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2009.4.22設置 『今日からマ王』メインです。 
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2012/05/26 (Sat)                  それなんてだいえっと?(4)

 


「ユーリ、どうしたんですか? そんなに赤い顔をして。シチュー、熱すぎましたか。待って下さいね」

 厨房からメイドさん達が運んでくれた食事を、ソファに腰掛けて二人で仲良くいただいていたわけだけど。コンラッドは、失礼しますと言い、おれの皿からシチューをひとさじ掬い上げると、整った長い唇を丸めて息を吹きかける。いわゆる親が子供に、お粥を食べさせるときにする、あの『ふぅふぅ』だ。

「ほら、もう大丈夫ですよ、ユーリ。口を開いて?」

 甘く微笑み、穏やかな低い声で囁かれてしまう。すごく照れくさいのに、コンラッドが相手だと素直に口を開いてしまった。彼が冷ましてくれた暖かいシチューの甘みが口内にふわっと広がっていく。

「うん! うまいね、このシチュー」

「よかった、ちゃんと食べれて。可愛い笑顔ですね」

「可愛くないし……はっ、え? おれ、笑ってた? う、は、はは……」

 コンラッドにこーんなに恥ずかしいほど甘やかされておれ、笑ってたなんて。彼に指摘されるまで気づかなかった。またまた顔が火照ってきた。

「ってかさ、いくら名付け親だからって、これは甘やかしすぎだろ? あんたがさっきからずーっとその調子だから、だから顔だって赤くなるんだって!」

「ユーリ、すみません。アニシナの薬のせいでしょうか、いつにも増してあなたを放っておけないんです。嫌だったら、その都度、教えて下さいね」

「いや、まぁそう……なんだよな。ごめん、じゃあ、そうするな」

 そうは言ってみたものの、なぜかコンラッドが相手だと、どんな照れくさいことも素直に甘えてしまう。これは、初めて気づいたことだ。惚れ薬なんていう特殊なもののせいで、より一層甘やかされるようになって、はっきりと気が付いた。普段も結構甘やかされてたけど、ここまで甘やかされても、そんなに嫌じゃない自分がいた。ただ、恥ずかしくて、照れまくるけど。

 食事中は、何を食べても砂糖をまぶされているみたいな気分だった。いや、それどうよ、本当に。サラダもパンもシチューも、栄養バランスを配慮されていただろうに……糖類だけやたらに摂取したみたいな感じだ。

「あー、食った。もう腹に何も入らないー」

 言うなりソファの背に凭れかかると、急に視界が暗くなった。というか、コンラッドが上から俺を覗いてた。
 さっきのキスを唐突に思い出してしまい、まじまじとコンラッドの唇を見つめてしまった。薄くて綺麗な唇だった。思わずじーっと見入っていたものだから。

「ユーリ、俺の口に何かついていますか?」
「へっ?!」
「それとも、キス……したいんですか?」
「なっ?!だめだめだめーっ、キスは禁止! って、わぁっ!」

 思わず立ち上がったけれど、強引にコンラッドに引き寄せられた。その弾みで、ソファに座る彼の膝の上に跨ってしまう。

「ユーリ、キスが駄目なら抱きしめてもいいですか?」

「う、っていうかもう抱きしめてるし……」

「俺に抱きしめられるのは嫌?」

 いきなり低い甘い声で耳元でなにやら囁くので、またかぁぁっと顔から火が出てしまう。なんか恋人にでもなったみたいな気がして、恥ずかしい。 

「べ、別に……嫌じゃないけど……ずっとこのままの格好でいるのは恥ずかしいです……」

「残念ですが……そうですね、失礼しました。ところで、そろそろお風呂にしますか? 折角なので、ご一緒させて下さいね、ユーリ」

「あぁ、そうだな久しぶりに一緒に入ろうぜ……はっ」

 何気なく風呂に誘われたのを、受け入れてしまった。けれど、こんな状況で果たしていいものだろうか。ひとりで葛藤している横で、コンラッドは手早く風呂の支度をしていたりする。んー、まぁ大丈夫だろう。たぶん、おそらく。


