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バレンタイン騒動?! 花嫁は誰だ?!(3)完結
頭の中がぐちゃぐちゃになっていた。
こんなお袋が大好きそうなお昼のドラマみたいな展開に陥るなんて、誰が想像しただろう。
よりによって、婚約者の兄に惚れるなんて。
それも、男に。ごつごつした男よりも、華奢で可憐な女の子のほうが好きだったはずなのに。
どこで、どう間違ってしまったんだろう。
同性に惚れるなんて、遠い世界の話だと思っていたのに。いや、眞魔国はたしかに遠い世界だけどね。
コンラッドは、いつも優しくて、気づいたら俺の側にいてくれた。
初めてこちらに飛ばされて、村人達に襲われそうになったとき、颯爽と馬にのって駆けつけた彼をみて上様もとい王子様かよ、と思った。
唯一、地球にも馴染みのある彼は、こちらの世界でも話が共有できて楽しい存在だった。
親しみがあって、楽しくて、身を挺して守ってくれて、おまけに名付親だ。大好きにならないわけがない。でも、それはあくまでも同性間における厚い友情のような気持ちだと思っていた。
彼が時折みせる、キザな態度や甘い顔にくすぐったいような気持ちになることも、確かにあった。
けれどコンラッドは、ハリウッドスターみたいな容貌だから、俺が男でもそんな気持ちになったりもするのだろうと容易く考えていた。
今にして思えば、もうその頃から彼のことを恋愛対象として意識していたのかもしれない。
そんなことを考えながら、中庭の木の下に、座り込んでいた。いつも彼とキャッチボールをする場所だったりする。
いくら学生服が冬仕様とはいえ、コートも羽織らずに庭にいるのは寒い。モノトーンのいかにも寂しい冬枯れの庭の中、手を擦り合わせて息を吹きかけた。
こんなに寒いのに、ここに来てしまったのは、やはり一番落ち着く場所だからだ。
執務をさぼっては、コンラッドとよくここでキャッチボールをする場所だから。
そう気づいてみて、思わず失笑してしまう。
なんだ、俺はもう無意識のうちにいつもコンラッドを求めているんだ。
さっき、俺は彼に恋したことを―― どこで間違ってしまったんだろうなんて思ったけど、違う。
ひとを好きになる気持ちに、間違いなんてないんだ。例え同性同士でも、心が無意識に相手を求めだしてしまったら、もう間違いじゃない。
それは、恋だ。
でも、すごく厄介な恋だ。
そう、すごく成就にしくい恋だ。
だって、童話の王子様みたいな美少年のヴォルフラムが、真剣に俺に惚れてくれても、俺は恋には落ちなかったくらいだ。
本当に、ヴォルフラムはどうして俺なんかがよかったんだろう。ヴォルフラムのことを思うと胸が痛いのに、気持ちとは薄情なもので、彼の痛みより自身の保身を考えてしまう。そう、俺は自分のことばかり考えてしまう。
ただの野球少年に、成人男性のコンラッドが惹かれてくれているとは考えがたいなんてことを考えて落ち込んだりしてるんだ。
俺って、最低だろ。ごめん、ヴォルフラム。
意地悪な木枯らしが吹いた。俺は、ぎゅっと身体を小さくした。
「陛下、こんなところにいらしたんですか?」
いつもの暖かくて優しい声が頭上から聞こえて、ドキッとした。俺が、言い返す前にコンラッドは俺の隣に当たり前のように腰を下ろす。
「陛下言うなよ、名付親」
彼のことが好きだと気づいてしまった俺は、とりあえず平静を装った。いつもどおりの台詞を口にした。心拍数は、明らかに上がっていたけれど。
「そうでした、ユーリ。それにしてもいきなり外に飛び出して、コートも羽織らずに、こんな薄着では冷えてしまいますよ」
コンラッドは、心配のせいか、少し険のある声だった。間近でみる彼の銀の虹彩が少し曇っていた。
「ほら、手だってこんなに冷えて―― っ?」
コンラッドが唐突に俺の手を掴みかけた。俺は、自分でもどうかしていると思うくらい大げさにその手を振り払ってしまった。
自意識過剰もいいところだ。コンラッドに、今、手を掴まれたらきっとおかしな態度を取ってしまうと思ったから。だから、咄嗟に避けてしまった。
よく考えれば、手を避けるほうが不自然なのに。我ながら、情けない。実は、俺って純情派。
「あっ、ごめんっ。静電気、静電気! 眞魔国にもあるんだな~」
もう、むしろいっそのことコンラッドにお得意の『そんなはずがアラ(割愛)』発言でも続けてほしかった。
