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(上様×コンラッド→ユーリ)
一度変わってしまったものが、元のかたちに戻るのは―― 難しいな。
硝子の欠片
静寂に包まれた血盟城内を、いつものように警備していた。
そのときだった。真夜中の王の間から、硝子の砕け散る不快な音が響いた。
「ユーリ?!」
俺は、咄嗟にユーリの寝室へと駆け出した。石畳を軍靴で踏みつける音が荒々しく回廊に響く。
自分でもどうかしていると思うが、ユーリのことが可愛くて仕方がない。彼の誕生を見届けて、名前までつけたからだろうか。
きっと、息子ができた父親みたいな気持ちを疑似体験しているのだろう。そうだとしたら、俺は随分と過保護な父親になってしまう。
ノックもなしに、重厚な王室の扉を開くと、橙色のランプの火が照らすその光景に、息をのんだ。
毛足の長い豪華な絨毯の上には、無数の硝子の破片が散っていた。そして、ユーリがうつ伏せに倒れていた。枕元のチェストタンスに水差しが置いてあることからして、この破片はグラスだろう。
まさか、王をよく思わない者が、飲み物に毒物を混ぜたのか。ユーリに限って、国民から命を狙われることはないだろう。けれど、他国の民の仕業なら、無いとも言い切れない。殊更に、双黒を毛嫌いする人間の仕業なら。
自分にも、半分人間の血が流れていると思うと、情けない気持ちとやりきれなさに胸が痛んだ。
「ユーリ!!」
絨毯に脚をついて、彼を胸に抱いた。そして、腕の中で彼の身体を反転させた。
「ユーリ・・・・・・?」
その容姿に、愕然とした。
それは、ユーリが魔王に覚醒したときの姿そのものだったからだ。
一体、ユーリは何を飲んでしまったのだ。
オレンジの緩やかな光に照らされる、長く伸びた漆黒の髪は艶めかしく、鼻梁はすっきりと筋が通っていた。
閉じられた瞳の淵には、いつもよりも長く綺麗な睫毛が縁取られており、繊細な陰影をつけている。そして、骨格そのものも、もはや少年というべきものではなく、青年のしなやかな身体になっていた。
すっかり、美青年へと成長した彼がそこにいた。
「ン・・・・コンラートか?」
ユーリは、うっすらと目をあけると小さく囁いた。
その声質も、すっかり落ち着いた低音だった。そして、俺の名前の呼び方も、変わっていた。そして、彼の纏う雰囲気そのものが、違っていた。
彼は、紛れもなく―― 魔王、だった。
「何を、召し上がったのですか? あなたは・・・・・・ユーリではありませんね?」
「いかにも、その通り」
魔王は、喉の奥で低く乾いた笑いをみせた。俺の支えを解くと、彼はゆっくりと身体を起こした。そして、立った姿勢で俺に手を差し出した。
「少し、お前に用がある。付き合ってもらえないか? コンラート」
「魔王陛下?」
訝しく思いながらも、彼の手を掴んだ。すると、そのまま引き寄せられて、強引に胸の中に抱き寄せられた。
「コンラート。私が相手では、不満か?」
「?!」
その言葉の意味を量りかねていると、唐突にソファの上に押し倒された。
「このような形でお前に遭えたことを嬉しく思う。据え膳を食わぬは男の恥というではないか。前から、お前の美しさに惚れていた。久しぶりの契りに、魔族の原始的な荒々しい血が騒ぐ。少し、痛くしたらすまない」
「な、何を考えているのですか?! 魔王陛下?!」
俺は、取り乱した。まさか、ユーリの一部を占めている魔王陛下が、俺にそのような邪な思いを抱いていたなんて―― !