******


 何となく服を脱いでいるときに、熱く見つめられている気がした。おれは、服を慌てて脱ぎ捨てると、手ぬぐいを腰に巻きつけて慌てて湯けむりの中に駆け入った。
 大理石の見事な床に、転びそうになるも、コンラッドが来るよりも前に、かけ湯を済ませて湯船に入ってしまう。

「ユーリ、そんなに慌てて。俺に警戒してるんですか?」
 もやもやとした湯煙の中、コンラッドは笑い声を少し含んで、面白そうに尋ねてきた。こちらに近づいて来ているが、彼のほうを見ないようにしていた。なんとなく気恥ずかしいからだ。

「べ、別に警戒とかしてねぇし。だ、だって俺一応男だし、う、う失ったら困るものとかないし」

「本当にそうですか?」

 やたらと甘い声が、浴室に響いてびくっとしてしまう。

「ないないない、失って困るものとかないっ……! じゃなくて、警戒とかしてないよ!」

「よかった。警戒していらっしゃらないようなので、失礼しますね」

 柔らかい声で笑いながら、コンラッドは湯船に浸かる。何気におれの隣まで来ると、背中を淵に預けて息を吐いた。

「コンラッドも風呂好きなんだな。ふーって、気持ち良さそうに息吐くなんて」

「ええ……とても好きですよ」

 『好きですよ』のときだけ、こちらを意味深に見つめて低い声で言ってきた。水蒸気で湿った睫毛が、やけに艶めいて、思わず目を逸らした。

「そ、そうだよな。おれも風呂、すげー好きだよっ!」

 照れ隠しに、大声を出して相槌を打った。けれど、ここで照れてしまう自分がよくわからなかった。

「ユーリ、どうしたんですか? 顔、赤いですよ」

「べっ、別にそんなたいしたことないよっ。あ、そうだ、のぼせたんだよっ!」

「まだ湯に浸かって数分なのに?」

 おかしそうにコンラッドは、こちらを見つめて笑ってくる。けれど、唐突に真面目な顔……というよりも甘い顔になって目を細めて見つめてくる。薄茶の瞳は、透明感があって見つめていると、吸い込まれそうな気がした。次第に、呼吸が浅く早くなっていく。

「そんなに可愛らしく頬を上気させていると、俺のこと……意識してくれてるのかな……なんて自惚れそうになる」

「コンラッ、ド……っ……」

 湯で暖かくなった彼の指先が、おれの顎先を優しく掴んだ。そのまま、親指でおれの唇をそっと撫でた。甘い瞳には、時折、照明の柔らかな灯かりが差し込み、小さな星屑が宿る。

「ねぇ、ユーリ。自惚れちゃだめ? 俺のこと、少しは意識してくれてる?」

「コンラッド…っ……ン……っ!」

 おれの返事を遮るように、唇を塞がれる。大きな手が後頭部に優しく置かれると、彼の方へと引き寄せられる。角度を変えて口付けられるたびに、湿った水音がクチュ……と浴室に甘く響く。待ち切れないように、性急に唇を抉じ開けて舌が口内に侵入してくる。 甘く口内を舌で撫でられて、ゾクゾクと体が痺れていく。

「ン……っはぁっ…ユーリ、好きです……っ……」

 キスの最中に、唇が離されたかと思うと、掠れた熱っぽい声で甘く囁かれる。
 頭がぼうっとして、思考が追いつかない。ただ、彼の柔らかく暖かな唇の感触に翻弄されてしまう。女の子みたいな甘えた声が、漏れてしまう。それが、他人事みたいに遠くに聴こえた。

