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2009.4.22設置 『今日からマ王』メインです。 
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2024/05/21 (Tue)                  [PR]
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 突然ですが、切ない三角関係だったりします。
 

バレンタイン騒動?! 花嫁は誰だ?!(2)

 

 
 がたがたがたっ。
 ものすごい地響きが鳴る。
 地震かっ? 眞魔国にも地震ってあるのか? 
「みぎゅっ?」
 思わず円卓の下に隠れようとした俺は、左手をギュッと掴まれて、カエルのひしゃげたような声をあげた。ちなみに右手じゃなくて、左手を掴まれたからオノマトペは、『ひだりゅ?』か。
 なんて、どうでもいいから!
 
「こぉのぉ、尻軽のへなちょこユーリぃぃ!! 黙って僕についてこい!!」

 中性的なアルトの美声が、ヒステリックに血盟城に響き渡る。なんと、地震だと思っていた揺れは、左隣に座るヴォルフラムの大胆な貧乏揺すりだった。  黙っていれば天使のように愛らしい顔が、すっかり般若のごとく歪んでいる。なにやら、相当怒っていたらしい。今にも泣きそうな大きな翡翠色の瞳が、三角につり上がる。

「ちょ、ちょっと、痛いよっ。ヴォルフラム!!」
 俺の悲痛な叫びも届かない。有無をいわせぬ勢いで、俺は左腕を掴まれたまま連行されていく。
 ピンクのフリルエプロンを優雅に翻す後ろ姿と蜂蜜色の髪が見える。ヴォルフラムの絨毯を踏みつける足音はうるさく、歩幅も行進並みに大きい。困惑気味に、青いチェックエプロンのコンラッドを見ると爽やかに苦笑された。

 俺は、ヴォルフラムの理不尽ともいえるほどの激しい怒りに困惑していた。そもそも、スタツアしたかと思ったら、俺はいきなり花嫁を探せ大会に参加させられたのだ。そのうえ、こんなに八つ当たりをされてはたまらない。次第に、俺の中の短気な虫が騒ぎ出す。

「おおっと! フォンビーレフェルト卿は、大胆にも陛下とのデート一番乗りですっ!!」
 そんな短気の虫などたちどころに吹き飛ぶような大声が響きわたった。
 やたらと張り切るドリアの実況中継だった。けれど、なぜかダカスコスやラザニアやサングリアは少し残念そうに見守っていた。(ドリアは、陛下トトでヴォルフラムの一点買いをしているらしいことをユーリは知らない。ちなみにダカスコスは、給料の三倍をギュンギュン閣下に賭けているらしい)

「んまぁ、ヴォルフラムちゃんったら、だ・い・た・ん。いってらっしゃ~い」

 セクシークイーンな彼の母親が、微笑ましく見送ってくれた。苦笑いするしかない。

「陛下、この砂時計の砂が落ちるまでにお戻りください。まぁ、時間になれば私の傑作品でお二人をお呼びするまでですが。それでは、どうぞごゆっくり」

 アニシナさんににっこりと微笑まれた。毒女の笑顔。ちょっと待てよ、今の話を聞いて誰がゆっくりしていられるっていうんだ。いや、ゆっくりすることもないんだけど。きっと30分たったら、世にも恐ろしい実験道具で、呼び戻されるに違いない。
 俺は、自分の手元にGショックが嵌められているのをみて、心底ほっとした。任せたぞ、相棒。十分前行動をしよう。学校の標語にもあるじゃないか。

 俺は、ヴォルフラムに引っ張られながらも、左手首に嵌められたGショックのタイマーを20分に設定した。

 それにしても、さっきは睨んだりしてゴメン、コンラッド。あんたのおかげで、あの砂時計が落ちるまでに30分かかるっていう大事な情報がわかったんだから。
 俺は、ちらっと後方の円卓に座るコンラッドに微笑んだ。にっこりと、相変わらず悔しいくらい爽やかに微笑み返された。

「あぁっ、べいぐわぁぁぁ~~!!」
 
 ふいにコンラッドの隣のギュンターと目があってしまった。見てはいけないものを見てしまった。ギュンターの手元には、八つ裂きにされたハンカチがあった。
 俺は、急いで視線を前方に戻した。

******

 ぐいぐいとヴォルフラムに腕を引っ張られてたどり着いたのは、なんと彼の寝室!

