その部分は鋭い快感をもたらしてきた。彼が先程から肉壁の一点を執拗に擦りあげる。その度に、つま先まで電流が流れ、身体が痺れた。
「ひ・・・ん・・・うぁぁ!何・・・コレ?も・・ウ・・あああっ」

 思わず、達してしまいそうだった。けれど指が唐突に引き抜かれる。ぐちゅりといやらしい音が出た。
「ん・・・ふ・・ああっ」
 悲鳴のような鋭い喘ぎ声が出てしまった。

 彼は、身に纏っていた軍服を乱雑に脱ぎ捨てた。うつ伏せの俺の上から、裸のコンラッドが俺を背後から覆い抱きしめた。
「ユーリ・・・好きです」
 耳元で囁かれる彼の甘い声に、胸が熱くなった。
 
 俺は、仰向けに身体を反転させられた。すごく優しい手つきだったから、惚けたように彼を見上げた。

「ユーリ・・・貴方と一つになってもいいですか?怖いですか?」
 俺の気持ちを確かめるような、真摯な眼差しだった。いやなんて言ったら、すぐにでもやめてしまいそうだと思った。

 だから、彼に回す腕に、ぎゅっと力を込めた。
「怖くなんてない。コンラッドと・・・・結ばれたいよ」
 緊張と、期待で声が掠れた。

「ユーリ―優しくします」
 チュッと、額に甘くキスされた。

 ゆっくりと、俺の両脚が開けられていく。恥ずかしくて、ぎゅっと目を瞑った。その瞼に優しくキスが落とされた。
 甘い・・・。身体中に優しくキスの雨が降る。繊細な手つきで、身体を撫でられるたびに、夢見心地になってしまう。
 恥ずかしさや、緊張が溶かされていく。

「―っ!」
 ふいに、彼の物が、入り口に宛がわれる。硬くて、熱い塊にゾクっとした。彼は、俺の唇を甘く吸い上げてはそっと啄ばむ。甘く甘く身体が弛緩していく。そのまま、彼は身体を俺の脚の間に沈めていく。

「ン・・・あああっ!」
 痛い―!正直、ここまで痛いとは思わなかった。
 もともと入れる場所でない部分は、ひりひりと痛みにわなないていた。
 眉間に皺がより、身体ががちがちに硬直していた。

 俺の様子に気づいたコンラッドが身体を、退こうとした。
 けど俺は、苦痛に顔を歪めながらも、咄嗟に彼の腕を掴んだ。
「だ・・・・め。さいご・・・まで・・・した・・・い」
 
 痛みよりも、何よりもコンラッドと一つになりたくてしょうがなかった。だから、息も絶え絶えに、言葉を紡いだ。

「ユーリ・・・可愛い人だ・・・好きです―!」


 その後、俺は痛みに耐えながら彼の動きを受け入れた。
 初めは痛いだけのそれは、次第に甘い疼きと信じられない快感をもたらした。

 何よりも、コンラッドと結ばれたことが―恋人になれたことが嬉しくて堪らなかった。



 その晩は、初めてコンラッドと一緒の布団で朝まで寝た。


 
 初めて横で見るコンラッドの寝顔は、少年のようにあどけなくて・・・・・・・恋人の特権だよなって思った。




 ★あとがき★
 えっちが異常にながくなってしまったorz
 どうまとめていいかわからなくて・・・難しかった。

 なんとなく白いコンラッドとウブなユーリの初エッチを楽しんでいただけたら、いいのですが・・・(汗

 この表のSS13話の二人の続きが気になった方・・・・こんなんで、よかったでしょうか。てか、勝手に裏サイドにしてよかったものか・・・ごめんなさい。。。




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