「んはぁ…ンぅ……っコン、ラッド……」

 彼の唇が、ゆっくりと首筋を伝い始める。くすぐったいのに気持ちが良くて、たまらず身を捩じらせた。チャプ……と湯が揺らぐ音と共に、彼が甘く囁いた。

「気持ちいい? 感じてくれてるのかな」

「なっ、そんな恥ずかしいことっ……あっ…!」
 
 唐突に舌の先で、胸の尖りを突かれた。そこに、初めて与えられる刺激に、信じられないくらいに体が敏感になる。けれど、彼の舌先は、追い討ちをかけるように屹立した乳首を押し潰したり、唇は甘くそれを含んでしまう。甘い責めに、次第に体の中心が痛いくらいに熱を持ち、疼き始めた。無意識に視線を落とすと、綺麗な彼の唇が俺の乳首を咥えているのが見えてしまう。恥ずかしさと気持ちよさに、意識は体から遠く離れていくようだった。

「ここ、こんなにして……俺の舌は気持ちよかったんですか?」

「そ、そんな言い方…あっ…ンン、や、だ、だめ、そこ…っ……!!」 

 コンラッドらしくない卑猥な言い方に、ドキリとする間もなく、大きな手が、疼いてたまらないところに触れた。初めは、そっと添えるように包んでいた手のひらが、次第にゆっくりと上下に動き始めた。
 
「はぁ…っ…ン…だめ、コン、らっ…そんなことしたら…おかしく、なりそ、う…っ!」

「いいですよ、ユーリ。何も考えられなくなるくらい気持ちよくなって?」

 耳元で低く囁かれて、触れる吐息がくすぐったい。けれど、その台詞は、もっとどうにかなりそうなくらいやばくて。拒絶しようと思えば、出来るはずなのに。彼を強く押しのけるだけなのに、それが出来ない。ただ素直に、彼から与えられるものを受け入れてしまう。

「どうし、よう…こんらっ、気持ち、いい…んぁっ、ああっ…!!」

 自分の気持ちが見えなくて、けれど、身体は蕩けそうなくらいに気持ちが良くて、知らずコンラッドの手の動きに合わせて腰が上下に動いていく。恥ずかしくて、気持ちよすぎて、いろんな感情がぐちゃ混ぜに掻き乱されて、よくわからなくなっていく。端整な顔立ちの彼を、涙で滲んだ瞳で見てた。
 
「ユーリ、そんなに気持ちいいの? 腰、動いてるよ。いやらしいな」

「ばか、そんなこと、いうな……あ、だめ、そんな早く、扱かないでっ…!!」


 すごく気持ちがよくて、思考が鈍る。快楽に沈んでいくのは、とても楽だ。
 そう、こんな風に、流れに身を任せてしまうのは、すごく楽なことに思えた……だけど、でも……。ざわざわとした違和感が燻り(くすぶり)始める。


 おれの心の中で、初めは気づかないくらいに静かな風が巻き起こる。けれど、それは次第におれの感情を全部巻き込んで、大きな竜巻になっていく。


 ―― こんなんじゃ、嫌だ。あんたの気持ちが見えないのに、どうして?!


「もうっ、本当に止めろっ!!」

 気がつくと、泣きながらコンラッドを力いっぱい押しのけていた。

「ユーリ」

 小さく名前を呼ぶコンラッドを、強く見上げて。

「ごめん、おれ……嫌なんだ。嫌だよ、コンラッドにこんなことされるの」

 悲しそうに薄茶の瞳は、揺れるけれど、おれはまっすぐに彼を見つめる。瞳の中のおれは、すごく優しく笑ってた。

「ううん、違うんだ。あんたにこういうことされるのが、嫌なんじゃない。こんなさ、アニシナさんの薬の影響で、ちゃんと気持ちが見えないコンラッドとは、こんなことしたくないっていう意味なんだ」

「ユーリ……それは……」

 驚きに目を瞠る(みはる)コンラッドを、今度は見ていられない。照れくさくて、ふいと視線を下げた。
 

 

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