「すみません、ユーリ。俺に、気安く触られるのは嫌ですか? それは、もう、心を決めたからですか?」
けれど、返ってきたのは悲観的な台詞と、謎めいた問いかけだった。爽やかなはずのコンラッドの笑顔が少しだけ翳っていた。
「触られるのは、平気だしっ。あ、本当にさっきのは気にしなくていいから。静電気だから! それにしても、心を決めたからですかって何? コンラッド? 何の話?」
「・・・・・・ユーリ、ヴォルフラムと二人きりのときに、何を話していたのですか?」
またしても、疑問系で返されてしまった。しかも、すごく真剣な表情で。
けれど、その質問にたちまち動揺してしまった。ドクン、ドクン・・・・・・と、鼓動が高鳴り、しまいには頭の中で煩いくらいに響く。
さきほどのヴォルフラムとの出来事を、明瞭に思い出したからだ。
ヴォルフラムに、他に好きな奴がいるのか? と聞かれたときに、真っ先にコンラッドのことを思い出してしまったことを。
今まで、ヴォルフラムの想いに正面から向き合ってこなかったくせに、いざ、向き合おうとしたら、別の大切なことに気づいてしまうなんて。なんていう皮肉。
そして、その好きだと気づいてしまった相手が今目の前にいる。その上、絶対に報われない相手だ。俺の十五年間の経験をもってして考えても、これだけの男前なコンラッドがよりによって、すこぶる平凡な高校生男子に恋をしてくれるわけがない。それに、ジュリアさんみたいな美人な人がタイプみたいだし。
高揚感と絶望に、ぐらぐらに気持ちを弄ばれて、俺は何も言えずに黙りこんだ。自分のスニーカーが、汚れているのがよく見えた。地面ばかり見つめていたから。焦げ茶色の芝生も、なんだかむなしい。
「ユーリ」
ふいに名前を呼ばれて、顔を上げると意外な物が目に映った。青いリボンで綺麗に装飾された小さな箱だった。
「今日は、地球では好きなひとに、贈り物を贈る日ですよね?」
「え? ああ、えっと・・・・・・、バレンタインのことか?!」
そういわれて、考えてみるとここ最近、町中が色とりどりのチョコレートで溢れていた。スーパーでも、コンビにでも必ずバレンタインコーナーが特設されていて、女の人が思い思いにカラフルなチョコレートを選んでいるようだった。でも、俺には特に縁のないイベントだったので、まさか今日がバレンタインだったなんて、すっかり忘れていた。
どうして、コンラッドがバレンタインを知っているんだろう。あぁ、そうか。コンラッドはアメリカに滞在経験があるんだよな。
えっと確か、日本と違ってアメリカでは男女関係なく愛を告白する日だったっけ? 男女関係なく愛を告白する日?!
そこまで思考がたどり着くと、顔中に血がのぼっていく。
コンラッドは青いリボンのプレゼントをそっと俺に手渡した。これって、やっぱり、やっぱり、まさかのまさか、コンラッドが俺のことを好きっていうことか?!
真意を確かめるように、コンラッドを見つめると、見たことのない表情をしていた。息を詰めたような切ない顔だった。チョコレート色の前髪がかかる甘いセピアの瞳は、すっと細められていて、鮮やかな虹彩が宿る。砂糖細工みたいに整った唇が笑みの形を作った。
「今更、手遅れですか? でも、そんなに真っ赤になって。勘違いしそうになる」
「コンラッド?」
手遅れって、何が? 勘違いって? と聞くより前に、長いコンラッドの指先に顎を掴まれた。切れ長の甘くて熱い瞳に、驚いた顔の自分が映っていた。
「キス、してしまいたい」
「―― ンっ・・っ?!」
掠れる甘い美声から発せられた、その言葉の意味を理解するより前だった。すでに、唇には柔らかいものが触れていた。
そっと触れ合わされるのは、紛れもなくコンラッドの薄い唇だった。それは、驚くほどに柔らかくて、外気に触れていたせいか少し冷たかった。
柔らかい彼の髪と、自分の髪が混ざり合った。
はじめは、ただ驚いて俺は、目を見開いていたままだった。
けれど、次第に状況を判断するにつれて、小指の付け根あたりが痺れて、どんどん呼吸が浅くなり、胸が苦しくなった。手に力が入らずに、思わずプレゼントを落としてしまった。
―― コンラッドとキス、してる。
その事実だけで、眩暈がしそうだった。俺の意識ごと、チョコレートみたいに溶けていきそうだった。
そのとき、ためらいがちに唇が離されていく。鮮やかになる視界に映った彼は、少し戸惑った顔をしていた。そして、少し悲しそうに、コンラッドは笑った。