けれど、悪夢は終わりそうに無かった。
長い脚が伸びてきて、ソファに仰向けになったままの俺の股間を抑え付けた。硬い革靴が、ぐいぐいと乱暴にそこを踏みつけた。
「ぐ・・っ、はぁ・・・っ」
「まだ、分からないのか? それだけの容姿をしているのなら、男と寝たことなど初めてではないだろう? それとも、魔王陛下に楯突くというのか? ええ?」
いっそう酷く、靴でそこばかり抑え付けられる。あまりの痛みと、屈辱に、涙が滲む。ぐっと唇を噛み締めても、情けない声が嗚咽となって漏れていく。
それでも、身体がユーリなだけに、彼を憎むことができない。彼が時折みせる表情に、ふとユーリを重ねてしまう。
「いじらしいな、コンラート。俺の身体がユーリのものだから、こんな痛みに健気に耐えているのだろ? だが、そろそろ、痛みだけじゃなくなっているようだがな? 靴を履いていてもわかるぞ。お前のここが、硬くなってきているのがな」
魔王は、靴先で俺の股間を撫で上げた。
「―― !!」
恥ずかしさと屈辱で、頬がかっと熱くなった。喉の奥で、低く笑うと魔王は脚をどけた。
彼は、獲物を狙う猛禽類のようにゆっくりと、俺の上に跨ると膝で硬くなったそこを突き回した。漆黒の伸びた髪を邪魔そうにかき上げて、形のいい唇を片端だけ吊り上げた。
「ほら、ここ。こんなに反応しているぞ。靴で踏まれても、感じてしまうのか? 綺麗な顔をして、淫乱なんだな」
「何、を・・・っぁ、言って・・・ンンっ!!」
「無理をするな。もっと啼けばいい。本当は、たまらないんだろう?」
「はぁっ、ン!・・・んんんっ!!」
意地の悪い笑顔でそっと囁かれる。それも、膝で股間をぐりぐりと弄ばれながら。
こんな惨めなことをされているのに、その顔を見るたびに、言いなりになってしまう。まるで、成長したユーリに犯されているような、倒錯した想いに襲われる。いや、それこそどうかしているが。
それに、ユーリの身体だと思うと、油断してしまう。傷つけたくないと思ってしまうから。
唐突に、魔王の手が股間へと伸びてきて、軍服の上からそこを掴んだ。そのまま、布地の摩擦も加わった状態で、上下に乱暴に擦りたてられた。
頭の中が、真っ白になって、その甘い刺激のことしか考えられなくなっていく。いつのまにか、頬には涙が伝っていた。
「んっ!・・・っンンーーっ! や、めろ、っ!」
「やめろ、とは魔族の頭首に向かって、随分な口の訊き方ではないか? そこまでいうなら、望む通りにしてやろう。だが、苦しいのはお前ではないか?」
ふいに、摩擦を繰り返していた掌がどけられる。与え続けられた刺激が、突然消える。その頼りなさに、短い悲鳴がもれた。
そして、そっと長い指先が俺の目尻の涙を拭う。涙の筋を伝って頬をくすぐるように指が唇へと下りてくる。そして甘く唇をなぞられる。ユーリの面影の残る、けれど凛々しい青年の瞳が甘く細められる。背筋から、ぞくりと痺れが走った。
「こんなに、涙を流して? よほど気持ちがよかったのだろう? この唇から、甘い声を立てていたのだろ? 素直に、求めたらどうだ? コンラート」
そのまま、指で顎を捕らえられた。成長したユーリの顔が、こちらに近づく。長い睫毛から繊細な翳を落して、綺麗に瞳が伏せられる。惚けたように見つめていると、ゆっくりと、湿った互いの唇が重ねあわされた。触れ合わされただけの唇は、すぐに切なく引き離された。
頭が、熱に浮かされてぼんやりとしていた。今の彼は、間違いなく魔王陛下だというのに。
俺は、どうかしたのではないかというくらい、満たされた。
「ユーリ・・・・・・」
求める相手の名前が、正直に音となって唇から出ていた。
彼は、少し翳のある笑顔を見せた。
「すまない、コンラート。私は、ユーリではない。けれど、ユーリの身体であることに間違いはないからな。そう思うと、燃えないか?」
彼の長い指が、そっと唇を割って差し込まれる。
「はっ・・・・ンン・・・ぅ」
「ほら、コンラート? 言ってごらん? どうしてほしい? もう、ここ、限界だろう?」
長い指が、俺の口内で舌を挟み込み、じれったく弄ぶ。漆黒の瞳が、うっとりと絡みつくように俺を見つめる。