 ヴォルフラムに理不尽に八つ当たりされて、むすっと黙り込んでいた俺はあまりのことに、頭が真っ白だ。
 まさか、まさか、彼だけは獣にならないと思っていたのに?! だって、そういうことに俺と同じくらい疎そうだと思っていたし。
 あぁ、でも、ツェリ様の息子だし・・・・・・。

「え~っと、ヴォルフラムさんっ? どうして、こんな場所へ?」
「―― っ!! 今更、そんなことをいうのか? どこまで、僕のことを馬鹿にすれば気がすむんだっ」

 王室と変わらないほどに、優雅な調度品に囲まれた部屋の中央のベッドにずんずんと引っ張られていく。
 柔らかい羽毛布団の感触を背中にふわっと感じると、視界が反転していた。

 目に映る、やたらに凛々しい魔族の末っ子。ベッドに転がる俺を上から見おろすヴォルフラム。華麗な金髪が顔にかかり、エメラルドグリーンの瞳は涼しげに少し吊り上げられる。陶磁のように真っ白な頬は、薄く薔薇色に染まる。童話の王子様みたいだと改めて思う。ピンクのフリルエプロンがここまで着こなせるのは、彼が美少年であることの証だ。

「どうして僕が、こんなに怒っているか・・・・・・わかるか?」

 彼は、少し悲しそうな表情になる。女の人だったら、放ってはおけないわ的な母性本能を刺激しまくる顔だ。
 けれど、理由の分からない俺は静かに首を横に振る。無性に、彼に対してひどいことをしている気がする。けれど、そのぼんやりとした罪悪感の正体が掴めない。

「そうだろうな、ユーリはいつも僕をみていないからな」
 今にも泣きそうなほど、彼の声が頼りなく震える。長くて繊細な睫毛もふるえる。

「ヴォルフラム?」
 いつもと様子の違う彼に戸惑ってしまう。ただ、彼の名前を呼ぶことしか出来なかった。

「僕のことを一度だって、きちんと婚約者としてみてくれたことはあるのか?」
「――っ」
 そういわれて、息を呑んだ。俺にとっては、彼は大事な仲間としか思えなくて、婚約者という事実だって無いものとして考えていた。

「ないだろうな。だから、いつまでたっても具体的な話が出ないんだ。挙句の果てに、ユーリはこんなふざけた花嫁探しに参加までするんだからな。僕まで参加させて」

 いつもの自信に溢れた彼からは、想像もつかない。彼は、ひどく自嘲気味な笑いをみせた。
 そうだ。俺にとっては、ヴォルフラムは大切な弟みたいな存在だ。だから、婚約者として彼のことを見ようともしなかった。恋人としてさえ、見ようともしなかった。
 けれど、彼は違っていた。
 俺のことを、婚約者として恋人のように・・・・・・恋してくれていたんだ。こんなとても俺とは釣り合わなそうな、童話の王子様みたいな彼が。
 申し訳ない気分で、胸が痛くなる。

 どうして、俺なんだ? こんな平凡な野球少年のどこがいいんだ?
 そんな外見していたら、相手に不自由なんてしないだろうに。


 それだけ、本気に・・・・・・好きでいてくれたんだ。

 胸に、鈍い痛みがじわじわと血が滲むように広がっていく。
 彼は、明るくしてくれていたけれど、本当はずっと心の奥で傷ついていたんだ。
 俺は、どこかでその可能性を感じ取っていたのかもしれない。けれど、彼が明るく振舞ってくれるのをいいことに、友情で全てを隠してしまおうとした。

 いつだって、その繊細なところから逃げていた。彼の揺れ動く心に、気づかないふりをしていた。

 自分の酷さに、いいかげん腹が立ってくる。

 ふいに、ヴォルフラムの両手が俺の頬に添えられる。暖かい手の感触に、妙に感動して彼を見上げる。彼の吸い込まれそうな濃くて鮮やかな翠色に、強い光が宿る。

「ユーリ? 決着、つけてもいいか? 僕は、お前が勘違いをして俺の左頬を打ったことを知っているんだ。だけど、そうだとしても、今ではユーリの婚約者になれたことを心から幸運だったと思っている」

 顔中を真っ赤に染め上げて、ヴォルフラムは俺の肩に顔を伏せた。彼の柔らかい髪の毛が、左耳をくすぐった。

「ずっと、ずっと・・・・・・好きだった。ユーリが、僕のことをそういう目で見ていないと知っていても。僕じゃ、駄目なのか? 他に、好きな奴がいるのか?」

 俺の横で顔を伏せたまま、ヴォルフラムが切ない言葉を告げる。俺とヴォルフラムの衣服が擦れあう。衣擦れの乾いた音が響く。

 俺は、急速に暗い罪悪感で満たされていく。心が、乾いて息が苦しくなっていく。
 さきほどまで、心に掠めていた大切なことが、少しずつ鮮明になってきたからだ。ずっと心の奥底にしまっていた、触れてはいけないものが明確に姿を表してきたから。

 ―― 他に、好きな奴がいるのか?