「軽蔑したでしょう? 俺の本性を知って。あなたにキスしたいほど、好きなんです」
「・・・・・っ」
顔がのぼせそうに熱い俺は、彼の腕の中に、そっと抱きしめられた。
左耳に、左頬に、彼の繊細な髪や頬が触れてくすぐったい。あまりにくすぐったくて、その言葉の意味さえのみこむのに時間がかかる。
「こんなことをして、迷惑でしたよね。すみません。あなたがヴォルフラムに心が傾いていくのを見ていたら、抑えられなくて」
「コンラッド?!」
何かコンラッドの言ってることがわからないと思ったら、そういうことだったのか。
コンラッドは、ツェリ様と同じく勘違いをしていたのだ。俺が、ヴォルフラムと婚約の決心を固めた―― という勘違いを。
「あ、あのさ、あんた誤解してるから! 俺、ヴォルフラムに言ったんだ。・・・・・・他に好きなひとがいるって」
「ユーリ?」
途端に、コンラッドはそっと俺の両肩を掴んだ。そして、俺の本心を探るように、俺の顔を覗きこんだ。
「そ、そのさ・・・・・・、好きなひとって、コンラッドのことだよ。だから、軽蔑なんてしないから。コンラッドが、そ、その俺にキスしたいほど好きって思ってくれててもっ。むしろ、嬉しいしっ」
照れくさくて、恥ずかしくて、顔が熱かった。寒空のした、吐く息は真っ白なのに、熱い。
俺の中では、一生分の愛の告白をしたんじゃないかと思う。まさか、平凡な高校生男子に剣豪でカッコいいコンラッドが惚れてくれてるなんてまったく思わなかった。けれど、そんな彼が俺を、好きだと言ってくれている。きっと、こんなときこそきちんと思いを伝えるべきだったから。
すごく情けない顔をしていると思う俺を、コンラッドは蕩けそうな笑顔で迎えてくれた。一足早く櫻が綻んだみたいなその笑顔に、心が浮き立った。
俺をみるコンラッドの顔は、なんだかいつもよりずっとくすぐったい。優しいけれど、甘くて、情熱的な、顔だった。恋人に対する顔だ。
くすぐったくて、恥ずかしいのに、全然目を逸らしてくれない。色素の薄い瞳の中には、案の定困った顔の俺が映っていた。
「好きです、ユーリ。もう一度、キスさせて?」
甘い囁くような声に、反射的に頷いていた。
「うん・・・・・・ンんんっ!」
反射的に頷いてしまったのを、思わず後悔しそうになった。先ほどの触れ合わせるだけのキスとは、まるで別ものだったから。
奪われるように、唇を吸い上げられた。その僅かに開いた唇の狭間から、性急に熱くてしっとりとした彼の舌が差し込まれた。
彼の真摯な思いが、熱い舌先を通して、俺の気持ちと絡みあった。
鍛えられた腕の中に、すっぽりと包まれたまま、息継ぎをどこでしたらいいのか分からないほどに、彼に唇を塞がれた。
びくびくと、身体中が震えた。熱に浮かされたみたいに求められて、酸素不足に朦朧とする。ともすれば、硬い地面に崩れてしまいそうな身体を、きつく抱き寄せられていた。
段々、自分が何をされているのかさえ、判断できなくなってくる。ただ、二人の身体の境界線がなくなるような気がした。
寒空のした、互いの浅い呼吸や湿った水音が、熱っぽく響いた。色のない庭で二人のいる場所だけ、鮮やかな生命の息吹を感じた。
どのくらいそうしていたのだろう。
そっと、ゆっくりと唇が離された。
熱に浮かされて霞んでいた焦点が定まったころ、とても優しく微笑まれた。
すごく穏やかで、満たされたその笑顔に、俺の頬も緩んでいた。
そして、唐突に何かを思いついたように、コンラッドは悪戯に微笑んだ。
「もしかして、あなたの花嫁は、俺になりますか?」
「ぶっ」
虚をつく彼の発言に、たまらずに俺は吹き出した。
今日のこの花嫁騒動からしたら、妙に的を得ているようでいて、それでもどこか不自然で、思わず笑ってしまった。
コンラッドも、俺に合わせて笑っていた。
けれど、ふいに左手首を掴まれて顔を上げた。すると真顔になったコンラッドと目が合った。
「できるなら、あなたになってほしいですね。俺の花嫁に」
地面に転がっていたプレゼントのリボンに手が触れて、くすぐったかった。
★あとがき★
コンラッドが、へたれなのかキザなのかよく分からなくなっています。そして、玉に暴走もする^^;
ヴォルフラムへのフォローがうまく書けなかった; 物を書くのって難しいです(涙)
お付き合いくださって、ありがとうございました^^
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