優しくも甘いその眼差しに捉えられたまま、俺は熱に浮かされたように口を動かした。だらしなく、口端から唾液が伝い落ちていくのも厭わずに。
こんなに、無様に堕ちて行くのは、やはり彼がユーリの面影を見せるから。
「あ・・・っ、触って・・・、擦って・・・っ」
「いけないな、コンラート。臣下たるもの、陛下への敬いの心を忘れてはだめだろう? 『擦って下さい』だろう? 仕方のない臣下を持ったものだ」
「んっ?!・・・っ、ンむっ、んんっ・・・・!」
強引に唇を塞がれた。口内に差し込まれた彼の舌に、自身の舌を絡めとられるのはあっという間だった。そのまま、貪るような激しい口付けを交わしながら、彼は再び俺の中心に触れてきた。
けれど、決して直接触れてはくれない。軍服のズボンの上から、強引に擦りたてられるだけだった。
口付けの激しさに酸欠を引き起こし、眩暈を覚え始めた。
ふいに、卑猥な糸を引いて、互いの唇が引き離される。漆黒の前髪から覗く、その闇を映した瞳を細めると、彼は口角を引き上げた。
「どうした? 少し残念そうな顔をしているぞ。ここに直接、触れて欲しかったのか? 残念だったな。先ほど、きちんと懇願していればいいものを。私への敬いの心を忘れた不敬罪だ。このまま、衣服の中で、それも軍服の中で射精するといい。粗相をしたようで、お前の好きものぶりがいっそう引き立つだろう」
「なっ?!・・っ、ううっ、あ、あ・・・・ンううっ」
抗議をしたいのに、それでも彼の顔を見てしまうと、違う気持ちが湧き上がってしまう。俺は、そんな風にユーリを思っていたのか? 俺は、ユーリに恋愛感情を抱いていたのだろうか。だから、こんなことをされても嫌な気持ちがまるでしない。
ふとそんなことが脳裏にちらつくも、その押し寄せる甘い快楽の波には逆らえない。
いっそう激しくなる彼の手の動きに合わせて、淫らに腰が動いてしまう。
「そんなに腰を振って。いやらしい臣下を持ったものだな」
いつもの涼やかな少年の声ではなく、落ち着いた上品な低音で揶揄される。けれど、もはやそれを屈辱と思うだけの余裕さえ無い。むしろ、辱められるその言葉さえ、腰の奥の鈍くだるい射精感を高めてしまう。軍服の下で、自身のものがぴくんと脈打つのを感じた。その射精感を抑えようと、咄嗟に自身の唇を噛んだ。
「ほら、そんなに唇を噛み締めるな。唇から、血が滲んでいるぞ」
彼は、その手を休めることなく身を屈めると、俺の唇から滲む血を舌でゆっくりと舐めとっていく。
「あ・・・・ンんっ、う、ぅぅ・・・、ンああっ!!」
きつく擦られるだけの刺激の中に、ふいに感じる優しくて甘い刺激に、身体は堪らずに吐精していた。よりによって、血盟城の警備の最中に。軍服の下は、ねっとりとした自身の体液で濡れてしまった。
ぐったりとする俺を抱き起こすと、彼はそっと囁いた。
「名残惜しいが、ここまでだ。・・・・・・私にも、プライドがあるからな。お前が見ているのは、私ではないのだから」
そこまで告げると、彼は意識を手放した。
いつもの魔王を発動した後のように。髪も手も脚も、全てが元通りの可愛い名付子へと戻っていく。
そう、彼はきっと目を覚ましたら全てを忘れて、いつものユーリに戻るだろう。
では、俺は、どうだろう。
彼に感じた、ユーリに感じた特別な想いは恋ではないのか。
そんなこと、すっかり忘れてしまいたい。何もかもが、なかったように。
床に散った、硝子の欠片を眺めて、俺は苦笑した。
一度変わってしまったものが、元のかたちに戻るのは―― 難しいな。
翌朝、彼を起こしに行くと、彼はやはりユーリに戻っていた。
「おはよう、コンラッド。昨日さ、珍しくアニシナさんがお冷を持ってきてくれたんだよ。でも、飲んだ後のことを全く覚えていなくてさ。やっぱり、アニシナさんから出されたものには、警戒したほうがよかったのかな?」
ユーリは苦笑していた。その顔は無邪気で、少年の爽やかなものだった。
「そうですね、ユーリ」
ユーリの爽やかな顔をみて、やはり彼が愛しいと思った。
ただ、今までの子どもを見守るような穏やかな気持ちではなく、それは恋心からくるものだと気づいた。
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