 そう、ヴォルフラムが聞いたときに、どうしてよりによって彼を思い出してしまったんだろう。よりによって、ヴォルフラムの兄を。
 ―― コンラッドを。

「ヴォルフラム、ごめん・・・・・・、ごめん・・・・っ!!」 

 声が震えて、惨めに裏返ってしまった。彼の気持ちに応えてあげられないどころか、彼の兄に惚れているのだと気づいてしまった。彼の苦しみを思うと、眼の奥が熱く重くなる。辛くてたがが外れたようにその感情が切ない雫となって溢れてくる。必死で俺の上のヴォルフラムを抱きしめた。彼は、全身を硬直させていた。たぶん、呼吸することも忘れているんだ。
 ここまで、傷つけていたんだ。どうして、もっと早く向き合ってやれなかったんだ。

「俺、好きなひとがいる・・・・んだ・・・・・・。本当に、ごめん・・・・・・、ヴォルフの気持ちから逃げていた。きちんと向き合ってあげられなくて、ごめんな。こんなふざけた催し物、きちんと断ればよかった。こんな大会に参加させて、ごめん。惨めだったよな? 婚約者なのに、花嫁候補にわざわざあげられて・・・・・・傷ついたよな?」

「気にするな・・・・・・それに、もうお前の婚約者ではない」

 低く掠れた声が、耳元で響く。

「ヴォルフラム?」

 彼は、俺の上から勢いよく身体をどけると、赤く充血した瞳をごしごしと乱暴に手で擦った。

「決着は、付いたんだ」

 凛々しく、彼はそう言い切った。
 そのとき、Gショックのアラームが無遠慮に無機質な音を立てた。

 俺は、彼を残して部屋を飛び出した。晩餐の間を目指して、一心不乱に走った。

 

 

 たどり着いた先では、俺のただ事でない様子に皆が呆気に取られていた。

「こんなふざけた大会は、今すぐ取りやめにする。至上命令だ。ヴォルフラムが、どんなに傷ついたか、分かってるのかよ?! 彼は、仮にも俺の婚約者だったんだ。それを、こんな祭りに引き摺りあげられて、どれだけ惨めか考えたのかよ!!」

 いや、俺がこんなこと言える立場じゃないのはわかっている。それなのに、感情の爆発が抑えられなかった。八つ当たりもいいところだ。
 俺は、荒い呼吸を繰り返しながら、彼らを糾弾した。

「陛下、大変失礼致しました」

 深く伸びやかな声が部屋に響く。意外にもその主は、フォンカーベルニコフ卿だ。
 彼女は、コバルトブルーの強い眼差しでこちらを見上げる。

「このたびの首謀者は、私ですから。遅ればせながら、陛下には気持ちを固めて頂きたかったものですから。男というものは、こうでもしないと気持ちが動かないものでしょうか。それに、最近の城内の浮ついた、まるで春のような騒動には辟易しておりました。彼らの陛下を見る目といったら・・・・・・まぁ、私があえていうこともないでしょうが」

 そういいながら、アニシナは円卓のメンバーやらダカスコス、メイド衆らを一瞥する。

「陛下がしっかりと一人の相手を見ていてくださるのならば、何も今回のような古臭い企画を持ち出すことはなかったのです」

 いろいろと突っ込みどころが満載で、どこから突っ込んでいいのか。とりあえず『ねるとん紅鯱団 俺をお嫁にしてください』という企画は、本来なら行わないような眞魔国の時代錯誤な慣習だったってこと?
 でも、そんな企画が持ち出されたのは、つまり、俺が婚約者のヴォルフラムをしっかり捕まえていなかったからってことで。そのせいで、いつものメンバーが俺にラブラブ光線を出していたっていうこと? それは、ないだろ?! なんだ、その勝利のギャルゲーのプレイヤーになったみたいな状態は。全員男だけど。

「えぇえええ?!」

「まぁ、陛下ってば、ヴォルフちゃんとついに心が通じあったのかしら? だから、もうこの大会を取りやめにするだなんて強くおっしゃるのよね? まぁ、素敵だわぁ。式の日取りはいつがいいかしらぁ?」

 ツェリ様のうっとりとした声に、じれるように叫んだ。

「違うんですーー!! 上手くいえないけれど、そうではないですから!! とにかく、とにかく、もうこんなふざけた企画は中止!金輪際、中止!!」

 それだけ言い残して、俺は再び部屋を後にした。
 ひたすらに回廊を走った。アーチ形の柱の間から、柔らかいオレンジ色の光が射していた。
 夕方の霞んだ空気の中、一番落ちつく中庭の木を目指して走った。 

 

★あとがき★

 ヴォルフラムファンのひとには、土下座な展開ですみませんoQz ヴォルフラムのことも好きです、すみません。すみません。
 コンユサイトなので、御許しくださいです。
 ギャグな展開になる予定が、大幅にシリアス風味に変わってしまいました。
 お付き合いくださると嬉しいです。

web拍手、拍手ボタンありがとうございました^^ 癒されました~

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